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社会不適合者が凄腕のバリスタになっていた件  作者: エスティ
第3章 挑戦編
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61杯目「嘘の綻び」

 コーヒーカップを机に置くと、思わず頬が緩んだ。


 穂岐山社長たちは僕のテイスティングに興味津々だ。


「お前、一体何者なんだ?」

「ただの高機能社会不適合者だ」

「どんな訓練を積んできたんだ?」

「色んなコーヒーを淹れて、それを覚えるだけ」


 相変らずそっぽを向きながら淡々と答えた。


 皮肉にも日本人を相手にプレゼンをしたり、人混みに何度も飲み込まれている内に、日本人恐怖症が少しばかり緩和されていた。憎しみは度々感じるものの、目を合わせずに会話するくらいならできるようになっていたが、東京にいたお陰であるとは認めたくない。


「あの、葉月さんも良かったらうちに入りませんか?」


 声をかけてきたのは、ここでコーヒーの開発をしている青年だった。


「――考えさせてくれ」

「社長、彼絶対うちに入れた方がいいですよ。きっと良い戦力になります」

「俺はずっと前から彼を引き抜くことを考えてた。昨日のJBC(ジェイビーシー)優勝といい、この類稀な嗅覚と味覚といい、彼にはずっと驚かされてばかりだ」

「私もそう思います」

「あのっ、サイン貰っていいですか?」

「駄目だ!」

「……あっ、はい」

「うちの兄は社会不適合者なので、どうぞお気になさらず」


 青年がガクッと落ち込むと、すぐに璃子が慰めた。


 結城俊(ゆうきしゅん)。僕より5歳年上で、眼鏡をかけた黒髪のショートヘアー、真面目そうな雰囲気を醸し出している。そりゃこういう所にいれば当然か。


 外見は中性的で弱々しくも感じる。ここにいるということは、彼もまた一流のバリスタなんだろう。普段はここでテイスティングの提供役担当をしているようだし。


「葉月さんは何でバリスタを始めたんですか?」

「あず君でいいぞ。バリスタを始めたのは、コーヒーに一目惚れしたから」

「一目惚れ?」

「今のは彼なりのジョークです。気にしないでください」

「はあ……」


 璃子が僕をフォローするように言った。一目惚れは本当だぞ。


 僕らは次の部屋へと案内され、松野と結城とはここでお別れとなる。


 ここではシグネチャードリンクの研究をしているとのこと。コーヒーと相性の良い食材や、今まで使われてきたであろう食材が豊富に揃っており、フレーバーの変化などが細かく記載されている。


「ここではJBC(ジェイビーシー)で勝負の決め手となるシグネチャーの開発をしているんだ」

「食材がいっぱいですね」

「シロップにスパイスにフルーツなんかが揃っていて、フルーツは毎日新鮮なものが届くんだ」

「お兄ちゃん、シグネチャーの開発だったら、ここでした方がいいんじゃない?」

「そんなことをしたら、岐阜から離れることになるぞ」

「私もついて行くから」

「璃子はショコラティエ修業があるだろ」

「そうだけど……」


 僕が岐阜を離れれば、璃子は僕についてくる。ショコラティエ修行ができなくなっちまう。


 ここは本気でWBC(ダブリュービーシー)に出ることを前提に捉えている。


 だが明らかにうちとは違うところがあった。


 ここのシグネチャーの開発には期限がある。僕は期限を設けたことはない。そんなことをすれば時間が気になって作業に没頭できなくなる。恐らくここのバリスタたちも期限を気にしながらやっているんじゃなかろうか。本当に良いものは時間をかけて辛抱強く開発し続けなければ生まれない。


 時間をかけずに世界相手に通用するドリンクにできるならそれに越したことはないが、できないなら時間と手間を何年かけてでも作るべきなのだ。期限を気にせず、常により良質なシグネチャーを作り続けてきた。食材も分量もどれくらいの試行回数を繰り返したか分からない。


