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社会不適合者が凄腕のバリスタになっていた件  作者: エスティ
第4章 有名バリスタ編
83/500

83杯目「報道の真相」

 WLAC(ワラック)優勝を称える祝勝会が始まる。


 会場は人で賑わっており、僕についての話題が絶えることがない。豪華な料理を食べながらいつも通り端っこにいた。僕を見つけたテレビ局の人が段々とカメラごと僕に近づいてくる。


 おいおい、冗談じゃねえよ。これじゃ何のために会場の端っこにいるか分からねえじゃねえか。のんびり料理を食わせてほしいところだが、あいつらにそこまで考える思考回路はない。


「あの、取材させてもらってもいいですか?」

「こっ! 来ないでっ!」


 日本のテレビからインタビューを求められる。


 しかし、顔を見ただけで強いストレスに襲われる。いつも通りの反応だ。


 ――やっぱりこいつら苦手だわ。


「あの、ここは取材禁止なので控えていただけますか?」

「は、はい、分かりました」


 美月がやってくると、嘘を吐いて取材を中止させてくれた。本当は取材NGではないのだが、取材班は諦めて去っていく。これでのんびりと料理を楽しめる。


 平穏のお礼と言わんばかりに、しばらく美月と話すことに。


「あず君って、どうやったらそんなに勝てるんですか?」

「他の人と違うことをしてるだけ。僕はバリスタ競技において勝つ確率を1%は確実に上げられる行動を100種類以上やってる。それでどうやって負けんのって話」

「どうやったらそこまで他人と違うことができるんですか?」

「いつもの自分を出してるだけ」

「――私にはできないですよ。友達に変な人だと思われるので」

「僕には友達とかいないから、そういうのは分からないな」

「あっ……なんかごめんなさい」

「気にするな。友達がいないのは恥ずかしいことじゃねえからさ」


 美月はずっと自分を抑えて生きてきたらしい。


 何故自分を抑える必要があるのか分からなかった。


「私もずっと友達がいなかったんです。自慢じゃないんですけど、私は周りよりもずっと大きな家に住んでいたので、財産目当てで近寄ってくる人が多いんです」

「君に近づいたのは、財産目当てだからとか言われたの?」

「そんなあからさまに言われたことはありませんけど、色んな人と接している内に、うちの財産が目当てな人が分かるようになってきたんです」

「まるでエスパーだな。僕だったら言われるまで分からないかも」


 美月はどこか寂しそうな顔をしながらも、語りかけるように自らの過去を話す。みんな自分の過去を語るのが好きだな。それにしても、美羽よりグラマラスな体で、つい膨らみのある方向に目が向いてしまう。黒髪のミディアムヘアーで顔も凄く可愛いし、恋人がいても不思議じゃなかった。


「それで人間不信になっていたんですけど、大学に入ってから、美羽さんたちの誘いで入ったコーヒーサークルが私を変えてくれました。誰が相手でも分け隔てなく接してくれる人たちもいることを知ったんです。私のお父さんがコーヒー協会の会長ということもあって、流されるようにコーヒーサークルに入ったんですけど、結果的には凄く良かったと思っています」


 美月は精神的な部分で疲れていた。誰かの仲間になるためにその誰かに気を使って、ずっと自分の神経を擦り減らしてもなお、それをひた隠しにする。共感性が高すぎて傷つきやすいタイプであることも悩みであると告白してくれた。僕とは対照的なタイプではあるが、共通する部分もある。


 共感性が高すぎても低すぎても、他人が苦手になってしまうことがあるのだと知った。


「それは他の人も知ってるの?」

「いえ、こんなこと……あず君にしか話せないですよ」

「何で僕には話せるわけ?」

「あず君は普通の人とは違う生き方をしているからです。あっ、もちろん良い意味で言ってます。普通じゃないなら、普通じゃない私のことも分かるかなと思いまして」

「人に気を使っても何の得にもならないのにさ、何でそこまで気を使うの?」

「私はむしろ気を使わずに済む理由が知りたいです。まあ一言で言えば、嫌われるのが怖いだけなんですけど。どうしても合わせてしまうというか」


 ――! そうか……そういうことか。


 初めて会った時から誰かに似てるなと思っていたが、ようやくそれが分かった。


 美月は……璃子に似てるんだ。


「何であず君は他人に気を使わずに生きられるんですか?」


 至極当然の回答をしてやろうと思った。


「だって他人に気を使うために生まれてきたわけじゃないもん」

「ふふっ、あははははっ!」


 ――えっ、そこ笑うとこか?


