481杯目「審判の週」
今回から最終章となります。
葉月グループと杉山グループによるコーヒー業界の覇権争いの行く末をお楽しみください。
あず君が戦いの末に失った何かもここで発覚していきます。
――コーヒーイベント1日目――
9月上旬、遂に決戦の火蓋が切られた。審判の日ならぬ審判の週だ。
僕らは東京に移動し、コーヒーイベントに備えた。
千尋とは積もる話をした。アマチュアチームと一緒にいる内に、並々ならぬ愛着が湧いてきたようで、決着がついたらどうするのかという話まで持ちかけてきたが、僕は今の方が大事と話を打ち切った。最後の強化合宿でも的確な助言を送り、決定打に欠けていたシグネチャーを一押しした。
コーヒーイベントの舞台を東京から他の都市に移動させるプランは却下となった。
マーケットの関係上、どうしても東京は外せないらしい。協会側としては、人が集まることで発生する入場料の利益から離れられないらしい。ここは現会長である穂岐山社長次第ではあるが、政権としては昔よりも弱体化している感は否めない。期待するだけ無駄と考えていい。
当日を迎えると、またしても朗報が入った。
杉山グループはJCRCに加え、更に2つの競技会から撤退したのだ。
かつて根本が最初の適用例となったリタイアルールがまたしても適用された。企業から会社員が出場する場合、企業は参加する予定の社員を辞退させることができる。JCCにJCTCまで捨てることを明確にし、出場予定であったアマチュアチームの面々は、残ったメンバーのサポーターチームを結成するに至り、残る4種類の競技会で決着をつけることとなった。
どれか1つでも負ければ即敗退とはいえ、あまりにも慎重すぎる。
しかもうちが最も力を入れている競技ときた。1週間続くコーヒーイベント、全てのメジャー競技会が終わるのは5日目だが、5日目に行われる予定のJCTCとJCCはアマチュアチームが辞退しているため、実質4日目で決着がつくことになる。勝負を急いでいるわけではなさそうだが、より確実な方法を用いてきた。先手を打たれる格好となったが、僕らがやるべきことに変わりはない。全競技に全力を注ぐだけだ。
千尋の言葉が信じられないのか、伊織が真っ先に口を開いた。
「ええっ! それ本当なんですかぁ~!?」
「本当だよ。でも相手はあと1つ勝てばいいんだから、戦力的に勝てそうにないところは捨てて、戦力が集中しているところにリソースを回すのは、むしろ定石だと思うけど」
「バリスタの人たちは、コーヒーイベントに参加することを楽しみにしていたはずですよ」
「リタイアルールがある以上、仕方ないよ。企業には逆らえないし、杉山社長は1人でも葉月グループのバリスタに勝てたら、全員に一生分の年俸を支払うって、この前アマチュアチームのみんなを集めて言ってたよ。事前にリタイアさせなかったのは、きっと葉月グループのバリスタが繰り上がりでコーヒーイベントに進出することを防ぐためだろうね。相変わらず汚いよ」
珍しく声を低くしながら冷めたような呆れ声を発する千尋。
リタイアルールには細かい分類がある。大会前と大会中の2種類だ。大会前であればより多くの人に参加してもらいたい意図からコーヒーイベント進出者の中から辞退する場合は枠が1つ空き、ギリギリで予選落ちしたバリスタの連絡先に招待メールが届く。大会中で準決勝や決勝などに進出した直後であれば、その時点で参加している人の中で、ギリギリ通過できなかった人が繰り上がりで進出となる。バリスタオリンピック2023ダブリン大会の時は大会中のリタイアルールが適用され、根本の代わりに伊織が九死に一生を得たが、願わくばこんな形でアマチュアチームにリタイアなどしてほしくはなかった。
実力とは関係のないところで、理不尽に落とされるバリスタの身にもなれってんだっ!
