通りすがりの四天王
あのまま帰ってきたので注文したパンは結局私達のご飯となり、蛇用な中身で巨人用サイズであるパンは通りすがりのヒュドラに渡す事となった。
巨人は色々居るけれど蛇系はあんまり居ないから、とルゴナに受け取り拒否された結果である。
「随分と呑気に寄越すもんだな」
ガルドルのように腕があるわけでは無い、ユドと名乗ったヒュドラは九つの首を上手に使って千切り、それぞれの首で呑み込んだ。
「……俺達としては食えて喜ばしいが、わざわざ通りすがりのこんなのに余ってるから食えとは言わないだろ」
「でも余ってたし」
受け取り拒否されたし。
正確には受け取り拒否というよりもバトルにヒャッハーして行ってしまわれたので、渡す隙が無かったとも言う。
しかしそうなると余ってしまうので困るのだ。
別にアイテム袋に入れれば腐らないしその内渡せば良いんじゃないかとも思うけど、タンスの肥やしならぬアイテム袋の肥やしにしてしまうのも気が引ける。
まあ私のアイテム袋、肥やし状態のヤツいっぱいあるけど。
「そもそも俺達は毒を持ってて、その毒は幾多のケンタウロスを屠ってきたくらいだぜ。見ろ、可哀相な程に距離取っちまってるじゃねえか」
確かにイーシャは距離取ってるし耳が完全に伏せてて尻尾垂れ下がってて今にも逃げ出しそうなフォームを維持しているが、
「だいじょぶだいじょぶイーシャ、この人私がすぐ隣に居ても無害だよ。毒噴出してない」
「俺達が噛みついたら一発でアウトだけどな」
でもわりと普通に会話してくれてる辺り、この人も大分呑気タイプだと思う。
人じゃないけど。めっちゃデカイけど。
「……ココノツ以外は我関せずだから、一応様子を見に来てみれば……この呑気さと許容量なら確かに癒しにもなるか」
「え、ココノツの知り合い?」
「四天王だよ、俺達は。一応だけど」
「へえ」
「驚かねえのか?」
「ついさっきに何かクロスオーバー状態な神話が展開されてたから、今日の分の驚きポイント使い果たしちゃってて」
巨人街では無いけれど人外も多種多様に居るからか、随分と広々した公園の芝生に座り込みながらそう言えば、他の皆も頷いた。
やっぱ皆もあの会話には驚いたよね。
「クロスオーバー状態な神話?」
「知り合いの阿修羅がガルドル……そこのヨルムンガンドのご先祖様、つまり原種に挨拶行くのについてきて戦闘しようぜって誘って原種が応じて修羅道に飛び込んでいった。心置きなくバトルしたいからって」
「そりゃ通りすがりに声掛けた相手が様子見に来た四天王でも驚けねえな」
つか普通に世界が驚愕するだろそんなもん、とユドは言う。
成る程この人結構まともだ。ザラーム良い人材確保してるね。
……ココノツも何か不穏そうな事を言ってたとはいえ、ステータスについてとか教えてくれたもんなあ……。
そういえばココノツの本名みたいなものをザラームから教えられたが、どんな名前だったっけ。
特に会ったりもしてないので随分と朧気だ。
何か稲とか米系の名前だったような。
「ちなみに補足するとその阿修羅が主様の奴隷になったりもしてたよー」
「いやマジで何があった? 俺達でも困惑するぞ? それならまだ勇者と魔王が戦う方が常識的だ」
「まったくもってその通りです」
フルーツサンドを頬張りながら頷く。
あ、このフルーツサンドめっちゃ美味い。
クリームは甘さ控えめで、フルーツが甘みたっぷりで、パンはデニッシュ生地となっていた。
パン部分が噛みごたえあるのに噛み千切りやすく、クリームがくどくなくて、フルーツが酸っぱくないのであっという間に二つ目が胃の中へと消えてしまう。
