75杯目「良心的な遠戚たち」
しばらくすると、JLAC予選通過の通達がくる。
決勝進出者の名簿には葉月梓の名前が確かに記載されていた。
僕も璃子もこの結果を受けて安堵する。
真由と拓也にJLACに参加していることをメールで伝えると、決勝の日に応援に行くことを告げられ、会うことを約束する。
真由はともかく、拓也が来てくれることを約束してくれたのは意外だ。ニートなのに行動力がある。
――いや、僕がニートに対して偏見を持っているんだ。
何もしていないイメージが強いが、実際は生き方も動き方も分からないまま、藻掻いて、足掻いて、必死に生きていることは拓也を見て分かった。僕にもそんな時期があった故に理解できてしまうのだ。
それにしても……多くの遠戚がいる中で僕が気を許せたのはたった2人のみ。何か法則があるはずだ。僕は気を許せる人たちの共通点を洗い出すことに。
無論、JLACが終わってからにするが。
当時のJLACは50人程度が参加していた。決勝に進出できるのは上位10人のみである。決勝の日は遠くなかった。予選と決勝の間隔が短いのは、参加者が準備をしなくてもいいからだろうか。いずれにせよ、早く終わるのは体力のない僕に有利だ。
2月下旬、JLAC決勝前日のこと、僕は大会の会場に近い千葉へと赴いた――。
日本のバリスタ競技会決勝はいつも東京だ。
それもあってかなりの頻度で東京まで行くことになる。僕は璃子と共に地獄の満員電車を乗り越えて千葉駅まで赴いた。宙に浮くほど人と密着していたわけではないが、それでもパーソナルスペースに侵入されるとマジで疲れる。何故千葉なのかと言えば、真由が僕を誘ってくれたからだ。僕が関東で大会に参加する時は真由が、関西で大会が行われる時は拓也が自分たちの家を宿泊先として提供すると申し出てくれたのだ。遠戚とはいえ、どこの馬の骨かも分からない僕を泊めてくれるのはありがたい。
午後6時、千葉駅から少し歩き真由の家に行く道中だった。
「あっ、梓君だ!」
「ホントだ。すっごい可愛い! あれで男の子なんだって!」
「サイン貰っちゃおうかなー」
「駄目だよ。梓君は日本人嫌いでファンサービスも全然しないんだから」
「あっ、そっか……」
「いつかお店行ってみたいよねー」
――しっかり聞こえてるんだが。
有名になってからは通行人から注目される機会が増えた。
厳密に言えば、あいつらが嫌いなのではない。あいつらが持つ、みんな同じであるべきという独特の傲慢さが嫌いなのだ。噂が噂を呼び、あっという間に大勢のファンに囲まれ、写真まで撮られていた。東京駅の周辺を歩いていた群衆が、ガラケーを片手に僕を写真に収める。
写真を撮るのは別にいいが、通行人の邪魔はしないでほしいな。
しばらく歩くと、真由の家に着いた。玄関のベルを鳴らして真由に迎え入れてもらうと、僕と璃子は真由の家に入り、中を案内される。推定4LDKの大きな2階建ての一軒家。真由はそこで1人暮らしをしている。まだ高校生なのに自立してんな~。こんな家をポンッと与えてもらっているあたり、家はかなり裕福なんだろう。着ている服も肌触りの良い高級な生地を使ってるし。
「ここは余りの寝室で、普段は全然使ってないので、泊まる時はここを使ってください」
「ありがとう。助かるよ」
「ありがとうございます」
「いえいえ、僕にできることと言えば、これくらいしかないので」
「どうしてそこまで兄が好きなんですか?」
璃子が唐突に素朴な疑問をぶつける。
「僕が辛い時、あず君のピアノ動画に凄く励まされたんです。ラテアートアニメーションの動画とかも凄く良かったですし、あず君が遠戚だと分かってからは、なんか凄く自信になったというか、そのお礼と言ったら変ですけど、精一杯支えようと思ったんです」
真由がニコッと笑顔を見せる。
――かっ、可愛い! なんて母性に溢れた子なんだ。こいつ、本当に男か?
