革命家とは
覚の正面に位置するソファに腰掛け、改めて問う。
「それで、私に用事って聞いたんだけど」
「何だ、あっさり敬語解いたな」
「心の声読めてるなら今更かなーって。取り繕う意味無さそうだし」
「ハ」
猿顔のまま覚はくつくつと楽しそうに笑った。
「そう、その通りだ。結局取り繕うもんなんてのは私にとって意味が無い。随分早くそこに気付いたな」
「や、普通に考えてそうなるかなって。勿論それが前提としても敬語つけるのが礼儀だろって場合もあるだろうけどさ」
「あー、要らねえよ別に。下手な取り繕いに意味はねえし、自分が敬われたいっつー思いもねえんだ。お互い特にそれで問題ねえなら敬語無しでも良いだろ。無駄に取り繕った言葉と取り繕ってねえ本音の二重奏は喧しいしな」
「あ、聴覚系なの?」
「感覚系」
わからん。
「今お前はわからん、と思ったな?」
「うん」
「要するに脳内まで直で伝わるんだよ。だから見えるとか聞こえるとかじゃねえ。そのイメージが伝わる。文字として考えてたなら文字として伝わるし、喋るようにして考えてたなら喋るようにして伝わる」
「……ほう……?」
「…………」
理解出来ないと判断して即座に思考停止したのがわかったのか、面倒臭そうな目で見られた。
瞼が無いガルドルの目よりはよっぽどわかりやすい動きの目だ。
「…………人によって考えは違うだろ。理解する方法だって当然違う。文字で理解するヤツ、絵で理解するヤツ、耳で聞いて理解するヤツって感じに」
「あるね」
「だから脳内で考える時も、文字にするヤツ図解にするヤツ声にするヤツと色々あるわけだ」
「ほう……?」
「人間ってぇのは賢がるわりに感覚的な理解に鈍いのがいけねえな……」
何かボソッと言われたけどいや誠に申し訳ない。
理解しようとする素振りを見せているだけであって、わからんと思ったらそのまま脳内が真っ白になるのが私である。
多分それがわかるから、適当な相槌こそ打ってるけど全く理解してないのが感覚的に伝わって呆れになるんだろう。
でもちょっとソレ教わった事が無いのでマジわかんないです。
「お前、ちょっと幾つか自分の知ってる伝達方法考えてみろ。そっからお前にわかりやすい説明見つけるから」
「ざ、斬新な方法使ってくるな……」
確かに私の中にある物で一番それっぽいのを選ぶのが一番わかりやすいだろうけども。
そう思いつつ、とりあえず伝達方法を幾つか脳内で考える。
……えーっと手紙、会話、伝言、電話、飛脚、郵便……ってこれは何か違うな。そう、例えばどっちかというとテレパシーとかサイコメトリーとかそういう、
「それだ」
「え」
「テレパシーっつったか? 受信専門のソレだと思え。だから見るとか聞くとかじゃなくて、お前風に言うなら……データがこっちに受信されるって感じだな。音声記録だろうが文字ファイルだろうがデータはデータだろ。受信する側にとっちゃどんなタイプだろうがデータである事に変わねえってこった」
「成る程!」
確かにデータとして考えるとわかりやすい。
要するに視覚とか聴覚とか接触とか、そういう肉体的なアレコレを使用せず直で脳内に受信される系という事か。
「ハ、一応理解力はあるみてえだな。というよりも呑み込みが早いっつーべきか?」
まあどっちでも良いんだが、と覚はリャシーが出したのだろうお茶を飲んで喉を潤す。
「ところで首領、お前は私の話を聞く気があるのかどうか。まずはそこをハッキリさせよう」
「聞く気」
「そこのガルドルがやたらと私の話を拒絶してたからな。ただ断りてえってんなら話はそこまでだ」
「旦那様、チャンスですよ。今ここで断れば話は終わりです」
「ガルドル、そういうのはせめて耳打ちとかにしよっか。大声じゃないとはいえめっちゃ室内に響いてるから」
「耳打ちしようがアイコンタクトしようがコイツには聞こえますから」
「わあい……」
そういやそうだった。
内容わかってるのに耳打ちする方が心証悪くなりそうだし、それならいっそわかりきっていた方が良いか。
ガルドルが覚に対して警戒だか敵意だかを抱いてるっぽいのも多分隠して無さそうだし。
「まあとりあえず話は聞くって事で」
「旦那様!?」
