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社会不適合者が凄腕のバリスタになっていた件  作者: エスティ
第4章 有名バリスタ編
99/500

99杯目「名声と改革」

 自らの行いにより、最も出たかった大会に出られなくなった。


 まさに人を呪わば穴二つ。身内だけじゃなく、遂に僕にまで厄災が降りかかってきたのだと思った。もう仕返しをするのはよそう。本当は争いなんてしたくない。


 憎しみが憎しみを生む――負の連鎖にハマってしまうような気がした。


 最終的にはこの店が潰される事態が容易に予測できた。


 そうなれば悲しむ人の範囲が国内のみに留まらなくなるだろう。


「あず君?」

「……!」


 唯が寝室に入ってくる。予測していなかった僕は涙目のまま、唯の顔を見てしまった。


「あず君っ!」

「えっ――」


 咄嗟に僕を後ろから抱きしめてくる。頭の後ろからは唯が啜り泣きする声が聞こえてくる。この暖かい抱擁には心を浄化されたような気がした。さっきまで抱いていた憎しみが段々と癒えていく。


 もう争わないでくれと……言われているような気がした。仕返しなんてすれば、また彼女を悲しませることになる。もう仕返しはしないと心に決めた。


 唯は僕がバリスタオリンピックをずっと楽しみにしていたことを知っていた。


 僕がそのために準備を進めていたことも……。


「何で唯が泣くんだよ?」

「そりゃ悲しいですよ。私はあず君がバリスタオリンピックのために、慣れないコーヒーカクテルを毎日のように飲んで、ずっと新しいメニューを考えて作り続けていたことも、コーヒーと相性の良いお菓子のメニューを優子さんに聞きに行っていたことも、知らないと思ってたんですか?」


 唯……そこまで見てたのか。


 彼女はしばらくの間、僕を離そうとしなかった。そればかりか、僕が落ち着くまでずっと抱きしめたまま時間だけが過ぎていく。既に空きっぱなしの扉を璃子が人差し指の関節でコンコンと鳴らした。


 僕も唯も沈黙を守ることをやめ、扉の近くに立つ璃子に注意を向ける。


「あのさー、今人数足りないから、休憩終わってくれない?」

「あー、すぐ行く」


 璃子が忠告を済ませると、のっそりと階段を下りていく。


 それはまるで……こっちの事情が分かっているようだった。


「あっ……ごめんなさい」

「いいんだ。今回は残念だったけど、また次がある。それにさ、選考会はともかく、本選で勝ち抜けるかどうかは、正直怪しかったと思う」

「どうしてですか?」

「コーヒーカクテルを作ってからまだ日が浅い。仮に今の状態で選考会をクリアしたとしても、来年の本戦で結果を残せるかどうかは分からない。法人化のためにずっとドタバタしてたし、あまり準備もできてなかった。でもこれで法人化と店の移転に集中できる。運が良かった」

「……いつものあず君に戻りましたね」


 唯は発想の転換にホッと胸を撫で下ろした。


 その後、美月がこの事態を告発する文書をネット上に公開し、協会の人の一部が僕を選考会に参加させないようにするための工作であることが多くの人に知れ渡った。真白会長を含む協会の幹部たちが責任を取る形で協会から去った。今度は穂岐山社長が繰り上がりという形で、ジャパンスペシャルティコーヒー協会の会長として就任したのである。


 虎沢グループはこれを機に、事業規模が縮小していった。


 至極当然である。自分の子供さえ躾けられないような連中の事業が長く持つはずがない。これで尚更仕返しの必要がなくなった。僕と虎沢グループの不毛な戦いは、一応の決着がついたのである。


 店が成功したら法人成りすることは昔から決まっていたのだが、5年も続けばもう大丈夫だろうと確信が持てた。営業に慣れていなかった未成年の内は会社でやるデメリットの方が大きかったが、成人して経営に慣れた状態であれば、会社でもうまくいくと思っていた。


