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社会不適合者が凄腕のバリスタになっていた件  作者: エスティ
第4章 有名バリスタ編
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98杯目「溢れ出た厄災」

 バリスタオリンピック選考会まであと2ヵ月。


 ルールブックに書かれている全ての項目をチェックしていた。


 ルールは本戦と同じだが、参加人数はそこまで多くないことが予測されるため、1日あれば終わるだろうと考えていた。そんな時に真由からメールで誘われた。千葉まで遊びに来てほしいとのこと。真由の家には度々遊びに行くようになっていた。国内予選が関東で行われる場合は真由の家に泊まりに行くことになっている。関西での国内予選の時は拓也の家に泊まりに行っていたが、国内予選をする上で2人の家が宿泊先になっていたことは大きい。大会は早朝から行われることが多い上に、移動で体力を減らした状態で参加したら負けると思っていたため、大会前日は必ず会場の近くに泊まる必要があった。


 バリスタオリンピックの選考会でも真由の家に訪れる予定である。真由は受験勉強の期間中であり、遊びに行ってもいいのかと心配になる。受験の邪魔にならない程度に話そうと思いながら真由の家まで遊びに行った。土曜日の夜、ようやく彼の家に辿り着いた。


「あっ、いらっしゃい。さっ、入って」

「今って受験勉強の時期じゃなかったっけ?」

「うん。でもずっと受験勉強ばっかりだとストレス溜まるし、たまには遊ぼうと思ってさ。あず君もずっと根を詰めてるってラジオで言ってたから、ちょっと心配になっちゃって」


 真由は僕が心配だった。起業家は忙しいのだ。休みの日を自分で選べるが、僕には休んでリラックスするという発想がない。むしろバリスタの仕事をしている時が最もリラックスするのだ。


「実はさ、あず君に進路相談をしようと思って、それで遊びに来てもらったの」


 あぁ~、そっちが本命かぁ~。


 たまには誰かと遊ぶのも悪くない。どちらかと言えば拓也と会う機会の方が多いために、真由は他の人に僕を取られた気分になってしまったらしい。


「今高3なんだけど、大学に行くかどうかで迷っててさ、受験のシーズンになったら自然に決まるものだと思ってたけど、いざそうなってみても、全然決まらないというか」

「決断ができないってことは、まだ追い詰められてないってことだ。人は追い詰められれば、大半のことはがむしゃらにでもやってのけるし、真由にはまだ余裕がある。ていうか大学行きたいの?」

「そこまで行きたい気はないかな」

「他にやりたいことは?」

「ブロガーとかやってみたいんだけど、知ってる?」

「知ってる。確か記事を書いて広告収入で稼ぐ仕事だろ?」

「うん。まあ僕の場合は稼ぐ目的じゃなくて、色んなテーマパークの宣伝記事とか、レポート記事とかを書きたくてブログを始めたんだけど、これがもう楽しくってさ、しかもそれで稼げるんなら、これでいいんじゃないかなって思ってる」


 ――答え出てんじゃん。僕がここに来る意味あったか?


 この頃、アフィリエイトで稼ぐ生き方が注目されていた時期である。


 更に詳細を聞いてみると、真由は親に言われた通り、大学まで行って就職するか、自分の好きなように生きるかどうかで迷っているらしい。真由は人と関わる仕事が苦手だったわけじゃないが、ブログを通して某夢の国を始めとしたテーマパークの魅力を伝えるのが楽しいんだとか。


 僕だったらとっとと高校なんか退学して、好きなことに没頭していたと思う。けど真由は僕と違って社会性の概念がある。親からの大学行きの勧めを断ろうかどうかで迷っていたのだ。


 僕に言わせりゃ、迷う意味が全く分からないが。


「大学に通いながらブロガーやるのってありかな?」

「僕は大学行ったことないから分からないけど、大学って確か最初の2年はずっと単位を取るために授業ばかりの日々になるって聞いたことがあって、それでもブロガーと両立できるならありだと思うぞ」

