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確執と蚊帳の外



「あ! 喜美子!」


「あれ、太勇だ」



 ギルドへ顔を出せば太勇が居たので、やっほーと手を振る。

 太勇は犬耳と尻尾を幻視する表情で駆けよってきた。



「お久しぶりです喜美子!」


「前もギルドで会ったよね」


「はい! 喜美子に会える確率が高いと思ってこっちのギルドに報告するようにしてるので! 貴族街の方のギルドだと一部面倒な出待ちいますし!」


「居るんだ」



 ……出待ちは大概面倒だろうけど……、



「面倒って、勇者な太勇から見ても?」


「勇者が家族に居るとなれば箔が付くからって見合い話持ってくるのが多いんですよ」



 筋肉がしっかりついている胸に手を置き、ハァ、と太勇は溜め息を吐いた。



「俺は喜美子一筋なのに」


「……それ、告白?」


「いえ本音です」


「さようで……」



 これが告白じゃないなら太勇が思う告白は何なんだという感じだが、まあ良いや。

 今考えなくて良いなら後の私に託す。

 後の私にとって面倒な展開になる可能性もあるが、今の私は今を生きるのに必死なので知らん。頑張れ未来の私。



「ところでそっちの人……じゃない人達は」


「奴隷という名の仲間ね。クダの事は知ってるっけ」


「小さいサイズなら前にパン屋のイートインスペースで」


「喋ったりはしなかったけどねー」



 太勇は僅かに頭を下げたくらいで、クダもケラケラ笑っているだけだ。

 特に握手したりという感じじゃ無いらしい。



「…………大人数ですね」



 クダ達をじっくりと見て頷いた太勇は、噛み締めるようにそう言った。



「まあ、あと三人居るんだけど」


「まだ居るんですか!?」


「居るよー」



 カトリコは仕事で服屋の方へ行き、エルジュは留守番、リャシーは先にギルドへ来ている。

 今は裏方の仕事でもしているのかギルド内に姿が見えないが。

 まあギルド内は大きな体躯の人が来ても良いようにと広い作りになっているので、それもあって見つけられないだけかもしれない。


 ……本当、広いし天井高いしねえ……。


 広さのイメージとして根付いている体育館よりも広くて大きい。

 アレは中がガランとしている上に幼い時の記憶だから尚の事広いイメージになっているのだろうが。


 ……ま、流石に巨人は居ないけど。


 十メートル未満ならこっち側にも普通に居るが、十メートル以上となると巨人街の方にある巨人用ギルドへ行くらしい。

 ちなみにガルドルは十メートルサイズとはいえ殆どが這いずっていて、実質そこまで身長が無いようなものなのでこっち在住なんだとか。

 よくわからないのでそういうものなのかと聞いたら、そもそも体積的に見てもこっちに適しているのですよ、と言われた。

 確かに体積からして明らかに違う。


 ……蛇だって二メートル近い蛇が居ても、やっぱり細身だもんね。


 人間並みの身長だったとしても、体積の違いは大きい。

 生活する時の動きからしても体積に合った方が良いだろう。

 そもそも全長がそのくらいというだけで、人間部分の上半身は大柄でこそあれど巨人程のサイズではないのだし。

 前に銭湯でガチ巨人と触れ合ったので、その辺の違いはわかる。



「ちなみにこちらのケンタウロスはイーシャ」


「まさかご主人様が勇者と知り合いとは……っていうか何か気配薄いんだけど、認識阻害系魔法でも使ってる?」


「ウサギ獣人はどっちかがミレツでどっちかがニキス」


「飼い主様ひどーい!」


「俺達の事いつも見分けてくれるのに!」


「喋る時の内容とかで判断してるから移動したりするとわかんなくなるんだって」



 それぞれ肩を掴んで揺らされたのでどうどうと落ち着かせる。

 正直この二人はマジで顔も声もそっくり超えて同じにしか見えないので、喋る内容で判断するしかない。


 ……アレだよね、まったく同じ見た目の子犬で見分けつかないけど、遊ぶ時の癖や食いつき方で判断するみたいな……。


 会話出来てもコレである。

 元々外人じゃなくとも顔の見分けがあんまりつかないタイプなので、あまりにそっくりだと途端にわからなくなるのだ。


 ……こっちの人達は殆ど人外だし、特徴的な見た目してるからまだ覚えられるんだけどねー……。


 深く他人と関わったりしない現代人なので、他人との距離があり過ぎた。

 ストーカーさん達に関しては逆に距離が無さ過ぎた気もするが、あの人達も主張しないし自己紹介もしてないので正直顔は知らないとかザラにある。