「いくらガルドルの強みが出せないって言っても、ガルドルが前に出ても引かないんでしょ? だったらせめて話を聞いてから判断しないと。それだけの用事かもしれないし」
「ま、確かに人命一つ分の用事だぁな」
思ったより重い用事だった。
人命一つ分て。
「……というと?」
「今お前は私じゃ受け止めきれないような面倒事だったら嫌だなあ、と思ったな?」
「そりゃ思うよ!」
「とはいえ面倒事なんだが」
面倒事なんかい。
「具体的には?」
「まず私は奴隷使いだ。国に所属する奴隷使い故に、奴隷商人染みた事もしている。主に奴隷となった犯罪者の世話、そして引き取り先の選別だな」
「うん」
そういえば今更だけど人外の奴隷使いって初めて見たんだよなあ。
「今お前はそういえば今更だけど人外の奴隷使いって初めて見たんだよなあ、と思ったな?」
「うん、思った。シュライエン……人間の歪んだ奴隷使いが、真っ当に働けて金稼いでる奴隷使いは人外ばっかりなのに何でお前は、みたいな事言ってたっけ」
「そりゃ私が覚だからだ」
至極当然な常識を教えるように、覚は猿らしからぬ鋭い爪をすり合わせてカチカチという音を鳴らした。
爪の伸び具合を確認する人みたい。
「何故覚だと奴隷使い……すなわち革命家に適性があるとされるのか。お前はわかるか」
「いいえ!」
「自信満々に思考停止してんじゃねえよ考えろ。考えをサボってさっさと答え貰おうとしてんのはわかってんだよ。伝わってんだよ私には」
そうでした。
横着を嗜められたので、答えが出ない可能性があるとしても一旦自分で考えてみる。
覚が言っているのは、答えが間違っていようと自分で問題を解こうとした努力が一番重要な部分だという事だろうから。
実際答えばっかり見ていると自分で答えを探そうという気が失われると思う。
計算機頼ってるとすぐ計算機探しちゃうアレ。
……でも、何で覚が奴隷使いに適性があるか、かあ。
途中で革命家の名を出してきたという事は、多分革命家としての適性が何故あるのか、という風に考えた方が良いんだろう。
奴隷使いとは実質革命家だからというのもあるだろうが、多分奴隷使いとしての適性理由よりも革命家としての適性理由から探った方がわかりやすいんだと思う。
まあ多分なんだけど。
……じゃあ何故革命家に適性があるのかっていうと……。
駄目だ、まず革命家が何なのかわからん。
「今お前はまず革命家が何なのかわからん、と思ったな?」
「うい……」
「要するには変革の事だよ」
喋り方こそぶっきらぼうだが、理解が足りていないこちらにもわかるよう覚はそう説明してくれた。
「今ある物を無くして新しい風を吹き込ませる事、それが革命だ」
「新しいジャンルが作られてブームになるみたいな?」
「まあそれも合ってる。要するには現状が打破されるってこった。勿論現状問題無い物のレベルを低下させるようなら革命とは言い難いがな」
……つまり、行き詰っている現状を打破する何かを持っているかどうかが革命家に適性あるかどうか?
自分に当てはめるとそんな才能あるか? と思うが、まあ一旦自分の事は置いておこう。
鏡を見なければ自分の顔もわからないように、自分自身が一番わからないものだし。
……まずその適性が覚個人によるものなのか、覚全体に言える事なのか……。
「今お前はまずその適性が覚個人によるものなのか覚全体に言える事なのか、と思ったな?」
「うん」
「覚である時点で適性は出やすい。それがヒントだ」
私は探偵物を読んだ時、どれだけヒントを出されようが探偵が謎解きしてくれるまで真相がわからないタイプである。
つまりヒントがあってもちんぷんかんぷんになりがちなのだけど、とりあえず頑張って考えてみよう。
……覚といえば人の心を読む妖怪で、人が意識してないアクシデントに弱いみたいなヤツだっけ……。
こう動こうというのもわかるから、捕まえようとしてもその動きを読んで避けられる。
しかし偶然、それこそ焚火に放り込んだ栗がどこに弾けるかわからないように、人の意識が介入していない部分には弱いんだとか。
そしてそういった、弾けたりしたものが偶然ヒットしたりすると退散してくイメージ。
……うん、わからん!