「大学に行くなとは言わないんだね」

「真由が決めることだろ。悔いのない道を行けばいいんだ。でもこれだけは忘れないでくれ」

「どんなこと?」


 真由はテーブルを挟んだ向かい側のソファーから僕を見つめた。


「何者にもなれないのは死んでいるのと同じだ。僕はそういう連中を山ほど見てきた。真由にはそうなってほしくないんだ。あいつらはみんな何がしたいのか分からないまま迷走して、どこか悔しそうな顔をしてた。本当は自分も活躍したい。でもどうやって活躍すればいいのかが分からないと思ってるような顔だ。あの連中を見ていてよく分かった。人間にとって最大の不幸は……燃焼できないことだってな」

「――燃焼……か」

「だからさ、どんな道を選ぶのかは自由だけど、生きる時も死ぬ時も悔いなく過ごしてほしい。そのために必要なのは、心底からやりたいことに耳を傾けることだ。何でもいいんだ。新しくできた店が気になるから行ってみるとか」

「……分かった」

「どうするか決まったか?」

「僕、大学に行く。卒業するまでに自分で稼げるブロガーになる。できなくても続けるし、学生って大人になったらもう経験できないからさ、だから全部経験した上で決める」


 実に真由らしい判断だ。まあ、これはこれでありかな。


 力強くも優しく、自信に満ちた真由の笑顔には安堵さえ覚えた。誰かに物を教えることはできない。自ら気づく手伝いができるだけだが、真由は自力で進路を見出せたようだ。


 結局、真由は進学を決断し、大学を卒業するまでにブログを究めることとなった。


 僕なら大学は行かない。モラトリアムを延長しても何も良いことはないし、時間と学費を浪費するだけで終わることが多いと聞いた。やっぱ何をするにも、それなりの信念がなければ。


 時は流れ、9月がやってくる――。


 WCTC(ワックトック)の影響なのか、イギリスだけでなく、周辺のヨーロッパ諸国の人も来てくれるようになった。去年のWCTC(ワックトック)の影響で、ドイツ人の観光客が多いこともあり、ドイツ語を習得していた。日常会話程度なら不自由なく話せる。


 この時点で5ヵ国語をマスターしていた。


 1番得意なのが英語、次点でイタリア語、フランス語、ドイツ語であり、1番苦手なのはもちろん日本語である。日本人規制法によって外国語を理解する必要に迫られたことで、これらの言語を習得できた側面は大きい。リサがうちに就職することを決めた影響からか、この頃からルイも頻繁にうちに来るようになった。うちの店に入る前に入念な観察がしたいらしい。


 ルイは今年で大学1年生だが、ようやく忙しい時期をクリアした。結果的に身内ばかりのカフェになったが、これにはちゃんとした理由がある。


 葉月珈琲に入るにはいくつかの『条件』がある。


 まずは『英語』を理解できることだ。客はみんな外国人なのだから当然である。


 コーヒー、フード、スイーツの内どれかの『調理』を得意としていること。飲食店で即戦力を求めるなら料理の腕くらいは求めてもいいはず。しかし、これらの条件をクリアしている人は意外と少ない。


 うちには新卒採用というものはない。何のスキルもない新卒はまず通用しないのだ。仕事内容自体はそこまで忙しくないため、時給は低めである。最低でも時給1000円+出来高は保障するが、高収入を求めるなら、とっとと転職することをお勧めしている。


 法人化するまでは即戦力は求めず、きっちりと育成をし、実技で入った人と同じくらいにまでは育成しておくつもりである。法人化したら学生はバイトで、他は全員正社員で雇う。同じ仕事内容で給料が違うのは不公平だし、正社員の負担が重くなるよう調整するべきだろう。


