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異世界来て服屋でひん剥かれるなんて事ある?



 服を剥かれてあれこれ着せられ、己は店内に置いてある椅子に座って放心していた。

 まさか店内で全裸にされるとは。



「ごめんねー、そういえば人間ってすっごい恥ずかしがり屋なんだったっけ。他の子よりも接触嫌わないから大丈夫かと思っちゃった」



 はいドリンク、とヴィーから渡された飲み物を受け取る。



「……人外はその辺気にしないの?」


「ぜーんぜん。人間が気にするから隠してるだけ。それでも胸とか股とかその辺隠せばオッケーだしね。もふもふや鱗なんかの人間に無い要素で隠れてれば人間的にはセーフみたいだし」



 あはー、とヴィーは気楽な笑みを浮かべた。



「アタシみたいな虫人(むしんちゅ)もあんまり気にはされないわね」



 アリの虫人(むしんちゅ)でありルミーカと名乗った、人のブラのホックを外した彼女は腕を組みながら言う。



「人間っぽい部分は隠さないとはしたないとか言われるから隠すけど、虫っぽい形状になってたら何も言われないし」


「俺の場合、乳は剥き出しだからか隠す必要があるってのが面倒だぜ」



 ハァ、と溜め息を吐くのはコーダと名乗ったワオキツネザル獣人のお姉様だ。

 コーダは面倒そうな目で自身の履いているショートパンツ、よりも短いだろうホットパンツを撫でるように触れる。



「獣寄りなら下履いてなくても気にされにくいんだが、俺の場合は擬陰茎があるってのがな」



 そういえばワオキツネザルにもブチハイエナのような擬陰茎、つまり偽物のちんこが生えているんだったか。

 前にハイエナのメスにはちんこあると知った際、一緒に紹介されていたのを思い出した。



「私の場合は体部分が人間寄りだから服は着るわね」



 頬に指を添えてそう言うのは、人間寄りなヤギ獣人であるカペル。



「というか体毛が少なすぎて大事な胴体が冷えちゃうんだもの。服のお陰で保温されるとはいえ、その為にも最低限の服は必要だわ」



 ふぅ、と溜め息を吐くカペルではあるが、足がヤギの骨格だし蹄だしという事でか裸足状態だ。

 そこは普通にそのままらしい。


 ……まあ毛皮が服ってなったら無駄な重ね着状態だから着ないってのもわからなくはないし、蹄自体が靴みたいなものだから普通の靴は要らないってのもわかる、かな。


 しかしまさか一般客とまで自己紹介するとは思わなかったが、ブラを外し外されの仲という事で名乗られた。

 どういう仲だ。

 叶うなら素敵なお相手以外にそういう仲の相手は無しが良かったが、過ぎた事は仕方ない。


 ……可能な限りの抵抗はしたけどね!


 主に服装で。



「というかあの、本当にこれ以上のカバー範囲ある服無いの?」


「ある」


「あるんじゃん!」



 あると即答したのは、こちらをひん剝いた上で今の格好をコーディネートしたカトリコだ。

 ひん剥いたお詫びにと今着ている服や着替えを奢ってくれると言ってくれ、今はついでにと爪を削られネイルを施されている。

 コーディネートの際、冒険者予定だからとクダが言った為、なら服に付与された能力で守られるとはいえ一応カバーしておいた方が良い、と爪の保護用にネイルをしてくれる事となったのだ。

 どういう事だ。



「あるにはあるが、ああいうのだぞ」



 カトリコはこちらの手をドラゴンの翼で支えつつ、器用にも足でネイル用のハケを持ってこちらの爪に色を塗ってゆく。

 そんなカトリコが顎で示した方を見れば、ダアルが笑顔で長袖長ズボンの服を持っていた。

 そう、確かに長袖長ズボンと言えるかもしれない、が、



「……全身タイツ……?」


「カバーする範囲が多いと布地が薄くなるんだ。布地が少ない、そして薄いというのが能力を多く付与出来る条件だからな」


「だから布地が少なくて薄いのが一番良いんだけどねー」



 カトリコの言葉に、椅子に座って足と尻尾をゆらゆらさせていたクダが笑う。



「布地を厚くするなら露出多い服になるし、布地が多い場合は薄くなるっていうのが定番パターン。一応恥ずかしがり屋な人間用にところどころ、それこそ肩やおへそ部分とかを露出させてカバー範囲を増やした服もあるんだけど」


