71杯目「大いなる約束」
お待たせしました。
第4章の始まりです。
自宅のパソコンでジャパンスペシャルティコーヒー協会のホームページを閲覧する。
マスターの言うことが本当なら次の目標がそこにあると思った。更新されたホームページを見ると、そこには見知らぬ大会名が記載されていた。
「おっ、新しい大会がある」
「また大会に出るの?」
「うん。11月から参加登録募集だから、忘れないようにしないと」
募集日を忘れないよう、11月のカレンダーに記載する――。
カレンダーには当日何をするかなどの予定が大雑把に記されている。休業日以外で店の営業ができない日は罰印がついている。主な理由はバリスタ競技会や買い出しの日である。
新たなバリスタ競技会の開催が決まった。
ジャパンラテアートチャンピオンシップ、略してJLACに応募したのだ。協会のホームページを見ると、この新しい大会が追加されていた。バリスタチャンピオンの次はラテアートチャンピオンだ。早速ラテアートの練習を始めなければと意気込んだ。
とは言っても、カプチーノが注文される度にラテアートを描いていたため、常に練習をしているようなものだったが。特に嬉しいのはプレゼンがいらないことだ。厳密に言えば、何を描くかぐらいは明言しないといけないのだが、あんまり喋らなくてもいいのは嬉しい限りだ。
10月下旬、雨が降り続けた平日のことだった。
雨のせいか、早めにラッシュが終わり、客足が減ったところで唯がやってくる。
「カプチーノ1つお願いします」
「分かった。ちょっと待っててくれ」
「あず君がJLACに出場するってお父さんから聞いているので、大会が終わるまではカプチーノを注文し続けますね」
「そんなに気を使わなくても、その日の気分とかで決めてもいいんだぞ」
「はい。当分の間、あず君のラテアートの練習をサポートしたい気分です。なので心配はいりません。あず君が表紙を飾ってるバリスタマガジン、読みましたよ。表紙は可愛いのに、特集の内容がカッコ良くてギャップ萌えしちゃいました」
もう読んでくれたんだと感心する。金華珈琲のマスターも読んでくれてたし、普段ならバリスタマガジンを全然買わないような人たちも、僕が表紙に載った刊だけを買っており、うちの常連1人につき1つずつ持っているレベルで、今を時めく話題の必須アイテムと化していた。
まるで聖書だ。これほどの影響力とは。
「――僕が優勝できたのはゲイシャのお陰なんだけどな」
「ゲイシャのお陰?」
「うん。ゲイシャはずば抜けて美味い豆だ。でも他のバリスタはゲイシャを使ってなかった。つまり僕1人だけがチートを使って勝ったような状態ってことだ。もしみんなが挙ってゲイシャを掻き集めて使っていたら……どうなっていたことやら」
自らの実力不足とも言える部分を唯に話した。
唯になら他の人には言えないようなことを何でも言える気がした。うちの店が流行ってる時も流行ってない時も、いつでも来てくれたのが嬉しかったし、成長する唯の姿を見るのが楽しみになってきた。
「あず君なら、それでも優勝できたと思いますよ」
「そうかな?」
「プレゼンにも作業工程にも無駄がなかったですし、話す量も他の人よりずっと多かったと思います。参加者の多くがゲイシャとかを使うようになった時に、また優勝すればいいんですよ。そうすれば実力の証明になるんじゃないんですか?」
「あれをもう一度やるのか」
上を向いて困った顔をしながら嘆いた。ここから窓越しの向かい側に見えるカフェには人がほとんどいない様子だった。雨だからというのもあるんだろうが、うちは雨の日でも安定して客が来てくれているのだ。どうやらこの売り上げ勝負はこっちに分があるようだ。
今まで散々客を吸い取り、廃業寸前の一因となったカフェを見つめながらドヤ顔になる。
「そういえば、あず君が紹介していたコーヒー農園はどうなったんですか?」
「あー、あれね。僕が優勝してから注文が殺到してる。それも今までの価格を上回る値段で飛ぶように売れているらしい。だからもう今年分は輸入できないってさ。でも来年度の分を定期的に定価で売ってくれるってフリオが言ってたから、来年からまた飲めるようになると思うぞ」
「よかったじゃないですかー。やっと報われたんですね」
「――ああ、そうだな」
窓から空が見える所まで移動し曇り空を見上げた。空は真っ黒な雨雲ばかりでそこから雨がザーザーと降り、外では時々車が水溜まりを通る時に水飛沫を上げている。
――ファビオ、あんたが遺した農園の豆は飛ぶように売れているぞ。フリオも今じゃ立派に園長をやっているし、豆のレートは上がっていく一方だ。なんてったって……世界一に輝いた豆だからな。輸入業者たちも、みんなあんたの豆の価値を見直して、二度と安く買い叩かないと約束してくれた。
ようやくあんたの夢が叶ったな……。
――きっと……喜んでるよな?
