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質問の大事さが思ってるより桁違い



 シュライエンが増えた生活は思ったよりあっさりしたものだった。

 いやまあ誰が増えても大体そんなものだが、シュライエンは人間であり、犯罪奴隷であり、なによりあの卑屈さがある。

 が、人外の方が上手(うわて)だったと言うべきだろうか。



「人間ってこういう感じが多いわよねえ、可愛い~!」


「ううううううう…………」



 以上、エルジュとシュライエンのやり取りである。

 要するに人外から見た人間というのは大体がシュライエンみたいな感じであり、今更気にするような事は無いらしい。

 基本的に自分勝手で嫌味な程卑屈で自分を偉く見せたい欲望がある癖に自分も他者も貶して自分より相手が上と判断したら自分ごとだったとしても相手をその立場から引きずり落して笑うようなの、が、人間のイメージだとか。


 ……人間として否定した方が良いんだろうけど、否定出来ないのが……。


 誰かを蹴落とせば一番になれる! と思う人間が居るのも事実だ。

 アイツさえ居なければ一番になれたのに、と思うのもまた人間。

 しかし結局は繰り上がっただけであり、本人の資質やら実力やらは変貌しない。

 けれど、それをやろうとする人間が居るのも覆しようのない事実なのだ。

 いや本当覆したいけど。

 ちなみにシュライエンはエルジュに撫でられた事に対し、全身の毛を逆立てるようにして屈辱の二文字を表情で訴えていた。

 凄く嫌そうに唸って歯を剥きながらも大人しく撫でられてやってる撫でられ嫌いの犬みたいだった。

 流石に可哀相だったから、私の方なら良いけどシュライエンは人外慣れしてないから程々のスキンシップにしてあげて、と取り成した。

 アレだけ拒絶していたのに、私がそう言う間にシュライエンはそそくさと私の背後に隠れて安堵の息を吐いて胸を撫でおろしていた。


 ……シュライエン、もしかしなくとも順応性高かったりする?


 現段階ではわからないけれど、素はわりと順応性高めなのかもしれない。

 卑屈が前に出過ぎてて今はそれっぽさ見えないが。

 そうして二日程、シュライエンを屋敷に置いて案内などして様子を見ていたが、わりと落ち着いていた。

 会話をする時はやはり卑屈節が出て来るけれど、そこさえ気にしなければ穏やかだ。

 勿論、それを言ったら契約で縛られてるからに決まってんだろと顔を顰められたが。



「さて、シュライエンが来て三日目です」



 朝食を終えたリビングで、それぞれデザートを食べている際にそう切り出した。

 ちなみに私とシュライエンのデザートはフルーツゼリー。

 他の皆も好き好きに果物だったりゼリーだったりを食べている。

 果物系は皆で食べれるハッピー系食材だ。

 ケーキとかになると途端にアウトなメンバーも居るので。



「何だ、三日目でもう俺を見限ったってか? まあ俺を置いといたところで旨味も何もねえもんなあ。他のヤツらと違って何も知らない何も出来ない役にも立たないんじゃあ置いておく意味がねえ。飯を食い潰すだけの害悪だ」


「シュライエンの卑屈節はスルーして、大体屋敷の案内も出来たから依頼受けるの再開しようかなーって。まあクダ達には行ってもらってたけど」



 そう、留守番が決まっているエルジュとあと誰か一人に居てもらいながら屋敷を案内していたのだ。

 それらがあった為、この二日は私も引きこもり生活である。

 なのに運動不足にはならないだろう運動量が確保出来るとか、改めてこの屋敷の広さはおかしい。

 ちょっと散歩するよりも屋敷の中を探検する方がよっぽど運動量が多いんじゃないだろうか。



「で、私が受けるのは大体手伝い依頼なわけだけどさ、シュライエンを同行させようと思ってます」


「良いんじゃない?」



 大きく切られた、というか殆ど真っ二つになって種を取り除かれただけの桃を大きな一口で咀嚼し呑み込み、クダは可愛らしい笑みを浮かべて言う。



「決定するのは主様だし、クダが否定するような部分無いしねー」


「うん、同じく」



 サイコロ状に小さく切られたイチゴを体躯に似合わずちまちま食べながらイーシャが頷いた。



「少なくとも害するような行動が出来ないなら人間でも安心出来るし、無害状態になった上で見て回るのは良いと思う。俺もご主人様の奴隷になる前となった後じゃ対応かなり変化したからねえ」


