8杯目「ハートのチューリップ」
小3になって以来、和製ヒトラーとの戦いが続く。
何かある度に事情を説明したが、聞く耳を持たないばかりか、より強く怒鳴りつける始末。
身も心も立派なハゲだ。もはや飽きてきたんだが、他の場所でもこんな対応だったのだろうか。教員採用試験が如何に節穴であるかがよく分かる。まともな民間企業ならまず採用されないだろう。担任をぶっ飛ばした後、体育館まで逃げてきた。僕がバケツをひっくり返したわけでもないのに、僕がクラスメイトの罪を肩代わりしているみたいで気に食わなかった。
担任の采配が悪いと思っていたし、バケツをひっくり返したクラスメイトを責めなかった。担任をぶっ飛ばした後は怒りのあまり腹痛を起こした。体育は休み、体育館の端っこにあるマットに寝そべっていた。もはや見学ですらないが、そんな細かいことはどうでもいい。
男子も女子もドッジボールをしている。僕が参加させられていたら、間違いなくターゲットになるだろう。ボールが跳ね返る音に鳴る体育館シューズの音が僕の虚しさを表しているように感じた。睡眠もできない時は筋トレばかり。後出しじゃんけんの濡れ衣の件でも腹が立つというのに、何故こうも生徒の神経を逆撫でをするのか。ティッシュ事件もまた、僕の敗北に終わった。
プールの時期がやってくる――。
泳ぐのは好きだったのか、水着を持ってきていた。
初めて同じクラスになったクラスメイトが因縁を売ってきた。
「葉月君は女子っぽいから一緒に着替えたくない」
「女子っぽいから何? そんなに人目が気になるんだったら後ろを向いて着替えればいいじゃねえか」
「何で俺がお前に気を使わなきゃいけねえんだよ?」
「だったらどうしろと?」
半ば呆れ顔で冷やかに尋ねた。
「葉月は見学でもしてろよ」
何故こいつの羞恥心のためにプールを見学しないといけないのか。
しかもあろうことか、最悪の行動を選択する。
「じゃあ葉月と先生で話し合って決めたら?」
クラスメイトは僕がプールに入るべきかどうかを決めるため、僕と担任に会話をする口実を与えてきたばかりか、担任がこの話に乗っかってきた。
「葉月君は髪を黒に戻して、短く切ってからプールに入ろうか」
担任が真面目そうな顔で言うと、担任の合図でみんなプールへと向かった。この時、僕はハメられたと思った。始まり方がまるで日清戦争だ。
仲の悪い2人を絡ませてはいけない。
僕はみんながプールに行ってから担任と言い争いになった。
「黒に戻せってどういうこと?」
「黒髪にしろってことだよ」
「つまり黒に染めろってことだよね?」
「そうだよ!」
「そもそも髪を染めるの禁止じゃねえの?」
「髪の毛はみんな黒じゃないといけないんだぞ」
「でも染めた時点で校則違反だよね!?」
「茶髪が校則違反だ」
僕の存在そのものが校則違反と言われているような気分だ。いつものことだが、会話など成立していない。こいつに赤毛の女の子が悪戦苦闘する童話を読ませてやりたい。担任は白髪だ。黒髪以外が校則違反なら、白髪で薄らハゲのクソじじいも校則違反じゃなかろうか。なのに自分のことには鈍感だ。
「そういうあんたも白髪だろ」
白髪も校則違反であることを指摘する。
「これは年を取ってきた結果だからいいんだよ」
自分のことを棚に上げられ、僕だけが悪いような雰囲気になっていた。
権威だけがある無能ほど厄介なものはない。
僕は小学校生活の中で、3年の時だけは授業中のプールには全く入っていない。僕をプールに入れなくした奴は、これをいいことに僕をいじめてくるようになる。しかもこの件を理由に体育の時も着替えさせてもらえないようになる。つい最近まで同じ部屋で着替えてたのにおかしな話だ。
見学していた時、体育の先生に見つかった。
「何故着替えないんだ? 忘れたのか?」
「着替えさせてくれないもんでね」
「そんな話は聞いていない。次からは着替えてこい」