 正社員は月給20万円+出来高である。


 引っ越し後の『オープニングスタッフ』以降は、入社条件をより厳しくしようと考えている。面接なんかしたところで、演技ができるだけのポンコツばかり釣れるのが目に見えている。


 うちに入る人は『実技試験』で入社してもらうことになる。実力を見るならその方が確実だ。


 来年からは決済も『自動券売機』に変える予定である。人がいちいち注文を受け付けるのは非効率である。注文を機械に任せることで、それぞれのスタッフが仕事に集中できる。


 葉月珈琲では『従業員』という言葉は決して使わない。必ず『スタッフ』と呼んでいる。


 経営者も労働者も対等なのに、何故主従関係を意味する言葉を使わなければならないのか、全く意味が分からない。僕は店を法人化した後の大まかな方針を決め、細かくスケジュール化していった。


 計画しないと忘れてしまうところがあるが、一度覚えてしまえばどうということはない。店のスタッフは全部で6人いれば十分だろう。多めに雇っておけば好きな時に休むことができるし、何より僕がいなくても代わりが務まる人が欲しかった。オープニングスタッフにはきっちりと育成を施す。彼ら以降は全て即戦力だ。お金に余裕が出てくると、自然と人を雇いたくなる。自分1人でやるよりも、複数人でやった方が効率が良い。何より大事なのが労働形式だ。


 働き方は大きく分けて2つある。仕事に人を就けるジョブ制と、人に仕事を就けるメンバーシップ制の2つだが、うちはジョブ制を採用している。ジョブ制は役割範囲がハッキリしていて、役割範囲外の仕事はしなくていい。だがほとんどの日本の企業はメンバーシップ制だ。


 役割範囲がハッキリしていない上に、メンバーだからという理由で苦手な仕事まで押しつけ、やりたい仕事もできないためにブラック企業の温床になっている。欠陥だらけのメンバーシップ制に限界を感じていた僕は、ジョブ制の方が合理的と感じた。高度成長期ならいつでも駆り出せるように、労働資源としてとりあえずの人員を確保しておけばそれで良かったのだが、今は人口も減っている上に、過労死が問題視されているのだから、ジョブ制の方がしっくりくる。


 少なくともメンバーシップ制よりは遥かにマシだ。


 今の時代にジェネラリストになったら、間違いなく淘汰される。


 だからこそ、何か1つの能力に特化したスペシャリストを作るべきなのだが、今はジェネラリストを育てる前提の教育だ。僕はポンコツ化する前に脱出した。


 ある日のこと、店の営業が終わったときだった。


 僕、璃子、リサ、ルイ、唯、優子の6人を集め、今後の法人化計画を発表する――。


「とまあこんな感じで、来年からは会社でやっていく予定だ。引っ越し先の店も既に確保してるから、来年からはそこが職場だ。ここからそんなに遠くないから、無理なく来れるはずだ」

「ふーん、あず君って行き当たりばったりな子だと思ってたけど、案外ちゃんと計画できるんだー」

「今までずっと行き当たりばったりだったのは、選択肢も余裕もなかったからだ。ある程度稼げるようになったらこうする予定だったけど、案外時間がかかっちまった」

「――それならあたしも安心して就職できるかな」

「私も来年ここに就職するので、同期ですね」

「あぁ~、そっかぁ~。確か唯ちゃんって、ここに住んで修行してるもんねー。唯ちゃんと一緒に働くの楽しみだなー。来年からよろしくね」

「はい、よろしくお願いしますっ!」


 唯も優子も来年を楽しみにしながら微笑んでいる。柚子は就職しないことが決定しており、この年の12月をもって契約満了となる。起業の準備に集中させたかったのもある。


 これからは客という立場で度々来てくれるらしい。


 この時、新たな目標を持っていた。『バリスタオリンピック』優勝である。


 バリスタオリンピックは1991年に第1回が行われ、以降4年に一度行われている。奇数年なのは他のオリンピックと時期が被らないようにするためで、この大会は必ず10月以降に行われる。