「冒険者をやるという事は荒くれ者な性格かもしれない、となるからな。しかもケンタウロスの重種となれば尚更だろう」



 鳥の足で器用にスプーンを持ち、カトリコはフルーツゼリーを口へと運ぶ。

 もう片方の足はハルピュイア用の止まり木をしっかりホールドしていて、相変わらず見事なバランス感覚だ。



「首輪がついているかどうかは関わる側からすれば重要だ。少なくとも、主が信頼に足る存在ならその下に居るのが何であろうと大丈夫だと思わせてくれるからな」


「あー、あるよねそういうの。素敵な上司が居るところならわざわざそんな上司の顔に泥を塗ろうとするようなのは居ないって感じ?」


「残念なのはそういう上司を失脚させようとして顔に泥を塗らせようとする人間が一定数居るところなんだけどね」



 ミレツはさくらんぼを、ニキスはマンゴーを食べながらいつも通りの真顔でそう告げる。



「色々フォローした上で総合的なアレコレやってくれてる存在を失脚させて立場を得たって、自分で扱いきれなかったら重さに潰れるだけなのになー」


「そうすると連鎖的に他の人まで巻き込まれちゃうから、素直に自分がやるべきで自分にやれる事をやってた方がずっと良い結果になるもんねー」


「ふふ、でもお館様が信頼に足るっていうのは事実だわ」



 フルーツゼリーをぱくりと食べて、エルジュは頬を押さえて表情をほころばせる。



「今までの依頼も真面目にこなしてるから実績があるし、なにより他の奴隷達がそれぞれこなせる依頼をやってくれるお陰で積み依頼が無くなる。ギルドとしては是非とも囲い込みたいでしょうね」


「実際、そういった動きがあるのは事実です」



 大粒の、小さなリャシーからすれば私が思うよりも大きいだろうブドウに小さく可愛い噛み跡がついた。



「ですから依頼もそこまで理不尽な物は受ける前に除外されると思いますよ。そもそも理不尽な依頼はギルドも拒絶しますしね。……権力と情報とお金を全力で使うような一部を除いて」


「おや、僕の事ですか? まあ実際そうやって話の場を設けましたがね」



 ガルドルは唯一果物には手を付けず、丸々としたネズミを丸呑みにした。

 それを見てシュライエンが顔を顰めて目を逸らす。

 ガルドルは一応果物も食べれるらしいけれど、基本的には肉食なので肉を食べる方がテンション上がるらしい。

 ちなみに狐は肉食寄りの雑食性らしいのだが、クダはそもそも妖怪なので度外視。

 それを言うとガルドルも魔族だし出生が神話寄りらしいが、気分の問題なら好きなものを食べた方が良いだろう。

 私だってオシャレな料理よりもかつ丼の方が嬉しい時はある。



「しかしまあ、シュライエンが今まで奴隷使いという偏見の中で迫害を受けて来たのは事実。故に通常の扱われ方も知らない事でしょう。そもそも、人間が警戒する中では人を攫って売るしか生きる方法は無い……と、思想のコントロールをされたでしょうし」


「ああ? 何が言いたい。頭が良いような事を言ったって俺にゃわかんねえぞ。お前が言ってるように俺はおつむが足りねえんでな」


「奴隷使いとはこういうものだ、という刷り込みですよ。奴隷使いであろうとも、別に真っ当に活動しようと思えば活動出来るものです。人間の相手をすれば迫害されるなら、人外の相手をすれば良いだけですしね。自分から人間だけを相手にしようとするから歪むんです」


「そりゃ立派な御高説どーも。そんな事を言われたって俺の過去は変わらねえし、迫害された幼少期も変わらねえし、俺のこの捻くれ曲がった性格も直りゃしねーが」



 シュライエンは自身のこめかみに銃のような形にした指を当て、煽るようにべえと舌を出した。



「だからこれからがあるんですよ。死んでいないなら幾らでも学べますからね。学ぶのに遅いという事はありません。勿論、死んでいない限りですが」


「死んでさえ無ければ、学ぶなんて案山子にも出来るもんね」


「脳みそが無くったって学ぼうと思えば学べるもんね」


「まあ死んでても学べるけど」


「死んでも生き返れば学べるけど」



 ガルドルの言葉に双子が続き、シュライエンの顔が顰められる。



「案山子って言えば、極東には案山子の姿をした知識の神様が居たりするんだよ。脳の無い案山子が人間よりも賢い、ってね。案山子でもそれだけの可能性があるなら、人間だっていけるいけるー」


「俺は案山子以下かよ」



 クダの言葉に、ケッ、とシュライエンは吐き捨てた。



「案山子なんかと一緒にされても貶されてるとしか思えねえっつの。ぼうっと突っ立ってカラスにつつかれるだけの、文字通りの木偶人形。俺如きはそれ以下だってか」


「案山子でそれだけ可能性があるんだから、学ぶ事が出来る人間にも充分に可能性はあるって事じゃないの? そもそも知らないなら聞いて教われば良いし、理解出来なくてもちゃんと教えてくれる人達は居るよ」


