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別の当事者たち

優香が愛実になりすまして数週間、社長の指示でカウンセリングを受けたり、それまでお世話になっていたスポンサー等に挨拶をしたり、マスコミやファン向けにコメントを出すなど休業への準備をしていた。


そんなある日、マネージャーの翔子が愛実のスマホと財布を返してきた。

警察が一通り調べて返却してきたのを、翔子が預かっていたのだ。


「愛実、用もないのにスマホを開かない方がいいわよ」

翔子の発言に対して疑問を投げ掛けると、愛実の恋人だった智希がしょっちゅうイタ電や意味不明のLINEを送ってくるので、電源を切っていたとのこと。

さらに、現在智希は愛実の失踪がきっかけで人気が急落し、自暴自棄になり昔の悪い仲間とつるんでいるとまで話してくれた。

「そこまで落ちぶれているから何をするのかわからないからね。関わらないようにね」


優香は事務所が準備したマンションに今住んでいる。

愛実が失踪前に住んでいたマンションは智希がやってくるかもしれないからということで引き払い、別のマンションを見つけたのだ。


優香が自宅でスマホを開き、LINEを確認したら智希からのメッセージが山ほど届いていた。

最初のころは「大丈夫?」「どこにいるの?」とか彼女を心配する内容だったが次第に、「もう辛い」「苦しい」という後ろ向きな内容が増えてきていた。

着信履歴を確認しても、かなりの回数かけており中には一日30件以上かけている日もあった。


そうしているとLINEが届いた。

智希だ。

「今頃のうのうと暮らしているんだろうな」

「もう俺には何もない。全てお前のせいだ」という物騒なメッセージが送られてきた。

背筋が凍ったと同時に今度は着信があった。

既読がついたので、読んだとわかったのであろう。

恐怖を感じたので、そのまま電源を切った。


数日後、智希が薬物使用容疑で捕まったとニュースに流れた。

優香は事務所に相談し、例のメッセージの件も警察に届け出た。


後日、翔子がこう話しかけてきた。

「ねぇ愛実、お母さんに連絡したの?」

突然の質問に優香は「していない。なんて言っていいかわからないし…」

「お母さん、すごく心配してるのよ。私もついていってあげるから会いに行きましょう」

そう言って、翔子は愛実の母親に連絡をとったが、繋がらなかったので親族に連絡をした。

しばらくすると、翔子が「これから向かいましょう」と強引に連れていった。


向かった場所は愛実の母親の妹の自宅だった。

つまり愛実の叔母にあたる人なのだが、バレないように「ご迷惑おかけしてすみませんでした」と当たり障りのない挨拶をしておいた。

なんだか重苦しい空気の中、叔母は「姉は自ら命をたちました」と口を開いた。

叔母の話によると、愛実の失踪後マスコミなどが母親に必要以上につきまとい、結果精神を病んでしまったとのこと。

あまりのことに何も言えなかった。


優香たちが黙っていると、叔母はさっとある封筒を差し出した。

どうやら母親が残していた遺書らしい。


内容を確認すると

「愛実、今はどこにいるのかな?もしかするともういないのかもね。ならお母さんもそこに向かうね」

母親は命をたつと愛実に会えると思ったようだ。


この遺書を読んで、優香は涙が止まらなかった。

母親の愛実への愛情、愛実に会えないことへの無念、そして軽々しく愛実になりすましたことなどさまざまな感情がめぐっていた。


でももう引き返せない。

愛実として生きていくのが贖罪でもあるのかもと言い聞かせていた。





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