 元々僕の個人事業は、親と親戚の出資で作ったものであるため、親の言うことは聞かなければならなかった。だが自分の出資で法人成りした場合、完全に自分の会社になったと言っていい。つまり自分の稼ぎだけで法人成りすることで、親から独立できたことを証明できるわけだ。


 自分のチャンネルとSNSからは度々自分の情報を発信していた。


 動画の個人チャンネルはラジオ以外英語で、ブログは完全に英語で、某呟きサイトは日本語と英語を使い分けている。積極的に使っているのは某世界的な動画サイトである。


 11月を迎え、マイページに葉月珈琲の店舗引っ越しの情報を載せた。店を引っ越しして、より広いカフェにしてから店を再びオープンすることを公表した。外国人観光客がたくさんコーヒーを飲みに来てくれたお陰で生活もできるし、店のランクアップもできた。


 1杯のコーヒーでここまでのことができるなんて、思ってもいなかった。


 コーヒーは僕の未来を良い方向へと変えてくれた。コーヒーに恩返しをしなければと考えた。店舗の引っ越しの話はすぐみんなに伝わった。


 すると、引っ越す前の店に行っておきたいと思ったのか、今まで以上の行列ができていた。


 今年はこれ以上大会とかはなかったため、店の方に専念することができた。


 ある日のこと、営業時間が終わった頃に美羽がやってくる。


「あの、もう閉店時間過ぎてるんですけど……」


 柚子が少し困った顔で美羽を帰らせようとする。


「今日は客として来たわけじゃないから大丈夫。あず君、久しぶり。今日ここに泊まらせてほしいの。積もる話もあるからさ、いいでしょ?」

「別にいいけど」


 美羽は度々うちに泊まりに来ていた。昔は僕が美羽の家に泊まりに行っていたこともあり、お互い様となっていた。彼女は1ヵ月前の騒動の時も僕の味方であり、頼もしい存在となっている。


「美羽さんって、あず君と仲良いんですね」

「うん、ずっと前まで仮交際してたから」

「えっ、今してないってことは、別れたの?」

「最初からただの知り合いだ」

「あたしはまだ……あず君のこと、諦めてないから」

「余程好きなんですね」

「こんなに面白くてワクワクする人、他にいないもん」

「あず君モテモテだねー」

「すぐに飽きるって……」


 リサと美羽は最初に会った時から意気投合していたのか、お互いにメールを交わす仲だ。僕は人と仲良くする才能はない。何をどうやったら人間関係がうまくいくのか、ずっと分からないままだ。


「この前発達障害の子供がテレビに出てたんですけど、その子がもうあず君にそっくりで、もしかしたらあず君も発達障害なのかなって思ったんですよね」

「あっ、それあたしも見たー。あの子、所々あず君に似てるよねー。偏屈で拘りが強くて、周りと全然馴染めない子って割といるんだねー」

「私も見ましたけど、私はああいう特集はちょっと受け入れ難いですねー」

「どうして?」

「私、障害って言葉嫌いなんで、せめて別の名前で形容してほしかったなって思ってます。私から見ればただのやんちゃな子供ですから」


 唯が僕の思ったことを代弁するように意見を述べた。


 僕以外にこっち側の人間のことを考えられるのが……彼女だけとは。


「――つまり、名前が悪いってこと?」

「そうですね。『障害』じゃなくて……例えば『自由人』とか、こういう前向きな名前だったら、幾分か受け入れやすくなると思いません?」

「あー、確かに」

「何でもそうですけど、ちょっと人と違うってだけで、障害と決めつけるのは良くないと思うんです。それが回り回って自分たちの首を絞めることになると思うので」


 ここは完全に同感だ。唯は僕の特徴から心境までを冷静に分析していた。というか僕が見てきたあの連中に至っては、障害とかそれ以前の問題だった。見るべき箇所が違う。


「唯ちゃんって、なんか変わったね」

「えっ、そうですか?」

「いつもだったらこういう時黙って聞いてたのに、誰かさんの影響かな?」


 柚子が笑みを浮かべながら僕の顔をチラッと見る。


 僕の影響だけじゃなく、元々思っていたことを口に出すようになっただけだと思うが、唯がそうなったのはラジオの影響だろう。もし今でもどこかの集団に属していたら、何かしら診断を受けていたことは間違いない。だが集団と関わらなければ、日常生活に支障をきたすことはない。


