適性ジョブは奴隷使いらしいです
ぼんやり、と佇む事しか出来なかった。
本や液晶越しにしか見た事の無い洋風の広い場所。
お城かお屋敷のような広い空間の中、これまた定番の偉そうというか豪奢な服を着た人やケモミミやエルフ耳。
そうして私は、言われた通りに差し出された水晶玉へと手を乗せる。
「な、奴隷使い……!?」
水晶玉を覗き込んだ立場が上っぽい人がか細いながらも確かな驚きの声と共にショッキングなものを見る目でこちらを見て来たので、私はどうやらおみくじ的に大凶を引いたっぽい。
・
事の始まりは、コンビニで受け取りを済ませたついでにカフェにでも寄ろうかと思って歩いていた時のこと。
「あの、すみません。少し道を聞きたいのですが聞いても良いでしょうか?」
それに是と答えて一緒に雑誌の地図を見ながら教えていると、一瞬にして風景が変化した。
そうしてこの現状だ。
曰く、魔王を倒す為に勇者がどうのこうのという王道越えて教科書レベルにテンプレと化している問題を解決しようと呼び出したとか。
ただし、二人、というのは相手も想定していなかったらしい。
一緒に地図を見ていたせいか、大学生くらいだろう年下の男の子と共に召喚されてしまったのだ。
どちらが勇者の力を、つまりチート級の能力を持っているのか、となって水晶玉が持って来られた。
ただの水晶玉にしか見えないが、どうやらジョブ適性みたいなものを調べる器具らしい。
豪華な衣装なのに何故かやたらと地肌がチラ見えするエルフっぽいお兄さんが説明してくれた。
まず試したのは、男の子。
「これで良いのか?」
多少怪訝そうにしながらもそう彼が水晶玉に手を乗せれば、笑みを浮かべてざわめく周囲の人々。
ちらほらと勇者勇者聞こえる辺り、恐らく彼がアタリだったという事だろう。
つまりこっちは完全なる巻き添え召喚。
ハズレくじだとこの時点で理解した。
……いやまあ、勇者になれって言われても困るけど!
「あの」
「……?」
男の子が勇者と発覚した事でわいわいした雰囲気になっていたが、こちらを忘れられては困る。
「私はどうすれば良いのかなー、って」
「……そうだった。勿論こちらの過失である以上、こちらで世話をさせてもらう。城での生活ではなく適当な館を与える事になるかもしれないけど、勇者を呼び出せた以上その程度は当然だから」
やっぱり帰してはもらえないのかと思わず顔を顰めそうになるも、やったー、と喜んでいる振り。
とにかくここで衣食住を確保しない事には野垂れ死にかねない。
無理矢理誘拐された被害者とはいえ、相手は加害者であると同時にこの国の偉い人なのだと思う。
つまり相手の決定一つでこっちの罪状適当にでっち上げられたうえで処刑とかも有り得る。
突然の異世界であり勇者という保護されるワードも無い場合、戸籍も人権も皆無という信用性ゼロ人間状態になるもの。
その場合、とにかく衣食住を確保しなければならない。
野垂れ死にもそうだが、こちらの世界についてを知らない状態では碌に働き口も見つからない気がするからだ。
「まあ、しかし一応適性だけは確認しておいた方が良いかと」
先程の寡黙そうな年若い男性の方が立場が上らしく、如何にもな髭を撫でつけた中年男がそう進言した。
「勇者という事はあり得ぬでしょうが、ね」
……嫌な目するなあ。
この水晶玉はジョブ適性の中でも、特に適しているジョブが見えるらしい。
漫画家とアイドルどっちも出来るけど漫画家の方が才能あるね、という感じだったら漫画家と表示されるようなものだ。
エルフのお兄さんがそんな感じの事を言っていた。
「な、奴隷使い……!?」
そして冒頭へと戻る。
・
通された来客用だろう個室の中で、案内をしてくれたエルフのお兄さんがカーテンを閉める。
そうして振り向いたお兄さんは、申し訳なさそうに眉を下げていた。
「すまなかったね、うちの者達が」
「あー、いえまあ大丈夫です……」
……あんまりだいじょばないけどさー……。
そう思いつつ、出してもらったお茶を飲む。
多分ハーブティーなのだろうが、普段はミルクティーを飲む事が多いのでどういうブレンドかはわからん。
……てか怖かったあー……。
奴隷使いとかいう明らかに何かちょっとそれ大丈夫? というような適性が発覚すると同時、その場に居た人達の空気が一気に変貌した。
あの男の子が勇者とわかった瞬間は英雄に歓喜する雰囲気だったというのに、己の場合は化け物を見る目で見られたのだ。
しかもただの化け物ではなく、まだ化け物じゃないけどいずれ化け物になるから今の内に始末した方が良いのでは……? という目。
ただでさえ日常生活の中ではあり得ない異世界召喚(巻き添え)なんてトンデモ状況だというのに、日常生活で向けられる事の無い恐怖タイプの視線。
思わず頭が真っ白になって硬直してしまっていたところ、このエルフのお兄さんが前に出て言った。