日本のフルーツは大体が新鮮過ぎて酸っぱかったりするので、こういう甘いフルーツは嬉しい。
……いやそれにしても美味しい……。
つい三つ目へと手が伸びてしまった。
今日はあまり歩いてないので軽く走った方が良いだろうか。
でも服や装飾品が体系維持魔法を付与されてるはずなので多分大丈夫。つまりまだ食べても良し。
……これ、思考がデブの思考のような。
良い。考えない。美味しいは正義だ。日本人にとって美味しい食事は幸せの結晶である。
「……ま、よくわかんねえけど問題無いなら良いか」
「そういえば様子見って言ってたけど、何か問題でも? 一般人の私がザラームと話したりするのあんま良くない?」
「お前のどこが一般人だ」
初対面なのにユド結構言うね。
「確かに飼い主様、一般人では無いよね」
「飼い主様の場合は出身もそうだけど奴隷使いってだけで充分普通じゃ無いもんね」
「奴隷使いの適性なら俺もそうだが、大将はとんでもねえのを奴隷にしてたりしてっからな」
「そうねえ……罪人奴隷やエルフ、獣人ならともかく阿修羅まで奴隷にしちゃってたものね」
「……アレ、あんな経緯のまま後日正式な登録がされるのでしょうか……」
「すみません、リャシー。僕も軽くご先祖様に挨拶してあの圧巻な姿を見てもらおうと思っただけだったのですが、まさかあんな結果になるとは」
「アレは誰にも想定不可能だろう。自分だって困惑するしか出来なかったぞ」
「…………俺としては、ケンタウロスの天敵でもあるヒュドラと歓談してる現状が今日一番困惑極まってる感じだけどね……」
「イーシャどんまーい」
皆もひそひそせずにきゃっきゃと好き勝手仰る。
最終的には何かもう脱線しまくりだし。
「……とりあえず言っとくと、魔王様と関わるのが駄目ってわけじゃねえ。寧ろ推奨するからガンガン絡め。積極的に誘うくらいしてやってくれ」
「そういう感じなの?」
「お前と関わると機嫌が良くなる。機嫌が良いと地脈の流れも潤滑になるから、そっちの方が土地の為にも良いんだよ。魔王様次第で地脈や自然の中の魔力の流れが変わるからなあ……」
「はあ」
よくわからんけど機嫌が良いのは良い事なので良しとしよう。
「ただ、勇者とは関わるなよ。俺達はそれを忠告しに来た」
「ごめん既に関わってる」
ユドの九つある首が項垂れた。手があれば頭を抱えていただろう項垂れ方だ。
手があっても一つの頭しか抱えられないだろうけども。
「……関わってんのかよ」
「何なら出身地が同じ」
「それはわかる。俺達も何度か勇者と戦った事があるからな。トドメを刺された事は無いが、それなりに仕留めたりもしたもんだ」
「わあお」
つまり同郷の人が殺されたという事なんだろうけど、数十年前どころじゃないだろうから何も言えない。
地球なんて人間同士で殺し合ってるし、日本だって五百年も遡れば内乱という名の戦国時代で戦いまくりだったのだ。
知り合いが殺されたわけじゃないなら良いとしよう。
いや何も良くないけれど、無関係な人間がどうのこうのだからやいのやいの言ったって、別にその人は知らない人だ。
そしてユドの方から喧嘩を売ったのか、その勇者の方から喧嘩を売ったのかで罪状も変わってくるのでまあまあまあ。
……同じ県生まれの人が殺されました! 殺したヤツ殺す! とかなんないもんねえ、普通。
知り合いならともかく、無関係の人相手にそこまでは出来ない。
同じ釜の飯を食ったわけではないけれど、同じパン屋の商品、それも同じバスケットから出したパンを食べたのでそれで良いじゃんという気分もある。
そもそも私、そういう血気盛んタイプじゃないし。