 故に、病院で診断を受ける必要はない。


 リサと柚子が帰った後、美羽はうちで夕食を取った。


 美羽は穂岐山珈琲に就職した後、すぐに会社の専属バリスタとなり、瞬く間に育成部の人気者になったらしい。来年からはJBC(ジェイビーシー)にも出る予定だ。


 彼女は注文したコーヒーカクテルを飲んだ途端に語り始めた。


 美羽はほろ酔い状態になると僕に絡んでくる。もう何度目だろうか。


「あたしね、職場で結構連絡先聞かれるの」

「美羽はモテるんだな」

「でもあたしに言い寄ってくる男ときたら、体目当ての人とか、何の取り柄もなくて面白みのない人ばっかりだったの。欲しいものはみんな手に入れてきたけど……本当に好きな人の心だけ……どうしても手に入らないんだよねぇ~」

「僕が体目当てだったらどうすんの?」

「あず君なら構わないよ。一緒に寝た時に何もしなかったじゃん」

「興味なかっただけなんだけどな」

「あからさまにそう言われると傷つくんだけど……でも……あたしはそういう……とことんぶれないあず君のことが……すっごく気に入ったの」


 僕だってぶれる時はある。今でこそバリスタやってるけど、シェフ、パティシエ、ファッションデザイナーになりたいと思ったことがあった。調理や裁縫をこなせるのも、このぶれがあったからだ。でも何かを自分の意思でやる時は、常に全力を尽くすところだけはぶれなかった。結果的に興味を持った分野のスキルは全部習得できたし、これらのスキルはバリスタになった時にも存分に活かされた。


 法人化したら、制服のレパートリーを増やそうと思っている。そう思えるのも、ファッションに興味を持って、色んな服を見てきたからこそだ。サイドメニューも料理のスキルが活きたからこそ、カフェよりレストランの方が良いんじゃないかと言われるほど、美味いメニューを提供することができた。


 美羽の話にしばらくつき合った後、璃子が修行から帰ってくる。美羽はすっかり顔を赤くして顎をカウンターテーブルに密着させて酔い潰れていた。


 酒に弱いくせに、アイリッシュコーヒーを何杯も注文するからだ。


 彼女を外の風に当たらせて酔いを醒まさせると、ようやく風呂に入らせることができた。


 ――はぁ~、疲れたぁ~。もし毎日夜までの営業だったら、ここまで店を続けることはできなかったんだろう。やっぱ営業時間は6時間が限界だ。体力に見合った仕事をしないと。


「ふーん、そんなことがあったんだ。だからあず君の家に住んでるんだね」

「はい。私に希望を与えてくれたあず君には感謝しかないです」


 唯は美羽に今までのことを包み隠さず話した。


 寝室には、僕、璃子、唯、美羽の4人が全員パジャマ姿で布団の上に座っている。僕はいつものように部屋の端に自分用の布団を敷いて陣取っていた。


「唯ちゃんって、いつ頃からそんなに親しくなったの?」

「あず君が右手小指の骨を折られた時からですね。あの時は居ても立っても居られませんでした。あず君が珍しく暴走していたので、止めるのが大変でしたけど――」

「まさか昔のいじめっ子が店にやってくるなんてねー。あれじゃ日本人規制法は当分そのままか。あの一件と今回の騒動で、もう誰もあず君の方針に文句を言えなくなっちゃったの。このままずっとあず君が他の日本人たちと仲良くできないままの状態が続いたらさー、みんな一生あず君の淹れたコーヒーを飲めないまま死んでいくのかな?」


