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社会不適合者が凄腕のバリスタになっていた件  作者: エスティ
第20章 第一人者編
484/500

484杯目「ルーティーン」

 夕刻、全員の競技が終わり、結果発表を間近に控えた。


 心臓が今にも飛び出そうだが、最も緊張しているのは参加者たちだ。


 初めてファイナリストとなる小夜子たちは、時間の経過ばかりを祈りながらも、一刻も早く次の競技のリハーサルを始めた。拘束時間以外は全てリハーサルに費やす。大会が終わればいくらでも休めると言っただけで、目の前の仕事に惜しみなく没頭する。労力とは価値を生むためにある。


 1敗でも喫すれば即終了だが、今の僕には関係ない。


 観客席に向かうと、杉山社長が佇んでいる。


 一緒にいるのは石原だ。2人は結果発表前のバリスタたちを見下ろすように見つめながら、勝利はまだかと、時を焦っているようにも思える。璃子が杉山グループ本部株を集めていることは分かったが、やはりどこまで手の内を読まれているのかを確かめずにはいられなかった。


 勇み足を踏むと、杉山社長が首を振り向かせる。


「おやおや、誰かと思えば葉月社長じゃないか。久しぶりだね」

「まさかそっちの方から3勝分譲ってくれるとは思わなかった」

「鍛冶茂雄逮捕の件についてはご苦労だったね。本当に君は私の予想を超えてくる」

「白は切り通せたか?」

「私は何もしてないよ。ただの取引先だ。杉山グループは色んな企業と取引をしているからね。君のお陰で私の計画は台無しだ。世界進出を果たそうと思っていたが、全部おじゃんになった」

「それはうちに本部株を取られちまったからだろ?」

「ふっ、君は大きな思い上がりをしているよ。うちの本部株が取られることはない。それに君が勝つこともまずあり得ない。どの道負ける運命なんだからな」


 何だこの自信は……だが杉山社長はハッタリでここまで言うことはない。


 もし罠を仕掛けているなら、早く璃子に知らせるべきだが、迂闊に動けば璃子の存在がばれる。


 コーヒーイベント終了までに本部株を奪えれば、勝負をせずとも決着をつけることができる。璃子がそう簡単にミスを犯すとは思えないが、一度相談してみるか。


 璃子にメールを送った。僕が手に入れた杉山グループ本部株は璃子に渡している。


 今のところは45%であるとのこと。残り6%奪い取れば勝てるが、簡単に譲ってくれる奴なんているわけがない。杉山社長の堅い守りを璃子がどうやって突破するのかが楽しみだ。


 まずはJBrC(ジェイブルク)の結果発表から始まった。


 順位が低い順に名前と所属が発表されていく。全て葉月グループのバリスタだ。必ず1人は世界大会で戦うことになる。これから羽ばたいていくバリスタを前に、観客たちは拍手と声援を送っている。


「ジャパンブリュワーズカップの栄えある優勝は……株式会社葉月珈琲、喫茶葉月米原市本店、居波紗綾バリスタです。おめでとうございます!」


 トロフィーを受け取ると、今まで溜まりに溜まった想いが溢れ出る紗綾。


 最終3位となった小夜子に正面から抱きついたかと思えば、観客席1番後ろの手摺りに膝をついている僕と目が合い、お互いに笑顔を零した。


 花音は準優勝、桃花は最終5位、美咲は最終4位となった。


 うちの振られ組四天王全員がファイナリストとなったわけだが、やはり彼女たちもコーヒーに愛されていた。葉月珈琲創成期からずっとうちのコーヒーを飲んできたんだ。経験値だけなら人並み外れている。20年以上の厚みがようやく覚醒した。自分にはできないという思い込みからは解放され、ただの一般人だった振られ組の姿はもうそこにはない。