 でもマジな泥棒が入ってきたら彼らが撃退してくれるので、もしや泥棒!? ともならないし大丈夫。

 いつの間にか家に居るならストーカーさん達くらいだ。


 ……冷静に考えるとそれがもうアウトだけど、家事関係とかでめちゃくちゃお世話になってるから、うん。


 彼らを通報したら自分の生活も途端に色々切羽詰まって精神的な余裕が無くなるのは目に見えているので、お世話してもらえるのはありがたい事だ。

 まあ今は異世界に居るからあまり関係ないけれど。


 ……それでもクダ達にお世話されてる辺り、根本的に生活力無いのかな……。


 難しいところだ。

 そう考えていれば、ガルドルによるストップが入って肩を掴んでのシェイクが止まった。



「大丈夫でしたか?」


「うん、ありがとガルドル。えーっとこのラミアっぽい見た目の大きい人はガルドル。種族はヨルムンガンド」


「勇者様となればさぞや欲する情報があるでしょうから、何か気になる事があれば僕に連絡を。情報屋ミッドガルドを経営しておりますので」


「ぼったくりだし多分太勇の情報も売られるから気を付けてね」


「待ってください喜美子」



 太勇は待ったと手のひらをこちらに向け、ガルドルを怪訝そうに見る。



「一体どういうヤバい人……人じゃないのを仲間に?」


「まあ私に害は無いし断る理由も無いしお世話になったし良いかなーって」


「理由が軽い!」


「ちなみに情報を売ってほしくないのであればそちらの場合もそれ相応の口止め料をいただきます」


「こっちは怖い!」



 漫画やゲームでしか聞いた事ないぞそんなセリフ! と太勇は一歩引いた。

 まあごもっとも。



「それでこっちがシュライエン」


「…………」


「……な、何だか物凄く睨まれているんですが……」



 シュライエンは物凄く不機嫌そうな顔でガンつけていた。

 めっちゃ睨んでるよどうした。



「ケッ」



 不機嫌そうに、不愉快そうにシュライエンは上半身を僅かに前へと倒し、下からぎょろりとした目で太勇を見上げる。

 それは完全に殺意がギラついているようにしか見えない眼光を灯らせていた。



「俺の大将相手に随分と媚び売ってるようじゃねえか天下の勇者様がよ。対して俺の事なんざ忘れたってか? ただでさえ底辺を彷徨ってた俺の人生を一度完全にぶち壊したテメェが!」


「あーそうだったごめんシュライエンこれは私が悪い! ごめん! よーしよしよし落ち着いて!」


「俺は犬じゃねえんだ頭撫でんじゃねえ大将! ソレで落ち着くのは犬とガキくらいだろうが!」


「え、クダは管狐だけど頭撫でられたら嬉しいよ?」


「俺も同じく」


「「俺達もー」」


「頭を預けるなど他の方にする気はありませんが、旦那様からの寵愛であれば喜ばしい事ですね」


「畜生獣共め!」


「畜生も獣も同じだよー」


「うるっせえよクダ!」


「どーどーどーどー」



 パニック状態になって威嚇しまくりな猫状態になっているシュライエンの背を撫でてどうにか落ち着かせる。

 そういえばシュライエンはスキンシップあんまり派だったのを忘れていた。

 私となら一応手を繋ぐくらいは許容してくれているけれど、流石に頭を撫でるのはアウトだったか。

 まあ全力の嫌そうな顔で唸られるよりはメンタルダメージ少ないので良し。



「…………シュライエン?」



 対する太勇は、シュライエンを見て顎に手を当て思案気な顔で呟く。



「……俺は正直言って、こっちに来てから殆ど休み無しで働いてる。最近になってようやく国王の意識改革が起きて落ち着いたが、ちょっと前までは国への忠誠心を強める為の広告として勇者を使われ、やれあっちで盗賊を叩き潰せやれこっちで大量の魔物を倒せとこき使われたもんだ」



 だから、



「だから俺は沢山を倒している。戦う相手は魔物がとびきり多く、次に人間を捕まえる数が多く、最後に自分の本能を優先して暴走している一部の魔族をひっ捕らえたりだな」



 私に向ける目とは違い、太勇は酷く静かかつ冷たい目でシュライエンを見た。



「そんなものをいちいち覚えてはいない」


「テメェ!」


「だが!」



 シュライエンの叫びを呑み込むような声で、太勇は言う。



「用を足そうとしたところを襲撃された上に捕獲後は色々と面倒な手続きをしたからお前の事は覚えている! 否! 正確には思い出したぞ不正奴隷使いのシュライエン! フードを被り人相を隠し服で体格を誤魔化していたから、名前が同じでいくら同じように体格を誤魔化すような服を着ていたとしても顔を晒しているお前は別人だろうと…………は?」