 彼女の笑いのツボがよく分からない。他人に気を使うのは控えめに言ってストレスだ。誰かに気を使うことなんてないし、極力話そうとも思わない。だがいざ話しかけられると、拘りの強さから譲り切れない部分で他人と衝突することが多いのだ。


 美月は僕の言葉に笑いが止まらなかった。すると、声に反応するように美羽たちが集まってくる。


 笑う門には人来たる。面白そうと思う所に人は集まるのだ。


「あず君、何話してたの?」

「何でもねえよ」

「美月が笑うってことは、余程面白かったってことだよ」

「普段笑ってないんだ」

「はい。でも最近はあず君の活躍が凄く楽しみなんです」


 美月が言いながら満面の笑みを浮かべる。


 僕の活躍が誰かを笑顔にしている。バリスタはコーヒーを提供している時しか人を笑顔にできないとばかり思っていたけど、それはどうやら間違いのようだ。


「やあ、相変わらず強いね。日本でも1番、世界でも1番。全く君は大したものだよ。今度うちでイベントがあるんだけど、参加してくれないかな?」


 真白会長が野太い声で話しかけてくる。小太りで威厳のある顔だ。片手にワインを持ちながら高そうなスーツを着ている。上機嫌なのか、口角が下がってこない。


「遠慮しておく」

「あず君は東京嫌いだから、それは無理だと思うよ」

「東京嫌いなのかー。そりゃ残念だ」

「うちの兄は人の多いところが苦手なんです。だから進学も就職もしなかったんです」

「そうなのかー。そういえば、穂岐山が育成部の専属トレーナーが欲しいって言ってたから、彼に是非申し込んでやったらどうだ?」

「彼は当分店から離れることはないと思うよ。うちの育成部に特別待遇で入社する話も全部パーになったからね。去年の12月が終わった時点で店が無事だったら、入社させるのは諦めてくれと、娘を通して教えてもらったんだ」


 穂岐山社長と真白会長が仲良しそうに話している。娘同士も仲が良いのはそのためか。


 美羽を通して穂岐山珈琲に入社しないことを伝えた。穂岐山社長はとても残念そうにしていたけど、僕が入社したら、多分全員不幸になる未来しか見えないから、これで良かったとさえ思っている。真白会長が僕の近くまで来ると、良かったらうちで働かないかと言ってくる。僕は当然のように、仕事なら間に合ってると言って断った。だが真白会長は引き下がらない。しかもうちの社員に可愛い子がいるからと、さりげなくお見合い話まで持ち込んでくるから厄介だった。


 この人が若い頃は未婚率が5%以下だった。むしろ皆婚時代の方が異常とも言える。


 気づけば会場の近くに人が集中していた。


 僕のそばには、璃子、柚子、美羽、美月、穂岐山社長、真白会長の他数十人がいる。そしてその数十人が更に人を呼ぶため、どんどん人が集まってくる。対照的に会場の向こう側がガラガラに空く。少しくらい向こう側に人が移動してくれてもいいと思うのだが。


