行方不明
あれから数時間、智希と翔子は愛実の帰りを待っていたが、結局愛実は戻ってこなかった。
翌日になり、翔子は愛実の家族に相談し事務所にも事情を話して、そのまま警察へ捜索願を提出した。
その流れで、事務所はマスコミに愛実の失踪を公表した。
愛実失踪のニュースが流れるやいなや、人気女優の失踪事件ということでTVやネットは連日のように大騒ぎ。
翔子や事務所は愛実が受けていた仕事の穴埋めやスポンサー企業への説明や問い合わせの対応に追われた。
この騒動でとんでもない被害を受けたのは、尻ぬぐいをする事務所だけではなかった。
一人は、愛実の母親。
事件の真相を知ろうとしたマスコミややじうま、中には事件に便乗して有名になろうとしているたちの悪い連中が連日実家に押し掛け、昼夜問わずにインターフォンを鳴らしたり家の固定電話や携帯電話にかけてくるというのが延々と続いたからだ。
あまりのひどさに親族が警察に相談しそういう連中は減っていったが、愛実の母親は心身ともに疲れ果て不眠や食欲不振といった精神的なストレスからくる症状が出てきてしまい、現在は専門家からカウンセリングを受けている。
そして被害者はもう一人いた。
智希だ。
警察に捜索願を出した際に、最後に愛実と一緒にいて彼女のスマホや財布といった私物が残されていたということで智希が事情聴取を受けたのだ。
その内容がマスコミに漏れてしまい、二人の仲はもちろんバレた。
それを機に、愛実がいなくなったことへの怒りをぶつけるファンや面白半分で事件を見ている人間が智希に攻撃を始めた。
「首をしめてそのまま海に捨てた」とか「闇社会に売り飛ばした」といった彼を犯人扱いしたり「別れ話からリベンジポルノをちらつかせた」「他の女優と二股していた」などという彼の名誉を大きく傷つける真意不明の内容が週刊誌やネットを席巻した。
あまりにもひどい内容は法的措置にも乗り出したが、こういったうわさが広まり結果彼の人気は急落してしまった。