神聖なるコーヒーイベントを汚した罪は吸収合併で償ってもらう。
「あず君、うちのバリスタにも事情を説明して、アマチュアチームがいる競技会に戦力を回したら?」
「駄目だ。そんなことをすれば、僕らもあいつと同じになっちまう。既に連中が準決勝を辞退しているとはいえ、これ以上辞退者が出れば、コーヒー業界の信用に関わるんだ。あいつらに勝っても、そんな姑息なやり方を用いるようなら、葉月グループの未来なんて知れてるっての」
「お兄ちゃんは相変わらず堅いよね。そーゆーとこ」
璃子が腕を軽く組みながら腰を曲げ、たっぷりとした膨らみが強調される。
「作戦はうまくいったか?」
「杉山グループの役員を買収して、戦わずして本部株を貰える手筈は整ったよ。最低でも50%以上は確保できると思う。競技は好きにやっていいけど、戦わずして勝てるんだから、もうアマチュアチームのことは気にしなくていいよ」
「アマチュアチームが負けたら、あいつらはどうなる?」
「今までの投資が全部パーになるし、借金背負ってお先真っ暗ってとこかな」
「……」
妙に納得がいかない。璃子の言う通りならば、既に決着はついている。内部からの工作は千尋が行っている。璃子の作戦は巧妙ではあるが、知略だけでは必ず行き詰まる。
アマチュアチームは既に多くの借金を背負い、貰えるかどうかも分からない一生分の年金に頼りっきりで前のめり感が否めないが、プロ契約制度の恩恵を受けていれば、ここまで状況が悪化することはなかったのだ。食うか食われるかの世界だ。だが生きる力を身につければ、学歴も職歴も関係なく、自分の生き方で勝負できる人間になれることを、皮肉にもこいつらが思い知らせる結果となった。
鍛冶茂雄の逮捕騒動以降、形勢は一気に変わった。
将来バリスタを目指す学生たちは、プロ契約制度を採用しているコーヒー会社に挙って就職を希望しており、杉山グループ側に所属していたコーヒー会社が慌てて派閥から分離し、プロ契約制度を採用し始めたのだ。杉山グループは孤立を余儀なくされ、逮捕者の応援演説をしていたこともあり、株価が大きく落ち込んだ。見計らったかのように璃子が千尋に嗾け、杉山グループの株を買い始めたのだ。
世間は杉山社長や鍛冶茂雄を支持していたことなどすっかり忘れており、何事もなかったかのように批判し、葉月グループを支持し始めたのだ。本質的には世間の方がずっと厚顔無恥なのかもしれない。敵に回すと厄介だが、味方になってくれた時は心強いのがせめてもの救いだ。世間の目に晒されている状況ならば、杉山社長も不正行為はできない。ただ見守ることしかできないのだ。今の僕のように。
ただ、僕が突破口を開くところまでは璃子も想定外だったようで、奇想天外な発想で窮地を乗り越えるタイプの人は苦手のようだ。
――ん? ちょっと待てよ。そういや杉山社長が令和恐慌を乗り越えたのも……。
僕の脳裏に嫌な予感がよぎる。違和感の正体も掴めぬまま、時間だけが過ぎていく。
午前10時、まずは余興としてJCRCの結果発表が行われた。
結果は吉樹が優勝を果たし、香織は準優勝となった。葉月グループのバリスタにとっては今大会初となるワンツーフィニッシュとなり、プロ契約制度の恩恵が早くも表れていた。まずは1勝と言いたいところだが、油断は微塵もできない。肝心の競技は全て2日目以降に結果が決まる。
1日目はJBrCとJCIGSCの準決勝だ。
JBrCには、桃花、美咲、花音、紗綾、小夜子の5人が、杉山グループからは、鷹見たち3人が参加する。情状酌量の余地ありとはいえ、弟が事実上の前科者として有名になってしまったこともあり、会場からはブーイングの嵐だ。司会者がブーイングを鎮めるために両手を上に広げながら客席に向かって声をかけ、競技中にブーイングを浴びせれば退場処分にすると通達し、ようやく事を収めた。文字通りお手上げだ。これでは鷹見も集中できないだろう。