ここからであれば東京に近いし、東京での国内予選を予定通りに運ぶ上では重要拠点になるだろう。宿泊費が浮くのも大きい。持つべきは友達、いや、親戚である。
「元々ラテアートアニメーションは、僕がカフェのマスター初心者だった頃、インスタントコーヒーと牛乳を多めに仕入れすぎたのが原因だったけど、あのままにしてたら、賞味期限を過ぎちゃうからさ、ラテアートを1枚1枚写真に撮って捨てようと思ってた時に、アニメーションに利用できるんじゃないかと思って作ってみたら、再生回数が思った以上に伸びて、結果的に良い宣伝ができたわけだ」
「失敗から生まれた作品だったんですねー」
真由の家の家庭用エスプレッソマシンを使い、ずっとラテアートの練習をした。真由とはとことん話し続けた。大会は午前中から行われるため、僕らは早めに就寝する。
この家のベッドもなかなか寝心地が良かった。僕の隣では璃子が可愛い寝顔を見せながらスヤスヤと眠っている。真由は進級が決まっていたこともあって学校を休むらしい。
翌日、早めに起きた僕は璃子と共に、東京のJLAC会場に着いた。
しかも僕の地元岐阜からは唯と柚子とリサが、大阪からは拓也が来てくれた。東京からも美羽が駆けつける。僕が会場で休んでいる間、みんなが集まってきて初対面の者同士が挨拶を交わす。つまりここで知り合った人は、全員僕を通して出会ったことになるのか。
「へぇ~、それがあず君がいっつも来てる制服か~。めっちゃ可愛いやん」
「ありがとう。拓也はさ、男がこういう格好してても違和感とかないの?」
「俺そういう固定観念とかないから、別に違和感ないで。誰かにとって似合う色よりも、自分で選んだ色の方がええに決まってるやん」
「拓也~」
嬉しくなったのか、満面の笑みで顔を赤らめながら彼の名前を可愛く呼ぶ。
こんなことを言われたのは初めてだ。
「とっても嬉しそうですね」
唯が不機嫌そうに僕の左腕に抱きつき、注意を惹きつけながら呟く。
「どうしたの?」
「何でもないです」
「あっ、もしかしてあず君に嫉妬してるとか~?」
「そっ、そんなことないですっ!」
「自分以外の人に乙女みたいな笑顔を見せるなって顔に書いてあるよ~」
「気のせいです」
唯も美羽も知り合ってから長いのか、すっかり砕けた口調で話している。
当日参加を表明するべく、最終登録を済ませてからみんなに見送られ、出番を待つことに。僕の出番が近づくと、ステージに顔を出した。見渡す限りたくさんの人がステージ上で競技中のバリスタに注目している。観客席には知っている顔が何人も並んでいた。
競技は予選と同じく、8分間に合計6杯のラテアートを描くのだが、これがまた大変だ。本当にあっという間で考えている余裕なんてない。だから無心になってやらないといけないと思った。スピード勝負は以前の大会で慣れてるから、喋る量は必要最低限にすればいけそうだ。決勝は1人が終わる毎に点数が発表され、毎回暫定チャンピオンが決まる形式だ。つまり誰も僕の点数を上回らなければ優勝だ。
僕はファイナリスト10人中の4番目に競技を行うことになり、出番が近づくと、璃子と共に作業ステーションの設置とリハーサルを行い、準備時間が過ぎたところで司会者に呼ばれた。
「それでは次の競技者です。第4競技者、葉月梓バリスタです」
今まではどのバリスタよりも拍手の音が大きかった。しかも僕の時だけ異様に観客が多い。まさか身内以外にも、僕の競技を見るためだけに来ている人がいるのか?
