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面会



 一先ずシュライエンに会いに行こうとなり、覚の仕事場へ移動する事となった。

 ちなみに大きい奴らも多い上に大所帯で行くのは何だから、という事で大半がお留守番である。

 いざという時に懐から攻撃可能な七十五分の一クダを胸元に入れ、カトリコを連れ立っての出発。

 何故カトリコなのかと言えば、そこまで大きく無いし判定がわりとシビアだし言いたい事をハッキリ言うから、との事だった。

 他のメンバーもわりとハッキリめだが、お気楽な意見よりはごり押しながらもそれなりにシビアな視点を持ってるカトリコが良いだろう、と。


 ……とはいえ、別に皆で来ても良かったんじゃないかって広さだなあ……。


 覚に案内されながらそう思う。

 仕事場は貴族街にあるという事で屋敷の扉を経由して貴族街へ移動してここまで来たのだが、中は思ったよりも広くて綺麗だった。

 まあ普通に考えてイメージ通りの陰気な牢屋とかアウトだもんね。


 ……保護施設、みたいなものだろうし。


 引き取り手などから盛大にブーイングが出かねないので、しっかりそういった配慮がされてるんだろう。

 まあ国から出るお金が多いのと自分ではそこまで使わないのでとりあえず良い感じの設備を揃えたという説もありそうだが。



「大正解」


「あ、やっぱそうなんだ」



 前を歩く覚にさらっと肯定された。



「……何の話だ」


「今お前は会話があまりに突然過ぎるがまさかうっかり聞き逃しでもしたか? と思ったな?」


「ああ」


「単純に私が心を読める分、会話を省略しがちって事だよ」


「そうか」



 めっちゃあっさり納得してる。



「ええと……カトリコは覚と初対面なんだよね? あっさり納得するの?」


「魔族や妖怪には色々居るからな。自分だって猛毒を有する種族だ。ならば心が読めるようなのも普通に居るだろう」


「成る程」


「あと返答に不審な部分が無ければ問題無い。誤魔化しはともかく、嘘はわかる」



 誤魔化しは微妙なのか。

 まあ嘘とも本当とも言えないお茶の濁し方はあるもんね。

 日本人が多用するやつだ。


 ……にしても本当に綺麗だし広いなあ……。


 恐らくは巨人なども引き取り手として来る、あるいは巨人が犯罪者として奴隷になった場合の為だろう。

 曰く、人外も犯罪の程度によっては奴隷になるそうだし。



「ちなみに説明すっと、この廊下のあちこちにある扉の向こうが奴隷達の部屋な。独房みてえなもんだ」


「えっ、格子とか無いよ?!」


「外から見える状況がストレスって事もあんだろ。脱走、自殺、自傷、その他迷惑行為だのは奴隷としての契約時に出来ないよう設定されてる。日常生活に問題無いようしてあっから、毎日必要最低限の世話しながら見回るくらいで良いんだよ。そんだけガッチガチにしてりゃ常に見えるような状況にしておく理由もねえ」


「成る程……」



 確かに契約で縛っておけばそういった行動には出られないし、そういった心配が無いのであれば監視する必要もない。

 契約の抜け穴を探そうとしたところで、考えた瞬間に覚によってバレる上、発想が正確であればある程しっかり対策が練られる事だろう。

 普通に考えて契約なら更新も可能な仕様だろうし。



「でも物理的に抜け道探そうとしたりは?」


「魔法による契約は絶対だから無理だな。思考するまでは自由だが、行動に移そうとすれば契約によって不可能になる。壁を削ろうとしても、削る為に使おうとした物を壁に触れさせる事が出来ず動きが硬直する、みたいにな」


