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明かされる過去

1.


「―ッ」

息子の発言に言葉をつまらせるキーフ。

「キーフ爺は好きだよ。でもそれを言ってくれなきゃ嫌いになるかもしれねぇ。」

幼児が使うような脅し文句である。

しかし、衝撃と悲しみが繁雑しているクラフにはこの言葉しか出てこなかったのである。

キーフが重い口を開ける。

「お前が生まれる頃の話だ―」


2.


「キーフ様!第一子が誕生いたしました!」

「そうか。」

どこか不安そうだった。まるでこれからその子供に降りかかる災難を予見するように。

キーフが向かうとそこには真緑な、否、真ウグイス色の髪の赤ん坊がいた。

そして小さな赤ん坊を抱いている女性こそ、クラフの母、

―エスタシア・アーグスだった。

しかしその女性もまた、出産した後とは思えないほど気落ちしていた。

―なぜだ、なぜ嬉しくないのだ―

「我に似ておるではないか、エスタシア。」

ヌルっとドアを開けて入ってきたのは、そう。

―魔女の言っていた神人だった。

「うむうむ。これが我の子か。けど少し小さすぎやしないか?」

―は?

「いや、いいんだよ。産んでくれたのは嬉しいけど、これが私の子であるというのは少しばかり気が引けるね。」

生きるか死ぬかの戦いをしていた母子に、なんの悪びれる様子もなく物申す神人。

まるでそれが挨拶をするかのように言うから不思議だ。否、そういうような器だからこそ神人なのだ。

「―この出産は無かったことにしないか?」

「―ッ」

そこにいた全員が息を呑む。

その発言を聞いたからではない、その発言の根底にある意味を捉えたからだ。

その赤ん坊の首に手を近付ける―

「―あ」

エスタシアが声をあげる瞬間、

「それ以上の愚行は神人であるあなたでも許されませんぞ。ホルス様。」

「さすがに我が初孫を手にかけられて黙っては居れません。」

続け様にキーフが言うと、

はぁ、とため息をつきながら神人が言う。

「君も殺されたいの?」

さっきの態度とは一転、凍てつくように言う。

「なら、仕方ないね。ごめんね。」

そう神人が言うと、雰囲気は一転した。

キーフは察した。部屋の全てを消し去るつもりだ。自身の妻もいるこの部屋を。

「―人間の所業ではないッ!」

考えるより先に体が動いたキーフは、風魔法のウィーラを基礎に威力を底上げした蹴り技を神人に食らわせ、屋外に蹴り出した。

地面を滑り煉瓦でできた城壁に衝突する。

衝撃で砂ぼこりが舞う中―

「―僕は人間じゃないからねぇ。」

そう言って何事もなかったかのように立ち上がる。

「やはりこれしきの攻撃じゃ歯も立たぬか。少しばかりアーグス家の本性を出させてもらいます。」

右手に火、左手に水をまとったキーフが言う。

「ラ・ウォーミスト!」

左手から水しぶきが舞い、辺り一面が霧に包まれる。

「すんごい小細工だね。ここまででやめたら命だけは残させてあげるよ。まあ四肢は無くなるけどね。」

笑いながら言うから狂気である。

「そんなもの34年前の戦争で捨てた!」

「命が欲しくないのか!これはたまげたよ!」

そんなやり取りのなか呪文が叫ばれる。

「ラ・ファーレリウム!」

火属性魔法最強で最大出力だ。

素粒子までをも焼き尽くすであろう火炎が神人を覆い尽くす。

火炎がメラメラと煉瓦でできた石畳を燃やしている。

これまでの戦いで最大出力の魔法で死ななかった者はいない。

そう、キーフが安心しきっていると。

「これはたまげたよ!こんな技があっただなんて!」

業火の中からその声が聞こえた。

次の瞬間、辺りの炎がその声の場所で渦状に巻き上がり、散り散りになって消えていった。

「―なぜだ。」

「まあ細かいことは後にしてくれるかな。次は私が攻撃の番ってことでよろしいかな?」

そう言うとすぐさま気配が変わった。

―頭痛がする、めまいもだ。

「小さい頃はこの能力の扱いが成ってなくてね。周りの人がバタバタと倒れいくもんだから一時期、死神だなんても言われてたよ。」

