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社会不適合者が凄腕のバリスタになっていた件  作者: エスティ
第19章 逆襲編
463/500

463杯目「トップバリスタの土壌」

 4月上旬、バリスタランドはしばらくの間、閉園状態となった。


 僕はオリエンタルモールを買収し、鍛冶をクビにして社長に就任した。


 社名を『株式会社葉月バリスタランド』に変更し、分散していた株式を100%買い取り、葉月グループ傘下企業とすると、早速バリスタランドの改革に務めることに。まずは人員整理から着手し、杉山グループ側の人間を全て追い出す形でクビにした。葉月グループ側のスタッフを役員に据え、これから経営者を目指す役員養成所も兼ねた育成企業としてスタートを切ることを決定した。


 売り上げランキング勝負は純利益ランキング勝負として継続するが、ペナルティは廃止とした。ロイヤリティは一律で純利益の50%とし、純利益ランキングが上位5位に入った場合、該当年度分のロイヤリティが全て免除となる。つまり活躍さえできれば、宣伝ができる上に、利益を丸々自分のものにできる。一部の店は建て替えのため、開店までに時間がかかる。


 無論、中山道葉月もその1つだ。今は取り壊しを行い、新たな店舗へと生まれ変わろうとしている。


 かつて取り壊しになった店舗、『カフェ・オリエント』として――。


 設計図さえ無事なら、いくらでも復活できるのが建築物の良いところだ。


 建設は立花グループに依頼し、従来のカフェ・オリエントをそっくりそのまま再現する。近代建築に強い興味を示している立花社長が手掛けてくれるのだ。当然ながら当分は使い物にならない。真凜は建物が完成するまでの間、別の建物で店の営業を行うこととなる。すぐ隣のカフェ大和があった場所だ。カフェ大和は撤退している。今年度も47店舗で営業を行うわけだが、他の場所でも建て替えが行われており、完成するまでは余分に建てられた場所をカフェとして使用する。


 バリスタランドはまだ未完成だ。増築工事はオープンしてから常に行われているし、アトラクションを行う場所として建てられた場所がいくつもある。アトラクションスタッフをアルバイトとして雇い、辞めた後も生きていけるくらいのスキルを身につけさせる場所としても機能させるつもりだ。


 南西エリアにはパティスリークリタニの前身、『カフェ・クリタニ』を再現することが決まった。鍛冶珈琲も撤退し、福井県代表店舗に空きが出た。そこに栗谷スイーツが名乗りを上げた。コーヒー会社以外の企業からもカフェであることを条件に参戦を認め、那月は泣いて喜んだ。葉月グループから本部株を奪うための罠だったバリスタランドは、日本のコーヒー業界の中心地となりつつあった。杉山珈琲も自主撤退し、空きが出た東京都代表店舗には亡命政権となった穂岐山珈琲が参加し、シグネチャー開発や競技の練習場所として提供する格好だ。条例により、プロ契約を結ぶことはできないが、コーヒーイベントに向けた練習を行うことは条例違反とはならず、コーヒーファンとしても、バリスタ競技会に参加しているバリスタが、普段どんな練習を行っているのかをじっくり観察できる。


 カフェの営業、競技の練習、新しいコーヒーの開発、バリスタと役員の育成、コーヒーグッズの販売を主な事業内容とした育成研究所として、2週間後にリニューアルオープンする予定だ。キャラクターデザインが思った以上にウケたこともあり、バリスタランドのマスコットキャラクターは継続的に起用する。全体の半数以上を占める店舗が入れ替わった。


 今年度のみ、4月から12月までを2025年度とし、来年度からは1月からの年度開始とした。


 各店舗マスターには、バリスタランドのルールを研修で学ばせる必要があった。


 葉月グループは岐阜県代表店舗としての中山道葉月を真凜に譲渡した。


 真凜は店名をカフェ・オリエントに改名し、店舗マスターとして、理恩たちを雇い続けることに。


「あず君、何から何までありがとうございました。カフェ・オリエントが戻ってくるなんて、思ってもみませんでした。でも本当にいいんですか? 料金を全額負担していただくなんて」