 彼女たちは独立しても生きていけるだろう。


 ――元同級生から大物バリスタが誕生するって、こんなに嬉しいものなんだな。


 続いてJCIGSC(ジェイシグス)の結果発表が始まり、ファイナリストが入れ替わりで入場し、既に表彰式を済ませていた小夜子たちが退場する。


 表彰しているのは穂岐山社長である。


 弾劾絶壁事件がなければ、今頃は杉山社長があの場にいた。


 莉奈、皐月、ダニエル、松野、世戸さんの5人が残った。


 ダニエル、松野、世戸さんはアマチュアチームの一員として、僕らの前に立ちはだかっている。参加していると聞いた時は驚いたが、ファイナリストになるだけの実力はある。松野はJBC(ジェイビーシー)に、世戸さんはJLAC(ジェイラック)にダブルで参加している。


 まだ油断はできない。僕、伊織、千尋のように、勝つ可能性の高いバリスタが参加しない大会に松野や世戸さんを送り込んできた。世戸さんは初めてのファイナリストだ。バリスタランドでの修行の成果が表れていた。ワールドコーヒーコーポレーションへの転職を視野に入れている彼女としては十分な実績だ。


 ファイナリストの名前が1人ずつ読み上げられていく。


 松野は最終5位、皐月は最終4位、世戸さんが最終3位。残るは莉奈とダニエルの2人のみ。莉奈が笑顔で微笑む中、ダニエルは強く口を閉ざし、焦りを隠せなかった。


 祈りを捧げるように両手を握りしめる。


「ジャパンコーヒーグッドスピリッツチャンピオンシップ優勝は……株式会社葉月珈琲、葉月コーヒーカクテル岐阜市本店、大垣莉奈バリスタです。おめでとうございます!」


 最後に莉奈の名前が発表され、莉奈は皐月と抱き合った。結婚したのに名前が変わっていないのは外国籍の人と結婚したためであることが見て取れる。コーヒーイベントは国際交流が自然な形で行われる場でもあるためか、莉奈のような例はこれからも増えていくだろう。


 スコア差はほんの僅か。無我夢中の執念で得た勝利であった。


 表彰式が終わり、観客が退散していくと、ダニエルは気が抜けたような顔でその場に跪いた。


 杉山社長が観客席の階段を下り、ステージに上がると、ダニエルが恐る恐る顔を上げた。笑顔で迎え入れたかと思えば、杉山社長の表情が一変する。


「残念だ。君には期待していたんだがね。ニュージーランド代表として推薦する話はなしだ」

「そ、そんな。1人でも勝てたら要望を叶える話だったはず」

「それはあくまでも一生分の年金についてのみだ。葉月グループのバリスタに勝てないようでは、バリスタオリンピックで勝ち抜くことは難しい。終わったらもう国に帰れ。お前はクビだ」

「……」


 ぐうの音も出ないダニエル。死んだ魚のような覇気のない目には無念が籠っている。


「ダニエルが負けたのは、あんたがちゃんと育成しなかったからだろ」


 立ち去ろうとする杉山社長の背中がピタリと止まる。


「彼はアマとして活動することを選んだ。自己責任じゃないかね?」

「選んだんじゃない。選ばざるを得なかったんだ。他の連中だってそうだ。穂岐山珈琲にいた頃はみんな立派なプロだった。それが今じゃどうだ? 経費は全部自腹で、去年までロクな設備もなかった」

「そのアマに対して君らは大きく負け越した。プロとアマにそこまでの違いはない。もっとも、総合スコアを操作しなければ、今頃はうちが負け越していただろうがね」

「「「「「!」」」」」


 周囲にいた唯たちが目を大きく見開いた。気づけばアマチュアチームの連中は杉山社長が語る前に立ち去っており、葉月グループのバリスタやサポーターチームの連中までもが挙ってステージに上がり、お互いの健闘を称え合おうとしている最中であった。