「君がうちの会社に入ってくれるなら、このシグネチャー開発室を丸ごと貸すよ」

「「「丸ごとっ!」」」


 璃子、唯、美羽が一斉に驚く。


「凄いじゃん! あんた、いきなり1軍のエース枠に挑戦する権利を与えられたんだよ! これはもう入るっきゃないよ! あたしだったら迷わず入るし!」

「今はWBC(ダブリュービーシー)に集中したいからさ、夏が終わってから回答を出す」

「期待して待ってるよ」


 だから期待されても困るんだってば。他とは比べ物にならないほど遥かに待遇は良いけど、開発に期限があるところや、日本人ばかりの職場には抵抗がある。


 人を1軍と2軍とに分けるやり方も解せない。これじゃ学校とおんなじじゃねえか。できる子とできない子を分けて、管理する側が楽しんでいるようにしか思えないのは僕だけだろうか。いつもできない子に分類されてきた僕としては、人を二分する考え方には些か抵抗があるのだ。普段は大規模なカフェとして営み、奥の部屋ではバリスタ競技会で勝つための訓練が行われていることはよく分かった。だが集団でやろうって時点で僕には合ってない。やはりここに入るのは最終手段だ。


 穂岐山親子から解放され、僕らは岐阜に帰宅する。僕と璃子と唯の3人で電車に乗り、僕は2人を盾にしながら電車に乗ったり道を歩いたりした。毎日あんな所を歩かされるのも気が引ける。


 WBC(ダブリュービーシー)まであと3ヵ月。それまでにやっておかないといけないミッションがある。店の宣伝だ。最近は全然客が来ない。うちの親を含む常連は相変わらず来てくれるが、それだけでは賄いきれないほど売り上げが下がってしまっていた。この時には仕入れの量を減らしていた。


 原因はうちの店を潰すと言わんばかりに、うちの真向かいにできたコーヒーチェーンのせいだ。値段と量ではうちよりも勝っている。葉月珈琲が勝っているのは質のみ。


 しばらくはJBC(ジェイビーシー)の影響で外国人観光客が来てくれていたのだが、4月を迎えるとヨーロッパやアメリカからのラッシュが途切れてしまった。売り上げは下がる一方だった。


 もちろん誰にも伝えなかったし、特に璃子には伝えたくなかった。経済的な理由で夢を諦める人が多い中で、璃子にまでそんな思いを味わわせたくなかった。


 実を言えば、璃子は今年の1月からヤナセスイーツで修業している。


 話は3ヵ月ほど遡る――。


 2007年12月のことだった。


 店の営業時間が終わり、璃子と2人きりの時だった。


「お兄ちゃん、進路どうしよ」

「専門学校が無理だもんなー」

「どこかに働けそうな場所があるといいんだけどね」

「働けそうな場所ねぇ~」


 ――ん? ちょっと待てよ。確か優子が璃子を雇いたいとか言っていた気がするが。


「璃子、ヤナセスイーツで修行してみるか?」

「優子さんのところで?」

「ああ、確か璃子を雇いたいって言ってた――」

「それ本当?」


 璃子が僕に近づきながら真剣な表情で聞いてくる。


「ほっ、本当だ。僕の記憶が正しければな」

「まだ店空いてるはずだから行ってくるよ」

「あっ、ちょっと!」


 やれやれ、思い立ったらすぐ行動……誰に似たんだか。


 しばらくすると璃子が笑顔で帰ってくる。


「どうだった?」

「店が不況だから雇う余裕はないけど、修行しに来るなら別にいいって」

「うちの店の手伝いはどうすんだよ」

「普段は葉月珈琲を手伝う。営業が終わったら10時までヤナセスイーツに修行しに行って、日曜日は朝から晩まで修行しに行くことにしたの」

「そんなんで体力が持つのか?」

「お兄ちゃんよりは体力あるから大丈夫だよ。優子さんが全面的に面倒を見てくれるって」

「なるほどねー。分かった」

「年末は忙しくて面倒を見られないから、来年から来てほしいって言われたの。やっとショコラティエ修行を始められるんだし、こんなに嬉しいことはないよ」


 璃子が満面の笑みで家事をし始める。


 その後優子からメールを受け取った。幸いにもヤナセスイーツの店長である優子の父親は、うちの家族が常連客であることもあって快く引き受けてくれた。


 但し、1つだけ条件を突きつけられた。


 それは璃子が修行で使う食材費を全額うちが負担することだった。まあうちの商店街は空洞化が進んでいるから、タダで修業させられるほどの元気はないんだろう。結局、条件を飲むことにしたが、このことは璃子を通して店長に伝えられた。璃子も食品衛生責任者の資格を取っており、その気になれば1人で店番をすることもできる。璃子はうちの店の手伝いばかりで、受験などしている余裕はなかった。高卒じゃないと専門学校に行けないなんて、静乃から聞くまでは全然分からなかった。


