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社会不適合者が凄腕のバリスタになっていた件  作者: エスティ
第20章 第一人者編
493/500

493杯目「フォアザチーム」

 ――バールスターズ1日目――


 12月上旬、僕らはサポーターチームを引き連れ、東京へと向かった。


 ジャパンスペシャルティコーヒー協会、アメリカスペシャルティコーヒー協会、ヨーロッパスペシャルティコーヒー協会が主催し、コーヒーファンの資産家たちが多額の出資をする形で成立した大会だ。


 バリスタオリンピックには重大な欠陥がある。参加者の数が限られている上に、参加のハードル自体が高く、初心者が気軽に挑戦しにくい問題がある。だがチーム戦なら多くのバリスタが参加できるし、団結することで友人関係を築くこともできるし、交流の幅が広がるのだ。


 もっと早く気づくべきだった。優勝回数勝負なんてしている場合じゃなかった。


 もし断っていたら……どうなっていたんだろうか。


「どうしたんだ? 浮かない顔して」


 運転中の皐月が後部座席左側に座る僕に尋ねた。


 助手席には弥生が落ち着いた雰囲気を醸し出すように腰かけている。


 後部座席の右側には璃子、中央には紫と雅が座っている。2人共僕にそっくりだ。僕と外見がほとんど変わらないし、めっちゃ可愛い。周囲から見た僕はこんな印象だったのかと思い知らされる。紫も雅も一度試合を見てみたいと駄々を捏ねてついてきたが、今はすっかり眠ってしまっている。融通が利かないところがお兄ちゃんにそっくりと、璃子は笑いながら言った。


 微かに聞こえる寝息を他所に、車は道路の上を進んでいく。


 後続の車にはサポーターチーム一行が乗っている。


 ずっと揺られたままの移動じゃ、疲れるのは当然だな。僕はもう慣れたけど。


「いや、大したことじゃねえよ……優勝回数勝負をしていなかったら、どうなってたんだろうなって」

「何だそんなことか。プロチームの育成に後れを取ったことが気に掛かるのは分からんでもないが、放置していれば、プロ契約制度自体が廃止される方向に動いていた。いずれにしても、倒すべき巨悪だった。仮にも日本を代表するグループ企業の1つを吸収合併したんだ。杉山派の企業以外は、葉月グループに歯向かおうとは思わないはずだ。それに杉山派の企業も、裁判で勝てば取り返せるんだろう?」

「まあな。勝算はあるけど、当分は時間稼ぎされそうだ。吸収合併したら、全員クビにしてやる」

「ふふっ、私怨が入ってますよ。葉月グループですけど、各地の店舗がネガティブキャンペーンで売り上げが下がっているんです。葉月珈琲にもお客さんがあまり来ませんでした」

「このまま売り上げが下がっていけば、いくつかの店舗は撤退する破目になる。いくら旧杉山グループにいた有力なバリスタを確保したとはいえ、利益が出せなければ他のコーヒー会社に放出することになる。チーム葉月珈琲を優勝させる他はない。バールスターズは賭けが認められている大会だ。オールインした上で優勝すれば、杉山派を乗っ取るくらいの資金は稼げるぞ。璃子さんもそのつもりだ」

「えっ……もしかしてめっちゃ賭けてる?」

「当たり前でしょ。私はこの大会のために、葉月グループの資産のほとんどを賭けたんだから」

「何でそんなこと勝手に決めんだよ!?」

「それはお兄ちゃんが言えたこと?」

「うっ……」


 いつもより声が低い璃子の鋭い指摘を前に、思わず口の動きが止まる。


 腕を組みながら不機嫌そうに目を半開きにする璃子。


 優勝回数勝負を勝手に決めた時のこと……まだ怒ってんのかよ。


 執念深いというか、一体誰に似たんだか。


 遂に全員が口を閉ざしてしまい、静寂と子供たちの寝息だけが支配する車内は、たった1つの考えのみでまとまっている。気まずいけど、今度は僕が無茶振りをされる番であることはよく分かった。