 開催場所は毎回ヨーロッパかアメリカである。


 様々な種目をこなし、総合スコアが最も高い人が優勝となる。本家のオリンピックとの共通点としてメダルがある。相違点はトロフィーもついてくるところである。日本では全部門を高水準でこなせるバリスタがいなかったこともあり、日本代表は本戦の予選突破さえできなかった。


 日本で選考会が最初に行われたのは2002年であり、日本代表がバリスタオリンピックに初めて参加したのは、バリスタオリンピック2003年大会の時からだ。


 海外でも選考会は必ずバリスタオリンピック前年に行われている。


 1985年、世界中のスペシャルティコーヒー協会の会長たちが集まった。国際会議により、コーヒー業界の地位を上げるべく、バリスタ競技版のオリンピックの開催が決定した。1987年には正式にルールが開示されることになり、1989年からは参加国で選考会が行われることが決定された。バリスタ競技会の歴史上最古の競技会と言っていい。数々の種目が他のバリスタ競技会の元になった。この大会は20歳(はたち)以上でなければ出られないため、前回大会はどの道出られないのだ。


 バリスタオリンピックには全部で5つの部門がある。


 エスプレッソ部門、ラテアート部門、マリアージュ部門、ブリュワーズ部門、コーヒーカクテル部門の5つである。これら全てをこなさないといけない上に、全てで高水準のスコアを叩き出さなければ、優勝どころか予選突破も厳しい。国際社会における知名度はトップクラスであり、日本でも第1回からテレビで生中継されたほどだ。これに優勝すれば、名実共に世界一のバリスタを名乗れるはず。


 時は流れ10月を迎えた。早速選考会に応募する。


 選考会は選考をスムーズにする目的で作られた『書類選考』を通過しなければならない。他の大会の実績やバリスタ歴が選考の基準らしい。書類選考を通過しなければ、そもそも出場すらできないのが恐ろしいところだ。書類選考を通過した10人が12月の選考会に進出し、上位2人がバリスタオリンピック出場の権利を得る。今回は56の国が選考会に参加しているため、合計112人が出場する。


 日本代表はこの中でたったの2人だ。バリスタオリンピック選考会の正式名称はジャパンバリスタオリンピック、略してJBO(ジェイビーオー)であり、バリスタオリンピックの正式名称はワールドバリスタオリンピック、略してWBO(ダブリュービーオー)である。


 昔からこの舞台への出場を楽しみにしていた。


 頂点を志す全てのバリスタにとっては、出場するだけでも名誉なことである。


 このまま書類審査に合格する――はずだった。


「嘘……だよな?」

「えっ! お兄ちゃん落ちたのっ!?」


 今、僕と璃子はパソコン画面を見ながら驚いている。ジャパンスペシャルティコーヒー協会のホームページから確かに『オンライン応募』したが、帰ってきた結果は『不合格通知』だった。


 ――何故だ? 何故不合格なんだ?


 何かがおかしい。実績が不十分であることが理由ではないはずだ。大会の実績なら他の日本のバリスタよりもいいはずだが……このことを動画にした上で唯たちにも話した。


「ええっ!? そんなの嘘に決まってますっ! あず君はどの日本のバリスタよりも実績を残してるんですよ。それなのに不合格って、納得できませんよそんなの」

「僕に文句言われても困るんだけど」

「す、すみません……でもやっぱりおかしいですよ」


 唯は信じられないと言わんばかりの顔になり、まるで自分のことのようにしょんぼりしている。合格者発表のページを見る。松野や結城も選考会に応募しており、この2人は受かっていた。