だからどうしたとしか言えない。
人の心を読む事で何かしらの変革を為せるという事なんだろうけれど、そこからの深掘りがどうにも出来ないから困る。
「今お前は人の心を読む事で何かしらの変革を為せるという事なんだろうけれど、と思ったな?」
「あ、うん」
「それが答えだよ」
「えっ」
「国を売ろうとしてる国王の考えを、国民全員の前で私が暴露すればそれはどうなる?」
「あ、あー……」
成る程、それはどんな爆撃よりも攻撃力がありそうだ。
「暴露する情報によっては、充分に革命って事かあ……」
「情報だけで革命は起こせるからな。なにより革命って言ったって、なにも国に関する事だけじゃねえ。その仕事場では部下に対しふんぞり返ってる上司が居るとして、だがそれより上の相手にはへこへこしてるようなヤツ。そういうヤツの内心を、ソイツより偉い立場のヤツが居る前で暴露すりゃあ充分に革命だ」
「わあい発想がエグぅい……」
「そもそもそんな態度のヤツが居る事自体が問題だろうがよ」
ごもっとも。
ナチュラルにそういった害悪が蔓延り過ぎていて違和感すら抱かなかったが、よくよく考えればそういった害悪が居る時点でアウトである。
日本によくあるパワハラが深層心理にまで根付いている証拠のようでゾッとした。
そうじゃんそもそもそんなんが居ない方が真っ当じゃんね。
「だから、何でも良いんだよ。究極言やあな」
鋭い爪でガリガリと頭を掻き、覚は言う。
「誰かの凝り固まった思考を打破する事が出来る。新しい何かを作って安定させ他人でも使用可能にする。それはもう革命だ。それだけで革命家としての適性はあるんだよ」
「なぁるほど」
例えばその部屋しか世界を知らない子の場合、外に出るというのは革命に近い劇的な変化だろう。
それと同じように、凝り固まった思考や思想に新しい発想を与えるというのも革命になるという事か。
自分では納得こそすれどそこまでの実感には至って無いが、実際に新しい発想を得た人からすれば革命レベルでそれまでと以後に差があるだろうし。
……そういえばマリクとそんな会話したなあ。
つまりああいうところが私の革命家としての適性部分か。わかりやすい。
「で、本題だ」
「そうでした」
大分長い事脱線してしまった。
「さっき、お前は言ったな。シュライエンと」
「え、ああ、うん。前に絡まれてたのをガルドルが助けてくれて、その後カトリコが付き添ってくれたんだよね。中々にショッキングというかインパクトが強い出会いだったからめっちゃ覚えてる」
情報量物凄かったし。
「そう、そのシュライエンだがな、勇者捕まえようとして捕まったんだよ」
「えっ」
……そういえば言ってた! 太勇言ってたわそんな事! 奴隷使いに襲撃されたから捕まえたとか言ってたけどあれシュライエンの事だったのか!
「元々指名手配されてたもんだから、諸々の罪状洗い出しての奴隷コース」
「わあ……無関係の人を捕まえて奴隷として売り捌いてただけはある自業自得コースだあ……」
因果応報、身から出た錆とも言う。
「で、そのシュライエンをお前んトコで引き取らねえかってのが本題」
「何て?」
「シュライエンをお前んトコで引き取る気ねえか」
「聞き直しても変わらなかった……」
いや待って本当に意味が分からない。
混乱のまま隣に座るガルドルに抱き着いて深呼吸。
しっとりすべすべな肌触りと心なしひんやりした肌にちょっと回復。
「……よし、もっかい聞こう。わんもあ」
「お前がシュライエンの主に適してると思うんだよな」
「くそう言ってる事は違うけど内容が変わってない!」
「ね? 面倒事でしょう? ですから断る方が諸々楽ですよ?」
あまりに予想外な覚の発言に動揺し、ガルドルの言葉に思わず頷きそうになってしまった。
待ってその前に思案タイム欲しい。