今隣人のように喋れるならそれで良いという事で良いじゃないか。
「だからって勇者と関わってるかどうかは別だろ。勇者と関わりねえ異世界人も一定数居るの知ってんぞ」
「確かに自己紹介もせずそのまま別れたんだけど、一瞬顔合わせた時に惚れられてたみたいで」
「うわ」
「後に突撃されて顔見知りになって時々話してる。その内告白するって言われてるよ」
「人間的な求愛行動からするともうソレが告白に当てはまるんじゃねえのか」
「私もそう言うんだけど、今のはただの本音だからとか言われる。こっちも返答求められてないならもうソレで良いかーって感じで流してるしね」
「よーし成る程、お前のその態度も理由の一端だな? さてはそうやって流した結果色々な事に巻き込まれてるだろ」
「今とかね」
「俺達まで色々扱いかよ。間違っちゃねえけど」
……そこでさらっと許容する辺り、話しやすいなあユド。
ココノツも結構話やすいイメージあるので、四天王って大体こういう感じなんだろうか。
「…………四天王の選抜って、もしかしてトーク力が高いかどうかが選抜基準だったりする?」
「んなわけねえだろ初耳だ。単純に不死身かどうかって部分だよ。燃やされても死なないかどうか」
「そこ、燃やされてもって条件なんだ……」
「魔王様が燃やし殺されかけてっから、誰かが燃えて死ぬってのもトラウマ内なんだろ。燃えても大丈夫くらいのヤツじゃねえと安心出来ないってなったみたいだぜ」
「うーん根深い」
過去の国と勇者がやらかしたロミトラは流石の闇。
まあ誰だってそんな目に遭えばトラウマにもなるか。
そこで全人類滅ぼしてやるって強硬手段に出そうなものなのに、そうしないだけザラームには慈悲がある。人間には残念ながら殆ど無いけど。
……何かあったとしたら、魔物が人間を狙うようになったってところくらいかな。
でも人間を優先的に狙うだけであって、人間が近くに居なければ普通に生命活動に勤しんでいるだけだ。
積極的に人里を襲撃してはハイ次! とならないだけ良心的だと思う。
「ちなみにユドもそうなの?」
「ちなみに俺達もそうなんです」
ふふん、とユドは九つの首でドヤ顔した。
蛇顔なのに結構わかる辺り、ユドは表情豊かな方らしい。
つまりガルドル達はそこまで表情変化が無いのか。声色は正直なのに。
……っていうか、首が多いから俺達って言ってるのかな?
表情が同じだったりする辺り、人格は一つっぽい。
アソウギみたいに三つの人格が同居、という感じでは無さそうだ。
どうもとこうもみたいな感じでも無く、普通に首が多いだけの一人らしい。
……それはそれで不思議な……。
まあ人外相手にそういうのを考えたって無駄なので、そういうものだと思っておこう。
人外は基本理解不能の範疇。オウケイ。
「俺達の場合は首を落としても死なない、ってのが不死性だな。落としても生えてくるし」
「わお」
「一応切り落とした断面を焼いて塞ぐって手はあるぜ」
「想像するだけで痛い!」
それって今すぐにでも出血を止めないといけないけど塞ぐ何かが無い時に消毒と止血を一気に済ませる戦場流のやり方では。
「ただ俺達の首の、コレ。この真ん中の首は不死身だ。それこそ塞いでも無駄って感じで。流石に生き埋めにされたらどうにもならないけどな」
「わあい……」
意識あるまま永遠に等しい時間を土の中で過ごし続けるの、超ハードモード。
想像するだけで発狂コース。
人間なんてご飯食べれて眠る事も可能だったとしても家に帰れず部署に閉じ込められ続けたら死ぬのに。
……やっぱ不死身って良い事無いよね。
漫画の神様が残したファイヤーな鳥の話でもめっちゃそういう系語られてる。