 ――バールスターズ、必ず制覇してやる。


 あやふやな想いをどこかに置き去りにしたまま、車は東京の会場に到着する。


 駐車場で降りると、最終登録を済ませ、対戦が行われるブースへと運営スタッフに案内される。


 20チーム1組が合計50組もいる。スケジュール管理が大変なのか、どの競技も早く終わるようにできている。グループ分けのくじ引きを行い、ルーレットを回して試合を開始する。競技用キッチンにはグラインダーやエスプレッソマシンやドリップコーヒーマシンが用意され、機械動力を伴わない手動の抽出器具やケトルまで一通り用意されており、どの競技が始まってもいいように、あらゆる設備が整っている徹底ぶりだ。競技用キッチンは競技終了毎にリセットされ、消費した分の食器や食材が補充される。チームマイケル、チーム穂岐山珈琲、チームフォルモサまでいる。


 一度は聞いたことのある名前、見たことのある顔の連中が一通り揃い、人混みの中、チームメイト同士で談笑しているが、あいつらとゆっくり話している時間はないし、ましてや憧れなんてものはない。今は勝つことだけを考えるんだ。勝利の先に僕の迷いを晴らす答えがあることを信じて。


 制限時間は競技によって異なるが、全部必ず10分以内に終わる。


 さしずめ、コーヒーにまつわるミニゲームの集大成ってとこか。


 大会は1日目に予選、2日目は準決勝、3日目は決勝トーナメントとなる。


 午前10時、バールスターズ予選前半の火蓋が切られた。


 午後3時からは予選後半が始まり、午後8時まで続く。


 チーム葉月珈琲は12番グループ。この中にいる20チーム中、準決勝に勝ち進むのは1組のみ。つまりここにいる全員を蹴落とさなければならない。スリーアウトになれば即敗退となるが、スリーアウトになるまでは失敗しても参加し続けることができる。2敗まではできるし、全員が参加しなくてもルール上は問題ない。1戦毎に対戦相手が入れ替わるが、勝負する前にスリーアウトとなって敗退するチームもいるため、グループ内の全てのチームと対戦するわけではないのがせめてもの救いである。


 ワンオンワン、ツーオンツー、スリーオンスリーの全てが揃っている。


 予選はどの形式だろうと、負けた場合は平等にワンアウトで済む。スリーアウトで退場し、結果的には数戦程度で済むだろう。ボーダーライン? そんなもん全勝以外ありえねえ。


 無論、アウトは1つも取らせる気はない。


 ようやくチーム葉月珈琲の番がやってくると、ルーレットがAIによって勢い良く回された。


 ルーレットの針が見慣れた競技名を指した。


『フィフス・ラテアート』は10分以内に5種類のラテアートを描くワンオンワンの競技だ。同じ種類のラテアートは何度描いてもOK。5種類のラテアートの難度や芸術性の総合スコアを競う。


 この手の競技は、予めどんなテーマでラテアートを描くのかを決めておくとやりやすい。弥生と皐月に手本を見せようと僕が一歩前に出ると、観客席からの歓声が耳に響く。


 銀色のタイムウォッチを片手に持つ運営スタッフによるカウントダウンが始まる。


 手早く5つのコーヒーカップを用意すると、指先に細心の注意を払い、フリーポアラテアート、デザインカプチーノ、3Dラテアート、マキアート、カフェモカラテアートを描いていく。判定は全てAIが行うため、コントラストの有無や難度の高さで勝負が決まる。


 AIの前に全てのラテアートを提出し、自動で判定が行われている。


 僕の描いたラテアートは全てファンタジーモンスターだ。


 総合スコアで対戦相手を上回り、ノーアウトのまま対戦が続く。


「あぁ~、疲れた~。あともう少しで予選突破だな」


 いつもよりたくさんコーヒーを淹れたことで、ぐったりとしながらベンチに腰かけた。


 久々の大会なのか、疲労が溜まっていた。まだ中盤くらいなのに、肩で息をしてしまっている。会場の雰囲気に呑まれてしまっている。競技中は気にならなかったが、経営者気質が染みついたのか、どれくらい客足が入っているのかを気にしてしまっている自分がいる。