 うちの親が高校行けと言っていた理由が分かった。だが修業をするだけならどこでもできる。技術を教えられる人がいれば、疑似的ではあるが、専門学校と同じ教育を受けられる。


 学ぶ場所は必ずしも学校である必要はない。


 この頃はまだ学歴フィルターが幅を利かせていたし、時代の方がおこちゃまだった。専門学校よりは費用を削減できたのが幸いだったが、売り上げの低下と璃子の修行費に加え遠征費用までかかるため、バリスタの大会は、最悪店を畳んで実質フリーでの出場になるだろうと思っていた。


 廃業届を出さなければ店自体は潰さずに済むが、うちの親は潰れたと見なすだろう。


 璃子は2008年1月からヤナセスイーツで毎日ショコラティエ修業をすることに。


 4月を迎えると、璃子は形式上も学生の身分を失った。優子の親には進学しないことを理由に学校には行かないことを伝えていた。璃子は日曜日以外はうちの営業が終わると、すぐにヤナセスイーツに出かけていた。日曜日に至っては朝から修行で、僕が起きる頃には璃子の姿がない。


 本当は僕のせいでずっと学校行ってないんだけど……。


 これで僕がいなくても生きていけるようになれればいいのだが、先行きが心配だ。


 5月を迎え、ゴールデンウィークがやってくる。


 親戚の集会では璃子が葉月商店街の洋菓子店で修業し始めたことが話題になる。リサたちも時々買いに行くこともあり、日曜日に丸々居座っている時の璃子と会っていた。


 璃子が意図しない囮役になったことで、うちの店に話題が向くことはなかった。


「それにしても、璃子が高校を蹴ってヤナセスイーツに修行しに行くなんて思い切ったねー」

「何で高校行かなかったの?」

「受験よりもチョコを作ってる方が楽しいし、モラトリアムを3年延長するだけだったら、何か手に職つけた方がいいと思ったの」

「なんか発想があず君みたい」

「へぇ~、璃子は自分の将来をちゃんと考えられて偉いねー」

「お兄ちゃんの影響かな」


 何故そこで僕の話が出てくるんだ?


 多少の影響は与えたかもしれないが、最終的に進路を決めたのは璃子自身だ。


 今の自分の人生は、過去の決断の結果でもある。無論、環境という不可抗力もあるが……。


「あず君はもう高3でしょ。進路は決めたの?」

「それなら決めたけど」

「あず君、金華珈琲にあず君を雇ってくれるように頼んでみたけど、慶君が言うには、これ以上人を雇う余裕はないみたいだ。済まんな」


 おじいちゃんが唐突に僕の金華珈琲からの不採用を伝える。どうやら金華珈琲に僕の進路の件を伝えていたらしい。マスターは僕の事情を知っているし、断ったのも無理はない。


「大丈夫だ。問題ない」

「どうするんだ?」

「コーヒー会社からうちに来ないかって誘われてる」

「「「「マジで!?」」」」


 リサたち4人兄弟が一斉に驚きの反応をする。


 まあ本当の事情を知らないとこうなるよね。


「そこの社長が親父の元同級生でさ、親父と仲が良いこともあって誘われてる」

「それってつまり……コネってこと?」

「そうだな。特に何もなかったら、そこになっちゃうかも」


 本当はコネじゃなくて、実績を買われてだけど、誘われてること自体は本当のことだし、起業していたことをバラす以外の候補がない。ここはカードを切るしかあるまい。


「あず君って起業するとか言ってなかったっけ?」

「働いて貯金するんだよ。起業資金を稼ぐためにな」

「じゃあ起業資金が貯まったら辞めるの?」

「あったりめーだろ。本当は誰かの下で働くなんて真っ平御免だし」

「辞めない方がいいと思うぞ」


 突如話を聞いていた大輔が止めに入る。


「せっかく会社から誘われてるんだから、そのチャンスを無駄にするな」

「そうだよ。そこって大手なの?」

「一応大手だけど」

「じゃあ行けばいいじゃん」

「考えとく」


 優太まで僕の背中を押してくる。


「璃子には大手に入れって言わないのか?」

「既に高校を蹴ったんならしょうがない。でもあず君は大手に行けるんだから行っておいた方がいい。将来的にそれで璃子の面倒も見て、貯金は結婚するための資金として取っておくべきだ」