「カフェ・オリエントは生き残るべき店だった。でも強引な手段で買収されて、バリスタランドの一部になっちまったんだし、現社長の僕にも責任の一端はある。本当はバリスタランドを全部解体して、土地を持ち主に返還する予定だった。でもみんな返還のことはとっくに諦めていたというか、既に死んでいて、返す持ち主がいない土地が過半数を超えていた。みんな老人だったとはいえ、あの短期間で土地の持ち主がバタバタ倒れていくなんて不自然だ。何かある」


 もしかしたら栗谷社長も、土地の買収に応じていなければとっくに消されていたかもしれない。


 僕は命の危機すらある間一髪の駆け引きに干渉していた可能性がある。考えるだけでゾッとする。


 証拠こそないが、真凜は両親が鍛冶議員によって殺害されていたことは何となく分かっていたようで、栗谷社長の話によれば、鍛冶議員は狙ったものはどんな手を使ってでも手に入れる程並々ならぬ執着心の持ち主であることが判明している。最初に買収した土地に本社を置き、事業を拡大していった。懐石料理チェーンがメインだったが、今はコーヒー事業にも手を伸ばしている。杉山社長の代わりに穂岐山珈琲を吸収合併したのは忠誠心を示すためだったとされているが、誰かに忠誠を誓うような人間性は持ち合わせていないし、杉山社長にだけ素直すぎるくらい言いなりになっているところには妙な違和感さえ覚えた。自分本位ではないのだとすれば、何らかの理由で言いなりになっているとか。


「確かに怪しいですけど、証拠がないんじゃ、どうしようもないと思うんですけど」

「いや、手掛かりはある。莉奈の両親が遺言状を遺したように、他の連中も何か遺してるかも」

「あっ、それならありえるかもしれませんね。でもどうやって見つけるんですか?」

「それなんだよなぁ~。まあでも、店は無事に戻ってきたんだし、真凜がこれ以上この件に関わる必要はない。杉山社長と鍛冶議員は僕が何とかする」

「分かりました。後のことはあず君に任せます」


 真凜は笑顔で微笑みながら作業場へと戻っていく。


 作業服姿の立花社長と入念に話をしながら設計図通りに線を引いていく。


 周囲は緑の庭にするようで、まるで森の中にあるカフェのように見せる。


 中山道葉月よりも小さい建物であるためか、スペースにも余裕がある。真凜の新居も兼ねており、可能な限り再現度を高くし、穏やかな田舎を思わせる外観に仕上げるとのこと。イートインスペースとして用意された各店舗2階部分はマスターの住所として改築する。ただでさえ客の削り合いだ。余程人気が集中しない限り、2階にまで客が押し寄せることもないし、何よりスタッフホテルの改築が決定した。スタッフホテルは現代建築であり、明治から昭和にかけてのレトロな雰囲気を損ねてしまっている。全ての建物を立花社長の設計にすることも改革の1つだ。出張中のスタッフはバリスタランドの外にある別のホテルに住んでもらうことに。かつて那月の実家があった位置へと赴いた。


 再現するのはカフェ・クリタニだけではない。栗谷社長が実家の位置を正確に把握していたお陰で日本庭園の復元も可能となった。スペースを圧迫することになるかと思えば、増築予定地として広い更地が空いていた。アトラクション施設を建てるつもりだったが、計画が遅れてしまい、もたもたしている間にバリスタランドを乗っ取られたため、特に手をつけてはいなかった。


 住宅スペースはないが、日本庭園と幕末を意識した近代建築を建てることが決定した。


 栗谷社長はすぐ立花社長と意気投合し、半年以上の期間を設け、立派な日本庭園を再現する。これなら栗谷社長が固定資産税を払う必要もない。観光地とすることで多くの観光客に見てもらうことができる。あんなにも立派な景色を独占するなんて勿体ない。