 どうして集中しきれないのか、理由がまるで分からない。


 スランプとも言える心境に、焦りだけが募っていく。


「あれだけ参加者がいたのに、かなり数を減らしましたね」

「スリーアウトで強制リタイアだからな。今日だけで950組が消えるんだ」

「チームシアトルと同じ組じゃなくて良かったですか?」

「まさか。どこで当たろうと、正面突破あるのみだ」

「むしろここで潰しておきたかったけどな」

「ふふっ、皐月ちゃんは自信家だねぇ~」


 手で口を隠すようにしながら微笑む弥生。


 ――こいつら、歴戦の猛者にして最強の敵が参加しているというのに、まるで引け目がない。


 これだけプレッシャーが重く伸し掛かる状況を意に介さず、遊びに来たかのようにも見えるが、絶対に勝ちたいという信念も窺える。真剣さと好奇心を併せ持ち、怯むこともなく全力を出せる。


 こんな光景、昔も見たことがあったような。


「どうしたんだ? ボーッとして」

「あ、いや、怖気づいてないようで何よりと思ってな」

「当たり前だろ。競技者たちがコーヒーを淹れているのを見るだけで心が躍るんだ」

「競技者を見てると、こっちまで刺激されるよね。あっ、そういえば、ここまでずっとあず君1人で戦ってますよね。そろそろ私たちにも競技をやらせてください」

「いや、ここは僕がやる。2人は準決勝まで体力を温存しておけ」

「それは私の台詞だ。ここまでワンオンワンの競技ばかりだったとはいえ、その内ツーオンツーとスリーオンスリーの競技も出てくるんだぞ。チーム戦は1人じゃできないんだ。私たちに任せてくれ」

「……分かった」


 弥生と皐月の背中が一段と大きく見える。


 そう思わせる理由は、2人の競技に対する姿勢だ。子供のように夢中になっている。疲れていることなんてすっかり忘れるくらいだ。渋々出番を譲ったはいいが、チーム葉月珈琲は思わぬ壁に直面する。


 次の対戦相手が決まると、ルーレットが回り、競技が決定する。


『ジャスト・ハート』は1人がエスプレッソとスチームミルクを作り、もう1人がハートのラテアートを描いてカプチーノを淹れるツーオンツーの競技だ。ラテアートを描く人は、ミルクピッチャーに入っているスチームミルクを全て使い切り、ハートを可能な限り描かなければならない。


 描かれているハートの数だけポイントが加算され、こぼした場合やスチームミルクが残っていると判定されれば全てのポイントが0点となる。カップの内側に書かれている線よりも下の容量であっても0点となるため、過不足のないようにエスプレッソやスチームミルクの量を加減しながら慎重に描くバランス感覚が求められる。これを前半と後半でそれぞれ5分以内に行い、ハートの合計数を基準とした総合スコアを競う。カプチーノの量がコーヒーカップの高さとピッタリになるよう調整しなければならないことからこの競技名がついた。この競技ではグラインダーを使い、手動で量を決めるが、恐らくは分量感覚を試すものと思われる。参加する2人はチーム内で自由に決められるが、前半と後半で担当が入れ替わるため、両方共必ずこなさなければならない。ここは弥生と皐月に任せることに。


 ベンチから2人の動きをじっくりと観察するが、特に慌てた様子はない。


 見なくても大丈夫だろうと高を括っていたくらいには自信があった。


 空を見ながら競技時間だけが過ぎていく――。


 まずは弥生がグラインダーを使うが、使い慣れていない様子だ。うちで練習している時は自動的に決められた分量が出てくる機能がついた最新式エスプレッソマシンを使っていた。自分でいちいち分量を決めるのは非効率だが、分量感覚を鍛えるには丁度良い。僕のように昔から競技に携わっている者であれば、手動で丁度良い分量を出すくらい造作もないが、弥生と皐月の世代は最新式エスプレッソマシンが導入されてから競技会に参加している。十分練習はしたが、ここまで緊迫した状況ではなかった。