「僕にとって会社は稼ぐための手段であって目的じゃない。それに璃子だって1人で生きていけるように修行してるんだから、女は何もできないと示唆するようなことは言わないでやってくれ」

「あのなー、俺はあず君のことを思って言ってるんだぞ」


 大輔が更に突っかかってくる。この昭和脳はどうにかならんのか?


 相手のことを思ってるという言葉の裏にはほとんどの場合、自分の思い通りにコントロールしようという思惑がある。大輔や優太あたりの世代は全員が1つの生き方を事実上強要されていた世代だ。


 1つの生き方とは、男は会社で雇われて外で仕事、女は家事手伝いである。その生き方が最も幸せであると刷り込まれている……悪魔の洗脳によって。璃子が進学しなかったことには何も言わない。僕が進学すらしてないことがばれたら確実に怒られるやつだ。


 余計に僕の事情を話しにくくなった。一体いつまで隠し続ければいいのやら、もう分からなくなってきたのだが、問題はバレた後にどうやって説得するかだ。


「僕のためじゃなく、今まで守ってきた常識を守り続けるためだろ?」

「お兄ちゃんはあず君の将来を案じて言ってるんだよ!」

「僕はどうなるか分からない将来よりも、今の方がずっと大事だ!」

「起業資金を貯める前に、俺も含めてみんなが貸してくれたお金を返すのが先だろ。そのためにもしっかり定年まで働けって言ってるんだ!」

「借りたのはうちの親だ」

「まっ、一度社会に出てみれば分かる。社会はそう甘くないからな!」

「じゃあ僕がその辛口の社会を変えてやるよ。その中で君臨するなら別に問題はないし、辛口の社会なんかに出るつもりはない」

「あー言えばこーゆー」


 反論すればするほど、大輔も優太も呆れ顔になる。


 社会にはもう出てるんだよなー。そして今は社会の厳しさに揉まれている最中だ。JBC(ジェイビーシー)で僕を知った外国人が度々来てくれているが、その数は少ない。


 やはり国内予選程度では駄目なのか。


「あず君にはあず君の人生があるんだからいいじゃない」

「俺も優太も不景気の時期に就活して物凄い苦労をしてきたんだ。あんな思いをあず君にまで背負ってほしくはないし、俺だったら大手から誘われたらすぐにでも入るってのに」

「こんな社会不適合者を無理矢理会社に入れたところで、周りの人を散々引っ掻き回した挙句、追い出されるのがオチだと思うけど」


 まるで僕の学生時代を見てきたような言い方だな。でも合ってるし、反論できねえ……。


「あず君、その会社に入ったらちゃんと上司や先輩には敬語を使って、残業も頑張って仕事が終わったらみんなで飲み会に行くようにしていれば、そうそう嫌われることはないから大丈夫だよ」

「牧場の羊みたいな生き方で楽しいか?」

「牧場の羊とは失敬だなー。ねーお兄ちゃん?」

「全くだ。じゃあ正直に言ってやる。あず君が大手に入ってちゃんと働いてくれないと、俺たちがおじさんとおばさんに貸した借金がいつまで経っても帰ってこない。おじさんもおばさんもバイトで、なかなか返せそうにないからな」

「心配すんな。うちの親の借金ならいつか耳揃えて返してやる」


 言い切ってしまった。これは僕が親の借金を肩代わりすることを実質認めたに等しい。ていうか返せないの分かっててよく貸そうと思えたよな。うちの親には多少の貯金があるが、それはうちの店が潰れた時の保険だ。今は誰1人として、借金を返すだけの余裕はない。