「無理」


「主様ってば恥ずかしがり屋さんだなあ、もう。そういうところ人間らしくて可愛いけどね」



 ニパッとした笑顔で言われても、あの露出度は無理だった。

 いくら服の効果で体型がベストな状態を維持出来るようになるとか言われても厳しい。

 今着てる服にもそういう効果があるらしいし今だってお腹が出ているわけではないが、そこまでの露出はしない日本出身としては厳しいものがあるのだ。


 ……今だって死ぬほど恥ずかしいしさあ!


 どうにか勝ち取った今の服は、谷間を見せるつもりでしかない深すぎるVネック。

 何故かそのVネック部分に谷間を強調するようなベルトがつけられているのだが、そういう飾りがあると付与出来る能力が増えるから、らしい。


 ……布地少なく能力多くってやった勇者は男らしいけど、絶対露出多くした女性目当てでしょコレ……。


 明らかにフェチが強めに出ている。

 フェチに対する攻撃力が強いかどうかで付与される能力の数と強さが変動してそうだ。


 ……しかもブラジャー取り上げられてノーブラだし!


 粘ったとはいえ微妙に薄い布地の為、普通に胸の具が浮いている。

 いや他の人達も浮いてるけどエロ漫画じゃないんだぞ。

 ノーブラがファッション扱いな外国人でも無い日本人なのでキツイ。

 昔の人は下着せずに着物きてたしと脳内で言い聞かせないと無理。


 ……というか本当、



「…………カトリコ」


「何だ。ネイルはまだ乾いていないから動かすなよ」


「それはわかってるけど、あの、スカートもうちょっと長いのとか」


「上をそれだけ隠しているなら下を出さねば付与出来る能力の数が少なくなるぞ。体を確認した限り、そう動けるようにも見えなかった。ならば服で補強した方が良い」



 ……ぐうの音も出ない……!


 実際神話の時代から引きこもり癖がある日本人なので否定出来ない。

 でも、それでもこのスカートの短さは厳しい。


 ……だってマイクロミニスカートじゃんコレ!


 見た目に合わせてかタイトなタイプだが、それでも足開いただけで中身が見えそう。

 下着もまた色々能力が付与されたセクシー下着にされたので、適当な下着見られるのも嫌だがこのセクシー下着を見られるのも嫌だ。


 ……そりゃあさ!? 羞恥心がエロ漫画世界レベルでうっすいのはわかるよ!? こんな露出度が通常ならそうもなるだろうけどさ!?


 通りすがりに水着っつか下ほぼパンツやないのかっていう男性向けオンラインゲームのキャラクターみたいな恰好してる人を見かけもしたが、下着は下着だ。

 しかもタイツ却下されてガーターベルトにピンヒール。

 そこまで舗装されてない道が多い中を歩くのにピンヒールとか無理ゲー過ぎると思ったが、このピンヒールにも能力が付与されているので大丈夫だと言われた。

 歩行の補正やら足元の強化やら速度増加にジャンプ力アップなどなどがあるらしい。


 ……ヒール部分に仕掛けがあるらしいけど。


 その場合ヒール折れたらどうするんだと思ってしまうが、付与された中にヒールが折れないよう仕込まれているので大丈夫らしい。

 対策はバッチリという事か。



「よし、乾いたな」



 綺麗に塗られたネイルを見て、カトリコは満足そうに頷く。



「うむ、良い。全体的に自分好みだ。まさか人間を自分好みに飾れる日が来るとは思わなかったが……」



 満足! という顔でカトリコはしみじみ頷いている。

 まさか、脱がせたお詫びに服を奢るというのは自分好みの服を着せる為のトラップだったんじゃあるまいな。

 いやまあ露出度高い事以外は結構好みな服のテイストだし、こちらもかなり口出ししたので無いと思うが。





 店員や他の客達に別れを告げ、店を出た。

 エロ漫画やエロアニメとかちょっとエッチな画像でくらいしか見た事ないような恰好だが、他の人達もそんなもんだから気にしない。


 ……気にしない!


