せめて許可は取って
あの後掲示板周辺が野次馬に呑まれてしまったのでどうしようかなという感じだったが、リャシー達職員は依頼を把握していたのでそれぞれ合うヤツを受けて仕事をこなした。
まあそりゃ職員なら把握してるだろうし、そもデータがあるだろうから不思議ではない。
ちなみに私に会う確率を上げる為にと諸々の報告をあのギルドで済ませる事にしているらしい太勇は最終的にテレポートで逃げたそうだ。
「多少なら気にもしませんが、ああいった一部占拠があまりに長時間だと営業妨害同然となるので、早めに判断してくださって良かったです」
以上、夕食時のリャシーのお言葉。
確かにちょっと駄弁るくらいならばまだしも、野次馬の群れを形成して一か所をしばらく占拠はアウトだろう。
野次馬の数が思ったより多いせいで邪魔になるし、まあ広さを確保しているので想像する程邪魔では無いようだが、しかし野次馬の殆どは仕事をしに来たはずの冒険者(人間)達なので普通に依頼のアレコレが滞る。
それもあって、営業妨害と認識するレベルに至ったら問答無用でうちのギルドにはしばらく来るな貴族街のギルドかよその町のギルドで報告しろ、とほっぽり出すところだったらしい。
まあやってる事は実質偶然頼りの出待ちに近いし、出待ちしてる側がスーパーモデルみたいな知名度なので、そういう対処をされるのも致し方なしだ。
人外となれば知名度が高いなら多少は大目に見る、とかもしないし。
……勇者だからって事で色々合理的判断は下すみたいだけど、ね。
人外その辺りの判定がシビア。
・
そんな事があってからの休日。
朝食を終えたので、今日はどうしようかなと考える。
この屋敷の図書室には専門書からヤバい本、絵本に小説と色々な物が揃っている。
前にガルドルが奢ってくれた本もあるし、同じ作者の本等もあったので、それを読みでもしようか。
本当は前に読んだ本の続きが最近出たそうなので買いに行こうかと思っていたのだが、エルジュは商人ギルドのお偉いさんであるメニデと仲良しな為、発売前に購入する事が出来たらしく知らない間に本棚に並んでいた。
本当さらっと増えてたので記憶違いかなと二度見してしまった。
……ま、エルフとニシオンデンザメって寿命が大体同じくらいらしいしね。
寿命が同じくらいだからこその話題などもあるのだろう。
そもそも情報交換会をよくしているようなので、早売りしてもらうのもわからんではない。
少なくとも発売前に貰うのではなく、発売前とはいえきちんとお金を払って購入しているようなので私が何かを言う事も無い。
部外者という程遠くは無いが、一緒に読ませてもらえる立場でありながら何か言うのはお門違いというものだろう。
大前提として二人がそれに納得して早売りとか購入とかしてるんだろうし。
……んー、今日はあの辺読むかなあ。
外をふらふら歩くのも良いし、屋敷に籠って皆のブラッシングなんかをするのも良い。
けれど折角なので、今日はあの作者の本を幾つか読んでみようかとも思う。
私が知らないシリーズのも結構あったし、中々気になるタイトルとあらすじも多かった。
「ん」
本部屋に行こうとリビングを出れば、玄関扉からノックの音が響いていた。
どうやら来客らしい。
……私いっつもこの音聞き逃しちゃうんだよねえ。
他の皆は聴覚だったりそれ以外の感覚だったりが優れているのでわかるようだが、私にはさっぱりだ。
まあ元々気配には疎いのでそんなもんだろう。
あまりにあからさまで下劣なセクハラ親父の視線だとわかるが、アレは正直わかりたくはない部類の視線だ。
「はーい」
そんな事を思いつつ、大きな玄関扉を開けた。
「あれ、黄色のアソウギだ」
「首領?」
扉の向こうには、何度か見た事のあるバスケットを真ん中の右腕に引っ掛けたアソウギが立っていた。
配達、つまりお仕事中だからか一番遭遇率の高い黄色のアソウギ。
……まあ、パン屋に顔出すから会うんだし、仕事中ならそりゃ黄色のアソウギだよね。
青のアソウギはお仕事やりたくないから休みの日担当、赤のアソウギはバトル好きなのでそういう時だけ担当、という感じらしい。
じゃんけんとかもその時々に合わせてグーチョキパーを繰り出すので、その時々に適したアソウギになるのはよくわかる。
その方が効率良いもんね、そりゃ。
ゲームでも草には炎で攻撃がベター、みたいなものだ。
「ここへの配達は初めてだったんですが……ここ、首領の家だったんですね!」
「あー、うーん、まあね?」
きょとりとした顔で屋敷を見てから笑顔になってそう言うアソウギに、私は煮え切らない返事を返した。
だって私の家だけど私の家と言い切るのはうーんだし。
「……正確には私の奴隷になってくれたエルジュの屋敷だから、私は住んでるだけって感じかなあ」
「住んでるなら家じゃないんです?」
「まあそうなんだけどね?」
気分は借家みたいなアレ。
いや、腰を据えているので実家感もあるのだけど、家主は私じゃ無いよなあ感がやっぱりあるのだ。
単純にまだ屋敷内を完全には把握出来てないからだろうけど。
……ちょっと冒険しようとするとまだ迷うもんなあ……。
ちなみにシュライエンも時々迷って保護されるので、私だけじゃなく人間にとってハードルが高い屋敷なんだと思う。
ハードルが高いというか、ここまで部屋数がある場所を知らない、というか。
他の皆は嗅覚とかでわかるんだろうけれど、私にはサッパリだ。
冒険するならヘンゼルを見習って石か何かでも落としながらの方が良いかもしれない。
もしくは糸をエントランスにでも結んで手に持ちながら行くとか。
……パンは駄目だね。
森の中じゃないので勝手に食べる小鳥は居ないし、拾い食いするような子も居ない。
シュライエンが危ない気もするが、今は普通に食べれる生活なので多分大丈夫。
問題はゴミと判断されて片付けられる事と、下手すれば虫が湧く危険性がバリバリ高まるという点だろうか。
……うん、普通に無理!