JCIGSCには、唯、莉奈、千尋、陽向、皐月が参加し、杉山グループからは、ダニエルたち4人が参加する。杉山グループは全国中からバリスタを集めている。大半は吸収合併したコーヒー会社にいたバリスタばかりで、コーヒーイベントにも度々顔を見せている。いずれもプロ契約制度を導入せず、終始杉山グループに味方していたコーヒー会社ばかりだ。今回は杉山グループから資金援助を受け、事実上のプロ契約制度となっているわけだが、彼らが転職する日は近い。決着がつけば資金援助は受けられなくなり、結果を出すためにワールドコーヒーコーポレーションへと所属を変えるはずだ。
無論、彼らにそれだけの志があればの話だが。
各参加者が準備を始め、アマチュアチームは有田、エヴァ、カートの3人がサポーターチームへと回っており、不完全燃焼を隠しきれずにいる。この日のために練習を積んできたが、コーヒーイベント直前に強制リタイアさせられたらしい。杉山グループへの不信感は日に日に溜まっていく一方で、彼女たちの我慢は既に限界を迎えていた。桜子が有田に同情の視線を向ける。
「アマチュアチームの皆さん、士気が下がってますね」
「無理ないよ。大会直前にリタイアさせられたんだし」
「どうしてリタイアさせられないといけないんですか?」
「他の競技に参加してるアマチュアチームのサポーターに回るため。元々はサポーターチームなんてなかったけど、大会直前に決めたの。サポーターがいれば、競技者は競技にだけ集中できる。今更うちの真似事を始めたところで、サポーターが競技者の心境を分かってなかったら意味ないよ」
「いや、あれは思ったより厄介だ。サポーターチームの中には、穂岐山珈琲育成部でサポーター経験を積んだプロもいる。サポーターは時に競技者を覚醒させる」
「私たちがそうでしたね」
安心の笑みを浮かべる桜子。今は彼女の輝かしい顔が眩しすぎる。
このままやる気をなくしてくれればと考える千尋の気持ちも分からなくはない。バリスタが世界に羽ばたくためのコーヒーイベントは派閥争いの戦場と化し、バリスタは戦場の兵士のように扱われ、敵味方を問わず翻弄されている。うちもある意味では杉山グループと変わりないのか?
今や個人単位で戦うのではなく、組織単位でサポーターチームが結成されるのが当たり前で、競技者の分業制文化は葉月グループ発祥だ。不正ができない以上、それを利用せざるを得ないところまで追い詰められている証でもある。実力と関係のないところで邪魔ばかりされていたツケがアマチュアチームに回ってきたのだ。自ら責任を取ることはせず、あくまでも部下に責任を負わせた。
会長を辞めたとはいえ、荒らすだけ荒らして去っていっただけで、穂岐山社長が尻拭いをさせられる格好となっている。こんなんで責任を取ったとは到底言えない。この国の悪い癖だ。辞めれば許されると思っている輩ばかりで、自分がしたことを顧みない人間ばかりを量産してきた国の責任は重いと言わざるを得ない。兵士を無駄死にさせた指揮官は、自ら最前線に赴いて死に物狂いで戦う。それが責任を取るということだ。当たり前のことだが、その当たり前ができないことを人は腐敗と呼ぶ。
璃子は決着がつく前に本部株を回収し、優勝回数勝負そのものをなかったことにしようとしている。
だが7種類の競技の内、半分近くをあっさり捨ててまで勝負に臨むのは杉山社長なりに本気だからだ。こんなことが分かってしまうあたり、僕も奴と同等のクズなのかもしれない。いや、クズだから分かることもあるのだ。つまり杉山社長の意図を璃子は理解していないことになる。
一度も会ったことのない相手のことまで分からない。だとすれば、奴が次の一手を考えていたならば、見過ごしてしまうことも十分あり得る。このままじゃ危ない。璃子は勝った気でいる。僕に言わせれば、ブーメランがぶつかってもおかしくはない。今動けるのは僕だけだ。