 そう念じてないとやってらんない。

 実際他の人達は気にしていないが、こっちとしちゃそうもいかんのが辛いところだ。


 ……でも本当に足が寒かったりしないし寧ろ足が軽いしアニメみたいな身体能力発揮出来そうな感覚なんだよねー……。


 能力付与凄い。



「それで主様、次はどうする?」



 前を歩いていたクダが、尻尾を揺らしてこちらを見た。



「お昼までまだあるしクダはこのまま冒険者ギルドかなーって思うんだけど、主様はさっきのカペルってヤギ獣人が言ってたアクセサリー店見たかったりする?」



 確かに、先程店を出る際カペルに店を宣伝された。

 アクセサリー類も当然ながら色々能力付与された物が売られているらしく、冒険者希望なら是非、と店の名前と場所を教えられたのだ。


 ……でもなー。



「正直今は新しい服に慣れるのが先決で、アクセサリーまで気を回せる感じでも無いからやめとく。それに一応お金はあるけど、あんまり最初で使うと浪費癖つきそうだし」



 幾らそれが役立つアイテムでも、だ。



「あと出来れば今の状態で動いてみて、何が足りないか、何があると助かるかを体感してからその能力があるアクセサリーで補強したいって感じ」


「だから主様大好き!」


「ぐえっ」



 飛びつかれて再びクダの胸に顔が埋まった。



「人間ってお金があるとすぐ使うか、必要な物すら買わないで溜め込むところがあるんだよね。あとアクセサリー店とかも、見るだけ見たいとか言って衝動買いする事も多いでしょ?」


「あふへ」



 あるね、と答えたつもりだがクダの胸に顔が埋まっているせいで変な発音になってしまった。



「それが悪いって事は無いんだけど、ちゃんと必要不必要や今後を考えた上で判断してるっていうのは人間全然しないから。それが出来る主様なことが嬉しくって嬉しくって!」


「んー……そういうもんかなあ」


「そーいうものだよ!」



 よくわからないが、クダの尻尾が風を切っている様子からして本心からの言葉らしいので、良い事なんだろうと納得した。





 到着したギルドは、イメージそのままなギルドだった。

 アニメでよく見るタイプのギルドだ。


 ……なんか、異様に広いし天井が高いけど。


 そう思って見渡したら四メートル程のヒグマが普通に二足で歩いていて肝が冷えた。


 ……あっ、いや、あれ獣人か!


 サイズがデカすぎるし二足歩行だしで普通のヒグマではあるまい。

 つまり獣人。

 他の人もチラチラ視線を向けてはいるがマジなヒグマが出た時にあるだろう動揺が無いので、獣人で間違い無い、と思う。


 ……他の動物なら獣寄りでも獣人感あるけど、熊はマジ肝冷えた……。


 見た目が獣寄り、しかも熊となると恐怖でしかない。

 二足で立ち上がっている熊の剥製がイメージにあるというのも加わって、二足歩行に違和感がいまいち無いのだ。

 あと単純にデカくてビビる。



「……クダ、ちょっと聞いても良い?」


「なに? 主様。あ、受付は人外が担当してるとこ行った方が良いよ」


「そこは大丈夫。わかってる。じゃなくてあの、ちょっと獣人についてなんだけど」


「うん?」



 首を傾げたクダに、己は問う。



「獣人って体格が恵まれてる事多かったりする?」


「種族によっては動物と獣人のサイズ差があんまりないって事もあるけど、基本的に人間に比べれば獣人の方が体格良くなりがちかな。人間よりもかなり力が強いのがデフォルトだよ。あと寿命も人間より長い場合が多いね」


「あっそうなんだ」


「んーとね、元々動物って魔力が無い上に人間よりも小さい事が多いでしょ? だから寿命も短いんだけど、獣人だと魔力があるからか人間くらいの身長から人間よりずっと大きい身長になる事が多いんだ。その分寿命も人間より長い事が多いの」