 指先に全神経を集中させ、弥生がエスプレッソを淹れると、牛乳の入ったミルクピッチャーにエスプレッソマシンに付属しているノズルを挿入し、蒸気を噴出させながらスチームミルクを作る。


 他の競技会であれば、スチームミルクを余分に作り、失敗した場合のケアをするが、今回はそれが許されないのだ。分量が違えば、チームメイトに恥をかかせてしまう。


 何やら観客席がざわついている。決着がついたのだろうか。


 信じられないことに、ステージの上にはカプチーノを零してしまい、慌てて作業ステーションをタオルで拭く皐月の姿がある。弥生はカプチーノを淹れる側ではないため、干渉することは許されない。


 冷静に拭き掃除を終えるが、弥生の配分では超えてしまう。


 対戦相手のチームトラットリアは無事にハートを3つも完成させた。


 コーヒーカップの大きさは好きに選ぶことができ、サイズが小さければ小さいほどボーナスポイントが大きくなり、マキアートであれば最も大きいコーヒーカップの2倍分のスコアとなる。つまり前半で負けても、後半のマキアートで巻き返せばいい。弥生も皐月も気づいたようだ。


 皐月はマキアートを使うよう指示を出し、弥生が真剣な表情で頷いた。


 1滴でもこぼれたと見なされれば0ポイントとなる。AI判定に辿り着けないミスは痛いが、後半で相手がミスを犯す可能性もある。だが先にこっちのミスを見た相手が考えることはただ1つ。無難な競技で追加点を狙い、逃げ切りを図ることだ。無理をせずに済む分プレッシャーがなくなる。


 皐月が手早くエスプレッソとスチームミルクを弥生に届けた。


 マキアートを慎重に描こうとするが、思うように体が動かない。いや、動けないのだ。


 下手に動けばまたミスをする。だが動かなければ制限時間の5分を超えてしまう。


 調理開始からカウントダウンが始まっているため、バトンタッチにかかる時間は短いに越したことはないのだが、思った以上にチームワークが問われる競技だ。弥生と皐月は知り合ってから長いが、チームメイトとして手を組んだ経験は浅い。ましてやここまで敗北と隣り合わせの場面に遭遇したこともない。


「……」


 結局、弥生はマキアートにハートを2つ描いてみせたが、前半のミスが響き、敗北を喫した。


 ワンアウトが記録され、あと2回負ければ敗退だ。3人1組のチーム戦だというのに、1人のタスク、2人のコンビネーション、3人のチームワークが全て問われることを改めて思い知らされる。


 ワンオンワンの競技には強いが、ツーオンツーやスリーオンスリーには穴がある。個人の力が強い葉月グループならではの弱点とも言える。以前はワンオンワンの競技が多めだったが、どのチーム戦も競技内容を見直す動きが出ているし、以前のままの葉月グループではまず勝てないだろう。チーム葉月珈琲以外にも葉月グループ発祥のチームが参加した大会もあるが、いずれも予選敗退を喫している。


「済まない……」

「気にすんな。まだワンアウトだ。今ここにいる連中を全員潰すまで戦いは終わらねえぞ。チームトラットリアはツーアウトだったからな。そりゃ慎重にもなる。最後の1チームになるまでは試合が続く。再戦もあり得るからな。次もスリーオンスリーじゃなければ2人に任せる」

「……分かった」


 力なく皐月が答えた。1敗したくらいで意気消沈か。まだまだだね。


 2人はトッププロとの対戦経験に乏しい。世界大会に出なければトッププロと戦う機会が訪れにくいのはプロ競技としてどうなのかと思えなくもないが、ならば日本からトッププロを生み出せる土壌を作ればいいだけのこと。チーム戦の世界大会は国内予選がない大会も多く、トッププロと戦う機会が必然的に増える。初見の相手が多いものの、大半はメジャー競技会国内予選レベルなのは分かった。