一体どうしろと言うんだ? 片方の言う通りにしたら、もう片方に怒られるとか無理ゲーなんだが。
「あんなの教師によるいじめじゃねえか」
誰もいない所で愚痴るしかなかった。こういった事情もあり、登校した日は必ず怒られていた。一応親にも言ったが、話が馬鹿げていたのか、信じてはくれなかった。教室にいるのが嫌になり、具合が悪いと言って、保健室へと赴くようになると、保険の先生から事情を聞かれた。
「どうしたの?」
「先生が茶髪を黒に戻せって言ってきたり、僕と一緒に着替えたくないという我が儘につき合わされて、それで着替えられなくなったせいで、体育の時間に必ず怒られるんだ」
保健の先生は顔がポカーンとなっていた。
「いやいや、流石にそれは嘘でしょ」
保健の先生は慌てた表情で言っていた。
「嘘と思えるほどあいつらが馬鹿なんだよ」
呆れ顔で愚痴るように言った。やはり馬鹿げている話なのか、保険の先生も信じなかった。完全に担任とクラスメイトの術中にハマっていた。かつてカンボジアから逃げてきた人たちが隣国にありのままの状況を説明するも、あまりにも馬鹿げた政策であったことから、誰も逃亡者たちの話を信じなかったという。状況で言えばこれと同じだ。これほど奇妙な経験をした人は珍しいだろう。
――参観日当日――
うちの親は相変わらず仕事で来れなかった。
仮に来たとしても、僕が迫害を受けている様を目撃することはまずない。授業参観の時に限って担任もいじめっ子たちも礼儀正しい。隠しカメラでも設置しない限り、本当の姿を見ることなどできない。問題は授業参観になる度に黒髪に戻せと言われてしまうことだ。
――クソつまんねえ差別主義者共が。こういう時だけ良い子を演じやがって。
できれば普段からそうしていてほしいのだけど、みんな仲良しを演じるのは簡単じゃない。それは僕が誰よりも知っている。でも気に入らない人がいたら、気にしないふりくらいはしてほしい。
「茶髪は駄目だよ。不良に見えるから」
授業参観中にある保護者が僕に対して忠告するが、僕は他の保護者にも茶髪がいることに気づく。
「じゃああの人たちも不良なの?」
他の保護者たちを指差しながら言い返した。保護者たちは茶髪の保護者たちから睨まれていた。表情はきょとんとしていた。まさか子供に論破されるとは思っていなかったのだろう。しかも保護者はいじめっ子の親だった。この親にしてこの子供だと思った。
僕はいじめっ子親子から疎まれることになり、敵が増えただけの授業参観は呆気なく終わった。
しかし、親たちが帰った後、不意に後ろからいじめっ子に殴られ、後頭部に激痛が走る。
「痛っ! 何すんだよ!?」
「お前が口答えしたせいでお母さんの立場がなくなった」
「自業自得だろ」
「謝れよ!」
「何でだよ?」
「茶髪で迷惑かけたんだから、謝れっつってんの!」
「嫌だ!」
そうこうしている内に担任がやってくると、担任までもが僕に謝るよう言ってくる。
――こいつらだって黒髪絶対という信仰を押しつけて、僕に迷惑かけてるってのに何言ってんだ。
僕は世間が嫌いだ。世間に迷惑をかけたとか、正義面して言っている奴に限って、世間が個人に対して迷惑をかけた時は何も言わない。世間とは第二の警察なのだ。
もちろん断固拒否した。誰かに言われてするものを謝罪とは言わない。それは茶番でしかないのだ。形だけでも謝らせる風潮のせいで、日本人の謝罪がただのポーズに見える。
すると、担任が僕の胸ぐらを皺ができるほど掴んだ。
「謝るまで居残りだ!」
呆れ顔でその場に立ち尽くすしかなかった。だが終礼後に断固拒否して帰ろうと足を動かす。
いじめっ子が僕の前に立ち塞がる。
「謝るなら帰ってもいい」
何様のつもりなんだろうか。
「お前よりもアニメの方が大事だ――ああっ!」
気づけば僕の腹を抉るように殴ってきた。
「痛っ……」
