天から授かりし異能
1.
―これはまずいことになった―
そう思いながら額の汗を拭う。
先日のミニリカが倒れた件についてだ。
その原因はおおむね予想できる。
そう、クラフなのだ。
キーフが話のなかで言っていた神人の異能をその子供が受け継いでいない筈がなかったのである。
例の神人も言うように、この異能を子供の頃は制御できなかったらしい。
しかしそれよりも問題なのは、その神人の異能がどういう属性で、どんな性質を持っているのか、が未だに不明な点である。
今はキーフの魔法で制御してもらってはいるものの、こんなんでは遠出もできない。
―そう考えていると、
「すげぇ!羅針盤めっちゃグルグルしてんなぁ!」
一緒にミニリカの見舞いに来ていたラーマがそう言うと、クラフがハッと気付く。
「なぁ、ラーマ。磁力ってのは人体に害を及ぼすのか?」
そう聞くと眉間にシワを寄せて考え込む。
「たしか...あまりにも磁界が強いところにいると頭痛とかするってのは聞いたことあるけど...」
キーフが言っていたことと一致する。
「そうか。そういう能力ってことか。」
―磁界を自身から生み出す能力だ。―
次の日、クラフがキーフに頼み込む。
「昨日から頼み事ばかりですまねぇけど、魔法の使い方を教えてくれ。俺の能力を制御するために。」
「―分かった。しかし―」
キーフが続ける。
「その能力を使うのはわしの前だけにしろ。それが条件だ。」
「―分かった。」
その日から魔法のいろはを徹底的に叩き込まれた。
―幼馴染みと離れ離れにならないように―
2.
「ミ・ファーラ!」
クラフの放った火玉が槍のように飛んでいく。
「エ・ウォーミスト!」
突如霧がクラフを包み、視界が濁る。
四方で足音がする。
「―ッ!ズルいぞ!キーフ爺!」
「戦いにズルいも何もない!強いやつが強いのだ!」
キーフが鋭く返す。
「ならいいよ。おれもやってやる。」
「―!」
雰囲気が突如として変わる。
霧散していた水蒸気が嘘かのように消える。
クラフの右手が、樹齢50年はあるであろう木の中心を根こそぎもぎりとる。
その右手をキーフに向ける。
「どりゃああああ!」
木がキーフに目掛けて飛んでいく。
「まだまだだな。エ・ウィーラ。」
体が浮き上がり、目標を失った大木が地面に激突する。
そのまま直ぐにクラフとの距離を詰める。
「これで神人は吹き飛んだぞ。」
そう自信ありげに風魔法を基礎に威力を底上げした蹴りをみぞおち目掛けて蹴り込む。
「―。」
衝撃波で一面に砂ぼこりが舞っている。
しかし、キーフは
「わしの負けだ。」
「なんかすまねぇな。」
クラフそう言うと何も無かったかのように砂ぼこりの中から出てくる。
「後少し距離詰めが早かったら空間を歪ませるの遅れてたよ。」
そう、この修行の期間で、そんな技をも使えるようになったのだ。
それを加味して、キーフは負けを認めたのだ。
強力な磁場により空間、否、時空をも歪ませ、蹴りと腹との間にドロドロとした空間、名付けるなら時空スライムを生成し攻撃をチャラにしたのだ。
「お前はワシの誇りじゃ。行ってこい。」
そう、制服姿のクラフの頭を撫でると、照れ臭そうに言う。
「今までありがとうな。キーフ爺。」
そう言うとちょうどいいタイミングであの二人が家に迎えに来た。
「おーいキーフ!列車の時間ヤバイから早くいかねぇと遅れるぞ!」
ラーマの声に急かされて、枝に予め掛けて、用意しておいたバックともう一つの荷物を取り二人の元へ向かう。
「―さようなら」
そう、クラフが小声で言うと、集合した三人は国の向こう側にあるオルデリカ魔法高等学院に胸を期待でいっぱいにし、向かうのだった。
これで「鶯の運ぶ過去」編は終了になります。
やっぱり戦闘シーンを書くのが一番楽しいですね笑。
これからもよろしくお願いします。