「美羽たちは何でいつも僕のために祝勝会をやってくれるの?」

「何でって、あず君が優勝してくれるのが嬉しいから」

「まるで自分のことみたいだね」

「自分のことのように応援するのがファンってもんでしょ」

「ファンねぇ~」

「あず君は誰かのファンになったことはないの?」

「ない。他人に興味ないからさ」

「コーヒー以外は好きになれないか」


 美羽が人をからかうような顔で悟ったように呟く。


 彼女は会場の壁に背中を預けて携帯をいじっている。


「あの、今ってWLAC(ワラック)の優勝トロフィー持ってますか?」

「一応持ってるけど」

「うわぁ――凄い」


 トロフィーをバッグから出すと、美月が目をキラキラと輝かせながら、階段状のトロフィーの1番上を飾る黄金に輝くミルクピッチャーを物欲しそうに見つめている。階段の下には大会名と順位が英語で書かれたシールが貼られている。会場で販売されているコーヒーを飲み、渇いていた喉を潤した。


 高級なコーヒーの味に慣れていた僕にとって、インスタントコーヒーは気休めでしかなかった。これだけで満足できる人はさぞ幸せであろう。だがここのコーヒーは違う。紛れもなくスペシャルティコーヒーだった。穂岐山珈琲もゲイシャ種のコーヒーを手に入れようと必死だった。


 しかし、ここにないということは、まだ手に入っていないようだ。


「あの、これをここに展示してもいいですか?」

「別にいいけど、僕が帰るまでな」

「はい。みんな喜ぶと思います」

「自分が優勝したわけでもないのにか?」

「あず君に肖りたい人は凄く多いんですよ。それにトロフィーを見せることで、コーヒー業界の地位も上がると思いますよ。どこの世界でも、トロフィーは注目されやすいですから」

「そういうもんかねー」


 美月から懇願され、WLAC(ワラック)の優勝トロフィーを会場に飾った。


 やっぱり自分の力で勝ち取った勝利の象徴は、僕の目からは一段と輝いて見える。


 ――今頃岐阜はどうなっているだろうか。


 早く戻って店を再開したい。僕にはまだやるべきことがある。


 午後9時、東京から岐阜までの距離を移動し、ようやく帰宅する。思ったより祝勝会が長引いてしまった。みんな旅の疲れでぐったりしている。柚子は大学に通っているが、この状態で明日の大学に行けるだろうか。風呂に入ってパジャマに着替えると、電池が切れたように就寝するのだった。


 ――翌日、うちの店に外国人観光客が大勢やってくる。


 僕の更なる飛躍によって、行列は勢いを増していた。この時間はあっという間に過ぎ、この日の営業が無事に終わると、見計らったように親父が入ってきて近況報告をする。


 親父が言うには、WLAC(ワラック)優勝の日から、商店街の人たちが僕の代わりに賞賛の言葉を貰っていた。テレビのインタビューにも答えていたためか、物凄い騒ぎになっていたという。噂を聞いた連中が僕の実家を一目見ようと商店街に集まってきたこともあり、しばらくは大盛況だった。


「まっ、そんなところだな」

「じゃあしばらくは実家が見世物みたいになってたわけか?」

「ああ。金華珈琲が向かい側にあるお陰で、店にも客が大勢集まってきてな。マスターも喜んでたぞ」

「遂にゆかりの地に人が来るようになったか。次は銅像でも立つのかな」

「お前もジョークが言えるようになったんだな」

「皮肉で言ってんだよ。でも……商店街が賑わいを取り戻しつつあるってことだよな」

「葉月商店街は、お前が生まれ育った思い出の場所だからな」

「じゃあ僕が活躍し続ければ、商店街もかつての勢いを取り戻すってことなのかな?」

「まあ、その可能性はあるだろうな」


 ――そうか、今まで葉月商店街に全然人が来なかったのは、特に世界的に目立つような名物がなかったからだ。名物がないなら作ればいいのだ。


「お前も商店街に思い入れがあるんだな」

「まあな。僕が小さかった時のような賑わいを取り戻せれば、親父もお袋もそれで食っていけるようになるだろ。つまり、僕自身を名物とした商店街が観光地として認められるようになればいいんだ」

「そうだな。今からマスターに会いに行くか?」

「……別にいいけど」

「じゃあ閉店間際だな」


 この日の夜、金華珈琲の閉店が迫り、客がすっかりいなくなってしまった頃に赴いた。時計の針は午後10時を指していた。夕食後であったため、エスプレッソのみの注文である。