「あず君?」
「えっ……」
唯に呼ばれて振り返る僕。その目からは涙が流れていた。
「! 涙出てますよ」
「……雨のせいだ」
泣きながらニコッと笑い、誤魔化しながら出そうな鼻水を啜る。
ファビオの夢が叶って嬉しかったから泣いていたのか、栄えているコーヒー農園を見せてやりたかった悔しさから泣いていたのかは分からない。
「ほら、あず君が泣いてたら他のお客さんが不安になります」
唯は僕に近づくと、持っているハンカチで僕の涙を拭き取った。
「ちょ! ちょっと! 何してんの!?」
「全然拭き取ろうともしないあず君が悪いんです」
「分かったから……もういい……唯、ありがとう――」
突然、唯が僕の体に抱き着き、肩に届いているくらいのゆるふわな色の薄い茶髪を押しつけてくる。
「あず君、ファビオさんはきっと喜んでます。だから元気出してください」
「別の意味で元気になりそうだよ」
「えっ、別の意味って何ですか?」
「唯にはまだ早いから内緒だ。ほらっ、分かったら席に戻れ」
「大丈夫ならいいんですけど――あず君……顔が赤くなってませんか?」
「き……気のせいだ」
いきなり抱きつかれてダブルマシュマロを押しつけられたら、そりゃ赤面するって。もちろん僕の息子は反応していた。やれやれ、女の扱いには全然慣れないし、気紛れすぎて行動が読めない。
しかし、唯は僕が何を考えていたのかがお見通しの様子。
唯は僕の心を揺さ振るだけ揺さ振り、勘定を済ませ、嵐のように去っていく。
数日後の日曜日、僕は鈴鹿がいる大型商業施設の見尾谷楽器店へと赴いた。
道中で何人かに、葉月梓さんですよねと声をかけられるが、一向に無視する。
あいつらに時間を割くために外に出てるわけじゃないんだ。この手の悩みは有名人にしか分からないんだろう。日本人を避けながら信号を渡り、大型商業施設に入るとゲーセンのうるさい音が耳に響き、化粧品コーナーからは嫌な臭いが漂ってくる。同様の理由で厚化粧の人には近寄りたくない。
「あず君、久しぶりっ! 優勝おめでとう! ふふふっ」
「お、おう……ありがとう」
「バリスタマガジンにも載るなんて、もう立派な有名人だね」
「有名にしたかったのは僕じゃなくて、うちの店なんだけどな」
「でも結果オーライでしょ。これじゃ当分はピアニストに誘えそうにないなー」
「まだ諦めてなかったのかよ。秘密は全部ばれた。全世界にな」
ふと、横を見ると、鈴鹿の弟のグランドピアノが未だに売れ残っている。
僕はこの年だけで頼れる巨塔を2つも失い、初めて寂しさというものを知った。
鈴鹿も弟を失った時はこんな気持ちだったのだろうか。
……だったらせめて、あのピアノに宿る鈴鹿の弟の遺志も継いでやりたい。
「鈴鹿」
「何?」
「あのピアノ、まだ売れてないのか?」
「うん、高いから……」