 ――それを言われると弱い。


 だがあいつらに何の罪もないと言えば嘘になる。あいつらは少数派が一方的な弾圧を受けるような社会を作り、それを放置した連中であるという事実に変わりはない。本当はこんなことしなくないという気持ちと、あいつらを受け入れられない気持ちが、いつも僕の脳内でぶつかり合っている。


 まずは見ただけで症状が出てしまう問題を何とかしないと……。


 やっとマシになったと思っても、何度も同じ記憶をなぞっては、憎しみや恐怖心が復活する。もはや治療の施しようがないと言わんばかりに。何度か店の外から羨ましそうな顔で店内を見ている日本人の姿を思い出す。あの内の何割かは僕を恨んだだろう。だがそれはお門違いだ。あいつらが憎むべき相手は僕ではなく、僕にあいつらを拒否するように仕向けた日本社会である。


 しかもインターネット上では僕のファンとアンチが叩き合いをしているそうじゃないか。


 やはり憎しみからは憎しみしか生まれないのか。


「確かにそれは勿体なさすぎる気がしますねー」

「葉月珈琲の味は、あず君のコーヒーを飲んでから死ねっていう諺くらい美味しいもんねー。でもあず君のコーヒーを飲んだら、ここまで美味しいコーヒーは淹れられないと思って、トップバリスタを諦める人も出てきそうで怖いんだよねー」


 そんなふざけた諺ねえよ。今自分で作っただろ。


「信念が足りないだけだと思います。私はあず君のコーヒーを飲んでトップバリスタを目指そうと思いましたから。世界一を目指すなら、あず君を超えるくらいのつもりでいないと」


 良い度胸だ。唯がトップバリスタになったら、強力なライバルになっていることを期待しよう。僕のコーヒーを飲んできた唯のことだ、かなり研究されているだろう。


 時刻は午前0時を過ぎていた。寝ようと思ったが、電気を消したところで、花柄のパジャマ姿になっている美羽が僕の布団に侵入してくる。美羽はすっかり酔いが醒めていた。また抱き枕にされながら寝ることに。女とつき合うことになったら、毎日胸を押しつけられながら抱き枕にされるのだろうか。


 すると、美羽に負けじと、唯もまた、美羽の反対方向から僕の布団に入ってくる。


 狭い……でも寒い冬には丁度良い温かさだ。


 僕は布団の中で、2人のダブルメロンに挟まれながら熟睡するのだった――。


 それにしても、僕も璃子も唯も全員中卒なんだな。うちの中卒率の高さよ。


 スタッフはバリスタとシェフが2人ずついて既に間に合っている。後はパティシエ担当のみ。今のところは璃子しかいないし、優子が入ってくれるのは幸いだった。もし断られていたら、最悪誰かを璃子のお手伝いにして、次の採用までの繋ぎにしていただろう。僕としてはただの飲食店ではなく、才能ある者をここで育て上げ、一流の職人として旅立ってもらうための職人養成所を兼ねたカフェにしたい。


 ただの職人では駄目だ。どうせやるなら世界に通用する職人をうちから輩出できるようにしたいと思ったのだ。何かで一流を究めれば、その後は僕の支援がなくても生きていける。


 食っていくのに困ってる人を助けたいのであれば、お金をあげるのではなく、お金の稼ぎ方を教えるべきなのだ。雇う人は当分身内だけになりそうだが、資格も学歴も問わない。求めるのは職人としての才能だけだ。そんなことを考えながら、残り少ないこの年を過ごしていった――。


 ある日のこと、久しぶりに鈴鹿が葉月珈琲へとやってくる。


 年を追う毎に美貌に磨きがかかっていた。黒を基調とした高そうな服に身を包み、いつも通りのシニヨンヘアーを手で整え、カウンター席に座りコートを脱ぐ。


「あず君、指はもう大丈夫?」


 鈴鹿がいきなり聞いてきたのには訳がある。ピアニストにとって、指は命と同じである。彼女にとって右手小指の骨折は、バリスタ競技会で優勝を重ねることよりもずっと大きな関心事なのだ。