 杉山社長は不気味な笑みを浮かべながら去っていく。


 伊織が離れていく杉山社長の姿を確認し、僕のそばに歩み寄り、顔を震わせながら口を開いた。


「総合スコアを操作したって……どういうことなんですか?」

「……本当はコーヒーイベントが終わってから伝えようと思っていたんだけどな。実は去年までの大会には大きな不正があった。鷹見弟が色々とやらかしてくれたお陰でな」


 皮肉を交えながら事情を説明すると、皐月は最前列の席に座り込む。


 鷹見弟が葉月グループのバリスタにだけ細工を施し、総合スコアが下がるように仕向け、既に結果として残ってしまったことを告げた。証拠があるとはいえ、今更覆すことはできない。ペナルティを問うこともできたが、弾劾絶壁事件がなければ成功しないし、何より僕にとって気に入らない勝ち方だ。


 各競技会で行われた不正を聞き、どうりでスコアが低かったわけだと小夜子たちはあっさり納得する。準決勝の段階から行われ、葉月グループのバリスタだけ一掃されたことには不信感さえ抱いた。強化合宿で血の滲むような努力をしたとは思えない総合スコアだった。決勝には進めても、そこで詰むくらいの総合スコアであったことに対する違和感は凄まじいものだ。アマチュアチームが強かったにしても、戦績が酷すぎた。鷹見弟は2年前に行われた最初の優勝回数勝負から不正に関わっていた。本来なら2年で葉月グループを潰すつもりだったが、皐月や花音が予想以上の健闘を見せてくれた。


「酷い。競技会で不正をするなんて許せない! あたし、協会に抗議してくる」

「待て。もう終わったことだ。それに今回は不正ができないように監視役がいる。それとも君らは全勝する自信がねえのか? 実績があるとはいえ、不正をしないとロクに勝てない連中に」

「あたしたちは人生を懸けてコーヒーイベントを目指してきたのに、それが不正1つで簡単に水の泡にされていたなんて、黙ってられないよ! あたし悔しいよ……こんなことって……」


 項垂れながら表情を崩す紗綾。小夜子は黙ったまま紗綾に近づく。


「紗綾、私たちはプロだよ。アマチュアチームにプロの実力を思い知らせてやろうよ」

「そうそう。去年までの総合スコアはハンデみたいなものだし、不正による敗北ってことは、不正がなければ勝てるってことだよ。明日はJBC(ジェイビーシー)JLAC(ジェイラック)だし、休んでる暇なんてないよ。ねっ、響さん」

「そうだ。私たちは勝たなきゃいけない。葉月グループのため……いや、私たちの人生を好転させてくれたあず君のためにもな。紗綾、君はJBC(ジェイビーシー)だろ。今日からはたった1種類の競技に集中できるんだぞ。これほどやりやすい状況はない」

「……分かった。あたし……優勝する。絶対にアマチュアチームを倒す」


 内に秘めた闘志を曝け出し、会場から立ち去る杉山社長の背中を睨みつける紗綾。


 振られ組四天王の中でも、特にバリスタとしての才能に長けている紗綾だが、やっと開花してくれた。バリスタを始めた年齢が高かった分、成長速度の低下を懸念していたが心配はない。そりゃ10年も同じ練習を()()していれば、どんな凡人だってプロのレベルに成長するわな。


 葉月珈琲塾が最も伸ばしている能力は継続力だ。


 プロとして成功する人は練習への苦手意識もなく淡々とこなす。多くの人はそれを努力と呼ぶ。だが当のプロたちは努力と思っていない。練習を努力ではなく、生活習慣の一部としてルーティーンに組み込んでいるだけだ。例えば食事や睡眠を努力と思っている人は、例外を除けばまずいない。小夜子たちは練習を食事や睡眠と同じ感覚で行っていたのだ。強化合宿と自宅練習を毎日行うようになってからは無駄な動きが一切なくなり、バリスタオリンピックに出場していてもおかしくないくらいには成長を見せている。昔の僕と比べても見劣りしない連中がどんどん湧いてきやがる。


 人を動かすのは、無意識に組み込まれたルーティーンだ。


 意識しながら継続できることなんてたかが知れている。最初こそ辛いかもしれないが、一度習慣になれば作業も練習も苦痛ではなくなり、当たり前のようにこなせるようになっていくし、後は体が勝手に動きを覚えていく。小夜子たちは努力の方法を知らなかっただけで、決して凡人なんかじゃない。就職レールに乗る方法しか知らない人間であれば、どんな人間だって凡人と化す。もし世の中の大多数が凡人ばかりであるならば、それは紛れもなく社会の責任である。