「タブー行動みたいな感じかあ」



 というより、ゲームで言うなら設定されてない行動、みたいな事だろう。

 壁を乗り越えるプログラムが無い主人公の場合、どれだけ低い壁だろうがそこを乗り越える事は出来ない。

 なにせプログラム的に不可能なので、まずその行動が出来ないのだ。


 ……ジャンプ機能が無いゲームとかもそうだよね。


 他のゲームではジャンプボタンな部分を押しても無反応。

 多分、そういう感じだろう。

 もしくは無理なコマンドを入れられたせいでフリーズする感じだろうか。



「あとまあ思考の自由っつったが、私の前じゃ丸裸だからな。盲点突こうとしても考えた時点でバレてるから、ご想像通りどんどん奴隷契約の内容が更新されるぜ」


「わあい……」



 成る程、やはり天職。

 しかも人間の場合は他者の心が読める状況とか普通に病みそうなものだけれど、覚の場合は元からそういう種族で、そういう性質。

 人間にとって二足歩行がスタンダードなように、病むような事は無いんだろう。



「まあな。私にとっては心の声が聞こえる事こそ通常だ」


「成る程。でもこう……ハンガーストライキみたいの起こしたりとかは無いの? 流石に断食は自傷行為に入らないだろうし、宗教によっては普通にあるよね」


「宗教関係なくゆっくり死ぬつもりで食わねえってんなら、その思考も読めるからな。羽交い絞めにしてでも食わせる」


「羽交い絞めにしてでも……」


「人間だってペットが食わねえ時は口ん中突っ込むなりするだろ」



 病気で食べる気が無い様子の子にそんな事はしないけれど、カリカリが嫌だとわがまま言う子相手には何となくわかる。

 流石に無理やり突っ込むのではなく、手の平に乗せて口の前まで持ってくやり方だったけれど。

 時間こそかかるが、そうやるとわりと食べる子も居るのだ。

 小さい子とかも口の前まであーんされれば食べる子居るもんね。



「で、ここがシュライエンの部屋な」


「……今更だけどさ」


「今お前はいきなり突撃するんじゃなくて面会室みたいなところで話す方が良かったんじゃ、と思ったな?」


「うん」


「私が往復しなきゃならなくて面倒だろうが。どうせ引き取ってもらうのは決定してるんだし、部屋に入ったところで攻撃されるわけでもねえぞ」


「人外本当そういうところね!?」



 全体的には丁寧なのに雑なんだよ色々とさあ!





