似てる人間
話は愛実が失踪する約一年前にさかのぼる
この日愛実はとあるロケで地方にいた。
撮影に数日かかるということで、近くのホテルをとっていた。
目の前にオーシャンビューが広がる素晴らしいロケーションで観光客に人気が高い。
チェックインをし、部屋に荷物を持っていってくれる女性従業員を見て、翔子はこう声をあげた。
「ねぇ、彼女ってちょっと愛実に似ていない?」
「あっ!本当ですね!」と周囲のスタッフものって、愛実本人も「確かに、言われてみると」と笑みを浮かべた。
相手の女性従業員も「ありがとうございます。そう言われるなんて光栄です」と笑顔で答えた。
その女性従業員、前田優香という女性は確かに顔は愛実によく似ているのだか、人生は愛実とは全く逆の道を歩んでいた。
優香の両親は彼女への虐待事件で刑務所に入ってしまったので、物心ついたころには養護施設に入っており両親に対する記憶もほとんどない。
そのため優香には家族や親戚というつながりのある人間も皆無なのだ。
高校卒業を機に施設を出て、このホテルで住み込みで働き出した。
仕事は大変だがお客さんにも人気があり、優香ははじめて自分の居場所を見つけたのだ。
だが内心では、自分を捨てた両親に対する憎しみや普通の家庭で育たなかったという後ろめたさを捨てきれずにいた。
愛実本人と会ってしかも似てると言われたとき、表面上では笑顔でかわしていたが、実際には「なぜ似てるのにあの子は華やかな世界にいて、私はこんな辛い人生を…」という嫉妬心にかられていた。
数日後、仕事中にいきなり愛実に声をかけられた。
「実はもう帰るんです。まさか自分に似てる人に会えるなんて思わなかった。大変だろうけどお仕事頑張ってください」
愛実の思わぬ優しさで、嫉妬心はほとんどなくなった。
「芸能人なのに飾らない人だな、私も頑張ろう」
そんな前向きな気持ちになれた。
ある日、ロビーで仕事をしていたらTVのニュースで驚きのニュースが流れた。
愛実が失踪したとのことだ。
お客さんや従業員もその話題で盛り上がっていた。
「赤川愛実って去年うちのホテルに泊まったよね」
「そうそう。そんな人がどうしちゃったんだろうね」
優香もネットでニュースをチェックしていき、愛実のことが気になってしまった。
愛実が失踪し約一ヶ月経ったころ、事務所の電話が鳴り響いた。