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社会不適合者が凄腕のバリスタになっていた件  作者: エスティ
第4章 有名バリスタ編
73/500

73杯目「雇われる身内」

 長かった2008年がようやく終わり、2009年の正月を迎える。


 既に社会に出ている親戚たちはリーマンショックによる不況の影響で仕事がうまくいかず、僕を叱る元気さえ失っていた。璃子は修業の成果もあってメジャーな洋菓子を作れるようになっていた。


 ショコラティエというよりはパティシエにも思えたが、これが遠回りなようで、実は近道なのかもしれない。僕も料理やスイーツは作れるが、プロには流石に勝てない。


 誰にも負けない自信があるのは、世界一美味いコーヒーを淹れる技術だけだ。


 去年の内にJLAC(ジェイラック)の参加登録を済ませていた。


 新たな大会が追加されるのは願ってもないことだ。大会の種類が増えれば、コーヒー業界の認知度も上がり、多くの次世代バリスタが輩出される良いきっかけになる。起爆剤としては十分だ。


 後は予選が行われる日を確認してから日程を調整するのみ。


 元日、僕がしばらく留守番をしていると、璃子が他の親戚を引き連れて戻ってくる。


 この時は午後5時、吉樹、柚子、リサたち4人がいた。


 みんながカウンター席に着くと、リサが話しかけてくる――。


「あず君、去年はお店の調子どうだったの?」

「前半は不調だったけど、後半は好調だったってとこかな」

「実はね。あたしの同級生があず君に会いたがってるの」

「ファンサービスならお断りだぞ」

「そうじゃなくて、真剣交際してほしいって話」

「今は店に集中したいんだけど」


 リサが言うには、相手はリサの大学の先輩であり、リサが僕の親族であることを知ると、僕とのお見合いを懇願してきたとのこと。先輩と後輩の関係ということもあり、断ろうにも断れなかったらしい。相手は卒業していて会社員であるとのこと。だが僕はお構いなく断った。


「リサ、あず君の病気忘れてない?」

「忘れたわけじゃないけど、それでもあず君が好きっていう同級生が多いの。しかもその人、同じ大学の先輩で、憧れてる人も多いからさー、このままだとサークルにいられなくなっちゃうよぉー」

「それくらいでいられなくなるような場所なんて、最初から居場所じゃねえよ。サークルにいられないんだったらさ、うちでガッツリ働けるじゃん」

「はぁ~、しょうがないか」


 この後、リサはサークルに居られなくなった。しかも大輔や優太までもが、同級生や元同僚から僕に紹介するよう頻繁に言われるように。これが有名税というやつか。しかも僕の親戚が払わされている。


 日本人恐怖症を公表しなかったら、多分僕が払わされていた。鈴鹿との約束を果たすため、お金が貯まったら、もっと広い店舗に引っ越し、グランドピアノが置けるようにしようと考えた。


「僕もあず君に紹介してって言う人いたなー」

「それあたしも」

「僕もだよ。あず君のことをただのシャイだと思ってる」

「あたしだけじゃなかったんだ」

「私も友達に言われたけど、吉樹はどう?」

「僕も友達からあず君を紹介してって言われたけど、あず君の病気を知ってるから断っといたよ」


 みんな良心的じゃねえか。本当に良い親戚を持った。誰1人として僕を売った人はいなかった。


 顔に笑みを浮かべながら、インスタントコーヒーで淹れたカプチーノを淹れた。


 年末年始は店の営業はしないため、商品の代わりに出している。JLAC(ジェイラック)が近いことから、みんなカプチーノを注文してくれた。


「少しでもあず君が結果を残せるように協力させてもらうね」

「ありがとう。助かるよ」

「その大会ってシングルショットで淹れるの?」

「いや、ルール説明を見た限りだと、ダブルショットでも問題ない。より複雑なラテアートを描きやすいダブルショットで挑もうと思ってる」


 そんなことを説明しながら、ラテアートを描いていく。


 以前は話しながらエスプレッソを淹れることさえできなかったが、マルチタスクの訓練によって話しながらラテアートを描くことができた。みんな僕がラテアートを描くのに夢中だ。