 もし赤字を記録し続けるようなら、他の信用できるグループ企業に売り渡す手もある。


「まさかバリスタランドの中に実家を再現するとは思わなかったなー。しかもあの庭園を観光用にするなんて考えたじゃん。あたしは結構好きだけど、誰のアイデアなの?」

「僕のアイデアだ。せっかく取り返したんだ。土地を返せないなら、せめて元の風景だけでも取り戻したいと思ってな。僕にできることは、これくらいしかねえけど」

「――やっぱりあず君変わってる」

「よく言われる。もう慣れたけど」

「最初は何でって思っていたけど、優子さんがあず君を好きになった理由が分かった気がする。もしあたしにできることがあったら、何でも言ってね」

「ん? 今何でもって言ったよね?」

「法に触れるようなことは駄目だからね」


 咄嗟に豊満な胸を両手で覆い隠す那月。何を考えているかが目線だけでバレてしまった。


 いかん、変な癖がついてしまっている。伊織と結ばれて以来、既にいる彼女とは別に、新しい彼女を持つことが選択肢に入っている。彼女が唯だけだった時にはなかった感情だ。一度破れた均衡は、もう元には戻らない。時が過ぎるほどに変わった日常が当たり前になっていく。日常とは慣れである。複数人とつき合うハードルが、僕の中から消えてから長い。


 唯はそれさえ見透かしているようで、家事担当を増やしているかのようだ。


 バリスタランドのリニューアルオープンを大々的に宣伝しよう。今回はメディアの力も借りた。テレビを通じてトップバリスタをCMに起用し、知名度を上げていく必要に迫られている。バリスタランドの存在を知らない者はまだ大勢いる。テーマパークに年1回以上遊びに行くのは人口の25%程度だ。頻繁に遊びに行くヘビーユーザーは更に少ないし、注目されるのはいつだって某夢の国である。残り75%のテーマパークに関心が薄い人々を新たなターゲットとした方がブルーオーシャンだ。


「何を思ったのかは知らないけど、那月を悲しませるようなことはしないから安心しろ」

「……ハーレム持ちになってからは、女たらしに磨きがかかってるね」

「ハーレムなんて大袈裟だなぁ~」

「皐月ちゃんとも仲良いもんね」


 ジト目の睨みを利かせ、呆れ顔で那月が言った。僕は全身を縛られたかのように動けなくなる。


 嫌な予感が頭を過る。自分から女性に手を出したことはない。アプローチはいつだって相手からだし、あえて強引に言うなら巻き込み事故、もしくはハニートラップだ。


「そりゃバリスタ同士だからな」

「とぼけたって無駄。皐月ちゃんともつき合ってるよね?」

「……何で分かるの?」

「えっ……本当につき合ってたんだ」


 鎌をかけられたことに気づいた。だが時既に遅し。


「あのな、僕が誰とつき合おうと僕の勝手だろ。ていうか何で分かったの?」

「見ていれば分かるよ。あず君と皐月ちゃんが一緒にいるところを色んな人が目撃しているし、引っ越し先が皐月ちゃんの家に近い場所って噂もあるし、唯さんと伊織ちゃんはともかく、皐月ちゃんはちょっとまずいんじゃない。有名人だし、大勢のファンを抱えてるスーパースターだよ」

「それは唯も伊織も同じだろ。心配すんなって。那月には迷惑かけないからさ」

「まっ、別にいいけど、ばれたら世間が黙ってないかもねー。ていうかこんなことでコーヒー業界の人気が揺らいだらどうするわけ?」

「言わせておけばいい。別に法律違反して生きてるわけじゃないし、今の時代に一夫一婦制なんて合わないから少子化が進んでるんだ。僕の生き方に賛成する人も数多くいる。若年層ばっかりだけど。それに法律婚じゃないから名字だって自由だし、事実重婚の方がずっと生きやすい」

「――時代を変えた人間って、みんなぶっ飛んでるんだね」

「那月だって時代を変えた人間の1人だ。兼業で両方共成功することを証明した。後から那月に憧れて多くの兼業職人が押し寄せてくるかもよ。自覚がないだけで、誰だって時代に多少なりとも影響を与えてるんだぜ。まあ皐月のことは、ほとぼりが冷めてから公にする。人のことよりもさ、たまには親子2人でゆっくり話せ。じゃあな」


