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社会不適合者が凄腕のバリスタになっていた件  作者: エスティ
第19章 逆襲編
479/500

479杯目「浮き彫りになる愚かさ」

 議員事務所の外に出てみれば、パトカーのサイレンが訴えるように鳴り響く。


 鍛冶茂雄が連行されていく様を見届けている支持者たちは何を思うだろうか。


 議会制民主主義は最終的に多数決によって方針が決まる。つまり決める者たちに教養がなければ、宝の持ち腐れだ。投票で当選者が決まり、当選者が悪い奴だと明白になったなら、よく考えもせず投票した連中にだって責任の一端はある。当選するべき人を輩出してこなかったばかりか、自ら考えることもせず、社会の一員としての責任を放棄し、人を見る目すら養ってこなかった教育の成果だ。


 警察の事情聴取を掻い潜り、少し遠くまで逃げ延びた。


 花月さんは鍛冶茂雄の反抗を詳細に話し、遺族たちの集団訴訟が明確になると、自らも筆頭となって賠償金を勝ち取ることを決意する。鍛冶茂雄は今までの罪を全て償うことになる。口を開けばほとんどが杉山社長の指示によるものと話していた。自分のしてきたことは棚に上げて、全部他人のせいかよ。


 杉山社長との同盟関係は脆くも崩れ去ったばかりか、とばっちりまで受けている。そこには信頼関係など微塵もなく、人の血が通っているわけでもなく、ただ漠然とした仲間意識があっただけで、希薄な関係ほど、いざという時頼りにならないものはない。たまたま共通の目的があったから手を組んでいただけの即席チームにすぎない。鷹見弟の妨害工作は鍛冶茂雄の指示によるもので、妨害工作の指令自体は杉山社長からの伝言によるものだろうが、証拠でもない限り、本人は知らぬ存ぜぬで白を切る。だが妨害がなくなった以上、9月は正々堂々と戦える。何か企んでいたとしても、不祥事の説明に追われているこの状況では、簡単には手が出せないはずだ。今の杉山社長に成す術はない。


 花月さんが事情聴取を終えると、解放された安心からか、胸に手を当てながら息を吐いた。


「やっと終わったみたいだね」

「はい。今日は本当にありがとうございました」

「鍛冶茂雄はうちにとっても厄介な相手だったからね。これでプロ契約制度を廃止される危険性はなくなった。大局的にはまだうちが不利だけど、これで真っ当な勝負ができる」

「あなたには大きな借りができました。雁来木染さん、いや……葉月社長」


 予想もしていない言葉に怖気が走り、一瞬体の動きが固まった。


 正体を悟られるようなことをした覚えはない。今までだってバレることはなかった。


 変装は璃子の方が遥かにうまい。僕でさえ分からなかったし、その内ボロが出る前にやめようとは思っていたが、いつかこんな日がやって来るとは思っていた。知ってはいても言わないでくれている人が他にもいるのだろうかと思えてくる。やっぱ嘘を吐くのは苦手だな。


 自分ではない平均的で常識を守っている普通の人を演じるのが最も辛いのかもしれん。


「それとも、あず君と呼んだ方がよろしいでしょうか?」

「……いつから気づいてたの?」

「父にコーヒーを淹れていただいた時です。あの洗練された動きは、あず君にしかできません。あなたのファンとして、何度も競技を見続けてきましたから。それに鍛冶茂雄の胸ぐらを掴んだ時、素に戻ってましたよ。他の人は気づいてない様子でしたけど」

「迂闊だな。でもあの時はどうしても我慢できなかった。騙すつもりはなかった。もし気に障ったなら済まなかった。こうでもしないと、身内以外の人は普段の僕に本音を言ってくれないからさ」

「気にしてません。正体を知った時は驚きましたけど、誰にも言いませんから安心してください。あなたも父が生きていることを誰にも言わない約束を守ってくださいました。何かお礼をさせてください」