「へえへえ、成功してこんな豪勢なお屋敷に住んでらっしゃる奴隷使い様は言う事が違ぇや」



 うーん、相変わらずどうにも卑屈だ。

 服装は引き取った時と同じくタンクトップにハーフパンツ状態なので、服装だけなら活動的なんだけど。





 時間帯の問題かギルドに行く時は大体サンリが受け付けをしている事が多いが、今日の人外受け付けはデュラハンのテスタだった。

 皆はそれぞれ自分に合う依頼を掲示板見て探しているので、私はまずシュライエンを引き連れてテスタに声を掛ける。



「やっほーテスタ」


「やっほーでございます! 何かご用事でも?」


「こちら、お試しだけど新入り奴隷のシュライエン」



 腕を引いて紹介したら、シュライエンは物凄く嫌そうな顔をした。

 首をカウンターに置いているテスタを見た時点で嫌そうな顔をしていたが、紹介をしたらもっと顔を顰められた。

 案内の時もはぐれないよう手を掴んでいたお陰か私が腕を引いたりするのには慣れたようだが、どうにも人外慣れをしていないらしい。


 ……私の場合、異世界ならそんなもんかなって流しちゃったもんなあ……。


 ファンタジーなら首が取れるくらい普通にあるし、リアルなファンタジー世界と考えればまあ不思議でも無いな、という流し方。

 実際テスタ達からすればそういう種族なので当人達から見て不思議さなんて皆無だろうけど。


 ……デュラハンにとって首が取れるっていうのは当然だろうから、人間にとっては爪が伸びるくらいの感覚だったり?


 そのレベルで何でもない事のような気がする。



「ああはい存じております! しっかり報告が来ましたので!」


「それは良かった。で、とりあえずは色々と見学させて距離縮めるコースかなって事で私の付き添いなのね」



 距離縮めるコースについては聞いてねえぞという顔で見られたが素知らぬ振り。

 人外はこういう時さっさと口に出すけれど、人間は内に秘めつつ顔で喋るんだなあと実感。

 だから誤解とかが生じるしさらっと無理強いされるんだろう。

 よし、私も出来るだけ本心は告げよう。


 ……言わなかったらオッケー判定って事で無茶ぶりされても困るからね!


 実践出来てる気はするが、気合いは入れておこうと思う。

 気分を一新するのは鮮度的に大事な事だ。



「私が出来る依頼でシュライエンが見学してても良さそうな依頼ってある?」


「そうですねえ……アルボルというエントはご存知ですか?」


「あ、露店の? 知ってる知ってる」


「その方から枝葉の間引き依頼が来て御座いますね」


「そんな依頼あるんだ……」


「どこを切れば良いのかはご自分でわかるようですが、タコの自切のようにはいきませんから。人間で言うなら背中が痒いのに手が届かない感じでしょうか?」


「成る程孫の手出動コース……」



 痒いところに手を届けよう。



「じゃあそれ受けようかな。シュライエンもそれで良い?」


「良いも何も俺に拒否権はねえんだっつってんだろ。第一俺に決めさせたらどれもこれもお断りに決まってるしな。大前提として俺はギルドに登録も出来なかったんだからよ」



 ふむ、



「そうなの? テスタ」


「人間が受け付けのところに行くと、奴隷使い適性があるというだけで警戒して拒絶するという職員としてやっちゃいけない事をする方は一定数いらっしゃいます。

 あとギルド登録以前にやらかしてたりする場合は犯罪者として登録されている為、即捕縛で御座いますね。その場合その場に居る人外達も捕縛に動く為、ほぼ確実に捕縛成功となります。つまりハズレのギルド職員に当たってしまったのかと」


「外れなのに当たるとはこれ如何に……」


「そんなのを雇うギルドにも問題があるってだけだろうがよ。今の話じゃ、俺が歪んだのも被害者が出たのも俺が捕まったのも俺が奴隷に落ちたのも全部ギルドの責任じゃねえか」


「まあそうなのですが、そこで他の職員に対し再チャレンジ、あるいは別ギルドで登録を挑戦する、などをせずに道を外れたのはそちらですので自己責任で御座います。最初に人外の受け付けを狙うなどもあったのにそこで人間の受け付けを選んでしまった時点で、自分自身で選択を間違えらえたのですよ」


「おい奴隷使い様よコイツむかつくぞ。俺が劣ってるのも歪んでるのも卑屈なのも間違ってるのも全部事実だが当然の事として言いやがるのがむかつく」


「どうどう」



 ……シュライエン、結構面倒な性格してるなあ……。


 メンヘラかお前は。



「人外は色々と正直だし、わりと自己責任って言うし、親切なようでかなり雑だから仕方ないよ。こっちが聞けば答えてくれるけど、こっちが聞かない限りは放置って事も多いしさ。

 人間が崖から落ちるだろう道を選んでても、道を聞いてきたなら答えるし危ないようなら教えるけど、それを聞き入れずに真っすぐ行こうとするならあーあって言って見送るタイプ」


「その通りで御座いますね」


「そんなのが蔓延ってるとは終わってんなあこの世界ってのはよ」



 ハ、とシュライエンが鼻で笑う。



「勇者様が救うまでもなく終わってやがるぜ」


「シュライエンもご存知の通り、私達人間自体が終わってるってだけだと思うけどね。今のだって、人間が素直に聞き入れてれば何も問題無い話だよ」



 一応話を聞く気はあったらしく、シュライエンは不機嫌そうにケッと言うだけだった。

 否定をしないだけの納得はしてもらえたらしい。



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