 気まずさに耐え切れず、僕は那月から離れた。


 優子の下にいる内に、勘の鋭さが鍛えられている。嫌らしさが優子にそっくりだ。


 ふと、地元が気になり、葉月商店街へと向かう。


 新居から近い場所にあって気軽に訪問できるし、葉月珈琲にも葉月創製にも近いのが利点だ。営業時間が異なるメジャー店舗が2店舗もある激戦区で、シャッター街と呼ばれていたのが嘘のようだ。


 那月は珈琲菓子葉月マスターを務めている。しばらくは優子が特別アドバイザーとして居座った。来年オープン予定のカフェ・クリタニはまだ設計段階であり、カフェ・オリエントとカフェ・クリタニは1年間仮店舗で過ごすことになるが、立地条件よりも、アルバイトの育成に骨が折れるだろう。優子は葉月スイーツ社長として、多くのパティシエの卵の育成と派遣を担当する。アイリショコラにも度々顔を出し、義理の娘となった愛梨の面倒を見ながら一緒に暮らしている。


 愛梨の成長速度は凄まじいものがあり、早くも葉月商店街で存在感を発揮している。


 バリスタランドは事業拡大の足掛かりにすぎない。


 言わば葉月商店街の拡大版と言ったところだろうか。全国各地だけじゃなく、外国のコーヒー会社からも出店してもらい、コーヒーイベントが常時開催されている国際的なテーマパークにすることを思いついたのだ。乗っ取った先のことを考えていた甲斐があった。


 利益を上げて他のコーヒー会社にも還元できるし、プロ契約を結べば常時練習場所として使える。条例化されていない都道府県でプロ契約を結んだバリスタをここで働かせながら練習させ、プロ契約を目指すバリスタにとっては公開練習の場所となり、かなりの刺激にもなる。これだけ広い土地なら実現できる。だがこの状況を放置してくれるほど、敵は決して甘くはない。


 鍛冶議員が早速動いた。バリスタランドで行われているシグネチャー開発やコーヒーイベントに向けた練習はプロ契約を結んだバリスタと全く同じ行為であるとして僕を弾劾する内容の演説を行った。条例違反の判決が出れば、プロバリスタが居辛くなる。直接出ていけと言わずに追い出す姑息な手を使う気だ。僕を待ち受けていた包囲網は世間そのものであった。


 アイリショコラの自動扉が横に開く。改築されているが、ヤナセスイーツの面影は残っている。


 キッチンや冷蔵庫は所々入れ替わっているし、スイーツ全般ではなく、チョコレート作りに特化しているため、窓越しでもカカオ豆が数多く焙煎されているのが分かる。


「いらっしゃいませー。あれっ、あず君」


 泉のように澄んだ声が僕の左耳に響いた。


「凜、久しぶり。この前のCFL(シーエフエル)、ちゃんと見てたぞ。よくやった」


 称えられると共に、凜が表情を輝かせた。


 凜は2月に行われたCFL(シーエフエル)シアトル大会で見事優勝を果たしたのだ。


 年に3回開かれる大会であり、アメリカ国内で行われることが多いため挑戦のハードルが比較的低い。ラテアーティストが手始めに出る大会としても需要がある。


 葉月珈琲塾に来たばかりで、不安だけが立ち込めていた頃、唯一興味を持ったのがラテアートだった。あれからもう8年になる。凜は顔も体型も幼いままだが、優勝経験実績が身についたことで、一段と成長しているようだ。少しばかり性格が尊大になっているのはご愛嬌。むしろ可愛いくらいのやんちゃっぷりだし、子供の好奇心を持ったまま、大人になりつつあるのだ。


「まあね。あず君と一緒に世界一を取ったんだから」

「凜さんはいつも明るいっすね」

「あっ、そういえば愛梨ちゃんもショコラティエの大会で優勝したんだよね?」

「葉月商店街主催の小さな大会っすけど、やっと私がイメージ通りのチョコが作れるようになってきたんすよ。基礎も大事っすけど、肝心なのは奇想天外な発想を恐れないことだって教わったんすよ」