「わざと高くしてたりして」
「酷いなー、そんなことないのに」
哀愁の漂う黒いグランドピアノが僕の目の前にある。
壁にはバイオリンやギターが飾られており、床にはピアノやドラムセットも並べられているが、中でもあのピアノはどの楽器よりも自己主張が強い。鈴鹿の話を聞いた時から、あのピアノがずっと気になっていたのだが、今のうちの店は狭いし、とても置けそうにない。
「弟のピアノが気になるの?」
「うん。まるで僕に買えと言っているみたいだ」
「今のあず君なら買えるんじゃない?」
「置き場所がねえよ。だからさ、僕が店を成功させて、あのグランドピアノが余裕で入るくらいの広い店に引っ越したら……売ってくれないか?」
鈴鹿は驚きながらしばらく黙り込み、僕を見つめて立ち尽くす。
「……駄目ならいいんだ。悪かった――」
彼女に言葉を告げ、後ろを向いて立ち去ろうとする。
弟の遺産を事実上売り渡すことを拒まれているような気がした。
「待ってっ!」
すぐに鈴鹿が僕を呼び止める。僕は後ろを振り返り、寂しそうな顔の鈴鹿を見る。
彼女はどこか複雑そうな顔でもじもじしている。
「私の曲、聞いていってくれない?」
「……うん」
鈴鹿が告げると、グランドピアノに座り、楽譜も見ずに曲を弾き始める。そういえば鈴鹿の曲を聞くのは初めてだな。彼女が弾いていた曲はユーレイズミーアップだった。
歌手が歌った場合はとても情熱的な曲になるのだが、ピアノで、しかもスローペースで弾いていたために穏やかな曲のように思えた。しかしながら、サビの部分は音が早く激しくなる。
鈴鹿が曲を弾き終えるまで聞き続けた――。
それは澄んだ泉のように美しく、どこか寂しそうな音のように思えた。
弾く者の音が素直に表れる洗練されたグランドピアノ、決して新しくはないはずだが、調律が細部にまで行き届いていた。凄く大事にされてきたピアノであることを曲を通して理解する。
鈴鹿が最後は静かに曲を終える。拍手を送ると、後ろからも拍手の音が聞こえる。慌てて後ろを振り返る。気づけば多くの通行人が足を止め、ピアノの澄んだ音に夢中になっていたのだ。
幼気な顔のまま僕に近づき、静かに微笑んだ。
「これね、弟が1番好きだった曲なの。大怪我する前、最後に弾いていた曲もこれだった」
「……本当は鈴鹿に頼りたかったんじゃねえかな?」
「私もそう思う。迷惑はかけたくないって言ってたけど、急に死なれる方がずっと迷惑。だから一言学校に行きたくないって言ってほしかったな。社会不適合者でもいい、引き籠りでもいい……私は生きていてくれたら、それで十分だったから」
鈴鹿が涙声になりながらも話し始めた。きっと鈴鹿はこのピアノのお陰で立ち直れたんじゃないかと思う。とても買いたいなんて言えない代物だとは思うが、だったら何故売っているんだ?