 ずっと目を釘づけにしながら様子を見守っている。


「あず君、僕にも教えてくれないかな?」


 吉樹が勇気を振り絞ったように、ラテアートへの入門を申請する。


 ――いつもは消極的なのに珍しいな。


「いいぞ。じゃあこっちに来てやってみろ」


 ラテアートはまずミルクピッチャーに牛乳を投入し、エスプレッソマシンに付属しているスチームノズルを入れて温め、スチームミルクにする。1回目は少し回すようにスチームミルクをエスプレッソに投入した後、2回目からの投入は牛乳がエスプレッソに浮き出すのだ。


 この原理を利用したのがラテアートだ。


「あれっ! 全然うまくいかないや」

「1回目でエスプレッソと牛乳を上手く混ざり合うようにすれば、2回目で牛乳の絵が浮き出す。その時に手早く正確に描く。こんな感じ」


 スチームミルクを作り、ミルクピッチャーを何度かキッチンテーブルの上に音を鳴らしながら置く。吉樹の近くでなるべくゆっくり描いてみせる。


「うわー、凄い。これハートだよね?」

「その通り。ラテアートの基本はハートとリーフだ。まずはこの2つができるようなれば、他のラテアートも描けるようになるぞ」

「分かった。やってみる」


 吉樹はしばらく練習を続けるが――。


「ああっ! またエスプレッソと牛乳が混ざっちゃったー」

「あず君のはずっと見てられるけど、吉樹のはラテアート以前の問題な気がする」

「みんな最初はこういうもんだ」

「あず君はどうだったの?」

「見よう見まねでハートのチューリップを最初の一発で成功させてからは大きなミスはしてないかな」

「……やっぱり才能の差、あると思うよ」

「才能の部分もあると思うけど、ラテアートの大会で優勝できたのは努力の部分が大きいと思ってる。努力をするには才能が必要だけど、才能を伸ばすには努力が必要だから、才能と努力は相反するものじゃないと思ってる。結局は今までの積み重ねだ」


 話を聞いた吉樹は安心したのか、また練習を始める。ドーシングやタンピングは去年の内に教えておいたこともあり、教えるのはスチーマーの使い方やラテアートのコツだけである。


 そして――。


「できたっ!」

「「「「「おおーっ」」」」」


 吉樹に対して惜しみない拍手が送られる。少し形は悪いけど、どうにかハートが完成した。吉樹にとっては初めて成功させたラテアートだ。


「いやー、楽しかったなー。あず君の店で働いたら毎回これできるんだよね?」

「まあカプチーノはラテアートができなくても、エスプレッソとスチームミルクが組み合わさっていれば商品として成り立つけど、できるまでは客がいない時にインスタントコーヒーで練習だな」

「やっぱりそうなるよねー」

「うちとしては立派なラテアートが描けない人にカプチーノは任せられない。後は璃子に聞いて、どうにかコツを掴んでくれ」

「何で私に丸投げするのっ!?」

「璃子の方が教えるの得意だろ」


 璃子は簡単なものであれば、立派な形のラテアートが描ける。


 店の営業が再開されれば、またラッシュの嵐がやってくるだろう。


 ワールドバリスタチャンピオンは忙しいのだ。店をやっていれば必ず人気店になると、以前他のバリスタから聞いたことがあるし、あの噂は本当だったようだ。


 1月最初の営業日がやってくる。


 この時はまだ大学が冬休みだったためか、リサと柚子がうちに来てくれた。


 手続きを済ませると、リサと柚子を雇うことに。璃子は去年の4月から働けるようになり、その時から雇った状態である。あの時は廃業の危機だったし、給料はほとんど出せなかったが、店が好調になってからはしっかりと給料を出すことができた。