 ――それ、僕が璃子に教えたことなんだけどな。


 自分の殻に閉じ籠り、無難で小さく纏まっている作品しか作れなかった璃子は、大会に出ても一向に結果を残せなかった。手堅く立ち回る癖が大きな弊害として表れていたし、誰がどう見ても量産型と断じるプレーンチョコレートは、普通に平穏な人生を送りたい璃子の願望そのものであった。


 均質性は十分高い。一度創造性が身についてからは再現する時に活きることとなった。今までに受けた教育さえ糧にしてしまった璃子に敵う者などおらず、女性初のワールドチョコレートマスターに輝いた。何より重労働を何時間もこなす体力があった。僕でさえできなかった偉業だ。


「あず君、どうかしたの?」

「大したことじゃねえよ。葉月珈琲塾の卒業生が、早くも結果を出してくれて嬉しいだけだ」

「私も葉月珈琲塾に通いたいっす。でも生徒が子供ばかりなんすよね」

「そんなこと気にしないで通ってみろ。一応大人で在席してる人もいるし、うちは何歳からでもやり直せる土壌を作ってる。置いてけぼりにされてきた大人たちにこそ、教育が必要だからな」

「なんか棘のある言い方っすね」

「でも当たってるのは確かだよ。私も愛梨ちゃんも、社会にうまく馴染めなかったわけだし……」

「凜ちゃんはどうだったの? 葉月珈琲塾」

「凄く楽しいところだったよ。葉月珈琲塾に通っている内に、家事も仕事も当たり前のようにできるようになっててビックリしたの。卒業したくないって思うくらいに夢中だったなー。まあ卒業した後も、OBとして顔を出すことがあるんだけどね」


 葉月珈琲塾での思い出を語る凜。


 模擬的なバリスタの仕事は効果抜群だった。バリスタの仕事は多種多様な能力が要求される。


 仕事を通して家事能力と対話能力を中心に、あらゆる能力を検査する。


 コーヒーにまつわる知識や技能はもちろんのこと、料理や掃除などの雑用から注文の受付、帳簿などの計算も担当する。この仕事だけで様々な能力を試される。模擬的にバリスタの仕事をこなしている内に、得手不得手がハッキリと見えてくるのだ。全部の仕事を平均以上のレベルでこなせる人はトップバリスタとしての素質があり、高確率で葉月グループに入社する。そうでなくとも雑用をこなしている内に家事能力が身につき、身の回りの世話がこなせるようになり、最低限の生活が成り立つ。対話能力が低いなら、人と話さなくてもいい仕事など、対話を必要としない仕事、読み書き計算が苦手なら、人と対話をする仕事など、読み書き計算を使わなくていい仕事に適性があるとすぐに分かる。


 要は短所が邪魔にならなければ問題ない。


 様々な能力を子供の段階で調べ上げ、適性を数値化したデータを葉月データに送信し、職業適性を分析し、向いている仕事をリストアップし、長所に特化した訓練を行う。事実上の棄民となっている不登校児限定ではあるものの、データは徐々に蓄積され、葉月珈琲塾で実学に基づいた教育を受けた子供の方が、普通に通学している子供より自己肯定感が高く、中央値年収も上回っているデータが得られた。


 新入社員はどんなに優秀でも安くこき使われがちだし、短所の克服ばかりをさせられると、ほとんどの場合は自信を失うだけの結果となるが、葉月珈琲塾は得意分野でトップになれるくらいに特化した訓練を行い、苦手分野を徹底的に無視しているため、自分のしてきたことが自信に繋がりやすく、物事に意欲を持つようになる。いくら才能があっても、好奇心を潰してしまえば、無気力ニート一直線だ。


 無職のメカニズムが分かっているなら、それを避ければいい。


 凜は確かな恩恵を受け、葉月グループに、社会に還元している。

読んでいただきありがとうございます。

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