さておき、黄色のアソウギがやってきた理由は何だろうか。
「配達って言ってたけど、パンの配達?」
「ええ、勿論。何だか物凄く大量に注文されてたので、こちらのアイテム袋と同じ作りになっている配達用バスケットで持ってきたんですよ!」
えっへん、と黄色のアソウギは自慢げに胸を張る。
胸を張る理由が自慢げな子供みたいで可愛らしいが、身長が高いので胸を張られると表情が伺いにくくなってしまうのが難点だ。
いやまあイーシャよりは身長差近いんだけどね。
「んー、確かに人数多いし結構食べる子多いもんね。でも別に私のアイテム袋も容量あるから買いに行ったのに。今日休みだし」
「そういえばそうですね。あ、ところでここでパンを受け渡すのは無理なので中に入っても良いですか?」
「私は構わないけど、そんなに量多いの?」
二人とはいえバケツリレーの如く出してはこっちに入れてってやっても良いだろうに。
ああ、でも昼食にするとかならまた出すのは手間か。
「量が多いというか、巨人向けの大きなパンもご要望にあったんです」
「巨人向けの?」
「大きいから店頭には置けなくて、注文受けたら作るって感じなんですよね、うち」
あはは、と黄色のアソウギは前の左手で照れ臭そうに頭を掻いた。
照れるポイントがわからないけれど、成る程巨人用のパンとなれば受け取りは不可能だろう。
何せ五メートルサイズなザラームが飲んでいたワイン、が入ってたワイングラスなど私から見れば五ェ門風呂サイズ。
そして巨人用となれば十メートル越えな方々用という事なので、余裕で私よりも背が高いパンが出て来る事だろう。
学校のプールが埋まるようなサイズだったりしそう。
「あ、居た居た!」
「ごめーんお待たせー!」
「わお」
やってきたミレツとニキスに背後から飛びつかれた。
最近は慣れてきたのか、ミレツとニキスの方が慣れたのか、ふらつく事無く受け止められるようになってきている。
「そのパン注文したの俺達なんだー」
「飼い主様に言ってなかったの忘れてた!」
「あ、そうなの?」
「「うん! だってこれからガルドルのご先祖様に会いに行くんだもんね!」」
「へえー…………えっ?」
何ソレ?
「待ってミレツとニキス。ガルドルのご先祖様に会いに行くってどういう何?」
「あれ、話聞いてない?」
「巨人街の方の海底にガルドルのご先祖様居るから挨拶行って、ついでに巨人街見よーって」
「飼い主様が居ないところでそういう話になったんだけど」
「ガルドル曰く、飼い主様もオッケー出したって言ってたからてっきり知ってるかと」
「何も知らないよ!? っていうか私が居ないところで重要そうな話を纏めないで!? そりゃ私の意見なんて有って無いようなものだけどさあ!」
有って無いというかあんまり主張しないしそこまでの反抗理由が無ければ良いんじゃない派というだけだ。
しかしせめて教えておいては欲しかった。
拒否する気は無いけど、知ってるのと知らないのとでは大きな違いがあると思うの。
「というか人外なら何となくで察せるのかもしれないけど、私人間だし二人もご存知の通り鈍いからそういう察し能力に期待しないで……?」
明言されたりわかりやすいヒントがあればリャシーの時や太勇の時みたく自覚もするけれど、そうじゃない時は気付かない。
地球でストーカーされ始めた頃は田舎から出たばかりで慣れておらず疲れてたのもあるけれど、それでもストーカーに気付かず妖精さん系の何かかなーと流した辺りでマジお察し案件。
私の察知能力は殆ど瀕死。もしかすると瀕死を超えて冷たくなっているかもしれないレベル。
「前に見てみたいと仰っていたので、旦那様でしたら応じるかと」
庭の方から玄関へしゅるりと這入ってきたのは、ガルドルだった。
「……言ったっけ、私」
「僕が旦那様の奴隷になった時、寿命の話をした際、確かに」
言ったような言わなかったような。
そこまで意識して言ってないのでよくわからない。
そう言われればそうかなとも思うし、言ってないんじゃないかなとも思う。
まあ決まってるみたいだし別に良いのか。
「……うん、まあ、休みだしね、今日」
「ええ、皆が休みですから今日行こうかと思いまして。ご先祖様達は後代に対して何かあるわけでも無いので会話が弾むかは不明ですが、見る分には圧巻ですよ」
「ご先祖様相手に言い方」