 結果を不審に思い、美羽にスマホのメールで聞いてみることに。


『今日選考会の進出者発表だけど、美羽はどうだった?』

『残念ながら落ちちゃってた。松野君と結城君は無事に受かったってメールで言ってたよ。あず君は聞くまでもないよね』

『落ちたよ』

『冗談言わないの。そういうの悪趣味って言うんだよ。からかうのはやめて。あず君らしくもない』

『本当なんだけど。何なら協会のホームページを見たらどうだ?』

『えっ、それ本気で言ってる? ちょっと待ってて』


 しばらくすると、美羽からの返信の続きを受信する。ここまで3分もかからなかった。


『さっき何度も合格者のページを見たんだけど、ホントにあず君の名前がなかった。こんなの絶対おかしいよ。あたし、ちょっとお父さんに聞いてみる』

『何か分かったら教えてくれ』


 やるべきことはやった。なのに何故受からないんだ?


 20歳になったばかりじゃ駄目なのか? それとも日本人規制法が駄目なのか?


 考えれば考えるほど原因が分からなくなっていく。こんなことは初めてだ。僕は頭を抱え、書類選考に落ちた原因を考えながら美羽たちからの返信を待った。


 3日後――。


 何かの間違いだろと言わんばかりに、色んな人から同情の声を貰った。うちの親父やお袋、親戚やマスターまでもが僕の落選に驚いていた。


 店の営業中、いつものようにコーヒーを客に提供していると、美羽と美月が申し訳なさそうな顔をしながら、恐る恐る葉月珈琲の扉を開けた。


「あず君っ! ごめんなさいっ!」

「何で美月が謝るの?」

「美月のお父さんがジャパンスペシャルティコーヒー協会の会長なのは知ってるでしょ?」

「うん……一応な」

「協会が虎沢グループからあず君を通過させないように圧力をかけられてたの」

「「「!」」」


 僕、璃子、唯は呆れ返るように驚いた。


 まさか虎沢グループが関わっているとは思わなかった。だが動機はすぐに分かった。あのナチ野郎を告発したことへの仕返しだろう。どうやら僕は厄介な連中を敵に回してしまったらしい。


「虎沢グループはいくつもの子会社を抱えていたけど、株価が低迷して子会社をいくつか失ってるの。子会社の中には協会が出資していた企業もあって、それで協会の内部にも、あず君のことを良く思わない人たちがいたみたいでね、こんなことになっちゃったの」

「つまり、虎沢グループは告発の報復がしたかった。しかも僕の邪魔をしたいと思っている協会の連中が出資した会社が潰れていたこともあって、見事にあいつらの利害が一致したってわけか」

「でも……いくら何でも酷すぎるよ。それで……あず君を落とした張本人がね、協会の会長にして、美月の父親でもある真白会長だったの」


 ――そうか、そういうことだったんだ。だから美月は自分を責めてるんだ。父親の所業によって家全体に汚点を残すことが、きっと彼女にとっては耐えがたい苦痛なのだ。


 バリスタオリンピック書類審査は既に終わっているため、もうやり直すことはできないらしい。僕が開けてしまったパンドラの箱……そこから溢れ出た厄災は数多くの人々の生活のみならず、僕からバリスタオリンピックへの出場機会をも奪い去ってしまった。


「……悪い、ちょっと休んでくる」

「うん……分かった」


 璃子に店を任せて2階へと上がり、誰もいない寝室に着いた。すると、さっきまでずっと抑えていた想いが一気に溢れ出した。液体が床に音を立てながら落ち、僕は寝室で啜り泣きをするしかなかった。


 事実上の敗北だった。バリスタ競技会でこそ負けなしだったが、この舞台に立たせてすらもらえないのは、ある意味敗北以上の屈辱である。憤りと悔しさがひたすら脳裏をよぎり、ボロボロと零れ落ちる涙を制服で拭き取りながら敗北の味を噛みしめた。


 名目上は不参加だが、土俵に立ってすらいないのは屈辱以外の何ものでもない。


 こんな目に遭うくらいなら……戦って負けた方が遥かにマシだ。


 パンドラの箱を開けてしまったことを、僕は心底悔いた。

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