 だってそうだろ。才能1つロクに引き出せない社会なんて、何の価値もねえよ。


 生活保護受給者が増え続けているのは、自力で食っていけるだけの才能を伸ばすシステムを導入してこなかった代償とも言える。才能を伸ばす環境を提供できない社会が、彼らの生活保護費を支払うのは至って公平であり、腐敗する社会を放置してきた連中が、増え続ける社会保険料を支払うのは当然だ。僕に言わせりゃ、彼らの才能を踏み躙り、不才にした慰謝料を民衆が行政を通して支払っているのだ。


「紗綾、この落とし前は必ずつける。今は競技に集中しろ」


 右手を伸ばし、紗綾の丸みを帯びている頭を撫でた。


 顔を赤らめると、腰まで伸びている髪は紐でまとめられ、一瞬にして機嫌を取り戻した。


「うん……あず君、後はあたしたちに任せて」


 口角を上げながら微笑む紗綾に安心したのか、ここにいる全員にエンジンがかかったようだ。一斉に控え室に戻ると、JBC(ジェイビーシー)JLAC(ジェイラック)のリハーサルを始めた。凜はJBC(ジェイビーシー)JLAC(ジェイラック)の両方に出場する。JLAC(ジェイラック)についてはシード権を得ていたため、余裕を持ってコーヒーイベントを迎えることができた。


 JBC(ジェイビーシー)には実質伊織の代役として、今年伊織が出場していた場合の競技を完全にコピーする。それは唯も同じだが、奇しくも僕と伊織の代理戦争となった。


 璃子からメールが届く、杉山グループ幹部の1人から本部株を5%買収したとのこと。


 本部株50%に到達した。過半数には到達していない。コーヒーイベント終了までに、他の株主を寝返らせれば十分だ。後は急いで役員会議を開き、吸収合併を可決するのみ。欲を言えば株式の3分の2は欲しいところだが、贅沢は言ってられない。杉山グループ側の人間をこれ以上買収するのは難しい。


 残りの50%は杉山グループの重鎮たちが握っている。多くは杉山社長自身が持っている。璃子が買収した分は杉山社長が回収し損ねた分だ。既に守りの体勢に入らざるを得ない杉山社長は明らかに焦っているが、冷静に見えたのは演技派ならではの業だ。


 本当に戦わずして勝つ方向へと向かっているが、だったらみんなの苦労はどうなる?


 コーヒー業界の覇権争いに勝つために戦ってきた。なのに別のやり方で勝利だけを得ても、散々鞭打って訓練を積ませてきたみんなは勝利経験を得られないままだ。民衆は揚げ足取りの天才だ。このことが後に公開されることになれば、葉月グループは杉山グループのアマチュアチームに恐れをなし、戦わずに株式取引で出し抜いたと言われ、ブランドに傷がつくことは明白だ。このコーヒーイベントは多くの民衆に証人となってもらい、プロがアマを圧倒する決定的瞬間を見てもらうためでもある。


 ――こんなことで本当にいいのか?


 僕の前方から数人の一般人が通りかかる。


「葉月グループのバリスタって凄いよねー。今のところ全勝だし」

「あー、7つのメジャー競技会の内の3つを制したって聞いたけど、全部制覇したらどうなるの?」

「分かってねえなー。7つのメジャー競技会が発足してからのコーヒーイベントで、同じ企業が全てのメジャー競技会を制覇するのは、どの国のコーヒーイベントでも前例がない。あのワールドコーヒーコーポレーションでさえ、達成していない記録だぞ」

「へぇ~、そんなに凄いのかー。じゃあもしそれができたら?」

「コーヒー業界の覇権は、葉月グループが握ったと言っても過言じゃない。もっとも、杉山グループには穂岐山珈琲にいたはずの多くの有力なバリスタがたくさんいるからな。できるかどうかは分からん。何せ葉月グループ以外のバリスタは、ほとんどが杉山グループのバリスタだからな」