痛みを堪えながら両手で腹を抱えた。
「お前、調子乗ってると殺すぞ」
そう言ってクラスメイトが僕の前に立ちはだかる。調子に乗ってるのはこいつの方だ。でなきゃ人を殴ろうとは思わない。世紀末の住人は二次元に帰ってどうぞと言いたくなる。
反撃の狼煙を上げるように、クラスメイトを殴り返した。殴り飛ばした先は廊下の窓ガラスだった。
クラスメイトは窓ガラスに激突し、窓ガラスは衝撃に耐えられず、パリーンと砕け散る。
「うわあああああん!」
泣き出してしまい、人が集まってきた。僕はこう言ってやった。
「人を殴ってもいいのは、殴られる覚悟のある奴だけだっ!」
僕が決め台詞のようにそう言うと、そばにいた担任が僕の胸ぐらを掴んで怒鳴ってきた。
クラスメイトが僕を殴った時は見て見ぬふりしたくせに。
「何考えてんだお前は!?」
「お前が残れと言ったせいだ!」
クラスメイトは怪我をして保健室に送られた。
お袋を呼ばれ、厳重注意を受けた後で親と一緒に下校した。
お袋に怒られながら道路を歩き、自宅がある葉月商店街へと入った。
「もう、何回呼び出されたと思ってんの!?」
「5回目かな」
「分かってるなら問題起こさないでよー」
「あいつらがいじめてこなくなったらな」
「ああ言えばこーゆー」
「じゃあ僕が殴られ放題でもいいわけ?」
急所を突くと、お袋は黙ってしまった。この時はもう夕方であり、しかも腹が減っていた。
「いつものとこ行きたい」
「じゃあ行こっか」
珍しくおねだりすると、お袋はあっさり承諾する。
葉月商店街の中には色んな店があり、カフェ、スイーツショップ、レストラン、雑貨店といった基本的な店があり、あとは八百屋に精肉店といった昔ながらの店もあった。
この商店街に入る度に、帰ってきた感じがする。だが以前よりも明らかにシャッターが増えていた。子供の僕でさえ分かってしまう。この前も知り合いのおじさんが廃業して隠居したばかりだ。
お袋と一緒に親父のバイト先のカフェ、『金華珈琲』に入った。入る時にカランコロンとドアベルが鳴った。親父とマスターと新入りのバイトがいる。僕はマスターと、親父はお袋と話した。マスターは気さくでダンディーな短髪の男で、人慣れしている物腰の柔らかさだ。
親父よりもちょっと若そうな人だ。新人はまだ学生くらいの人かな?
マスターは僕が人生で最初に出会った現役のバリスタだ。僕がもっとバリスタのことを知りたいことを伝えると、バリスタにまつわる色んな事情を片っ端から惜しみなく教えてくれた。僕とおじいちゃんのやり取りもマスターに話す。マスターがこの店の2代目マスターであること、初代マスターがおじいちゃんであることを知る。マスターはおじいちゃんが引退してからというもの、ずっとこの店を守ってきたらしいが、バブルが崩壊してからは、年々客が減少しているのが悩みの種だ。
「もしかしてお父さんがここにいるのって」
「ああ、そうだよ。周吾さんの紹介」
「やっぱり」
「エスプレッソ」
「梓君、エスプレッソ飲むの?」
「うん、飲むよ」
小さなコーヒーカップにトロトロ感のある茶色の液体、これがエスプレッソだ。カップが通常の半分の大きさであることからデミタスとも呼ばれる。元々は苦肉の策として、コーヒーの量と値段を下げたのが大ウケしたことで、販売スタイルの1つとして確立したものだ。
僕はコップの取っ手を持つとエスプレッソをそのまま飲み干した。
唇についたエスプレッソを舌で舐め取ると、さっきまで曇っていた表情が笑顔に戻る。
「あー、美味いっ!」
「とっても美味しそうに飲むねー」
まだ小学生でありながら、コーヒーに詳しい僕にマスターは関心を示していた。全部おじいちゃんの受け売りなんだけどな。テストは覚えないが、コーヒーの知識は丸暗記した。僕が昭和風のレトロな店内を見渡すと、客が全ての席の内の半分もいないことに気づいた。客はいずれも常連ばかりだ。BGMはないけど、とても静かで和やかだ。むしろこっちの方が好きかもしれない。