あの作品は不死身故の苦しみがヤバい。絶望一直線コースばっか。
「そんな不死身を四天王として確保するくらいには、魔王様の心の傷は深い」
「だろうねえ」
今でも結構な愛憎がある様子だし。
愛してるけれど、その分だけ裏切られた事が憎くて憎くて仕方がない、みたいな感じだった。
「だから、魔王様は今でも勇者に対してはどうしても拒絶が先に出ちまうんだよ。勇者ってだけで、どうしてもな。落ち着かせれば落ち着くんだが、一目見た瞬間に憎しみやらが燃え上がっちまうから仕方ねえ」
「うわあ……」
太勇もザラ―ムもそれなりの頻度でこの町に来てたりするので、下手したらここが突然戦地になるとこだったわけだ。
思ったよりも凄い綱渡りしてないか私。ヤッバ。
「そんなわけで、お前が勇者と関わり持ったりすればソレを裏切りと判断しかねねえってのがあるから忠告しとこうと思ったんだが……とっくに関わってたか」
「うん」
「俺達でこないだ挨拶もしたしー」
「飼い主様どころか、シュライエンも結構因縁あるしね」
「ケッ、因縁っつーよりも俺からの一方的な恨み辛みでしかねえけどな」
そうかなあ。
「いえ、あちらも中々にシュライエンへの羨ましいという感情を爆発させていたようですが」
吐き捨てるようなシュライエンの言葉に首を傾げれば、同じように思ったらしいガルドルがそう告げた。
「ハ、まあ確かにアイツに羨ましがられるのは悪い気がしなかったぜ。大将を自慢すればそれだけでアイツの悔しがる顔が見れるんだからな。幸い、俺なんかとは違って真っ当な奴隷使いなだけはある。自慢どころが多い分だけアイツが悔しがると思うと笑えるぜ」
何だか褒め殺しされている気がするけれど、シュライエンには自覚が無いようなのでつつかないでおこう。
下手につついて恥ずかしがってまたツン期に入っても困る。
今みたいにあまり噛みつかないでも会話が出来る状態の方が交流しやすい。
前はとにかく会話に噛みつこうとしていたから。
「……一応他の誰かが勇者と関わってようが気にしねえみたいだが、お気に入りが勇者と関わってるとなるとなあ……」
「ユドの予想ではどうなる感じ?」
「良くて監禁、恐らくは裏切り認定で聞く耳持たず暴走、悪くて世界崩壊」
「ふり幅デッカイよ!? いやマジでデッカ過ぎるよね!?」
「相手は魔王だぞ。人外の中でもとびきりヤベェんだから人間の理解の範疇外なのは当然だろ」
「ううん否定出来ない……」
それにしたって私の肩に世界の命運掛かってるのはちょっと重すぎやしませんか。
そういうのこそ勇者に背負わせてやってよ。頑張れ太勇。いやでも頑張ると結局世界の命運別れるのか。難しいな。
「ま、関わってるとこ見られない、関わってると証言しない。この二つでどうにかしろ。あと勇者に魔王様の話をしない、魔王様に勇者の話をしない。この二つもプラスな」
「してないけど、何で?」
「相手に密告してた裏切り者扱いされると面倒だろ。クールダウンさせる隙が無くなる。逆に言えばそれさえやってなければ一発話を聞ける状況まで落ち着かせれば誤解は解ける」
「成る程成る程」
ところで、
「クールダウン必須の状況下って事はかなり大暴走状態だと思うんだけど、それをどう落ち着かせろと?」
「やった事ねえから知らねえけどまあお前の頑張り次第だろ。頑張れ」
「超無責任な事言ってる自覚ある!?」
めちゃくちゃ有用かつ重要な情報ではあるけれど、相変わらず人外の情報は重要部分がふわふわし過ぎてると思う。
不死性あるから尚の事命に関わる重要部分に頓着するという発想が無いんだろうか。