 一般人たちがコーヒー業界を語りながら僕の横を通り過ぎた。


 コーヒーイベントが開催される前、杉山グループは多くのコーヒー会社を買収する暴挙に出た。


 以前のように支援する代わりに一時的な社員として迎え入れる策ではなく、会社ごと乗っ取る策に打って出たのだ。穂岐山珈琲の吸収合併は、第一歩に過ぎなかった。好待遇に惹かれ、多くの有力なバリスタが杉山グループ傘下のアマチュアチームとなった。支援を受けられるのはこの年のみ。来年以降は契約破棄して最悪クビになるだろう。よくある手口と言ってしまえばそれまでだが、今回の吸収合併策はわけが違う。最後の最後に全力投球してきやがった。僕らの敵はあまりにも多すぎる。


 空が段々暗くなる。日が沈むにはまだ早い。


 スマホを確認すると、雨雲が徐々に東京へ向かっている。天気予報によれば、明日以降は大雨になるとのこと。コーヒーイベントは屋内だけではない。屋外でも来客を迎えるイベントが数多く行われている。大雨なら屋内で行われるバリスタ競技会のみに限られる。会場に来た誰もが直接見るか、モニター越しにバリスタ競技会を見る機会が必然的に増えるということだ。


 むしろ好機と見るべきだ。運が良かった。弥生が歩み寄り、髪を靡かせながら僕の隣に並ぶ。髪から漂う花の香りが鼻を吹き抜けた。こんな時でも身嗜みを怠ることはない。外見は中身の1番外側の部分とはよく言ったものだ。自身に溢れている弥生からは凛々しさが伝わってくる。皐月にコンプレックスを持っていた弥生はどこへやら。育ち方を間違えなければ、皐月と肩を並べられるくらいの逸材だ。


「明日と明後日が勝負ですね。私の役割はなくなっちゃいましたけど」

「そうでもないぞ。既に勝った勝負であっても、まだ身内との勝負が残ってるだろ。葉月グループが勝ち越すことも大事だけど、みんなの最終目標は、あくまでも世界を獲ることだ。それを忘れるな」

「はい。皐月ちゃんには負けられません。というか皐月ちゃん以外にもいたんですね。才能の塊が」

「みんなが知らないだけで、才能ってのは、どこかに必ず埋もれてるもんだ。それを掘り当てるのが僕の社会的責任だと思ってる。油断してると、すぐに追い抜かれるぞ」

「そうですね。私も必ず、皐月ちゃんを追い抜いてみせます。もう憧れなんて抱きません。今は超えるべき目標ですから。死ぬ気で戦います。それが才能に恵まれた者の責任なんですから」

「分かってるじゃん」


 髪を雑に締めていた紐を手に取り、腰にまで伸びた髪を纏め上げ、ポニーテールのように紐で結ぶ。


 子供たちも大勢訪れている。将来を担う次世代トップバリスタの卵たちだ。


 早くもコーヒーに興味を持ってはいるが、親がなかなか触らせてはくれない。それでも収まらない子供こそ、僕の後継者になるのかもしれない。簡単なことではない。だができないことでもない。


 明日のJBC(ジェイビーシー)JLAC(ジェイラック)には、葉月グループと杉山グループの中でも群を抜いている主力(エース)が集結する。死闘になるのは明白だ。弥生は気持ちに余裕を持っているが、油断はさせないよう釘を刺しておいた。来るなら来い。


 水無が言っていた、有田を始めとしたリタイア組がサポーターチームとしての参加を余儀なくされているという言葉は果たして本気なのだろうか。僕でさえ分からない。有田は確かに参加していた。千尋だけが知っていた情報ならば、アマチュアチームの企みは明白だ。水無は恐らく嘘を吐いている。


 明日がどうなるのかも分からないまま、僕はリハーサルを見守るのだった。

読んでいただきありがとうございます。

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