 つらつらと語っていると思えば、突然太勇は言葉を止めた。



「おいこら待てお前さっき喜美子の奴隷って紹介されたか? お前が?」


「だ、だったら何だってんだよ」



 目を見開いた真顔で距離を詰めた太勇に、今度はシュライエンが一歩下がった。

 下がったというか、完全に私を盾にしている。

 シュライエンはわりと私を盾に使いがちなので今更気にしないけど。


 ……あ、でも人外は盾にしようとはしないし、こっちが足踏みしてたら背中を押してくれるって感じだもんなあ。


 そこが人外と人間と違いだろうか。

 そんな風にぼんやりと意識を飛ばしていれば、シュライエンの言葉に顔を俯かせて震えていた太勇が叫んだ。



「羨ましい!」



 喧しい。


 ……うわ近距離だから結構耳キーンした……。


 他の皆は大丈夫だろうかと視線だけで確認すれば、本能で聴覚の危険を察してたのかクダとイーシャの耳は後ろに向かって伏せられ、ミレツとニキスは自身の長い耳を伏せた上で手で押さえていた。

 ガルドルだけは平然としているけれど、これは聴覚というよりも振動で聞く蛇だからだろうか。



「何で! 何でお前がその位置に居るんだ! 俺だって喜美子と一緒に居たいのに! 喜美子に惚れたのは俺が先だぞ!?」


「惚れたとか知るか! んなもん俺にゃ関係ねえだろうが! そもそも事の発端はテメェに捕まって罪人奴隷にされた結果だ大ボケ野郎!」


「あああああ羨ましい! 俺は勇者業があるせいで一緒に居られないのに! 彼女に所有されて一緒に過ごせるなんていう最高の位置を! 他のヤツ、それも人外が居る分には好きな子がペット飼ってるくらいにしか思わないから全然良いのに! 人間! しかも俺が捕まえたヤツとか!」


「ハ、ざまあねえな勇者様も! テメェが何を羨んでるかは俺如きにゃさっぱりわからねえレベルで随分と御高尚な理由のようだが、こうなったのはテメェの責任だよバーカ! 残念だったなあお前が捕まえたせいで他の人間が大将の奴隷ポジションに収まっちまって!」



 めっちゃ羨むしめっちゃ煽るじゃん。

 というか一番渦中の存在なはずなのに私の口挟む隙が無い。

 これが台風の目というヤツか。



「どれだけお偉い様でもお一人様じゃあ寂しいってか? 媚びて侍ろうとする奴らはどんだけでも居るだろうがよ!」


「誰がぼっちだ! お前に関する手続きの時は完全に我関せずだっただけで媚びようとも侍ろうともしない仲間はちゃんと居るぞ! こっちに戻ってくる時はそれぞれ好きに動くって事になってるだけで!」


「はぁーーんそれはそれはようございました! お一人様で無くとも、テメェは大将にとっちゃ他人枠なのは一切変わらねえだろうがな!」



 ……っていうか……、


 周囲を見渡して現状についてを考えていると、私を盾にしていたはずのシュライエンに肩を抱かれた。



「大将は他のヤツの主でもあるが、俺だってコイツを()()大将だって言えるんだよ」



 ニィ、とシュライエンの口角が吊り上がり、ギョロリとした目が爛々と輝く。

 キラキラした輝きではなく、それこそヤバいタイプの爛々とした輝きだった。

 徹夜の人がよくなる圧が強いハイテンションな目、が一番近いだろう。



「テメェは俺が大将を大将と、そう呼ぶに至った最大の理由だってのに、そのテメェはんな事まったく言えねえとは笑えるぜ!」


「ああああああクッソ俺の人生はいつもこうだ真面目に頑張ってるのに他のヤツに! 何で俺が犯罪者として正当にお前を捕まえた結果惚れた子の所有物になってるんだこの野郎!」