「成る程」



 道理としては理解出来る。

 小さいハムスターの平均寿命が二年か三年、というのは動くペースなどが早いからだ。

 対する亀なんかはゆっくりした動きで生きている事もあり、寿命が長い。


 ……つまり過労死って寿命を前借りした結果のヤツなんじゃ……。


 まあその辺はさておくとして、体格が良いと同時に時間の流れもそう急かされなくなったならば、寿命が長いのも頷ける。

 クダのように老衰があるかわからん妖怪系はその辺不明だが。



「ちなみに獣人の平均寿命は?」


「それは種族に寄るかなあ。ネズミ獣人なんかだと平均は五十年くらいで、頑張れば七十年くらいは生きるし」


「うわ本当に人間と同じくらい……」



 こちらに地球のような医療設備は無いとしても、魔法などがあるのだ。

 そう考えると放っておけば大体そのくらいで色々と対処すればこのくらいに伸びる、というのも理解可能。



「犬獣人は平均百年から百三十年くらいで、熊獣人の場合は二百五十年くらいで尽きるのも居れば種類によっては四百年くらい生きたりもするね。まあ、基本的には動物の寿命に一桁ゼロを足せば大体その種族の寿命かな」


「あー成る程! 長いね!」


「というか人間が短いんだよ、主様。魔力を持たない動物が短命なのはわかるけど、人間なんて魔力があるのに短命なんだもん。大事にしなきゃ、って思うでしょ?」


「私は人間だからその感覚わかんないけど、ペットとかを考えるとわからんでもないかな」



 人間からすれば犬猫は短命に入る部類だろう。

 犬と子供が同い年だった場合、子供が成人する頃には殆どがもう寿命を尽きさせている。

 だからこそ、犬からすれば長いだろうが人間からすれば短い時間を大事にしよう、となるわけだ。


 ……で、獣人とかの人外からしたら人間がその短命ポジションなわけで……。


 やたらと愛玩枠扱いされるのもわかる。

 飼い主からしたらペットはいつまでも赤ちゃん扱いしてしまうみたいなものだ。


 ……ひん剥かれたのもそれかぁ……。


 そりゃ己だって何かヤバいのを身につけさせられてる自覚が無い犬猫が居たら慌てて脱がせるだろう。

 相手が抵抗したとしても、だ。

 そう思うとあの時の対応はかなりまともな反応だったという事でもある。


 ……まあひん剥かれたのは事実だからこっちとしちゃまだ納得し切れてないけどね!?


 意味が理解出来た事と納得いくかはまた別の話。



「ま」



 くるり、と振り返ったクダはそのままこちらの背に回る。



「その辺もまた気になった部分があればクダが教えてあげるから、主様は登録を済ませちゃったら? クダもそばに居るからだいじょーぶ!」


「こっちの手続きのやり方とか一切わかんないから正直付き添ってくれるのは助かる……」


「あはは、っていうか主様の場合はクダの事もちゃんと登録しておかないとだからね。契約もうしちゃってるし!」



 確かにペットを飼った際は登録しておくものなので、奴隷使いも奴隷をきちんと申請しておくものなのだろう。

 主として、その責任を取るのは大事なことだ。


 ……あれ?


 そういえば地球に帰れない前提とはいえ、帰れる可能性があったとしても既にこちらで契約した以上、心情的な問題が発生して帰れないのではないだろうか。

 己としてもここまで世話になっておいて途中で捨てるような無責任な事はしたくないし。


 ……契約もしちゃってるしね。


 そしてクダの種族からすると多分見限られなければ一生一緒に居るのだろうし、見限られれば破滅するらしいのでその時点でエンディングロールが流れ始めかねない。

 主になる以上一生を共にする覚悟はあるが、もしかしなくとも初手でかなりのお相手を引っかけてしまったんじゃないかコレ。



「どしたの主様?」



 そう思っていると、こちらの背を押していたクダがきょとんとした顔で覗き込んで来た。

 狐でありながら犬っぽさがあって、金色に光る可愛らしいまんまるな目。



「……や、うん、大当たりだから良いかって思ってた」


「何が?」



 可愛いし色々教えてくれるしで、仲間としては最高のお相手だろう。

 こちらが道を踏み外さなければ良いだけなので、己が間違わない為にも良い相手だ。



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