 営業後に飲むコーヒーが格別に美味いと感じた。それだけ疲労が溜まっている証拠だ。


 今日もよく働いた。やっぱ人がいない店は落ち着くなー。


 繁盛していたら、僕が困って入り辛くなり、店がガラガラだと、僕が喜んで入る法則だ。日本の飲食店はどこもレベルが高い。故に迷った時はガラガラの店を選ぶ。


 ニヤけ顔になりながらコーヒーを飲み、至福の時を過ごす。


「あず君のお陰で、うちは今大盛況だよ。ここをあず君を育てたカフェとして宣伝しようと考えてるんだけど、あず君はどう思う?」

「構わない。ここはおじいちゃんが始めたカフェでもあるし、僕がエスプレッソマシンを初めてメンテした場所でもあるからな」

「あれから長いねー。思えばあの頃から才能の片鱗が現れてたし、進学しなかったのは正解だったね」

「結果論だろ……ったく穂岐山がせっかく居場所を用意してくれたってのによ」

「まあまあ、あず君は全部自分で決める方が合ってるんだよ。誰かに与えられた居場所じゃなく、自分で掴み取った居場所の方がね」


 流石はマスター、分かってるじゃん。まるで僕のトリセツを読んだかのようだ。


 そんなことを考えていると、1人の男がドアベルを鳴らしながら店に入ってくる。


「蜂谷さん、今日はもう店閉めるよ」

「あー、構いませんよ。やっと会えましたねー」


 ――げっ! またこいつかっ!


 この前僕をしつこく追いかけてきた奴じゃねえか。


 僕は閉店間際のこの店に入ってきたこの男に戸惑うしかなかった。


 会ったのは久しぶりだけど、服装以外は全然変わってない。眼鏡をかけた中年くらいのおじさんで、ボロボロのジャケットを着てカメラを持ち歩き、常にニコニコしている。見るからに怪しい。マスターはこの人と知り合いみたいだけど、マスゴミなんてロクなもんじゃねえぞ。


「あず君、もしかして知り合い」

「ああ、僕がのんびり飯を食ってる時に話しかけてきた」

「あー、なるほどねー。蜂谷さん、あず君は日本人恐怖症っていう珍しい病気に罹ってるから、基本的に話しかけるのは控えた方がいいよー。症状が悪化するかもしれないから」

「んー、ただねー、それだと取材にならないからさー、こっちも生きるために必死なんだよー」

「マスゴミが甘い汁を啜るために、どれだけ多くの罪なき有名人が犠牲になってきたか。少しは報道される側の身にもなれってんだ」


 わざと蜂谷さんの前で愚痴を言った。これが報道されたって構わない。僕は二度と嫌いな奴には遠慮なんてしない。今はもう学生という弱い立場じゃないんだ。嫌なものを嫌って言ってもいいんだ。


「この人はあず君が思ってるような悪い奴じゃないぞ。この人は蜂谷義和さん。岐阜市の宣伝をしてくれている地元のローカルジャーナリストだ。普段は岐阜市内の新聞社に勤めていて、岐阜市の魅力を広めようと活躍をしている人でな、地元じゃ割と知られてるんだぞ」


 親父が僕を宥めるように補足説明をする。


「いやいや、そんな大層なもんじゃないですよ。私は岐阜がまた人の賑わう地方都市になってくれたらそれでいいと思ってやってるだけですから」

「もしかして……うちの店を宣伝したことあるの?」


 蜂谷さんと距離を置きながら、目も合わせずに彼のことを親父に聞く。


「そうだねー。最初に梓君のお店を新聞にしたのはうちだったんだ。でも今思うと、余計なことをしちゃったと思ってるよ。まさか外国人観光客限定にしてるとは思ってもみなかったから」


