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社会不適合者が凄腕のバリスタになっていた件  作者: エスティ
第3章 挑戦編
52/500

52杯目「不作に泣いた農園」

 ディエゴがコーヒー農園の園長の家まで僕らを案内する。


 家は割と普通で、園長は家族で暮らしている。家まで少し距離があり、ディエゴに話を聞くことに。


「もう少しだ。あそこがここの園長、ファビオの家だよ」

「あのさ、1つ聞かせてほしいんだけど、何で僕の名前知ってるの?」

「何だそんなことか。君はCFL(シーエフエル)で優勝しただろ。中南米のコーヒーファンたちの間でも有名なんだぜ。知らなかったのか?」

「うん、知らなかった」

「あず君はもっと自分の地位を知った方がいいと思うよ。日本でも東京のバリスタたちは、もうあんたの名前くらい知ってるんだから」

「親戚にはばらさないでほしいな」


 ここにきて親戚が気になり始めた。まっ、ばれたらその時はその時だ。覚悟はできている。僕は常に背水の陣、今更悔いても遅いのか、すぐに切り替えることができた。


 コーヒー農園にはコーヒーチェリーだけでなく、コーヒーの花まで咲いていた。コーヒーにとっては故郷であり、最も居心地の良い場所なんだろう。まるで恋人の家に来たような気分だ。


「やあ、アズサ。来てくれたんだね」


 突然スペイン語で挨拶される。


 ディエゴが家にいたファビオを呼び、僕らの元まで連れてきていたのだ。ファビオはスペイン語しか話せないため、ディエゴが彼のスペイン語を英語に訳し、僕の英語をスペイン語に訳す。


 僕と美羽はディエゴを通してファビオと会話する。


「もしかして……ファビオなの?」

「ああ、俺はファビオ・アルカンタラ。このコーヒー農園の園長だ。まさか本当に来てくれるとはな。歓迎するよ。よろしくな」

「ああ、よろしく」


 意外にも気さくなファビオと握手を交わす。


 肌は白めで靴はドロドロ、農作業用の服を着ており、50代くらいの外見で貫禄がある。


「一緒にいるのは彼女か?」

「いや、彼女はコーヒー会社の社長の娘で、僕についてきたんだ」

「あー、そうなのかー」

「初めまして、穂岐山美羽です。よろしくお願いします」

「ああ、よろしく」


 美羽もファビオと握手を交わす。どうやら彼女も参加を認められたらしい。


「じゃあ早速農園を案内するよ。ついてきて」

「うん、それにしても広い農園だな」

「ああ、元々はただの山だった場所をかなり昔に親父が買い取ったんだ」

「どれくらい前なの?」

「50年くらい前かな。そんで今は俺が引き継いでるってわけだ。家には妻と息子もいるんだ。後で挨拶してやってくれ」

「うん、分かった」


 それにしても……広いな。


 葉月商店街何個分くらいかな?


 ファビオが言うには、この農園には元々コーヒーの木はなく、親父の代に買い取ってから辛抱強く耕してきたとのこと。これだけ広いのだから、きっと物凄く苦労しただろう。


 広い面積を開拓するのは簡単じゃない。


「俺たちはな、この農園に住み始めてからずっと不作続きだったんだ」

「それは大変だったな」

「最初は片っ端からコーヒーの苗を植えていたが、全然育たないし、年間で採れた量は僅か。コーヒーを食べる虫も湧いてきて、毎日が戦いだった」


 ファビオは子供時代からどうやってこの農園に向き合ってきたのかを語り始める。どうやら最初からうまくいっていたわけではないらしい。うちと同じだな。


「家の周辺は全部親父が開拓した場所だ。よく育ってるだろ?」

「うん。コーヒーチェリーが赤いやつだけ収穫するんだろ?」

「ああ、そうだ」

「収穫手伝ってもいいかな?」

「ああ、構わない」


 とんとん拍子にコーヒーの収穫を手伝うことに。美羽も僕の後に続き、熟した実だけを採っていく。


 コーヒー生豆の最終的な品質を決める大きなポイントは収穫するチェリーの熟度だ。コーヒーの実は一度に均一に熟さない。熟したものも未熟なものも全部一度に収穫してしまえば、作業効率は良いが未熟な豆が混じる。丁寧に熟した実だけを収穫すると作業効率が悪く、別の日にまた収穫に行かないといけないのだが、熟した実だけを集めることができる。