「さて、こちらの都合で召喚してしまったのも事実です。彼、そして彼女にはゆっくりと休んでいただく事が重要でしょう。私達の方の事情も話したいところではありますが、いきなり呼びつけてこちらの事情を一方的に告げる、というのもよくありません。まずはゆっくりと休み、現状を整理する時間を用意しなくては」
他にも見た目からして人じゃなさそうな人達がそれに同意し、当然ながら別室ではあるが男の子と私はそれぞれ個室に通された、というわけである。
というかこの世界、エルフ耳のお兄さんが居たりケモミミの人が居る辺り想像通りのファンタジー異世界らしい。
……見た目年齢問わず偉い立場っぽい人達もこのお兄さんも謎の露出があるけど、まあファンタジー系の異世界ならあり得るかな……。
ハーブティーを飲みながら相手を見つつそう考える。
実際、ファンタジーの剣士とかはそれでよくまあ森入ったり魔物と戦ったり出来るなあという感じの格好が多かったりする。
何を守りたいんだと聞きたくなる軽装備というか、筋肉への信頼感厚過ぎない? というアレ。
戦う時にスカートはどうなんだと思うが、ビジュアル重視な二次元と思えばスカートのヒラヒラとチラリズムは重要だ。
……でもここ、リアル……だよね、多分。
少なくとも視線が集まった時の寒気とかは本物。
そういう悪夢を見ている、という感じでも無い。
仮に夢だったとしても荷物の受け取りから始まる異世界転移夢とか普通に嫌。
つまりどういう謎露出なんだろうって感じだが、異世界相手にそれを言うのも野暮というものだろう。
日本人に何で二本の棒で飯食ってんのそれ逆に食べにくくない? って言う感じだと思うし。
「さて、ええと……何と呼べば良いか聞いても?」
「あ、喜美子です」
先程までの敬語は上の立場の人用なのか、砕けた雰囲気でそう問われた。
とはいえ優しい声色と相まって話しやすい雰囲気になったので、ありがたい事だと敬語が無くなった事は指摘せずに名を答える。
「そう、キミコだね。私はルーエ。種族はエルフだが……種族についての説明も要るかな」
「え、と、多分大丈夫、だと思います……」
「そうかい」
良かった、とルーエは微笑む。
「キミコの世界にもエルフが?」
「あくまで伝承程度で実在はしないって扱いですけど、本の中とかでは結構頻繁に出てきます」
「ふむ。そちらの世界でのエルフは、具体的にはどういうものなのかな」
問われ、意図を何となく察した。
異世界間の相違についての質問なのだろう。
……地球ですら国家間の相違は結構大きいもんね。
日本なんて世界的に見ても異質要素が多い国なわけだし。
「耳が長くて、美形で、千年くらい生きる長命で、草食で、魔法が得意……」
そう思いつつ指折り数え、浮かぶエルフの特徴を挙げる。
ふむふむと頷いていたルーエは、成る程、と言って一度深く頷いた。
「大体は相違無いようだね。まあ、少し違う部分を挙げるとするなら平均寿命は千年では無く八百年くらいであり、草食ではなく小食というくらいか」
「あ、草食じゃないんだ」
「私達は肉も食べるよ。生態が植物に近いから、土が消化吸収して養分に変換出来るものなら大体は」
とはいえ、
「寿命からわかる通り、私達の時間の流れは人間とは大きく違う。エルフの食事回数は平均三日に一回で充分なんだ」
「三日に一回!?」
それは人間からすると相当な断食でしかない。
水を飲んでいれば人間の体はしばらく食べなくとも生きて行けるとは言うが、それにしたって三日に一回の食事が平均とかどういう事だ。
「あ、一応言うと水は人間と同じくらい飲むよ。日光も必要不可欠だが、基本的にはその二つがあれば結構平気なんだ。ただ生態的に、一日三食、というのはあり得ない」
「あり得ないんですか……?」
「人間的に換算すると、エルフの一日一食は人間の一日五食か一日七食くらいだね」
「うわデブるとか以前に胃の内容量が限界迎えそう」
「だから一日三食は不可能な数字なのさ。まあ、人間にフレンドリーなエルフだと一緒の食事を楽しむ為か、量を少なくする事で一日一食にしているようなのも居るけれど」
「おお……」
少ない量をちまちま食べる、というのなら確かに一日五食みたいなのもクリア出来そうだ。
……実際寿命が短い小動物とか結構な量食べたりするもんね。
やたらと小分けに食べるイメージもあるが、それは胃の容量などの問題なのか。
そして寿命が短い分消費カロリーも多く、頻繁に補給が必要、となるのだろう。
異世界に来て早々勉強になる。
「さて、では多少気を緩める為の雑談はここまでにしておこうか」
パン、と合わせられたルーエの手によって、今の状況を思い出す。
そういえばルーエや他の人外っぽい人達はセーフだったが、人間だろう他の人達にはヤバい感じの目を向けられたのだった。
今の雑談は、それにより緊張状態だったこちらの気をほぐす為だったらしい。