どうしよう。緊張してきた。こんなにも大勢の日本人と会うのは久しぶりだ。だがこうなる道を選んだのは他でもない僕だし、今はあいつらを無視して競技に集中するべきだ。
「それではご自身のタイミングで始めてください」
黙ったまま司会者の方向へ頭を縦に振り、自分を落ち着かせようと深呼吸をする。
「タイム。今回のテーマは花。イラストに書かれている通り、カプチーノでチューリップ、マキアートで薔薇を、デザインカプチーノでは桜を描こうと思う」
右手を上げて競技が始まると、無心になって動き始める。
基本的には予選と変わらないが、人が多い分緊迫している。
目の前にいるジャッジは無視してひたすらラテアートに集中する――。
こういう時は『スピード』と『テクニック』のバランスが大事だ。スピードを重視すれば下手なラテアートになってしまう。テクニックを重視すればタイムオーバーの危険性がある。だがこの課題を乗り越えなければ、世界相手にはまず勝てないだろう。
ダブルショットのエスプレッソを2杯作り、その後でスチームミルクを作ると、迅速かつ正確にチューリップを描いていくと、あっという間に左右対称のチューリップが2杯分出来上がった。
ジャッジに提供すると、今度はマキアートを淹れ始める。
小さめのコーヒーカップに針に糸を通すような感覚で薔薇を細かく描き始める。
もはや何も聞こえなくなるほどに――。
これを提供し終えると、デザインカプチーノを描き始める。途中までカプチーノと同じ手順だ。左手でコーヒーカップを持ち、右手に持っているミルクピッチャーからスチームミルクを注ぐ。この時ペンスティックで描き足すことを想定した描き方が求められる。フリーポアが終わると、そこからはペンスティックで描くのだが、この時は特に絵のセンスや手先の細かさが求められる。
以前出た大会よりも制限時間が短いが、エッチングの最適化に尽力したことでどうにか間に合った。
ラテアートを崩さずに済むギリギリのスピードで6杯のドリンクを完成させた。
「タイム」
競技が終了すると同時に、歓声と拍手が鳴り響いた。
「第4競技者、葉月梓バリスタでしたー」
ここからは毎回恒例のインタビューを終わらせた。誰かが競技を終える度に暫定1位のみが発表されていき、点数などは一切発表されない。僕はこの時点で暫定1位と発表される。
結果発表の時間までは観客席で待つことに。
「ええもん見せてもらったわー」
「あんなに早いのに凄く綺麗なラテアートを描けるんですねー」
「あず君ですから」
「他のバリスタも凄いけど、やっぱあず君が頭1つ抜けてる感じかなー」
僕らはしばらくの間、雑談をしながら後続のバリスタの競技を見る。
神戸予選で一緒になった人も何人か参加していたが、名前を知っている人は1人もいなかった。僕以外にもJBC経験者も何人かいた。
やっぱ出たくなるよな。バリスタ競技会は、普段は存在感の薄い多くのバリスタが活躍できる数少ない機会だ。バリスタの地位が上がっていけば、アスリートの大会くらい観客が集まるかもしれない。
観客席に座っていると、唯が僕の左腕に抱きついてくる。
「拓也さんと真由さんと凄く仲良しそうにしてましたね」
「まあな。あの2人に対しては日本人恐怖症が強く出なかった」
「でも理由は分からないんですよね?」
「うん。帰ったら考察してみる。日本人恐怖症を治すヒントが隠されてるかもしれないからさ」
「私にもできることがあったら言ってくださいね」
唯は笑顔で僕にくっつき、ゆるふわで良い匂いのする色の薄い茶髪を僕の肩に添えてくる。
――近い近い、でも悪くない。唯に抱かれていると、何だか凄く落ち着く。
他のバリスタは焦りが裏目に出たのか、タイムオーバーになる人が相次いでいた。1秒毎に1点の減点であるため、迂闊な遅れがそのまま点数に響く。競技としての完成度は高い。