 中は六畳くらいの広さがある空間だった。

 シングルベッドがあり、本棚があり、テーブルと椅子がある実に生活感がある部屋。

 壁の一角だけちょっと違うのは、部屋についてるトイレなんだろうか。



「何の用だ」



 ベッドに腰掛けているシュライエンは、相変わらずのギョロリとした目でこちらを睨んだ。



「……シュライエン、だよね?」


「だったら何だよ」



 ハ、とシュライエンは卑屈に笑う。



「ほんの少ししか話してねえ、ごみ溜めの中に居るような、お前のような成功した奴隷使いとは違う俺なんか! もう忘れたってか!? ああ!?」


「いや、単純に前回会った時は顔が隠れてたから素顔知らなくて」



 前回は雪国仕様のコートを着て、フードですっぽりと顔を隠していた。

 その為ギョロリとした目とギザギザした歯、そして服で隠されてるけどガリなんだろうなという体の薄さしか知らなかった。

 初対面ならわりと充分な情報量な気がするが、素顔と対面すると何だか不思議な気分だ。


 ……服装、全然違うしね。


 今のシュライエンは、だぼっとしたタンクトップに楽そうなハーフパンツというとってもラフな格好をしている。

 覗く腕や足はやはり骨に皮が張ってるだけのようなガリで心配だけれど、前よりもずっと健康的に見えた。

 というか髪の毛ロングだったのかコイツ。


 ……癖毛っぽいけど私よりふんわりしてる……。


 私が寝癖のように跳ねる癖毛なら、シュライエンはくるんとなる天然パーマ系の癖毛のようだった。

 そしてめちゃくちゃ髪が長い。

 よくまあこんなぞろりと伸びた髪をあのコートの中に収納出来てたなと思うくらい長い。

 前髪も目元を覆いそうな長さだ。



「良いんだよ、お世辞なんか言わなくて」



 しかしそれで印象が変わったりはせず、シュライエンは卑屈と自嘲が混ざったような笑みでこちらを見た。



「思ってんだろ、ざまあみろってよ。自分を奴隷にしようとしたヤツが奴隷になっててざまあみろって。それともそんな事も思わねえってか? 俺なんかにそんな事を思うような価値もねえってか。思考を割くような価値もねえって笑ってんだろなあ勝ち組の奴隷使い様がよぉ!」


「うーん被害妄想が凄い」


「な、凄ぇだろ」



 うんうん、と覚が頷いた。

 そういえば前からこんなんだったけれども、改めて顔を合わせるとよくわかる面倒臭さだ。

 いや、ちゃんとお風呂に入れてもらえてるのか前みたいな臭さは無いけどね?


 ……ま、あんまり思考を割いたりしないってのはその通りなんだけどさ。


 面倒事を考えるよりも今後の事を考えたいし、その方がずっと自分の為になるものだ。

 下手に過去ばかり振り返っていては卑屈になってしまう。

 過去を振り返るのは思い出したい知識とかの時だけで良い。

 あと思い出深い映画とかがどういう人出ててどういうストーリーだったかとか。



「それとも何か? 惨めな姿を笑いに来たってか?」


「いや、前よりかなりまともな姿になってるなって思う」


「奴隷になったらまともに見えるってのは皮肉かテメェ!? 俺には奴隷がお似合いだと!? 取っ捕まって罪人として奴隷になるのがお似合いだってか!?」


「じゃなくて率直に見た目や清潔度」


「ちなみにまだガリだがこれでも肉がついた方なんだぜ。最初はミイラかってくらいに肉が無かったからな」


「わお」


「お前らのせいで俺達みたいな奴隷使い適性のあるやつらが迫害されてっからだろうが!」



 迫害してるのは人間だけで、別に人外とだけ接するようにしてれば何も問題無いと思うんだけど。

 あと知ってるか知って無いかはともかくとして、一応鑑定で見られるステータス部分は変更出来るわけだし、そこが誤魔化せれば多少はやりやすかろうに。


 ……仮に知らなかったとしてもわりと問題無かったしなあ、私。


 人間と接した時は嫌悪の目で見られたりもしたが、人外とは全然スムーズに接する事が出来ていた。

 何なら奢ってもらったりとかもした。

 勿論歪んでない奴隷使いだったからというのもあるかもしれないけれど、


 ……うーん、そういう状況下に至ってないからなあ……。


 シュライエンの境遇を経験していない、完全なる部外者である私。

 見ても聞いても経験もしていない私が何か共感しようとしたところで無駄だし、そこはあまり食い込まないようにしよう。

 知った風に言うのは一番嫌われる。

 私だって、ストーカーさん達の事を知った風に言って悪者扱いする人には嫌悪感を抱いたりしてたし。


 ……まあやってるのは実際犯罪だから何も言い返せないけどさ。


 私が受け入れてるのが異常なだけで、普通は悪者扱いで正解だったと思う。



「……ちなみにシュライエン」


「何だよ」


「何で私が来たかについては」


「ああ? 俺を笑いに来たんだろうがどうせ。それとも奴隷を買いにでも来たか?」


「いや買いはしないけど」


「売ってねえしな」



 覚がぼそっとそう付け足した。

 知ってる知ってる。



「…………じゃあ例えばの話として」


「あ?」


「私がシュライエンの主になるってなったらどうする?」


「普通に嫌に決まってんだろ何を見せつけるつもりだテメェ」



 ギョロリとした目で下から睨みつけるようにしながら早口で言われた。

 めっちゃ即答するじゃん。



「成功している、人間の奴隷使い。その奴隷になれって? 冗談じゃねえ。呑気にまともに真っ当に生きてる奴隷使いの成功例を間近で見せられるなんてどういう拷問だ。しかも俺は奴隷として。