 ――うちの営業時間は午前12時から午後6時までのたった6時間だ。


 学校がない時はフルタイムで働いてもらう。


 12時になる少し前に来てもらってから着替え、接客やエスプレッソマシンの使い方を一通り覚えてもらい、いずれもマスターしたら料理を担当させ、身につけたスキルに伴い、出来高も上がる。


 出来高を採用したのには理由がある。


 僕は時給制の仕事が大嫌いだ。時給は仕事ができる人ほど損をする。


 1時間に標準速度で仕事をするA君、A君の2倍の速度で仕事をするB君、A君の半分の速度で仕事をするC君がいたとする。この場合、A君が1時間で800円の時給とするならば、他も同じ場合はB君の時給は400円となり、C君の時給は1600円となる。


 もし無条件に全員の時給を同じにしてしまえば、仕事ができる人ほど時給が下がる仕組みになってしまうのだ。この不公平をなくしたいのであれば、仕事の質が高い者は出来高を追加するか、早退させた上でフルタイム扱いにし、仕事の質が低い者は時給を下げるといった工夫が必要である。


 そういったケアもなしに、時給の仕事は絶対にしたくない。


 考えのない時給制は未熟な社会主義と同義である。


 みんなにはこれを説明し、納得させた上で働いてもらっている。


「あず君ってほんっとうにそういうところ理屈っぽいよね」

「僕は合理的に事を進めないと気が済まない。成人しても感情論しか語れないチンパンジーとは違う」

「日本人規制法は合理的なのかな?」

「――結論から言えば合理的だ。そもそもあいつらが来たら商売にならないし、これのお陰で金華珈琲が助かった実績もあるし、うまく住み分けができてる」

「あー言えばこーゆー」


 璃子が無表情のまま、僕の言動を遠回しに揶揄する。


「金華珈琲って倒産するところだったの?」

「早ければ去年の内に閉店するかもしれないって親父が言ってたからな」

「じゃあ日本人規制法がなかったら……葉月珈琲だけが栄えて、金華珈琲は潰れてたかもしれないんだ。何だか皮肉な話だねー」

「あいつらの迫害が回り回って金華珈琲を救ったことになるな。そこまで計算尽くだったと言えるなら大した策略家だけど」

「流石にそれはないでしょ」


 リサが若干引いた顔で僕にツッコミを入れる。


 営業時間が目前に迫ると、2人とも初めての営業なのか、緊張を隠せなくなる。


「みんな外で行列作ってるね」

「あたしが来た時にはもう行列ができてたからねー」

「僕はもう見慣れたけどな」

「人気者だねー。動画とかも好調なんでしょ?」

「そうだな。WBC(ダブリュービーシー)で優勝してからはチャンネル登録者が一気に増えて、しかも登録者自身が来るようになった」

「じゃあみんな流行に乗っかってるってことなのかなー」

「それもあると思うけど、みんなあず君に肖りたいんだと思う。あず君のお店でコーヒーを飲んだことを自分の国の人たちに自慢したいって言うのが、1番の理由じゃないかな?」

「その自慢につられて、客が客を呼んでくれるから、僕としては大助かりだ。最近は葉月商店街にもうちが目的でやってきた外国人が立ち寄るようになったし、もしかしたら柚子が望んでいる岐阜の復興ができるかもしれないな」

「そうなのっ!? だったら俄然頑張るっきゃないね」

「あっ、もう12時になるよ」


 正午を迎え、璃子が葉月珈琲の扉を開けると、雪崩れ込むように外国人観光客が押し寄せた。店内はあっという間に満席になり、外ではまだまだ多くの客が冬の寒さを厚着で耐え忍びながら行列を作っている。外にいる日本人はその光景を見守りながら立ち去るしかなかった。