「いらねえよ。君はもう自由の身だ。ずっとこの日のために潜伏してたんだろ? 復讐のために生きる必要もなくなったし、これからは伸び伸び生きられる。槍崎さんによろしく伝えてくれ」

「……分かりました」


 何か言いたそうだったが、あまり晴れやかな気分ではないのが低いテンションですぐに分かる。


 お礼なんて考えたこともなかった。ただ共通の敵を一緒に倒したと言うだけで、今の僕と花月さんには何の接点もない。何かを目当てに人とつき合ったこともないし、大きな貸しができた以上、雁来木染の正体をバラされることもないだろうし、ずっと貸しっぱなしでもいいくらいだ。


 僕は明日のことばかり考えている。次の戦いはコーヒーイベントだ。


 ――そういや花月さん、ここんとこ主演を休んで、監督に徹していたって言ってたな。


 捜査のためとはいえ、自分のやりたいことに蓋をし続けていた。


 後ろを振り返ると、捨てられた子犬のような顔の花月さんが僕を見つめている。


「シスターライト歌劇団だけどさ、バリスタランド以外に居場所はあるのか?」

「……いえ、ありません」

「だったら葉月グループ専属の歌劇団として傘下に入ってくれないか? バリスタをテーマにした作品を季節毎に劇場で公演してもらいたい。単なる契約じゃなく、傘下としてだ」

「それは願ってもないことですけど、いいんですか?」

「バリスタランドはこれから日本のコーヒー業界の拠点として栄えていく。そのためには宣伝広告塔が必要になる。誰かが決めた物語じゃなく、あんた自身が物語を描く。僕は近い内にバリスタランド社長を辞める。そうなると席が空く。そこで君に社長を任せたい。できるか? 無理にとは言わないけど」

「私が社長ですか?」

「君が本当にやりたかったことは、アスリートでもなければ歌劇団でもなく、性別だけで生き方まで規定される社会を変えることじゃないのか?」


 花月さんが口を開けながらのけ反った。内心を見抜かれた顔だ。さっきの僕のように。


 だったら社長の仕事が1番だ。団長を務めていたのはリーダーシップの表れだ。


 自分の手で組織を作り、人々を引っ張っていく仕事に喜びさえ覚えていた。元社長令嬢で槍崎さんの経営手腕を目の当たりにし、自らも同じように活発に振る舞いたいと考えた花月さんがまず思い立ったのが運動部だが、女性であることを理由にスポーツができる土壌を与えてもらうことはなく、次に目指したのは同様に体を動かす演劇部だ。しかしながら、これは妥協の産物とも受け取れる。


 本当にやりたいことをやるだけであれば、無理に独立してまでやる必要はない。


 団長になりたいのは指揮を執り、槍崎さん譲りの経営手腕を発揮するため。


 結論、花月さんがやりたいのは経営者の仕事だ。


「どうして社長がやりたいと分かったんですか?」

「経営者は男が多数派の仕事だけど、同時に世の中を変えられる仕事でもある」

「ふふっ、前々から思ってましたが、あず君は本当に面白い人です。今まで良かれと思って色んな人から無用な忖度を押しつけられてきました。でもあず君のように、私が本当に望んでいることを見抜いてもらったのは初めてです。忖度は嫌いですけど、ここまで嬉しい忖度は初めてです」

「ただの推理だっつーの」

「私決めました。バリスタランド社長の仕事、謹んでお引き受けします」

「そりゃ良かった」


 少しばかり笑みを浮かべ、僕は安心して岐阜へと帰宅する。


 帰りのタクシーはいつもより暗かったが、ほんのりと明かりが目に焼きついた。


 真っ暗な場所ばかりを見ているせいか、明るい場所が全く見えなかった。世界は自分の見え方次第で姿が決まると言っていい。ならば希望の光を常に追い続けようではないか。


 8月上旬、強化合宿へと赴いた僕は、伊織と共に指導をしているところであった。


 鍛冶茂雄逮捕の件は瞬く間に全国ニュースとなり、同時に当選していたことまでが、人を見る目のない連中の愚かさを浮き彫りにしていた。鍛冶茂雄の応援演説をしたことで赤っ恥をかいた杉山社長にも非難の声が集中することとなり、遂にジャパンスペシャルティコーヒー協会から追放されてしまった。