僕、璃子、千尋、皐月だけが控え室に残り、周囲が静かになる。
他の参加者は競技の準備に向かったようだ。千尋と皐月は午後からの競技で、少しばかり時間に余裕がある。今まで以上に負けられない戦いだが、千尋も皐月も堂々と佇み、競技を心待ちにしている。
「千尋、皐月、状況は把握してるよな?」
「ああ。7つの競技会の内、3つは勝利が確定している。残り4つが勝負所だな。最も戦力が充実している競技会に全額ベットしているのはよく分かった。私も全力を尽くす」
「それは僕も同じだよ。僕の裏切りに気づいてないといいけど」
「千尋は裏切ってない。最初からこっち側だろ」
「……そうだね。もっとも――向こうにとってはだけど」
「「「!」」」
千尋が妙な言葉を呟く。一瞬固まってしまったが、何が言いたいのかはすぐ分かった。
1人の鼠色のスーツを着た白髪の男が入ってくる。真っ先に反応したのは千尋だった。
格好と威厳ある風格から察するに、恐らくは役員クラスの人間だ。黒いスマホを片手に持ち、申し訳なさそうな顔で歩み寄り、明らかに敬服している。
「どうしたの?」
「千尋さん、社長に裏切りがバレました。人事部長が告発したみたいで」
「バレちゃったかー。まあしょうがないよ。いつかバレるとは思ってたけど、あの人事部長、結構怪しかったからねー。だからあえて重要な情報は伏せておいたんだけど」
「この人は?」
「あー、杉山グループ中部地方本部長の里中さん。村瀬グループの取引先担当だった人」
「里中です」
「杉山グループなのに、千尋と仲が良いのはそのためか」
「ええ。私は予てから杉山のやり方には疑問を持っていました。そんな時に千尋さんから声をかけていただいて、葉月グループに寝返ることにしたんです」
里中さんは今までの経緯を話してくれた。
璃子の指令を受けた千尋は里中さんと結託し、杉山グループを内側から崩壊させるべく、僕にさえ知らせないまま、中枢に潜り込んだ。杉山グループにとって不利な情報を提供してもらい、杉山グループ本部株まで入手したわけだが、特に反撃らしい動きは見られなかった。
突然全ての居酒屋カフェ撤退を命じられた時、不審に思い調べてみれば、杉山社長が僕との賭けに敗れたことを知り、葉月グループなら、杉山社長の暴走を止められると思い立ったが吉日。本部長の座を追われる覚悟で牙を剥き始めた。杉山社長は僕の表情からは何も悟れなかった。僕にも知れていれば、ほんの些細な挙動からスパイを潜り込ませていたことがばれてしまい、全ての計画が台無しになるところだったのだ。それもそのはず、千尋は僕とは情報を共有しなかった。故に今の今までバレなかった。
杉山社長はうちに参謀がいることは知っていたが、誰かまでは知らなかった。何か1つでも不祥事が発生すれば、杉山グループ本部株を売ろうと考える者が現れ、売ってくれるだろうと確信したまでは良かったが、一向に尻尾を出そうとはしなかった。
僕の鍛冶茂雄弾劾は正解だったのだ。内部から崩壊させる気はなかったが、結果的に璃子や千尋を助けることができた。だがこれで本当に良いのかと思う自分もいる。葉月グループに所属する全員の生活が懸かっているというのに、やっぱり僕は……生粋の戦闘民族かもしれん。
動きは恐らく最初から悟られている。バレるにしたって早すぎるし、誰かに千尋を監視させ続けていたとしか思えない。確保できた本部株は全部合わせて50%だ。杉山社長も50%持っているが、契約書にはコーヒーイベント終了時点で勝っている側を勝ちとする条項が書かれている。つまりコーヒーイベント終了までに株式比率でリードし、株主総会を開くことで、決着前に吸収合併できる。
そこまで全部読まれているとしたら――。
「千尋、皐月、今は競技に集中しろ。吸収合併の方は僕に任せておけ」
「ふーん、お兄ちゃんが吸収合併に乗り出すなんて、珍しいこともあるんだね」