 リサと柚子が接客を担当し、僕と璃子は注文の品を作り始める。注文が増えてくると、僕はコーヒーを淹れる作業に没頭するため、柚子を料理に駆り出す。


 エスプレッソとカプチーノは璃子に任せ、ペーパードリップでコーヒーを淹れる。


「――凄いねー。噂通り雑味ゼロ。流石はアズサだ」

「ありがとう。ずっとコーヒーを淹れ続けた甲斐があったよ」

「この前来た時よりも店員が増えてるね」

「そうだな。僕がWBC(ダブリュービーシー)で優勝してからはずっとラッシュ続きだ。店としては嬉しいけど、外では度々有名人扱いされるからさー、何だかあの日から一般人としての自分が完全に消失したような感じがするというか、まるで日常を失った気分だ」

「有名人扱いされるってことは、それだけ評価されてるってことだぜ。1番駄目なのは、存在すら認識されないことだ。俺たちを含めた多くのバリスタは、みんなお前みたいにスポットライトを浴びることを夢見て、日々殺風景極まりないカフェの光景に耐えてるんだぜ。その悩みは贅沢だと思うなぁ~」


 フランス語の会話が続き、ようやく自分が選ばれし者であるという自覚をする。


 この時にはフランス語を習得していた。イタリア語と同様に日常会話くらいしか話せないが、話が通じればそれで十分だ。皮肉にも日本人規制法が元で外国語を使う機会が大幅に増えたことにより、イタリア語もフランス語も習得することができたのだ。以前からはドイツ系の客も増え始めたため、ドイツ語の勉強もするようになる。一応英語でも通じないことはないが、より本音を引き出すには彼らの母国語に合わせた方がより確実だし、言語は得意であったため、苦痛ではなかった。


 ――外国人観光客は物事の本質をよく知っている。


 客層の多くがバリスタやコーヒーファンで占められていた。うちに来るためだけに、店を休んで遠い距離を移動してまで来てくれているのだ。たとえ満席であっても手は抜かなかった。この人たちに対して、いい加減なものは絶対に出せない。


 僕は労働者としてのバリスタではなく、職人としてのバリスタなのだから。


 1月中旬、リサも柚子も業務に慣れてくる。


 営業中にゲイシャのコーヒーが送られてくる。ブリランテ・フトゥロ農園の他、ゲイシャ種を扱っている数箇所のコーヒー農園と取引をするようになった。


 WBC(ダブリュービーシー)が終わってからというもの、世界中のコーヒー農園の関係者が僕に声をかけてきたのだ。その後日本に帰国してから様々な条件で契約を持ちかけられた。中にはゲイシャ種を扱っているコーヒー農園もいくつかあった。ブリランテ・フトゥロ農園の成功によって、他のコーヒー農園も自分たちのゲイシャのコーヒーを僕に使ってもらえれば、有名になれると思ったらしい。


 僕がコロンビアゲイシャのコーヒー豆を受け取ると、璃子、リサ、柚子が集まってくる。


「これがゲイシャなの?」

「うん。何種類かあるけど、まだ未知の味だし、店が終わってから試飲しようかな。これはコロンビアゲイシャ。なかなか手に入らない代物だ」

「あず君、私たちも飲んでいいかな?」

「1杯だけならいいぞ。丁度4人だから4ショット分あれば十分だな」


 店の営業が終わると、早速コロンビアゲイシャを開封する。


 うん、凄く良い花の香りだ。ゲイシャ特有のフレグランスだ。


 ポルタフィルターを2つ使い、4ショット分のエスプレッソを淹れる。


「「「「!」」」」


 ……美味い。味がクリーンで飲みやすいし、しっかりした力強さにボディ感もある。シトラスやジャスミンを思わせる華やかなフレーバー、フルーティで丸みのある柔らかな甘味。