「まあまあ、あず君に全部の責任を負わせるなよ。いざとなったら俺が返すから、そう責めてやるな」


 ここにきてようやく親父が重い口を開けるが、食べていくだけで精一杯な親父が虚勢を張っているだけなのは、誰の目にも明らかだ。テレビを見ながら過ごし、親戚の集会が終わるとようやく帰宅する。親戚一同が次々とそれぞれの家に帰っていく。


 その時だった。柚子が真剣な眼差しで僕に近づいてくる――。


「あず君、ちょっといい?」

「……何?」

「璃子は先に帰っててくれるかな?」

「うん、分かった」


 僕と一緒に帰ろうとしていた璃子が先に帰宅する。


 しばらくは一緒に歩き、僕と柚子の2人きりになる。


「なんか用でもある?」

「あず君、あんた絶対何か隠してるでしょ?」

「! ……なっ、何言ってんの?」

「あぁー、やっぱり」

「やっぱりって何だよ!?」

「あず君は嘘を吐くとすぐ顔に出る。口調がおかしくなったり、冷や汗をかいたりね。あず君は昔から嘘を吐くのが下手だって知ってるんだから」

「……誰だって隠し事の1つくらいあるだろ――」

「言いなさい!」


 柚子の表情がさっきよりも厳しくなる。


 黙秘権を行使しようとするが、柚子が僕の服を引っ張り、沈黙を許さない。


「……」

「今までのあず君の行動を振り返ってみたら、おかしい点がいくつかあったの」

「おかしい点?」

「あんなに宿題やテストを嫌がってたのに、高校生になった途端、嘘のように改善したこととか、桃色喫茶で高いコーヒーを注文したのに顔色1つ変えなかったこととか、進路を聞いたらのらりくらりかわそうとしていたこととか。とても生活に余裕のない高校生とは思えなかったの。まるで作ったように行事の話もしてたし、嫌なことをされた時以外は行事の話なんてしなかったから、不自然だと思ったの。本当は高校にも行ってないんじゃないの?」

「疑い過ぎだろ」

「じゃあ今通ってる高校の名前言ってみて」

「……高校の名前なんて興味ねえよ」


 ――マジかよ!? もうこんなところまで感づかれてんのか?


「じゃあ今からあず君の家に行くから、ちょっと高校の制服を見せて」


 柚子は何かを悟り、氷のような声で言った。


「何でそういう話になるわけ?」

「見るくらいなら別にいいでしょ?」

「そういうの困るんだけど」

「じゃあ見せたくない理由を説明してよ」

「ダサいから見られたくないんだよ」

「――ふーん、じゃあ次の登校日の朝にあず君の家まで行って見せてもらうね。もしその時に嘘だって分かったら……絶対にあず君のこと許さないから」


 怖っ! こいつっ! 目が本気で殺しにきてやがる! ……ど、どうしよう。この様子じゃ本当にやりかねない。ばれたら確実に他の親戚にもばらされる。それだけは阻止しないとっ!


「――参った。柚子の言う通り、僕は高校に行ってない」

「やっぱり……」

「何で行ってないって分かったの?」

「あず君だから」

「それだけで説明できてしまうほどの代名詞になった覚えはないぞ」

「何でみんなに嘘を吐いたの?」

「バレたら絶対怒るじゃん」

「当たり前でしょ。今は何してるの?」

「……バリスタ」

「じゃあお店に案内してくれない?」


 この時、僕は魂が抜けたように、少しだけ気が楽なった。


 秘密を保持し続けることは、精神衛生上良くないのだ。


「別にいいけど、このことはいつか僕の口から話す。けじめは僕がつけるから、それまではさ、他のみんなには内緒にしててくれ」

「……分かった。でもさー、あず君がいつも通りあず君してて安心した」

「何で僕が動詞になってんの?」

「社会不適合者だから……かな」


 遂に観念した僕は親戚の1人である柚子に事の真相を全て話し、うちの店に案内することに。だが不思議なことに、僕はすんなりと受け入れることができた。


 こんな日がいつかやってくると、心の底で思っていたのかもしれない。

今回は璃子がショコラティエになるための修行をするまでの話です。

そしてついに秘密が親戚の1人にばれます。

結城俊(CV:宮田幸季)

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