新入りのバイトがケトルの熱湯をコップの上のペーパーフィルターに雑な注ぎ方をしていた。まだ始めたばっかの人だな。客には出してないし、練習みたいだけど、マスターの表情を見る限り、全部雑味や苦味が勝った味だろう。注ぎ方が雑すぎる。コーヒーを淹れる時はもっと優しく丁寧に。
僕は彼の注ぎ方を見ていられなかった。
「その淹れ方じゃ駄目だ」
口が勝手に動き、思わず指摘してしまう。
「えっ?」
「フィルターの端についたコーヒーの粉に熱湯をかけたら駄目だ」
「何で?」
「そんなことをしたら嫌な苦みが強くなっちゃう。コーヒーが泣いてるよ」
マスターを始めとした周囲の人たちが度肝を抜かれたように驚く。
コーヒーの声を正確に察知していた。
「「「あはははは!」」」
マスターたちが一斉に笑い出した。
――えっ? 何で笑うの? 意味分かんない。僕、何か変なこと言ったか?
「ふふふふふっ、まるで昔の周吾さんだ」
「おじいちゃんがどうかしたの?」
「周吾さんはコーヒーの声を敏感に感じ取っていたんだ。僕が新人の頃、雑な抽出をする度に怒られてたんだよ。コーヒーが泣いてるよってね。そうだよね、和人さん?」
「ああ、まるで昔の先代だ」
親父もコーヒーの声が分かるけど、新人に対して鋭い指摘をしすぎて、しばらくの間新人が来なかったことがあったために、あまりやる気をなくさせるような指摘は避けていたらしい。
親父はおじいちゃんがマスターだった頃、この店を手伝っていた。
「お前は先代に似てるよ」
おじいちゃんに敬意を表しているのか、本人がいない時は先代と呼んでいた。
親父もバリスタではあるが、僕やおじいちゃんほど拘りが強くない。良くも悪くも小さく収まっている普通の人だ。課長に昇進した時も、店の業務ができなくなるのに、あっさりと昇進を引き受けた。
「親父はおじいちゃんにあんまり似てないよね」
「和人さんはあず君ほど拘り強くないからね」
「正社員には拘るけどな」
「それは仕方ないよ」
マスターが言うには、親父は僕らを食わせるためにより給料の高い仕事に就きたかったらしい。親父は今でも正社員の仕事を探し続けている。こういう変なところに拘るのはおじいちゃん譲りかな。
親父とお袋と一緒に帰宅した。家はすぐそこだった。カフェの真向かいにあるのがうちの家で、いつでも気軽に遊びに行ける距離だ。帰宅すると、まるで夢から覚めたかのように、学校のことで家族会議が始まる。僕は2週間の出席停止を言い渡されていた。もちろん親からは物凄く怒られた。
しかも出席停止明けから夏休みだったせいか、夏休みが2週間分増えた。以前から担任を通して教育委員会に問題行動を密告されていた。いじめっ子を撃退した上に休みまで貰えるなんて、罰どころかご褒美としか言いようがない。夏休みに入り、思う存分遊びまくった。
楽しい長期休暇はあっという間に過ぎていった――。
おじいちゃんの家でエスプレッソマシンの使い方を教わっていた。最近おじいちゃんが買った物だ。凄く気になっていたため、使い方を教えてもらうことに。
――やっぱりこの時間が1番だなー。
ラテアートの基本はハートかリーフ。ミルクピッチャーと呼ばれる容器に牛乳を入れると、エスプレッソマシンに付属しているスチームノズルに入れて、蒸気を出す音を出しながらスチームで牛乳を温める。温めたスチームミルクを少し別の容器に移し、ミルクピッチャーを何度か音を立てて台に置くと、おじいちゃんはエスプレッソにスチームミルクを回すように投入する。一旦止めた後、もう一度スチームミルクを注ぐ。すると、注いだ場所から牛乳が浮かび、やがてハートのチューリップの形になった。
まるで魔法でも見ているようだったのか、僕は口がぱっくりと開いていた。