 ここでは作業員たちに収穫をさせているようだ。


「ほー、なかなか筋がいい。作業も早いな」

「ホントに早いね。熟した実だけを手早く取ってる。流石はあず君だね」

「こういうのは得意でね」

「恋人だからかな?」

「まあな。僕にとってコーヒーは最愛の恋人だ。小さい時からずっとコーヒーと密接に関わってきた。生まれた時コーヒーの香りを知って、5歳でペーパードリップを始めて、9歳でラテアートを描いて、今じゃコーヒーの大会にも出るようになったからさ、僕とコーヒーは最愛の恋人同士ってわけだ」

「生まれた時からずっと関わってるんだー。どうりでコーヒーに関係することは得意なわけね。でもそれって、最愛の恋人同士っていうより、幼馴染って感じかな?」


 美羽が言うと、後ろにいるファビオと話す。


 ふと、後ろを振り返ると、美羽が僕の言ったことをディエゴに話し、スペイン語に訳している。


 いやいやっ! そこは訳さなくていいからっ! 恥ずかしいからっ!


 僕のコーヒーに対する愛情が思わぬ形でファビオに伝えられる。


「そうか、だからそんなに張り切ってるのか。最愛の恋人の故郷はどうだ?」

「うん、かなり熟してる。普段からずっとコーヒーと一緒にいられるなんて凄く幸せなことだと思う」

「はははははっ! そうか、それは良かった」


 ファビオは段々と機嫌が良くなっていく。


 コーヒーは気温が高く、年間降水量が多く、標高が適度な場所でなければうまく育たない。無事に収穫できたとしても、途中で扱い方を一度でも誤れば機嫌を損ね、嫌な雑味や苦味ばかりになる。


 彼女は非常に我が儘なじゃじゃ馬だ。コーヒーの木は苗床で種を蒔いてから大切に育てられ、成長の状態を見て土壌に植え返されていく。基本的に6ヵ月から1年間程度、苗床で成長したものを植え返しているのが一般的だ。成育は植えつけた標高によって大きく差が生まれるが、一般的には植えつけて3年目でジャスミンのような香りがする白色の花が咲く。この時点で既に受粉しており、すぐに小さな緑色の実を見ることができる。ここから約半年、コーヒーの実は大きくなる成長期、緑から赤に変わる成熟期を迎え、やがて収穫の時期となる。品質の良いコーヒーは、主に収穫期の後半に収穫されると言われるが、契約を勝ち取れば良質なコーヒー豆を売ってもらえるだろうと思った。


 他には人が来ていないようだ。あるいは他のコーヒー農園に行っているのだろう。コーヒー農園は高地のため酸素は薄く、僕も美羽もぜーぜー言いながら重い足を動かす。


 話しながら進んでいると、特にゲイシャが多く栽培されている場所にまで辿り着く。


「ここはゲイシャエリアなんだ。この場所が育ちやすいんだ」

「うわぁ~、凄い……」


 目と鼻の先には、コーヒーチェリーの楽園が広がっていた。これ全部ゲイシャか。まるで夢のようだ。僕は目をキラキラと輝かせ、子供のようにワクワクしながら採取をし始める。