目が笑っていない。

「君にこの魔法を見せるのは初めてだっけ?まあ初見殺しの技でもないから別に良いけど。」

そう言うと左腕に突如激痛がした。

ゴキゴキと音を立てて左腕が見るも無惨な姿になってしまった。

「ぐああああああ!」

「ごめんね。これでもエスタシアの御父さんだから慈悲は掛けたんだけどね。」

両手を向けられたキーフが覚悟を決めていると、

「放て!」

矢が一斉にホルスに向かう。

「はぁ?なに?あれも君たちの仲間?」

少しイラついている様子のホルスがキーフに言うと、キーフはニコっと笑う。

あれはアーグス家の紋様である。

一連の騒ぎを聞き付けてやって来たのである。

「キーフ様!こちらはお任せください!まずはクラフ様を連れてエスタシア様とお逃げください!」

クラフ、そういえばそういう名前だったと思い返しながら―

「―すまない。」

振り向き部屋を目指すと同時に背後で「ゴキッ」と音がする。首の骨でも折れたのだろうか。

知る由もない。


部屋に戻るとエスタシアが自身の息子を泣きながら抱いていた。

彼女は自分の子に大丈夫、大丈夫と言い聞かせていたのだ。振動と叫び声が窓を叩き割るようななかで―


「一緒に逃げるぞ!我が傭兵たちが外で戦っておる!」

すると、涙を拭い真剣な眼差しでエスタシアが言う。

「私は行けません。ここで戦います。」

「―なぜ?」

今度は和らいだ母性愛溢れんばかりの声で言った。

「―私がその子と一緒にいると甘やかしてしまうから―」

その女性の目は今にも泣きそうなほど目が真っ赤になっていた。

―その神人に復讐を誓うための言い訳か

―本当にそう思っているのか

―殺された元夫の墓の埋まっているその場所でその生涯を終えんとしているのか

それは自明であった。

その息子、クラフのためを思っているのだ。

思っているからこそ、ここであの人物を殺さなければと、自らを奮起しているのだ。

―その少年の未来が明るいように―


「わかった。」

キーフがその意図を全て汲み取ったかのように言う。

「ありがとう。」

これがその親子の最後の会話であった。


キーフは走り続けた。

走って走って走り続けた。

その愛しの愛娘、エスタシアの願いに報いんために―


3.


全てをその嗄れた声から聞いたあとのクラフはどこか言葉が出ずにいた。

16年間生きていて初めて自分の出自を聞いたのである。否、それだけではない。

自分が、あの性悪な神人と血が繋がっていると知ったのもその要因である。

「俺に神人の血が流れていてその遺伝した絶大な能力を使わせないためにってことか?」

―そうだ、キーフが頷く

「別に攻めてるわけじゃねぇよ。最初に言ったろ?言わなかったらもっと嫌いになるって。言ってくれたからいいんだよ。俺のためを思って掛けた呪いならなにも言うことはねぇ。」

だけど―。と言って話を続ける。

「呪いを解いてくれ。行かなきゃいけねぇとこがあるんだ。そこにいくためには魔法が使えることが条件なんだ。」

間接的に学校に行くと伝えるクラフに、キーフが言う。

「分かった。今まで隠してきた詫びだ。どこにでも行ってくれ。」

ニコリとクラフが笑うと、しわくちゃになった手を頭にのせる。

肩が軽くなったような気がした。


「すまねぇ!こんな後だけど今直ぐに行かなきゃなんねぇとこがある!」

といってウキウキ気分を隠しきれていないクラフが家を駆け出し、あるところへ向かう。


「ごめんくださーい!」

「はーい―ってえっとクラフ?ど、どうしたの?」

ミニリカの家だ。

「見てもらいたいもんがある!」

と言ってミニリカの手をとって広場に向かう―

―ドサッ。

「―え?」

―ミニリカが地面に倒れた。





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今回の作品は結構自信あります。

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