まさに飲めるアートだ。おじいちゃんが言うには、1年以上修業してやっとできるようになったとのこと。僕もやりたいと言って、もう一度同じ手順で牛乳を温めてもらった。おじいちゃんの手の動きを思い出し、僕はエスプレッソにスチームミルクを注いでいく。すると、さっきおじいちゃんが作ったハートのチューリップを僕は一発で再現してしまった。おじいちゃんは開いた口が塞がらなかった。
「凄いなー。この歳でこんなにうまいラテアートを描く子は初めて見たよ」
「ふふっ、結構うまいだろ」
「あず君はラテアートの才能にも溢れてるな。全く大したもんだ」
「じゃあ今度はもっと難しいラテアートを描くね」
「それは楽しみだねー」
これが僕の……人生で最初のラテアートだった。
夏休みが終わると、親に不登校を懇願するも拒否される。子供を家に1人で置いておけないとのことだった。学校にいた方が危険なのに、まだそんなことを言っていられる呑気さよ。
登校初日に教室に入ると、担任から思わぬ台詞を言われる。
「あんなことしといてよく来れたな!」
担任が僕を睨みつけながら言った。
「うちの親が休ませてくれないんでね」
僕の減らず口は相変わらずだった。極力誰の気にも触らないよう、授業中は静かに睡眠したり、好きな本を読んだりしていた。自分から誰にも声をかけない性格は、恐らくこの時から構築されたものと思われる。他人から話しかけられた時は、最も相手に効く台詞を返していた。
触らぬ神に祟りなし。まさにこの言葉通りの性格だった。
相手もそのことが分かっていたのか、全然話しかけてこない。
後に同窓会で聞いた話だが、僕はこの時、クラス中から無視されていたらしい。自分から人と関わろうとしない性格で、当時の同級生から聞くまで全く気づかなかったが、正直どうでもよかった。
できればずっと無視してほしかった。その方がお互いのためだ。クラス中から無視される行為は社会性がある人間には効果が抜群らしい。だが僕には社会性の概念自体がないのか、効果がなかった。相手から集団無視という名の持久戦を仕掛けておきながら、全く効いていないために集団無視を解除したとのこと。いじめっ子は怪我が治っていたものの、あの件で懲りたのか、全く口を利かなくなった。
運動会は集団リンチの件を話して、確実に足を引っ張ることも理由にして見学になった。小1から毎回熱中症患者が出ていたが、ここまで多いと、もはや伝統芸能だ。
彼らは熱中症で死人が出るまで、脱水対策をしないだろう。
一方で僕はきっちりと水分補給をしていた。体育会系の連中と心中するのは真っ平御免だ。運動会が終わりを迎えてしばらくの時間が経ち、やっとの思いで冬休みを迎えた。
この時、璃子から学校のことを聞かれていた。
「お兄ちゃん、学校楽しい?」
「学校が楽しいのはドМか修行僧くらいだ」
「私は楽しいよ。友達もできたし」
「それは僕への当てつけか?」
「当てつけじゃないよ。お兄ちゃんは友達いないの?」
「――多分、茶髪を黒に染めないとできないと思う……」
璃子は当たり前のように友達ができていたが、僕は友達も恋人も作る気はなかった。
自分のことを持ち上げるわけではないが、僕に友達がいなかったのは、自分に一切妥協しなかった証拠だと思っている。大人だったら好きな相手を友達に選べるが、子供が友達を作るには妥協が必要だ。一緒に過ごす相手を固定され、無理くりつき合う相手を選ぶ時点で、それは妥協以外の何物でもない。例外はあるが、成人してから本当の友達に出会った人が多いのも事実だ。学校を卒業したら会わなくなるような人は、たまたま同じ地域にいたから出会っただけのご近所さんに過ぎない。
この日も、僕は友達の意味を考えさせられるのであった。
ラテアートをよく知らない方は画像で検索がお勧めです。
これがもう可愛くて魅力的なのです。
葉月周吾(CV:北大路欣也)
葉月和人(CV:小山力也)