 ハッ、皮肉が随分とお上手だなあ裕福な奴隷使い様は! そんなにも俺が哀れで惨めったらしいように見えるか!? 見えるだろうなあ成功したテメェから見りゃあ!」


「うーん何を言っても噛みつかれる」



 物理で噛みつきはしないし、契約によるものか攻撃する気が無いのかシュライエンはベッドに腰掛けたままだ。

 しかしまあ、前と同じように言葉での噛みつきが酷い。

 こちらの言葉を聞いていないかのようだ。


 ……前に比べれば、まだ会話出来てるように思うんだけど。



「ま、お前がどう言ったところで拒否権はねえんだけどな。お試しみてえなもんだから素直に引き渡されとけ。一週間からひと月くらいお試しだ」



 子供らしい見目をした覚の目がこちらへと向く。



「で、その間にお前自身で無理と判断したら言え。うちへ戻す。大丈夫そうならそのままお前のとこの奴隷にしろ」


「いや本人が大丈夫じゃ無さそうなんだけど」


「拒否権がねえんだろ? わかってるよ言う通りにするよ。ああそうだ、俺だってそうしてきたんだからそうなるだろうさ。奴隷を雑に扱ってきた俺が奴隷になるだなんて最高に笑えるけどな!」



 浮かんでるのは最高に自嘲的な笑みですが。



「じゃ、譲渡契約だな。ギルドの方へは私から話しておくからお前はサインをすれば良い。正式に契約するってんなら私に話してからギルドで登録しろ」


「んな未来はねえよ」


「数瞬後すら考えられず、数年後を考える事も無く、数十年後については考えようともしねえ人間が大層な事を言うんじゃねえ」



 吐き捨てるようなシュライエンに対し、覚はくつくつ笑いながらそう告げる。



「未来ってのはわかんねえもんだぜ。何せ心が読めるこの私を人間なんぞが何度もやり込めちまうんだからな」


「…………ケッ。何言ったって学がねえ俺にわかるわけもねえだろうがよ。テメェの種族についての逸話も何も知らねえっつの」


「別にお前に知られてないところで私の在り方は変わらん。それより譲渡契約するから来い。お前らもな」



 お前らも、とこちらを見て覚は部屋を出た。

 シュライエンは物凄く苦々しそうにこちらを見たまま、立ち上がる素振りを見せない。



「えーと……じゃあ、行こうか?」



 あまりにガリ過ぎて心配になり思わず手を差し出すと、またもや自嘲気味に笑われた。



「碌に肉がねえ俺を心配とは、随分とお優しいこって。それともお手なんかの芸をお望みってか? どちらにせよ応じるけどな」



 言い、骨と皮だけに近い手が私の手の上に置かれる。



「奴隷に拒否権なんざありゃしねえんだ。お前が言うなら従ってやるよ奴隷落ちしてねえ奴隷使い」



 ニマァ、とシュライエンは片目を細めて口角を吊り上げた。



「死ねって命令だってご随意にどーぞ?」


「や、別にしないし行動の強制まではしないって。嫌なら離して良いよ」


「まさかまさか。そう言われたから素直にそうして、それで? 従順じゃねえ奴隷は廃棄だろうが。行動が従順でも中身が従順じゃねえ事がバレちゃ終わりだろうがよ。食えねえ飯に意味なんざねえようにな」



 まあ俺は食えねえ飯を食って生きて来たけどよ、とシュライエンは自嘲の笑みを浮かべて立ち上がる。

 本当、卑屈が凄い。

 サッパリし過ぎてる程に明け透けな人外と接する事が多かったので何だか不思議な気分だ。

 そう思いつつ、待っててくれたカトリコにお礼を言って部屋を出る。

 握った手は、私が握っただけでも折れるんじゃないかというか細い手は、振り払われたりしなかった。



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