ルーチェが歩く、歯が生えてくるより先に覚えたもの
通常、約3週間程経過すると猫は歩いたり、乳歯が生えてきたり、自力でトイレもできるようになるのだが、ルーチェはまだそこまで大きくなく、左右の色の違うオッドアイの目はぱっちり開いているものの、ウゴウゴと毛布の海を泳いでいた。
「うーん……ベッドが柔らかいからかな? それとも前に、怪我をしたせいかな……」
アルカンジェロは、一度ドレスを脱がせ、床を歩かせるが、手を離すとベシャっと床に張り付き泳ぐ。
「アルカンジェロさま。ルーチェさまはまだ身体がしっかりしていないので、もう少ししたら自分で歩けますよ」
「ウリッセ兄さん。そうだよね。あのせいで身体がおかしくなったのなら、どうしたら良いのかなって心配になったんだ」
「大丈夫ですよ」
実は、まだ幼い主人が可愛がるルーチェが何を考えているのか、鑑定士のウリッセは何となく伝わっていた。
『……ちょうちょ〜……あたちもひらひら〜しゅゆ』
『ごしゅじんしゃまのひくのはチェンバロ? クラヴィコードかにゃ? オユガン?』
『ごしゅじんしゃま、じょうじゅ〜。だいしゅき』
尻尾を振り振り、楽器のレッスン中のアルカンジェロを見ている。
チェンバロ、グラヴィコード、オユガンとは何だろう?
話が伝わるか分からないが考え込んでいると、
みゅぅ?
『ウーシェしゃん。チェンバロは鍵を押すと、そにょさきで弦をはじくにょ。クラヴィコードは、その先にハンマーがあって弦をトントンしゅゆの』
「げ、弦をトントン……叩く?」
『にょ。オユガン……オルガンは、鍵を押すと、中にあゆパイプに、空気がおくやえて、音がでゆの。でもみためはしょっくりにょ』
「……では、ルーチェさま、これはどれでしょうか?」
抱き上げ、アルカンジェロの楽器を見せる。
蓋を開けると、ルーチェは手を伸ばし、鍵を押す。
すると、ポンポンポンと前足で不思議な音楽を奏でる。
にゃにゃ?
『しゅごい! ピアニョにゃ!』
前足2本で鍵盤の上を押していく。
それが音になり、楽を奏でる。
いつの間にかウリッセの腕から離れ、鍵盤の上でぴょこぴょこ飛び跳ねる。
ウリッセはその音に聞き入り、そして最後の音で、我にかえり手を叩いた。
「ルーチェさま! 素晴らしい!」
ミャオ。
『これくりゃい、にゃ……』
ルーチェはふらつき倒れこむ。
その身体を受け止めたのは、アルカンジェロである。
「ルーチェ。ダメでしょ?」
「あ、も、申し訳ありません! アルカンジェロさま。ルーチェさまは……」
「大丈夫だよ。ウリッセ兄さん。僕だって少しはルーチェのお話分かるんだから。でも、凄く可愛い曲だったね。ちゃんと歩けるようになったら教えてね? ルーチェ」
アルカンジェロはルーチェの頭を撫でると、
ニャーン、ゴロゴロ……
『ごしゅじんしゃま、だいしゅき』
と自分の頭を擦り付け甘えたのだった。
『猫ふんじゃった』か、『きらきら星』良いですね。
オルガンとピアノはそっくりでも、オルガンは管楽器、ピアノは打弦楽器に分類されるそうです。
オルガンは、教会などにあるパイプオルガンを小さくしたものですね。
チェンバロは、ピアノのような形で弦を弾く、一種のハープや日本や中国の琴などと似たような感じと思って下さい。
クラヴィコードの方が、弦をタンジェントと言う真鍮の棒で叩くのでピアノに似ています。
グランドピアノの蓋を開けると、ハンマーと弦がよく見えます。
気になる方は学校で。