 しばらくすると、カゴいっぱいに真っ赤なコーヒーチェリーが溜まる。


「ふふっ、コーヒーチェリーを見ただけで楽しそうな反応を見せたのは君が初めてだよ」


 所々に赤い果実から緑色の果実までがバラバラに揃っており、独自の魅力を放っているようだった。


「ニコラスからここのコーヒーを飲ませてもらって凄く感動したんだよ。今までにない味わいだ」

「だろうな。俺も最初に飲んだ時は驚いた。ブームに乗っかってゲイシャの栽培を始めた」

「これってさ、採れる農園によってフレーバーとかも違うんだよね?」

「ああ、農園の数だけ違いがあると言っていい。うちのはオレンジフラワーのアロマ、ベルガモットのフレーバー、ブラッドオレンジのようなアフターテイストが持ち味なんだ」

「とことん柑橘類なんだな」


 ここのゲイシャを初めて飲んだ時は、他のフルーツのフレーバーも感じたが、特に強く感じたのが柑橘類だった。ニコラスが言っていた通りだ。バリスタ競技会で使うならここのコーヒーにしよう。


 好きな品種のコーヒーを競技会で使うということは、当然どのようなコーヒーであるかまでを紹介する必要がある。僕はこの味を心底気に入っていた。


「ただ、1つ問題があるんだ」

「問題?」

「ああ、輸入業者の連中に安く買い叩かれてな。数あるゲイシャの中でも特に価格が安いんだ。丹精込めてコーヒーの木を育てて、やっとの思いで豆を収穫したってのによ」

「それは何で?」

「うちがずっと不作続きだったのを知ってるからだよ。足元を見られてんだ」

「酷いな」


 シンパシーを感じるように落ち込んだ。


 ファビオはその後も自分たちの境遇を訴えるように語り続ける。


 ずっと苦労を重ねて、やっとの思いでコーヒー農園を開拓して、多くの美味いコーヒー豆が売れるようになったと思ったら、今度は『アンフェアトレード』で安く買い叩かれてしまう。この農園は21世紀に入るまで、ずっと不作続きだったために、またいつ不作になるか分かったものじゃなかった。輸入業者はそれを知っており、安い価格でなければ買わないと揺さ振りをかけてきたのだ。


 ファビオたちは輸入業者に屈し、ゲイシャを比較的安い価格で売っていた。農園の面積が広いことから、他の農園よりも一度に多く収穫できることも値下げを迫られた理由の1つである。近所にも他の地域にもゲイシャを栽培しているコーヒー農園がいくつかあるが、ここは特に不遇な扱いを受けていた。


 ファビオはそういった背景から人間不信に陥り、コーヒー農園まで直接訪問し、人柄が良く、正当な価格で買い取ってくれる人でなければコーヒー豆を売らないようになった。だがそれが原因でコーヒー豆を売らなくなると、買い手がいなくなってしまい、売り上げに滞りが出た。


 そんな時に初めて『正当な価格』でここのゲイシャを買ったのが、ニコラスの父親の友人だった。


 つまり……僕がニコラスの家で飲んだゲイシャは、ニコラスの父親の友人が正当な価格で、この農園から買った代物だったんだ。そもそもの原因はこのコーヒーの良さが知られていないことだ。


 ――だったらこの農園をもっと有名にすれば、正当な価格、いや、もっと高い価格でコーヒー豆を買い取ってくれる輸入業者が現れるかもしれない。僕はこの農園を助けたい。そのためなら全財産を費やしたって構わない。さっきまでの自分が情けないと思った。知らなかったとはいえ、こんな事情があるにもかかわらず、僕はここのコーヒー豆をなるべく安い価格で買おうとしていた。


 これはもう値下げしたいなんて到底言えないな。


「まっ、そういうことだ。俺は気に入った奴にしか売らねえんだ」

「――じゃあ僕からも1つ、うちの店の事情を話してもいいかな?」

「ああ、言ってみろ」


 葉月珈琲の事情を全部話した。学生時代のトラウマで日本人恐怖症を発症してしまったこと、高校の就学費用でこっそり起業したこと、日本人恐怖症の影響で身内や慣れている人以外は、全員外国人観光客限定にしていることを包み隠さず話した。