 パナマゲイシャとはまた違った味わいだ。


 産地によって味が違うと聞いてはいたが、これほどまでとは。


「これ美味しい!」


 柚子が驚きを隠せない様子だ。柚子もコーヒーの目利きが良いのか、風味がすぐに分かったようだ。


「なんか甘い味の花を飲んでるみたい」

「またとんでもないコーヒーを買ったね」

「この風味は覚えておいて損はない。やっぱり世界は広い」

「フリオからも届いてるんだよね?」

「あー、これか。僕が大会で使ってた豆だ。こっちは割と多めにあるから、期間限定でシグネチャーとして売り出せば、今年中には親戚からの借金を返しきれるんじゃねえかな」

「私もずっと気になってたの。シグネチャーの味。ベルガモットとマーマレードのフレーバーに、チョコレートとキャラメルのアフターテイストなんだよね?」

「うん。ただそれには2種類のシロップが必要でさ、両方共甘さ控えめのものを選んで調整を施さないとあの味にはならない。それにしばらくは大会だから、販売するにしても、少し後になるかも」

「……それまで待ってる」


 柚子は顔をニッコリさせながらも、僕を急かさないよう配慮した柔らかい口調で、気長に待つことを宣言する。本当はもっと早く飲みたくてたまらないはずだ。


 一般的に知られていないコーヒーにも詳しいくらいだ。


 動画でWBC(ダブリュービーシー)で使ったコーヒーのレシピを全部公開した。誰かがもっと研究が進めてくれれば、もっと美味いコーヒーを淹れられる気がした。これがあっという間に10万再生を超えた。店舗チャンネル登録者数は50万人を超え、返しきれないほどコメントされるようになった。


 日本人の視聴者も何人かいた。店に行けないのが残念というコメントもあった。


 ――ごめんね……弱い人間で。


 外国人の視聴者にも、僕の日本人恐怖症は徐々に知られていった。


 別に隠すようなことではないから構わないのだが、曲解した意見が支配的になると面倒だし、聞かれた時は詳細に話すようにしている。差別主義者と非難するコメントもあったが、大半は僕を擁護するコメントだったのが幸いだ。理由もそれなりに知られていたらしい。


 時は流れ、2月を迎えた。璃子を連れてJLAC(ジェイラック)神戸予選に参加することに。大会の前日は現地で泊まることにしている。基本的にこの手の大会は午前から始まることが多いから、当日家から出たらとても間に合わない。


 神戸行きの電車に乗った時、親から1通のメールが来る。


 うちの大叔母が死んでしまったのだ。


 お袋の伯母にあたり、親戚の集会の時にも時々参加していた人だ。今年の正月は具合が悪いという理由で欠席していたけど、まさかそこまで深刻化していたとは。


『おじいちゃんの妹さんが死んでしまったの!』

『それは大変だな』

『あず君、悪いんだけど明日葬式だから、すぐに出てくれない?』

『無理だ。明日は大会だぞ!』

『大会と葬式とどっちが大事なの?』

『大会に決まってるだろ。死人の立場で考えてみろよ』


 葬式に来いと言われたが、大会が終わってから行くとメールを送る。


 僕が死人の立場だったら、競技に参加している身内には、絶対に途中棄権してほしくない。競技に参加するというのは、他に参加するはずだった人からチャンスを奪う行為だ。


 だからこそ、参加者は参加できなかった人の分も大会を全うしないといけないと思うし、決勝の舞台であれば尚更だ。途中棄権するのは、運営側や参加できなかった人に対する侮辱だ。ましてや自分が死んだせいで身内が参加するチャンスを奪ったら、死んでも死にきれないと思う。


 おじいちゃんがそんなことを言っていた最期の場面を思い出す。僕がおじいちゃんの立場でも、きっと同じことを言っていたに違いない。自分のために誰かが犠牲になるのは真っ平御免だ。


 たとえ身内が倒れたとしても、大会を全うしてから死に目に会いに行ったり、葬式に行くべきというのが僕の持論になった。ここだけは絶対に譲れない。


 僕はおじいちゃんの遺言に従い、大会を優先するのだった。

気に入っていただければ、

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