 チームトラットリアはメジャー競技会のイタリア代表経験者がサポーターチームにいる。


 1年間ずっと指導を受けてきたことが見て取れる。


 弥生と皐月はまたツーオンツーの戦いをしたが、これも僅差で敗れてしまう。


 ツーアウトになり、もう後がなくなったところで、チーム葉月珈琲とチーム中欧のみとなった。チーム中欧はドイツ人とポーランド人とオーストリア人の3人による混成チームだ。


 あれっ、あの人は確か、バリスタオリンピック2019ウィーン大会で会ったオットーじゃねえか。


 ――ということはつまり……。


 顔を思い浮かべた途端、それは現実のものとなった。


 目の前には鈴鹿の姿がある。子供まで連れている。上の子と変わらないくらいだろうか。


「僕にやらせてくれ」

「もういいのか?」

「これ以上負けたら敗退だからな。チーム戦は1人じゃできないんだろ?」

「……そうだな。任せた」

「任された」


 カッコつけたいわけじゃない。ただ鈴鹿に成長した僕の姿を見てもらいたいのだ。


 あの凛々しい顔を見た限り、鈴鹿は辛い過去を乗り越えたようだ。僕だって乗り越えた。


 疲れなんて感じてる場合じゃねえ。今は目の前の競技に全力を尽くすだけだ。


『ブリュワーズ・チョイス』は機械動力を伴わないあらゆる抽出器具を使い、同じ種類のコーヒーを淹れるスリーオンスリーの競技だ。予め生産国、コーヒー農園、焙煎度が公開されたインスタント用のコーヒー豆をランダムに選定された10種類から選び、好きな抽出器具を使う。スリーオンスリーでありながら1対1で戦う変わり種の競技だ。総合スコアで上回れば味方との交代権を得る。コーヒーの風味特性を理解した上で、最も相性の良い抽出器具を当てる勝負と言っていい。


 この勝負……僕にとっては十八番と言っていい勝負だ。


 本来であれば最大3人が参加する競技だが、既に両方共ツーアウト。この場合は1人しか試合に出られない。奇しくも対戦相手は鈴鹿の夫であるオットーだった。


 音楽活動の傍ら、バリスタの大会にも参加している。ライブハウスは今も健在のようで、うちのお得意先でもある。コーヒー農園で採れた豆を真っ先に販売する相手でもある。オットーはペーパードリップを選んだが、僕はサイフォンで勝負に出た。同じ組になってしまった以上、どちらかがここで敗退となる。だがそれ以上に強い対戦相手と戦えることに快感さえ覚えている自分がいる。


 センサリージャッジがテイスティングを始めた。バールスターズでは全ての競技においてAIが判定を下し、味覚審査も最高の味覚を持つセンサリージャッジのデータをコピーしたAIが行うが、AIとて完璧ではない。不測の事態に備えて人間も審査に参加している。判定が明らかに常軌を逸しているとヘッドジャッジが判断した場合を除き、AIの判定を優先する。元々は米軍の軍事技術を応用して作られた最新型のAIだが、判定を間違えたことは一度もないという。


 良くも悪くも公正な判断しかせず、人間の感情など入らない。シグネチャーの判定は創意工夫が採点されるため、過程を無視するAIには向かない審査だ。故にシグネチャーが関わる競技は一切行われない。参加のハードルを下げることで多くのバリスタに門戸を開こうとしている姿勢が窺える。AIはどんな競技をしたかしか見ない。誰が競技をしたかに左右されないという意味では、公正さにおいてナンバーワンである。人間のジャッジも取って代わられる時代だ。


「12番グループ通過チームは、チーム葉月珈琲だぁー!」


 歓声が鳴り響き、チーム葉月珈琲の予選突破が確定する。


 僕は弥生と皐月の手の平に、ハイタッチの音を強く響かせるのだった。

読んでいただきありがとうございます。

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