「期待してないわけじゃない。念には念を入れるだけだ。もうすぐサポーターチームが来る。2人はここで競技の準備をして、まずは決勝進出を目指せ」
こうでも言わないと、競技に集中してくれそうにない。仮にも経営者の御曹司と令嬢だ。組織の危機には人一倍敏感で、要領は良いが、マルチタスクをやりすぎると、意識が分散する危険性が高い。
やりたくはないが、ここは僕が引き受けるしかあるまい。
「――分かった。じゃあ今はあず君に任せようかな」
「そうだな。私も午後からすぐに競技だ。私は私にできることをする。あず君のためにもな」
「べた惚れだねぇ~」
からかうように千尋が言うと、皐月は目を逸らしながら赤面する。
「千尋君、乙女心を逆撫でするのは感心しないよ」
「冗談だってば~。璃子さん厳しいなぁ~」
「冗談でも人は傷つくんだよ」
璃子が言うと重みが違う。相手が本気にした時点で冗談ではなくなる。
良くも悪くも懲りないところも立派な才能だ。そんな千尋でさえ璃子には頭が上がらないようで、参謀としての力量は把握しているようだ。千尋と話が通じる数少ない相手でもある。
だが関係者以外の人には、ただの女子小学生にしか見えないのが、璃子の恐ろしいところだ。
迷彩戦略は今も活き続けている。誰かに気づかれることもなく、平穏な日々を送りたい。だが邪魔者がいる場合は容赦なく潰す。自ら手を下すことはなく、別の誰かにやらせる形で。璃子が主に利用してきたのは世間だ。自分が動くまでもなく、世間さえ動かせば、後は勝手に社会の方が変わってくれる。社会を動かした本人は特定できても、最初に社会を動かすことを考えた人までは特定されない。
最後の希望であるバリスタたちを見守り、僕は璃子と共に控え室を後にする。
扉が閉まった途端、2人きりになったまま、外からは多くの観客の声や拍手の音が聞こえてくる。
「お兄ちゃん、あんなこと言って大丈夫なの?」
「できることなら優勝回数勝負で決着をつけたいけどな」
「7種類のメジャー競技会で、全部同じ企業が同時に優勝した例はまだないんだよ。プロとアマの実力差はそこまでないし、確率的に言えば、どれか1つは落とす確率が高い。相手のサポーターチームはいずれもプロバリスタとしての経験者だし、ノウハウを身につけたら、プロとアマの差なんてあっという間に埋まる。だから先に乗っ取ってしまう方がずっと現実的なの。お兄ちゃんなら分かるでしょ?」
「確率論で言えば、その通りかもしれない。でもな、20年もずっと競技会で戦ってきた僕には分かる。バリスタは時にとんでもない奇跡を起こす。どんなに不利だろうと、最後まで信じ続けることでな。前例がないってんなら、うちが前例になればいいじゃねえか」
「……お兄ちゃんらしいね」
笑いながら璃子が言った。敵対勢力と正々堂々と戦うどころか対話すら拒否してきた璃子には誰かを信じ続けることなど、きっと分からないかもしれない。けど仲間を信じることさえできなくなれば、組織は組織ではなくなる。個人で戦うならそれでもいいかもしれないが、僕らは確かなチームを結成している。仲間たちは信頼に応えてくれた。伊織がバリスタオリンピックチャンピオンになった時、僕に向けて言った言葉を今でも思い出す。あず君がずっと私を信じて応援し続けてくれたお陰ですと笑顔で言われちゃ、惚れるに決まってるだろ。自分1人で戦おうとしたって、どこかで必ず限界が来る。
1人で戦おうとするなというメッセージを璃子は確と受け止め、靴音を鳴らすこともなく、スタスタと僕から離れていく。敵はチームを作って戦っている。こっちが小粒の個人軍として戦ったところで勝ち目はない。どんな作戦かは知らないが、信頼関係を築かないままの作戦は多くの場合失敗する。
璃子の計画に陰りが生じている。僕はその根拠を見過ごさなかった。
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