全員の競技が終わると、ファイナリスト全員が司会に呼ばれ、暫定1位をずっと保ち続けた僕と最後の競技者の2人が並べられる。通常であればジャッジが真ん中に入り、2人の両腕を掴み勝った方の腕を上げる演出があるのだが、僕が日本人恐怖症であることを知っていたのか、僕が競技を行ってからはこの演出は行われず、名前を発表するのみとなった。
「それではこの2人から優勝が発表されます。優勝は――」
太鼓の細かい音響演出と共に、観客席から注目が集まる。
「葉月梓バリスタです!」
会場からは惜しみない声援と拍手が送られ、観客席では唯と美羽が抱き合った。
真由と拓也が仲良しそうにハイタッチを決めた。
「良しっ!」
目立たないよう、小さくガッツポーズを決める。
結局、僕の点数を上回る者が出てこなかった。JLACは僕の優勝で幕を閉じた。
こうして、僕は6月にケルンで開催されるワールドラテアートチャンピオンシップ、略してWLACに日本代表として参加することになった。
大会がお開きになると、唯たちが僕の周りに集まってくる。
「ホンマすげえな」
「まあな。今回は運が良かった」
「ラテアートがあんなに奥深いとは思わんかったわ」
「スピードもテクニックも求められるからな」
「世界大会も応援してるで。今度はケルンか。あず君を見てると、なんか不思議とな、見守りたくなってくるわ。あず君の将来が楽しみや」
「まず自分を将来を考えような」
「ぐさっ! それをゆうなや……あず君ってホンマ色んなことができるよなー。俺も何かしら取り柄があったらええんやけどな」
拓也が笑いながらノリツッコミをしてくる。
こんなに人から褒められたのは初めてだ。拓也が僕の家に泊まっていた時の話だが、拓也は自分でも気づかなかった僕の長所をさりげなく教えてくれるところがあり、今までずっと普通だと思っていた感覚に変化が現れた。僕にも凄いところはあったんだと、改めて気づかされた。
僕にとってコーヒーを淹れる技術は当たり前だが、拓也が言うには、これは特別な才能らしい。拓也は僕がピアノや料理やスイーツや裁縫の技術を持っていることも知っていた。大半の人は1つか2つくらいしかスキルを持っていないらしい。拓也のお陰で自分の立ち位置をようやく理解する。
頭脳戦や手先の細かい作業なら得意だが、力仕事や協調性を必要とする作業は苦手だ。
今までずっと苦手ばかりを指摘されて生きてきた。
ここまで僕の長所を取り上げてくれた時は、何だか報われた気がした。
「ねえ、後で美月の家で祝勝会やらない?」
「おー、それええやん。あず君も一緒に行こうや」
「うん、いいよ」
「あたしが誘った時は渋々だったのに、拓也君が誘った時は二つ返事なんだ」
美羽がジト目で僕を見つめ、不機嫌そうに僕の言動を指摘する。
「美羽さん、もしかして嫉妬ですか?」
「しっ、嫉妬なわけないでしょっ!」
「ふーん、だといいですけど」
今度は唯が美羽を嘲笑うようにからかっている。まるでお互いを牽制し合うかのように。
凱旋をするように東京の街を散策した。僕は雑談しながら楽しんでいた。美羽はコーヒーサークルの仲間を集めると、僕のために祝勝会を開いてくれた。もはやコーヒーサークルというよりは、僕のファンクラブと言った方がいいかもしれない。祝勝会はコーヒーサークルのメンバーでもある美月の家で行われることに。彼女の家は3階まである一軒家で、一般的な家よりもずっと大きい。
リビングに至っては美羽の家よりも広かった。コーヒーサークルの連中もこの大会に参加していたらしいが、誰1人として予選抜けはできなかった。僕の一行とコーヒーサークルの連中に穂岐山社長たちを合わせて20人を超えていた。もはやホームパーティと言っていいほどだ。
祝勝会が始まると、すぐに酒を飲み酔い始めた者もいた。
本当はみんな飲みたいだけなんじゃねえのか?