 穂岐山社長は会長に返り咲き、コーヒーイベントには、正式に協会の会員から監視役を置くことが認められた。葉月グループにとっては非常に大きく、敵側が優勝回数勝負の主導権を手放したに等しい。前回までは杉山社長が好き放題に立ち回っていたが、自由に動けなくなった。皮肉にも逮捕された鍛冶茂雄がうちに大きく貢献してくれた。鍛冶一茂は槍崎さんが生きていることを知るとあっさりと会社を返還し、今は取材陣から猛攻を受け、家に引き籠るようになってしまったという。


 可哀想だが、真実を知りながら告発しなかったこともまた共犯である。


 あっちが大鍛冶なら、こっちは小鍛冶ってとこか。


 鍛冶コーポレーションは元の槍崎コーポレーションへと戻った。社名も株式会社槍崎フードサービスへと戻ることとなったが、代償として多くの社員がクビになった。予てから改革派であった槍崎社長は方針に合わない社員ばかりが雇われていたことに開いた口が塞がらなかったという。保守的で言われたことだけを忠実にこなす権力の犬を一掃し、組織を立て直すことが急務となった。


 花月さんはバリスタランド社長兼シスターライト歌劇団脚本担当となり、団長と男役については既に引退の覚悟を決めている。演技に関して言えば、自分よりも才能のある若手に追い抜かれてしまったことが悩みの種であったこともあり、主演としての活動が減っていたとのこと。槍崎社長から経営学を教わりながら忙しい日々を送っていることだろう。あれから一切僕に連絡を寄こさないのが証拠だ。


 あの解散総選挙は社会に大きな印象を与えた。開票ギリギリまで弾劾しなかったのは、日本人が如何に自分の頭で考えない連中であるかを世界中に思い知らせるためだ。そして何より、勝利を目前にした敵ほど油断している存在はいない。議員事務所も当選のことばかり考えていたのか、警備が手薄でどうにか潜り込めたし、この絶好のタイミングが最も適していた。


 しばらく指導していると、何食わぬ顔の璃子が車から降り、歩み寄ってくる。


「璃子……どうかしたの?」

「お兄ちゃん、この前はごめん」

「あー、別に気にしてねえよ。璃子の方針だって間違ってない。だからやるなとは言わなかっただろ」

「お兄ちゃんは気が大きいんだか小さいんだか――!」


 璃子の正面から小さな体を抱擁し、肌の温もりと気持ちを感じ取った。


「済まんな。僕にも気に入る勝ち方と気に入らねえ勝ち方があるってだけで、拘るつもりはない。今後のコーヒー業界のことを思うと、アマチュアチームくらいの相手に勝てないようじゃ、先が知れてるってことだ。いざとなったらコーヒーイベントで決着をつける」

「そうなる前に乗っ取る手筈は整ってるから、お兄ちゃんは心配しなくていいよ。鍛冶茂雄の件、本当によくやってくれた。私の想像以上だったよ。本当はプロ契約制度がなくなっても平気だから、別に放置でもよかったんだけど、お兄ちゃんの執念が、今回の逮捕に繋がったと思う」

「その件だけどさ、前回までのコーヒーイベントはあいつらに仕組まれてた。杉山グループの人間がイカサマをしていて、葉月グループのバリスタが不利になっていた。例えば皐月がカッピングしたコーヒーだけが全部同じフレーバーになってたりな。今回の件で鍛冶茂雄は逮捕、杉山社長は協会の会長を辞任してイカサマができなくなった。素の実力だけで勝負できるなら、経験豊富なうちが有利だ」