「そうだったのか。それはさぞ辛かっただろう」

「黒髪じゃないってだけで集団リンチって……やばいな」


 ファビオもディエゴも呆気に取られ、開いた口が塞がらなかった。


 まあ、初見の人はみんなそんな顔するわな。


「だからこの病気が治るまではどうしても外国人観光客を多く呼び込む必要がある。お互い大変だね」

「俺も本当は客なんて選んでる余裕はねえけど、どうしても信用できねえ奴には売ろうって思わねえ」

「僕だってそうだ。トラウマを植えつけ、それを放置した連中を信用できない。あー、そうそう、この話は内緒にしていてくれ」

「ああ、分かったよ」


 昼食の時間となり、一旦ファビオの家に入る。


 ファビオの家は家庭的な雰囲気だった。彼の妻であるカルメン・アルカンタラ、息子のフリオ・アルカンタラがいた。カルメンは50代くらいの優しいおばちゃんのような印象だった。フリオは20代くらいの爽やかな感じの外見で僕よりも年上だ。将来はこの農園を継ぎたいそうだが、だったら息子が後を継ぐまでは農園を継続するべきだろう。輝かしい未来とは何だったのかと思えるほどの闇を抱えた農園だが、今後の活動次第ではどこよりも売れるようになるはずだ。


 これほど美味いコーヒーが安く買い叩かれていいはずがない。


 僕らは昼食になると、みんなで机を囲みながら食事をする。ファビオたちが作ってくれたのはサンコーチョ・デ・ガジーナという料理だった。中米では広く親しまれている鶏肉のスープであり、パナマのものは雌鶏を使うのが特徴で、雌鶏のサンコーチョと呼ばれている。


 鶏肉をタマネギ、ユカ、プラタノという青バナナと一緒に煮込み、刻んだコリアンダー、オレガノ、ニンニク、塩などで風味付けをした伝統的なスープ料理で、白米と一緒に食べることが多い。鶏をまるごと煮込んで作ることが多く、チキンスープとハーブ類のコラボによる何とも言えない良い香りが特徴である。香りの時点で美味いのが分かる。具や細かい作り方は家庭によって異なるらしい。日本のカレーとかも家庭によって具も作り方も変わるし、似たようなものだろうか。


 作る人が変われば味も変わる。まるでコーヒーだ。


 ……スープにまで鶏肉の味が染み込んでいる。何だか体がホカホカしてくる。


 うん、この鶏肉も美味い。これがパナマの家庭の味か。


 パナマで鶏肉がよく食べられていることは分かった。


「アズサ、美味いか?」


 フリオがディエゴの通訳を通して話しかけてくる。


「うん、美味い。日本まで来てくれたら、日本の家庭の味教えてやるよ」

「マジで!? それは楽しみだなー。アズサは仕事何やってるんだ?」

「バリスタ。普段は自営のカフェでマスターやってる」

「えっ!? その歳でマスターなのかっ!?」

「うん。だから暇な時に来てくれると嬉しいな」

「予定が空いたら行くよ」

「ああ、待ってる」


 フリオとはすぐに意気投合した。長時間コーヒーの話をしまくった。


 彼もまた、この農園を宣伝したくて仕方ない。


 フリオは美羽とも話していた。美羽が自己紹介している間、僕は料理をペロリと完食した。


 何というか、全然飽きない味だ。飽きないからこそ、常食として用いられているんだろう。いつまでも味わいたい風味、うちの店もこれを目指すべきなのだ。


「体小さいのに全部食べちゃったね」

「よく食べる女の子だ」

「僕、男なんだけど」

「「ええっ!?」」


 当然のように驚くファビオたちだが、僕はすっかり慣れていた。


「アズサ、今度はコーヒー精製工場に案内するよ」

「いいの?」

「ああ、コーヒーチェリーの採取を手伝ってくれたんだ。これくらいの礼はさせてくれ」

「感謝するよ」


 コーヒー精製工場にまで案内してくれるなんて、僕は幸せ者だ。


 僕、美羽、ファビオ、ディエゴの4人でディエゴの車に乗ると、惜しみながらもブリランテ・フトゥロ農園を後にする。道中でファビオに気になったことを聞いた。


「そういえば、何でこの農園にその名前をつけたの?」

「名前は親父がつけたものだ。今は不作でも、いつかきっと豊作になることを願って、輝かしい未来という名前にしたんだ。親父は死ぬまでずっと希望を捨てなかった――親父にも……あのコーヒーチェリーの楽園を見せてやりたかった」


 ――えっ、親父死んでたの?