毎回の如く端っこのテーブルの角に陣取り、夕食代わりに料理を皿に盛り食べ始める。元々はここで誰が優勝しても祝うつもりだったのか、既に料理がバイキング形式で用意されていた。
「あの、どうやったらあんなに素早くて正確で繊細なラテアートが描けるんですか?」
美月が僕にラテアートのコツを尋ねた。
「……練習だ」
「シンプルですね」
「実際その通りだからな。大会の前は寝食を忘れて練習に没頭してたし、時間制限とか考えずにできるまで徹底してやってた」
「練習量では確実に勝ってるということですね」
「そうだな。1つ気になるんだけど、美月の親って、まさか――」
「はい。私の父はジャパンスペシャルティコーヒー協会の会長です」
その時、自分の中にあった推測が確信へと変わった。
――そんなことだろうと思ったよ。
美月の家には業務用のエスプレッソマシンの他、バリスタに向けた様々な設備が揃っており、その全てが最新式と呼べる代物であった。
「やあ、優勝おめでとう」
不意に真後ろから野太い声で、50代くらいの中年らしき男に声をかけられる。
「――! こっ! 来ないでっ!」
咄嗟に璃子の後ろに隠れた。
「お父さん! あず君は日本人恐怖症なんだから!」
「あー、すまんすまん。ビックリさせちゃったね」
「「お父さん?」」
「はい……うちの父です」
「私は真白銀一郎。美月がいつもお世話になってるみたいだね」
「世話になったっけ?」
世話になった記憶が本当にないため、首を傾げながら美月に聞いた。
「お兄ちゃん、そこ疑問持つところじゃないから」
「そうなの?」
「ハハッ、面白い兄妹だ。君たちのことは穂岐山さんから聞いているよ。さっきの決勝の競技は見事なものだった。優秀なバリスタを世界各国で見てきたが、君は日本のバリスタの中でも群を抜いている。君の今後の活躍に期待してるよ。良ければうちの娘とつき合ってやってくれ。今は彼氏募集中なんだ」
「もう、お父さん! そういうことは言わなくていいからっ!」
美月があからさまに嫌な顔をしながら真白会長を注意する。
これはデリカシーを教わらないまま成長してきたパターンだな。
「でも募集中って言ってただろ?」
「今言うことじゃないからぁー!」
「梓君はなかなか良い男だと思うぞー」
「もうっ! お父さんなんか知らないっ!」
美月は顔を赤くしながらこの場を去って行く。
「美月は恥ずかしがり屋なところがあってな、なかなか素直になれないんだ。悪いな。じゃあ私はこれで失礼するよ。世界大会も頑張ってね」
真白会長は言葉を残すと、美月を追うために去っていく。会場を見渡すと、僕がいる場所から間反対の角で拓也が美羽たちと話している。バイキング料理を食べながら璃子と話した。
「拓也ってずっと美羽と話してるよな」
「多分一目惚れだと思う。拓也さんって私にも美羽さんのことを聞いてきたし、完全に惚れてるね」
「なるほど、でも何で美羽なんだろうな」
「美羽さんはルックスもスタイルも性格も良いし、私から見てもカッコ良い大人の女性って感じだし、無理ないんじゃないかな?」
「僕には美羽の良さなんて全然分からないけど、他の男にはモテるんだな」
「本来ああいう人から好かれるっていうのは、ありがたいことなんだよ。それなのにお兄ちゃんってば全然人に興味を示さないんだから、本当に勿体ないと思う」
「そういうもんか?」
「そうだよ。交際する気がないなら、早めに断った方がいいと思うよ。私の見立てだと、美羽さんは結構引き摺るタイプだから」
「僕も引き摺る方だ」
腹八分目まで食べると、高い天井と豪華な明かりを見渡しながら、拓也がいる方向へと歩いた。
拓也は無慈悲にも、職業を聞かれているところだった。
恥じることなく、赤裸々に語る拓也。
「まあそういうわけで、ずっとニートなんよ」
「へぇ~、そうなんですねー」
明らかに冷めた反応をされている。残念ながら日本ではニートの人権は認められていない。
拓也に気づかれないまま、僕は拓也たちのやり取りを聞くのだった。
気に入っていただければ、
ブクマや評価をお願いします。
真白銀一郎(CV:石塚運昇)