「事実ですからねえ。いやでも本当に凄いんですよ、ご先祖様は。何せこの国を海底からぐるりと一周して尚余っていますから」
そういえばそんな事を言っていたっけ。
本来はそのレベルのサイズだけれど、人間と共存を選んだ結果代々小さく、人に近い見目を得ていったとか。
それでもガルドルサイズは病気レベルで小さいらしいが。
「ん? って事はもしかして初代なご先祖様だったり?」
「さあ」
「そこ曖昧なんだ」
「把握していたところで何かあるわけでもありませんし、そういう細かい事を覚えてるのも面倒な程に長い時間を過ごしていらっしゃいますから。あれだけ生きていらっしゃれば数代分は誤差なのでしょう」
実際ガルドルに近い世代は寿命が尽きたりもしているらしいのに、ご先祖様辺りはまだ全然現役だったりするそうなので、そういう考え方になるのも不思議ではない。
想像できない程の長生きをすれば、自分が初代かどうかなども考えるのは億劫になる事だろう。
「でも、パンを買ったのは?」
「巨人街って巨人向けの町だから俺達サイズ用の店とか無いみたいでさ」
「だから先に買っておいた方が良いかなーって」
「「ついでにうっかりで食べられちゃ困るから挨拶用に蛇系が好むパンを巨人用で用意してもらった!」」
「成る程」
食べ物渡す方が一緒にぱっくりいかれないか心配だけれど、ガルドルが止めてないなら多分大丈夫なんだろう。多分。
「……おい、待てやテメェら」
「ん? って、赤のアソウギだ。やっほー」
「やっほーじゃねえ! ……って、そうじゃなくてだな」
違うアソウギになると魔法によって服が変化する。
赤のアソウギは上を脱いだ姿なので、それぞれの部分によって体の色が違っているのがよくわかる。
そんな赤のアソウギは、先程黄色のアソウギがしたような照れ臭そうな掻き方とは違い、ガリガリと音を立てて頭を掻いた。
「今、言ったよな。原種のヨルムンガンドに会いに行くってよ」
「原種?」
「ご先祖様達の事です。僕のように進化、いえ、共存の為の退化をしていない方々の事ですね」
「成る程」
ガルドルの言葉に納得する。
ガラパゴス諸島とかで見られる動物達みたいなものか。
生き物は環境に合わせて変化したりするので、姿が大分違うとされるご先祖様ならそりゃあ原種扱いもされるだろう。
「よし、俺も連れてけ」
「何故に?」
「俺は阿修羅族だぞ。戦闘種族だ。原種のヨルムンガンドと言えば雷神でありながら戦神でもある存在と戦い、相打ちに終わると定められてる。それだけ強い存在なんだ。そりゃあ戦いたいって思うだろ」
「そんな少年がジャンプする系の漫画主人公みたいな事言われてもなあ……」
もっと強いヤツと戦いたいってか。
「というか戦いの神様相手に相打ち出来るような存在と戦ったら周辺一帯全滅コースな気がするからちょっと……」
「場所くらいどうにでもなるし、巨人街なら俺が居る方が良いだろ。連れてけ」
「アソウギは仕事の途中だろうから赤のアソウギが勝手に決めると黄色のアソウギが困るんじゃ……」
「人格が違うだけで根本は一緒だし、アイツだって戦闘種族が源流なんだ。あと大前提として主人格ってのがあるなら俺だぞ」
「えっそうなの!?」
「戦闘種族なんだから一番好戦的なのが主人格に決まってんだろ」
「どうしよう凄く納得出来ちゃった」
まあそりゃそうだわなって腑に落ちちゃったよ。
「ふむ……そうですね。阿修羅族であれば体躯も可変でしょうから、巨人街を歩くなら居てくれた方が楽なのも事実。旦那様との交流もあるわけですし、案内役として頼みましょうか。正確には足役となっていただきますが」
「いよっしちょっと待ってろよ店一旦戻って伝えて来る! この誓いを破れば貴様らを燃やし尽くすまで止まらぬからな!」
何か凄く物騒な事言いながらとんでもないスピードで行ってしまった。
というか結局パン受け取れてないし。
「……ガルドル、良いの?」
「ええ、巨人街を歩くなら足役は必要ですからね。それを仕事にしている巨人の方もいらっしゃいますが、阿修羅であれば足役になれますし。あと修羅道への道を開く事が出来る阿修羅であれば、ご先祖様も乗り気になるかと思いまして」
よくわからないけれど、良いなら良いか。
でも私に許可取らず話進めるのは待って欲しい。
確かに私に聞いても大体オッケー出すけど、一応主ポジションのはずなんだよ。