「まあ、そういうことなら別にいいけど、お兄ちゃんにとっては面白くない結果になると思うよ」


 つまらなそうに顔を顰める璃子。あくまでも乗っ取るつもりらしい。


「お兄ちゃんは杉山グループを買収したらどうするつもりなの?」

「もちろん、改革するに決まってんだろ。保守的でほとんど働いてない連中は会社に必要ない」

「もし実行に移したら、国内の失業率が大きく上がることになるよ」

「別にいいじゃん。本来働くに値しない連中が一斉失業となれば、国も動かざるを得なくなる」


 にっこりと笑みを浮かべながら言った。僕は労働市場にメスを入れたい。


 荒療治にはなるだろうが、社会を進歩させる有効な手段はこれくらいしかない。


 働く必要のない人、働くに値しない人、こういう連中が無理に労働市場に参加するからこそ、1人あたりのGDPが下がる破目になる。必要に迫られて働くことを労働意欲とは言わない。生きるために仕方なく仕事をするような奴が、今後の社会を生き延びることはできない。


 生活保護を受けていても何ら不思議じゃない連中が企業で働いている限り、この国の生産性は低いままである。ならばそのハードルを大きく下げてやればいい。今までは国が貧困者たちに対し、惨めに餓死するか渋々と働くかの二択を突きつけてきたが、今度は国が貧困者たちから、無敵の人として治安を蹂躙するか、生活保護を与えるかの二択を突きつけられる。杉山グループ系列の会社には何度も訪れた。


 将来的にロボットやAIがやってそうな仕事ばかりで、暇さえあれば休むことや遊ぶことばかりを考えている連中にはベーシックインカム暮らしの方が遥かに向いている。労働するべき人の絶対数が減っているとも言えるが、仕組みの方が時代についてこれていない。バリスタの仕事だって、ただコーヒーを淹れていればそれで良かった時代は終わり、今や競技者として鎬を削るようになった。


 僕にはバールスターズがある。弥生と皐月はまだ4ヵ月もあると思っているが、僕に言わせればもう4ヵ月しかないのだ。準備時間がいくらあっても足りない。続けるほどに精度は上がるが、ルールも毎回更新されているところは同じようで、前回大会と同じ形式でないことは既に発表されている。同じやり方は通用しないという意味では、大会は競争社会の縮図なのかもしれない。


 璃子は戦わずして勝つことにおいては天才的だ。僕とは対照的で、傷つくことを良しとしない。


 合理的ではある。だが時には戦わなければならない時もある。見たくないものをしっかり見て、満身創痍になる覚悟を決めて傷だらけになる。それが戦うということだ。真っ当に生きている人ほど割を食う世の中は腐敗の一途を辿る。だから善良な市民が平和に生きるために戦うんだ。


 いくつものラテアートを作り終えた凜の机は、まるでアトリエのようで、寸分の狂いもなく描かれていく様は、精密機械のようにも見えるが、秘訣はそれだけではないと、神崎が感心しながら近づく。


「なあ凜ちゃん、あず君のどこがそんなにええんや?」

「どこって、そんなの全部に決まってるじゃん」

「二回りも年上やけど、そこは気にせんでもええんか?」

「いいの。多分他の彼女さんたちも、あず君くらいの相手じゃないと物足りないのかもねー」


 クスッと笑いながら上品に口を手で押さえる凜。


 僕が凜とつき合っていることも周知の事実となった。


 特に女同士の間では秘密という概念などないようで、お喋りな香織がいなくても、仕草だけで伝わってしまう。乙女心がときめいている時特有のサインを周囲の女性たちは簡単に読み取ってしまう。凜はいつもより僕の話をするようになり、小夜子たちにはすぐに伝わったらしい。思い返せば唯も伊織も皐月も、僕と結ばれてからは僕の話ばかりするようになった。誰かに夢中な時はオーラの色が変わる。