 親父に聞いたつもりが、蜂谷さんが僕の質問に答える格好となった。


 もはや誰に聞いているのかが分からなくなっていた。


「蜂谷さんは事情を知らなかったんですから何も悪くないですよ」


 親父が蜂谷さんを擁護する。まあ無理もないか。


「この新聞を見た東京の人から、これを全国新聞に載せられないかって打診があったんですよ。それで地元の新聞を提供したら、残念なことに東京の新聞社がねー、外国人観光客限定である部分だけをカットした状態で、全国中の新聞に掲載してしまったんですよ」


 だからみんなうちの店の前で立ち往生しちまったわけか。


 それにしても、日本人規制法の注意喚起のみをカットしたってことは、やはりうちの事情よりも売り上げを優先したってことなんだろう。蜂谷さんが言うには、報道すると炎上してしまうため、やむを得ずカットしたとのこと。絶対に嘘だな。あの新聞と全国放送によって、僕は日本国内から差別主義者のレッテルを張られる破目になった。でも1つ分かったことがある。蜂谷さんはこれを日本人規制法の注意喚起をした状態でローカル向けに出版した後、これを東京の新聞社に伝えていたということだ。


 ミスをしたなりの配慮はしてくれていたということか。


「マスゴミ共のせいで、僕は日本中から差別主義者呼ばわりされるようになったんだぞ。どいつもこいつも自分たちがしてきたことを棚に上げて」

「そう言うなよ。皮肉な話だけどさ、その日本人規制法という珍しい制度のお陰で、みんなが葉月珈琲に注目するようになったんだ」


 注目された理由が悲しすぎるんだよなー。


 僕はエスプレッソの残りを飲みながら這い蹲るようにカウンター席に座り、顎をカウンター席のテーブルに乗せている。今の話でドッと疲れた。報道のあり方を考えさせられる。


「梓君、俺としては葉月珈琲の宣伝を通して岐阜市の魅力をみんなに伝えたいんだ。だからさ、良かったら取材させてほしいんだ。これ、俺のメアドだから」


 蜂谷さんがポケットに入っていた名刺入れから白い名刺を1枚手に取る。


 親父を通して名詞を僕に渡そうとするが……。


「僕、名刺嫌いだから、そんなもん受け取るくらいなら、メアド交換で構わないよ」

「本当にっ!? 嬉しいなー」

「たまにでいいなら独占取材を受けてもいい。その代わり、僕や身内を不当に貶めるような報道は絶対にしないと約束してくれ」

「分かりました。願ってもないことですよ。俺も梓君のファンですから」


 携帯を親父に渡してメアド交換をする。どうもジャーナリストってのは信用できない。この人は良い人かもしれないが、この人の同僚や関係者が良い人とは限らない。


「ところで、何で名刺が嫌いなの?」

「管理するのが面倒だし、用がある時はメールで十分だ。後電話もNGだからな。あれは相手の時間を根こそぎ奪う悪魔の所業だ」

「「「はははははっ!」」」


 親父、マスター、蜂谷さんが一斉に笑い出す。何がおかしいんだか。


 みんなこの時は笑っていたけど、後々この意味を理解できる日がきっと来るはずだ。僕はそう信じて疑わなかった。金華珈琲を後にすると、その後はひたすら店の営業に没頭していた。


 親戚の意に反してしていたことが、まさかここまで大きな事態になるとは。これが怪我の功名というやつか。優勝した場所が場所であったこともあり、しばらくの間はドイツ人のラッシュに嬉しい悲鳴を上げていた。この時には世界中から人が集まる店になっていた。こんなに幸せなことはない。うちの近くにはカフェが何店舗もあったけど、客が集中しているのはうちだけだった。売り上げが爆発的に伸びたことで、あっという間に借金返済分のお金が貯まったのもでかい。


 今までは銀行の貯金通帳を見る度にストレスだったが、今は自分の稼ぎに安堵を覚えたのか、何度見てもこんなもんかくらいにしか思わなくなったのがせめてもの進歩だ。


 季節は流れ、葉月珈琲は本格的な夏へと突入するのであった。

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