「とっくに完治したぞ。ほらっ」


 余裕の顔で言いながら全ての指を満足に動かしてみせる。


「以前も指を折られたことがあるって聞いてはいたけど、あず君って本当に迫害受けてたんだね」

「これが親指とかだったら、マジで日常生活に支障をきたしてたから、運が良かった」

「でもピアノの動画はずっと続けてたね」

「スローペースだったら小指を使わなくても弾けると思って、指が完治するまではずっとスローペースのピアノ動画を投稿してた。いつものスピードだったら、小指がないとできないと思って試したけど、これが意外にウケた。小指に包帯を巻いた状態で動画にしてたから治療に専念してとか言われたけど、全然やってない時期が続いたら、後でリハビリが大変だからな」

「あー、それ分かる。私もずっとピアノを弾いてない時期が続いて、後でリハビリしてた。でも指が完治したなら心配はいらないね」


 まるでホッとしたような笑みがこぼれた。本気で心配していたようだ。これ以上彼女に心配をさせないためにも、今後は無用な争いは避けることにしよう。僕はこの年以降、やられた時に怒りに任せてやり返す方針からは足を洗うこととなった。きっとこれが大人になることなのだ。


 この体は僕1人だけのものじゃない。その事実だけが重りの如く、ズシッと心に伸し掛かるのだ。


「鈴鹿、ずっと心配させてごめん。次からは気をつけるから」

「ふふっ、素直でよろしい」

「あのピアノはまだ置いてあるかな?」

「もちろん。あれからずっと……私の店であず君のことを首を長くして待ち続けてるよ。私くらいになるとね、()()()があず君に愛情を持ってることまで分かっちゃうの。いつになったら私を貰ってくれるのかなって。ふふっ」

「もはや呪いだな」

「愛情も呪いも、本質は同じ。あず君なら分かるでしょ」

「分かりたくなかった」


 僕は静かにそっぽを向いた。コーヒーに対する愛情までもが呪いだと言われているみたいで、彼女と正面から向き合える気がしなかった。鈴鹿がゲイシャのエスプレッソを注文すると、僕はさっきのことを忘れようとすぐに淹れ始めた。鈴鹿が飲むのは初めてだ。以前来た時はいずれも売り切れだった。


「――ふーん、これが1杯1000円のゲイシャエスプレッソねー」

「日本だと、まだうちでしか発売してない代物だ」

「! 美味しい。これ本当にコーヒーなの?」


 鈴鹿が思わず目を大きく見開く。不覚にも可愛いと思ってしまった。


 柑橘系のアロマ、濃厚なフルーティさが際立つ深みのある味わいであると認識する。


「僕も最初に飲んだ時はそんな目をしてた」

「世界一のバリスタが、世界一の豆でコーヒーを淹れたら――こんなに美味しくなるんだ。今思うと、あず君にピアニストの道を勧めたのは間違ってたもしれない。だってあず君が他の道に進んでいたら、こんなに美味しいコーヒーは飲めなかった」


 やっと信念が伝わったようだ。


「あのさ、ここよりもっと広い場所を確保できたから、来年はあのピアノ、買えると思うぞ」

「……それ本当なの?」

「うん。実を言うと、来年からここにパティシエとして来てくれる人が、本格的な設備を用意できるほど広い店じゃないと嫌だって言い出したのがきっかけでな」

「その人に感謝しないとね。ふふっ」


 鈴鹿はようやくグランドピアノが引き渡せることを喜んだ。彼女の夢の1つがようやく叶う。同時に僕の完全独立の夢も叶った。この場所もどちらかと言えば気に入っている方ではあるが、ずっとこのままというわけにもいかなかった。現状維持は衰退するだけである。


 コーヒー業界の地位を上げるなら、まずは自分の店のブランド化を目指そう。


 鈴鹿は満足した顔のまま会計を済ませ、外の町へと消えていった。

気に入っていただければ、

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