 公表されたっていい。少なくともファンたちには受け入れられている。


「それだけこの国の男が弱体化したとも言えるな。昔はあず君くらいアグレッシブな男やったら、いくらでもおったからなー。いくら不景気やゆうても、みんな落ち込みすぎや」

「神崎さんも感じてたんだ」

「まあな。最近のニュースで、杉山グループが大量リストラを繰り返してることが騒ぎになっとったわ。不祥事に関わっていたっていう噂があってな。それでグループ内の詳細を調べてみたら、企業を乗っ取ってはリストラの繰り返しやて。労働者が有り余ってるっちゅうことや」


 神崎が大きくため息を吐きながら呟いた。ようやく大量リストラの件が公となったわけだが、僕に言わせれば古い情報だし、世に知られた時点で価値のない情報だ。あくまでもきっかけにすぎない。


 大量失業どころか、失業者たちが公共職業安定所を徘徊するのが当たり前の時代になる。労働者の価値は暴落し、より安い給料、より悪い待遇、より短い職歴を重ね、多くの人が生活水準を落とさざるを得なくなってくる。だがこの国は自己責任論が強すぎるのか、余程程度の重い障害でも持たない限り、社会福祉に頼ろうとはしないが、そんなことも言ってられなくなる。


 僕なりにこの現象の謎を解釈するならば、社会的責任を問うことは世間を非難するに等しい。世間とはみんなの目であり、同時に自分自身の目でもある。世間のせいにすることが、自分のせいにすることであるならば、誰もが責任を逃れようと自己責任論に走る。自分ではない誰かに自己責任を自覚させようとする態度は、むしろ責任能力が欠如した社会とも言える。本来自分のせいにするべきことを他人のせいにしているのは、むしろ自己責任を押しつけてくる連中だ。あいつらは今でも終わりなき不毛な我慢比べをさせられている。優勝すれば何かしら貰えるが、多くは鬱病などの精神疾患である。


 他の生物は至って多種多様だというのに、どうして人間だけはこうも画一的なんだろうか。


 福祉が必要な人が堂々と福祉を頼れないのは、行き過ぎた能力主義の裏返しだ。


 できないことがあっても克服するのが当たり前で、克服できなかったら努力が足りないと責められる。結果的に僕のような得手不得手が極端な人間ほど、とばっちりを食らうのだ。この時点で既に努力不足のせいにして責任逃れをしている矛盾にさえ気づけない傲慢な連中の何と多いことか。誰もが生きている時点で既に努力しているし、うまくいくかどうかは運によるところが大きい。サイコロで強制的に出目を宣言させられることを余儀なくされ、宣言通りの出目が出なければ自己責任と言われているようなものだ。


 凜はどう解答すればいいのか分からない。経営学も社会学もさっぱりだ。


 強化合宿に参加する人数も増え、段々と賑やかな社交場となっている。厳しい競争を乗り越え、ここまで戦い続けた連中だ。うちには『最終兵器』がある。プロバリスタに勝つことは決して容易ではないことを世間に思い知らせてやらなければ、コーヒー業界の勝利はない。


「あず君、1つ相談があるんだけど」

「どうかしたの?」

「あず君たちと一緒に住んでもいいかな?」

「うん、いいぞ」

「やっと言ってくれましたね」


 爽やかな笑顔を見せる凜を前に、エスプレッソを淹れたばかりの唯が歩み寄ってくる。


「唯さん、本当にいいの?」

「あず君が好きになった女性なら大丈夫です。それに家事担当が丁度1人欲しいところでしたし」

「任せてよ。葉月珈琲塾のお陰で、身の回りの世話もできるようになったし、文字とか数字とかは苦手だけど、イラストにしてくれたら、役割も分かるから大丈夫だよ」


 凜があからさまに僕の左腕を掴む。普段は見せない甘えん坊な姿だ。


 誰にも頼っちゃいけないと思い込まされていたあの頃とは大違いだ。依存先を多く作り、課題を出してからは放任する。後は自分でどうするべきかを考える。


 イラストを見て理解する方法は、他でもない凜が思いついたものだ。


 うちのバリスタに確かな手応えを感じ、残り少ない強化合宿を終始見守った。

読んでいただきありがとうございます。

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