それぞれの点と線
あれから数年が経った。
あの時の事故で記憶喪失になった女性は今は「青山佳代子」としての生活を送っていた。
今日は、精神科医の八田の診察を受ける日だ。
「青山さん久しぶりだね。元気だった?」
「もちろん!先生に会えて嬉しいよ!」
佳代子は八田に近況報告をするのが楽しみなのだ。
施設での静養を終えてから、とある会社で長年働いており、そこで知り合った男性と結婚することになったと八田に話した。
「そうなのか。おめでとう!」
八田も自分のことのように喜んだ。
「ところで、今も相変わらずあの夢を見てるのか?」
「そうだね。本当に忘れたころにだけど」
八田の言うあの夢とは、佳代子が記憶喪失直後によく見た「キラキラした場所にいる」「いろんな人を幸せにしている」という内容だ。
「でも今はそんなに気にしてないんだ。だって今が大切だから」
「そうか」
佳代子の診察を終えた八田は、事故直後の佳代子の主治医とバッタリ会って話をした。
「彼女はどんな感じだったのか?」
「とにかく今が楽しいみたいだよ。記憶を失くす前のことはどうでもいいみたいだ」
「じゃあ記憶を戻すことはないということか」
「そうだろうね。他でもない彼女がその道を選んだんだから」
優香は今でも「赤川愛実」として芸能活動しており、今でもドラマや映画に引っ張りだこで推しも押されぬトップ女優だ。
そして、人気俳優と結婚前提で交際もしており、まさに公私ともに絶好調だ。
さらに、時折愛実のことを思い出すが、今では自分が愛実だという自信もつけていた。
マネージャーの翔子は、愛実をスターにしたことを評価され、事務所内ではチーフマネージャー兼副社長になっている。
愛実の元恋人の智希は、出所後「あの人は今」的な番組に出たり、YouTuberになったりとマイペースな活動をしている。
一つの事件が引き金でいろんなことが起きたが、それぞれがそれぞれの点と線を見つけて生きていっている。
そしてそれがいつか何らかの形で交わる日がやがて来るのかもしれない。
ある夜、優香のスマホにメッセージが届いた。
「いつまでなりすますつもりなの?」
優香の心は凍りついてしまった。