「鈴鹿……そのピアノ……大事にしてるんだな」
「当たり前でしょ。弟の唯一の形見だから」
「じゃあ何で自宅に置かず、売り場に置いてるわけ?」
「……」
返事を渋るように鈴鹿が黙ると、僕は咄嗟に首を傾げた。
「何でかな……自分でもよく分からないけど、ずっとこれを弾いていたいと思う自分と、手放さないと前に進めないと思っている自分がいるの」
――鈴鹿は弟の死を乗り越えたがっている。
でもいざピアノを買おうと思う人が出てくると怖いから……こんなに高い値段になっているんじゃないのかな。まだ心の準備ができてないんだ。
「無理に寄越せとは言わない。でも手の届かない場所まで持っていこうってわけじゃない。いつでも会えるんだ。鈴鹿だったら、うちの店に来てもいいからさ、だから……その……少しでも手放したい気持ちがあるんだったら、考えておいてくれないか?」
買って奪い取るわけじゃない。鈴鹿が持つ迷いを断ち切りたかった。彼女はかつて、僕に1つの道を示してくれた。どうしようもなくなったらピアニストになるという道だ。
今度は僕が鈴鹿に1つの道を示そうと思った。最終的に決めるのは彼女だ。
「……分かった」
「どうするの?」
「あず君がこのピアノを置けるくらい広いお店を持つことができたら、私は『弟の遺志』をあなたに受け継がせようと思う。信用に足るかどうかはあなた次第。それでいいかな?」
「ああ……それでいい」
「これ、本当はもっと安いの……でも性能は保証するから。あず君がこれを受け取ってくれるまで、他の購入希望者には『売却済み』って伝えておくね」
「……」
「それと、時々あず君のお店にお邪魔させてもらうね。私、こう見えてコーヒーの味には人一倍うるさいの。ベルリンにいた時、美味しいコーヒーをたくさん飲んでいたから」
「上等だ。うちのコーヒーを飲んだらビックリするぞ。世界一のコーヒーだからな」
「ふふっ、楽しみにしてる。いつかあなたの美味しいコーヒーを飲みながらあなたの演奏が聞きたい」
「……いいけど」
鈴鹿が僕に抱きついてくる。肌からは温もりのようなものを感じた。
優しく、儚く、尊い温もりだったのか、抵抗することはなかった。
「! ……鈴鹿?」
「あず君……大好きっ!」
「……あのピアノ、必ず大事にするよ」
「そんなの当たり前、壊したら許さないんだから」
鈴鹿に抱かれたまま彼女と会話をする。この時のシニヨンヘアーがとても印象的だった。
日本人恐怖症を発症した理由が少し分かった気がする。ただのトラウマじゃない。僕自身が……あいつらから愛情を感じなくなってしまったことがそもそもの原因だ。僕に対する愛情を感じる人ほど、症状が弱くなっているんだ。特に密接な仲である身内には抵抗すらない。
僕はあいつらへの見方を変えるべきなのかもしれない。
鈴鹿と責任重大な約束を交わし、見尾谷楽器店を後にするのだった――。
11月上旬、親戚内に変化が表れた。
大輔が派遣切りに遭ってしまったのだ。氷河期世代ってとことん理不尽だな。
2008年のこの時期はリーマンショック真っ只中。
大輔は就職氷河期ということもあり、正社員として就職できずに派遣社員の仕事をしていたが、リーマンショックのせいで無職になってしまった。しかも直後に優太が勤務していた会社が倒産し、優太までもが無職になってしまう。優太は雇用が比較的マシな時期に就活をし、努力の甲斐あって大企業に就職していた。これもリーマンショックの影響だ。
結局、自分の身は自分で守るしかないのだ。これで親戚内に大手企業の人間は1人もいなくなってしまった。僕は大輔たちとは対照的に、利益が好調を維持していた。
上半期こそ壊滅的だったが、下半期からは外国人観光客が安定して来るようになった。
璃子の修行費が重なってもなおこの年を黒字で切り抜けることができそうだ。色々と支出も多かったから純利益はお察しだけど。最終的に赤字にならなかっただけまだマシと思った方がいいだろう。
11月中旬、日曜日を迎え、璃子の様子を見に行こうとヤナセスイーツへと赴いた。
久しぶりに会った珍しい客がいた。
「あっ、梓君、お久しぶりです」
「梓くーん、凄いねー。ワールドバリスタチャンピオンになったんだってー」
「……もしかして、明日香と成美か?」