 悪いことを思い出させちゃったかな……。


「まっ、過ぎたことだ。気にするな」

「お、おう」

「そういえば、その工場はどんな精製方法なの?」

「うちはハニープロセスだ」

「ハニープロセス?」

「えっ? 美羽知らないの?」

「うん、全然」

「それでよくバリスタ始めようって思ったな」

「えへへ」


 採取した後のコーヒーにはいくつか精製方法がある。


『ナチュラルプロセス』は収穫したチェリーをそのまま乾燥し、その後脱穀し、中から生豆を取り出す方法だ。大量の水を使用せず、環境に優しく、独特の甘味や風味が出やすく気候にも左右されやすい。異物が混入して欠点豆が増えやすく、クリーンさや均一さに欠けるのが特徴だ。


『ウォッシュドプロセス』は乾燥させる前に水で洗い流す。何を洗い流すかと言えば、ミューシレージと呼ばれるヌルヌルした粘液質だ。これを洗い流すためにウォッシュドと呼ばれている。クリーンで均一性があり、欠点豆が少なくて質が高いものの、水を大量に使用するため、設備が整った地域でないと難しく、排水による汚染のリスクがある。国によって微妙に差があるプロセスだ。


『セミウォッシュドプロセス』はナチュラルとウォッシュドの中間プロセスだ。ウォッシュドのように果肉を除去するが、ミューシレージを残したまま乾燥させる。要はそのまま乾燥させずに、果肉を取り除いてから乾燥させるナチュラルだ。ウォッシュドとナチュラルの良いとこ取りだ。別名の『パルプドナチュラル』はブラジル産のものに、『ハニープロセス』は中米産のものに対して使われる。中米ではミューシレージのことをミエルと呼び、蜂蜜のこともミエルと呼ぶためにこの名がついた。水をあまり使用せず、ナチュラルより欠点豆が少なく、ウォッシュドよりもクリーンさに欠けるのが特徴だ。


『スマトラ式』は乾燥が終わる前に脱穀し、生豆の状態で乾燥させるため、殻に守られておらず、形がいびつだったり、深緑色をしており、カビが生えることもある。元々は雨期のあるインドネシアなどで乾燥期間を短縮する為にこの方法を用いていた。


 これらの主な精製工程を美羽に説明するが、美羽は頭がポカーンとしていた。


「分かったか?」

「ごめん、全然頭に入ってこない」

「君はどうやって作られたかも分からないコーヒーを客に出すつもりなのか?」

「バリスタになったらちゃんと覚えるから」

「……どーだか」

「その顔は信用してないでしょ」

「うん、してない」


 そりゃそうだ。美羽はまだバリスタですらない大学生なのだから。やりたいことが決まってるなら、大学なんかとっとと辞めて、穂岐山珈琲に入れてもらえばいいのに。一歩踏み出せないあたり、美羽もこれから到来するであろう変化の時代を生き抜くことは難しいだろう。


「美羽は何で大学に行ってるの?」

「お父さんの会社に就職したいから。穂岐山珈琲って、基本的に大卒じゃないと就職できないの」

「じゃあ僕入れないじゃん」

「それは一般人の場合で、あず君はお父さんから才能があると見なされてるから安心して。選ばれし者は学歴不問で、いつでも入れるの」

「ということは、美羽は穂岐山社長からはバリスタとしての才能はないと見なされてるわけだ」

「あたしはデビューすらしてないんだから当然でしょ」


 つまり、デビューしているバリスタの中から才能ある人を受け入れているわけだから、引き抜きみたいなもんか。何故そこまでして一流のバリスタを輩出したいのだろうか。


 のんびり会話をしていると、車が精製工場に辿り着く。

今回はコーヒー用語の説明多めです。

コーヒー農園の内容は実際に行った人の話を元にしています。

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