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ルーチェが吐き出した丸いもの

 ミャウ……




目を覚ましたルーチェは、首を傾げる。




『クルマ』


『ニ』


『ハネラレタ』


『ワタシ』


『ハ』


多岐タキ


『ココ』


『ドコ』




 パズルのようにバラバラになった言葉が、頭の中をぐるぐるする。




「ルーチェ。おはよう。起きた?」




 アルカンジェロが顔を覗き込む。




 アルカンジェロは、青い瞳と青銀の艶のある毛並みのケット・シー。


 ケット・シーは二本足で歩く猫の妖精。

『長靴を履いた猫』のモデルとも言われている。




 上等な服を着たアルカンジェロは、




「ルーチェ? ミルクの時間だよ。起きれるかな?」




その言葉に、




 んなぅ……


ふかふかの毛布とお腹が空いてるの、どちらを選ぶか……悩んじゃうの。




と答える。




「今日から離乳食だって。ミルクに細かく刻んだお肉を足しているんだよ。ほら抱っこ」




 アルカンジェロは何故かふわふわのワンピース姿のルーチェを抱くと、部屋を出ていく。




 そして、用意されたトロトロのミルク粥のようなものを、小さいスプーンで食べさせてもらうのだが、




「どうしたの? ルーチェ」




一口だけで、口を開かなかったルーチェが、突然ぺっと何かを吐き出す。




「ルーチェ、美味しくなかった?」

「アルカンジェロさま。少しお待ち下さい」




 ウリッセが、ルーチェが吐き出したもの……何故か丸い塊になっている……をハンカチで手にして、己のスキルで鑑定すると、青ざめる。




「アルカンジェロさま。その粥の中に、毒が入っております」

「何だって? ルーチェ? 大丈夫? 料理人の皆はそんなことしない。ウリッセは僕についてくれている。一体誰が……」

「アルカンジェロさま。少しお待ち下さい。調べて参ります」

「待って。ウリッセ。今騒げば、犯人は逃げる。だからこの粥は密かに処分しよう。次の離乳食の時に起きたら、調べよう」

「はい、分かりました」




 ウリッセは頷く。




「まずは、師匠に診て貰わないと。お母様は心配するから、お父様にだけでも……」

「かしこまりました」




 ウリッセは下がり、しばらくして、エマヌエーレが姿を見せる。

 クスクスと笑いながら、




「これはたいそうなドレスですなぁ」

「伯母上……女王陛下から頂いたのです。私の部屋には、ルーチェのクローゼットまであります」

「あの方は変わっておりませんなぁ」




豪快に笑うエマヌエーレは、まだ余り歩けないルーチェを抱き上げ、




「おやおや、瞳の色がはっきりしてきましたな。片方の瞳はルビーでしたが、もう一つはブルーサファイアのよう。わしの息子がもう少ししたら会わせて貰えないかと言っておりましたよ」

「イラーリオ叔父上と、シルヴァーナ叔母上がですか?」

「そうですよ。女王陛下がアルコバレーノさまの生まれ変わりだと言う、このちびちゃんに会いたいそうです」

「はい、叔父上や叔母上にお会いしたいです。マリカとミーナも、きっとエラルドとフルヴィラと遊べて楽しみでしょう」


双子と同じ歳のマリカと、その一つ下のミーナは双子と仲良しである。


 エマヌエーレはルーチェの口を開けたり、診察する。

 その横で、



「あの、師匠。ルーチェが離乳食のミルク粥を一口食べた後、これを吐き出したんです。これはどう言う……」




ウリッセがハンカチで包んだものを差し出す。

 ルーチェをベッドに戻し、丸い錠剤にしか見えないそれをじっと見て、鼻で臭ったり、摘んだりする。




「毒だけ吐き出したんですな。その後の調子は崩しておりませんね?」

「はい。携帯用のミルクとお湯がありますので、ミルクを作って飲ませました」

「あぁ、だからお腹が満腹で、よく寝ているのですね」

「太り過ぎですか?」

「いえいえ、痩せすぎではありませんが、小さい方ですね。でも無理に与えてもお腹を壊したり、拒絶するでしょうから、今の量から一気に増やさず、欲しい時に与えて下さい。それに、犯人が分かっておりませんので、まだ離乳食ではなくミルクを与えて下さい」




 ルーチェはすぴーすぴーと眠っている。




「この毒は私が調べましょう。では、アルカンジェロ」




 エマヌエーレは、嫁の甥の頭を撫でる。




「お前は私の弟子ではあるけれど、孫同然なのだよ。祖父の一人だと思って気軽に相談においで」

「……はい、し……エマヌエーレお祖父様」

「今回はルーチェだったが、ルーチェだけじゃなくアルカンジェロ、お前も命を狙われているのだと自覚しなさい」

「……はい」




 7歳だが、大人びた眼差しをするアルカンジェロの頭を撫でる。


 プーカと言う予言の妖精に、虹の女神とその夫の精霊王の祝福を受け生まれたアルカンジェロは今までに何度も命の危険があった。

 その為に父のドミツィアーノは姉や妹夫婦に頼み、護衛や身を守る術を教えてくれる騎士を聞き、そして五年前にエマヌエーレに勉学を学ばせたいと頭を下げた。


 最初エマヌエーレは自分の孫と歳の変わらないアルカンジェロに、自分の智識を教えるのを良い顔はしなかった。

 しかし、一度会って欲しいと言われ会う事になったが、あの子の普段を見て下さいと言うドミツィアーノの頼みで来ることを本人には伝えなかった。

 アンナマリアは、微笑む。




「お久しぶりでございます」

「元気そうだね。君の弟も頑張っているようだ」

「はい。エマヌエーレさまのお陰でございます」

「いやいや、そう言えば、アルカンジェロは元気かな?」

「はい。ですが、図書室で何かを見つけたのか、部屋で始めたのですわ」




 アンナマリアは頬に手を当てて不思議そうにする。




「何をかな?」

「私は無知ですから分からないのですが、『論理学論』と言う本を現在、熱心に読んでいますの。『帰納論理学』『演繹論理学 (形式論理学)』 『様相論理学』と書いてありましたわ。旦那さまに反故ほご紙を頂いて、文字も書いておりますの。それに、まだ2歳ですが、計算もできますわ。口数は少ないですが、旦那さまが女王陛下や、イラーリオさまとお話ししているのを膝の上で聞いていると、後でそれを反故紙に書きつけ、自分の意見を書いて旦那さまに……」

「『論理学』?」

「それに、何か思いついたのか計算式を……」

「それはそれは……」




 ドミツィアーノもかなり賢い子で、先代に頼まれて学問を教えたものだが、その子も父譲りらしい。


と、父親並みの子だろうと思っていたのだが、机はないので、ベッドの下に溜め込んでいた反故紙を出してきた2歳児が、数々の定理や論理を知っており、好奇心旺盛で知識を欲していたのを見て、エマヌエーレは最年少の弟子を迎えたのだった。

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