「覚えててくれたんだー。嬉しいなー」
「こうして会うのも久しぶりですね。金華珈琲で会った時以来でしたっけ?」
「そうだな。あず君でいいよ。そう呼ばれてるから」
小夜子の妹である明日香、美咲の姉である成美がいた。
会ったのはいずれも学生時代以来だ。
「あず君、この人たちと知り合いなの?」
「ああ、元同級生の姉妹だ。両方とも一度会ったことがあってな」
「ふーん、あず君の知り合いは美人が多いんだねー」
「優子も美人だもんな」
「! もう、あず君ってば、いつの間にかジョークが上手くなったねー」
優子は顔を赤くしながら恥ずかしそうに答え、僕の背中を軽く叩いた。
「えっ、ジョークじゃないけど」
「やっぱ昔と変わってないや」
「「ふふふっ」」
しばらくは僕、優子、明日香、成美の4人で話す。会話の中心は優子であり、明日香とも成美とも以前から知り合いだった。商店街チルドレンのリーダーを務めていただけあって顔が広い。
璃子は修行の課題に夢中である。こういう好きなことに没頭するところは僕に似たな。
「あず君は18歳で夢叶えちゃったけど、次の夢はどうするの?」
「僕はコーヒー業界の地位を上げたい。そのためにも、色んなバリスタ競技会に顔を出していこうと思ってる。来年にも別の大会に出る予定だ」
「「「へぇ~」」」
「あず君だったら、バリスタオリンピックでも優勝できるかもしれませんね」
「それはどうかな。今回だって、僕だけの実力じゃなかったし」
「1人で戦ってる人なんていないよー。どこの国のナショナルチャンピオンだって、会社とか、色んな人の力を借りてるんだから、条件は一緒だよ」
「……そうだな」
言われてみれば確かに僕以外の人も、1人で戦っていなかったのかもしれない。
「あの、私、中2なんですけど、将来何がしたいかが全然分からないんです。こんな時って、どうすればいいのかなって思って……」
冬ということもあり、分厚めの私服姿の明日香。
「まずは色んなことをやってみろ。そんなことを考えている内は、まだ夢中になれるものを見つけられていないってことだからさ。皮肉な話だけど、僕は学校に行かされたことで、集団組織と相性が悪いってことが嫌というほど思い知った」
「おっ、あず君もそんなことが言える歳になったか」
「まっ、僕の場合は後遺症がやばかったけど、明日香はそうならないように、やばいと思ったらすぐ逃げるんだ。苦手なことにつき合い続ける必要はない」
注文したスフレチーズケーキを食べながら質問に答えた。
ヤナセスイーツにはそこそこ客が訪れていた。
「あず君が言うと説得力あるね」
テレビで事情を知った成美が答える。あれから彼女が僕にピアニストへの道を勧めてくることは一度もなかった。こっちは早々に諦めてくれたのに、あの女ときたら……。
咄嗟に鈴鹿のことを思い出すが、想像はすぐに崩れる。
「あっ、もしかして葉月梓さんですか?」
「……」
「俺、葉月さんのファンなんです。サイン頂いてもいいですか?」
「……」
眼鏡で赤い服を着た痩せ型のおじさんが僕のファンを名乗って話しかけてくる。
仮にもファンだというなら僕の情報くらい知っていてほしかったな。僕のことは知っていても、日本人恐怖症の詳細を知っている人はそこまで多くなく、ただの照れ屋であると勘違いする者も多かった。
僕が大会で優勝したバリスタであることしか知らない人もいた。ファンサービスはしないと決めていたこともあり、だんまりを決め込むが、恐怖心からか、そっぽを向いたまま無視し続けることになる。
「あの、他のお客様の迷惑になるので、やめてもらっていいですかね?」
「は、はい。すみません」
優子が僕を庇うようにサインの申し出を断り、相手は諦めて帰っていく。
「あず君、大丈夫?」
「う、うん、大丈夫」
「有名人って大変ですよねー。外に出るだけで知らない人に話しかけられるから、いちいち対応しないといけないのが面倒ですね」
他人から話しかけられることを恐怖のトリガーとする対人恐怖型の人間は、有名人という話しかけられやすいカテゴリーと非常に相性が悪いのだ。
僕はおやつの時間が終わるまでヤナセスイーツに居座るのだった。
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