「俺が知るか勝手にこうなってたんだよ!」


「あのー、白熱してるところ悪いんだけどさ」



 ピッと挙手して発言し、二人の視線と意識がこっち向いたのを確認したので周囲を見るようジェスチャーで促す。

 あまりにも騒いでいたせいか、周囲には野次馬が集まっていた。

 野次馬は人間七割、人外三割と言ったところだろう。


 ……あ、リャシーが凄く困った顔してる。


 まあ職場で関係者が騒ぎ起こしちゃ困るよね。申し訳ない。後でちゃんと謝っとこう。



「さっきからめっちゃ視線集まってるけど、良いの?」



 シュライエンは今更だと言わんばかりに鼻を鳴らして腕を私の首に回し、そのまま肩に顎を置いた。

 しかし太勇は対照的に顔を一瞬にして青ざめさせる。



「良く、ない……っていうか何故こんなにも視線が!? 認識阻害魔法で存在感を薄くしていたのに!」


「いや、こうなって当然だと思うよー?」



 クダが尻尾をゆらありと揺らしてそう告げる。



「当然って、どういう事だ」


「だって勇者の……勇者様の認識阻害って、話しかけたりすればその相手への効き目鈍くなるもん。だから声掛けられた主様は勇者様に気付けるようになるわけだし」


「うぐっ」


「まあクダ達に対して話しかけてるわけじゃないからクダ達には存在感薄く感じたけど、あれだけ騒いでれば視線は集まるよね。普通に。存在感薄くても普通は騒いでたら視線集まるし。視線集まれば勇者ってわかるようになるんだし。つまり周囲に対する効果が切れる」


「うぐぐっ」


「っていうか大前提として、主様関係でシュライエンに対して感情爆発させた時点で魔法が安定感無くして効果消えてたよ。ああいうのって道具を使用して安定させてない場合は術者……魔法の使用者自身の精神力に強く影響されるものだし」


「ぐぐぐぐぐっ……!」



 否定出来ないのか、太勇は悔しそうに歯を食い縛った。

 別にそんな悔しそうにせんでもと思ったが、魔法関係の知識がそこまで無い私でもわかるレベルの説明かつ正論なので、色々ダメージが大きいのかもしれない。

 まあ私が受けてるダメージじゃないので実際そうなのかは知らないけれど。



「じゃ、そういう事で主様離脱しよっか!」


「えっ?」


「うん、その方が良いよ」



 いつの間にか背後まで来ていたイーシャにひょいっと持ち上げられ、抱えられた。

 抱っこ固定なのは抱えた体勢から背中に乗せるのは難しいからだろうけれど、何故離脱。



「視線集めてるのも人間にとっての話題性が強いのもそっちなんだし」


「俺達の飼い主様に変なやっかみ行かないよう上手くやってね!」


「え、ちょ、ま」



 ニキスとミレツの言葉によって太勇が動揺するのも気にせずイーシャは駆け出し、リャシーが確保してくれていたらしい隙間から野次馬の群れを抜ける。


 ……うわ、しかもこの隙間の周囲、人外ばっかりだ。


 話の分かる人外に話を通して隙間を作ってもらい私達が野次馬の群れから抜け出せるように、かつ背の高い人外を集める事で上手く目隠しになっていた。

 ギルドでのちょっとした揉め事なんかの対処に慣れているのか、リャシーの対応が迅速かつ的確。

 これは帰ったら精気をどうぞした方が良いレベルの働きじゃないだろうか。



「っていうか、太勇の方は……」



 私達は全員野次馬の群れから抜け出せた。

 対する太勇は抜け出せず、しかも話題の人物(勇者)であり、何やら騒いでいた相手が居なくなった事で太勇に興味津々な野次馬からすれば声を掛けるチャンスが巡ってきたようなもの。

 だからなのか、物凄い勢いで群がられていた。

 池に居る鯉とか、麩を投げ込むとあんな感じで我先にと顔を出して何かもう集合体恐怖症の人にはキツかろうなという状態になるのだが、何かああいうのを思い出した。

 もしくは公園でうっかりお菓子の袋をぶち破って中身を弾けさせてしまった時の鳩達みたいとも言える。



「…………だ、大丈夫かな」


「いざとなれば転移魔法使えるし大丈夫じゃない? 主様もシュライエンも一般的な人間との相性あんまり良くない方だし、それならああいう英雄タイプに任せた方が良いよー」


「おいこら誰が相性良くない方だ」


「奴隷使いは世界を動かせるレベルの人間とは相性良い、あるいは天敵扱いされたりするんだけど、それ以外の一般人には微妙な顔されて距離置かれがちなんだよねー。心当たりない?」



 シュライエンは黙ったし、私は幾つか思い当たる事に苦笑した。

 そういえば革命家って関わり少ない人からの扱いは大体そんな感じだよね。



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