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社会不適合者が凄腕のバリスタになっていた件  作者: エスティ
第19章 逆襲編
462/500

462杯目「包囲網を包囲せよ」

 バリスタランドの今年度最優秀店舗発表を前に、会場が印籠を突きつけられたように静まる。


「バリスタランド全国都道府県代表店舗の中で1位に輝いたのは――」


 いくつもある太鼓の音が静かに鳴り響き、僕らの知的好奇心を痛烈なまでに煽る。


 奴らの狙いは葉月グループの本部株、乗っ取ってからコーヒーブームの間は甘い蜜を吸い続け、コーヒーブームが終われば大量リストラを行い、内部留保しながら本業の居酒屋チェーンの全国展開を目指していることは既にお見通しだ。行く行くは海外にもチェーン展開を行うと聞いた時は怖気が走った。


 全国でも屈指のブラック企業だ。過去に某ブラック企業大賞を受賞したこともあるくらいだし、海外進出なんてすれば、より多くの犠牲者が現れ、飲食業は人類が滅ぶその日まで、ブラック事業の代表格と言われ続けるばかりか、労働者の人権もずっとお預けのままだ。


 今こうしている間にも、杉山グループ側の企業によって多くの企業が吸収合併されようとしている。


 理由は簡単だ。多くの失業者を生み、生活保護や年金制度を廃止した上で医療保障抜きのベーシックインカムを可決し、組織票を餌に与党の実権を握ろうとしている。人権よりも経費削減の方がずっと大事と言っているようなものだ。しかも景気が悪いのに増税は進むばかりで、国自体が大きなブラック企業と化している。今に始まったことじゃないが、優秀な人ほど海外脱出を図るような国になれば終わりだ。子供が大きくなったら伝えよう。国が衰退したと思ったらすぐ逃げろと。


 杉山社長の口元が緩み、横顔から悪魔の笑みが僕には見えた――。


「岐阜県代表店舗、中山道葉月です。おめでとうございます!」

「「「「「!」」」」」


 会場は歓声が沸くどころか、想定外と言わんばかりにざわざわとしている。


 杉山社長は珍しく細い目を大きく見開き、口を大きく開けたまま冷や汗をかいた。


 何も事情を知らないスタッフは意気揚々と発表を続けた。杉山社長を煽っているようにも思える滑稽な光景に僕は笑いを堪えるのが大変だった。今度はワースト5位に入った店舗の発表から始まり、喫茶処江戸が最後の2店舗に残ってしまった。勝負は決した。流石はうちの参謀だよ。


「それではいよいよ最下位が判明します。ワースト2位を発表します。ワースト2位は――」


 司会者が声を発し、何かを察した杉山社長が慌てて大広間のステージに駆け寄った。


「やめろおおおおおぉぉぉぉぉ!」


 断末魔は小刻みに叩かれる太鼓の音にかき消され、最後にシンバルを思いっきり叩く音が響いた。


「新潟県代表店舗、越後ローストです。よって今年度ワースト店舗は、意外にも多くのファンから人気を集めていた東京都代表店舗、喫茶処江戸に決まってしまったぁ~!」

「「「「「……」」」」」


 沈黙が会場を支配し、司会者だけが浮いている格好だ。


 肩を落とし、諦めたように地面を見つめる杉山社長。


 ワースト5位は南東エリアの奈良県代表店舗、『カフェ大和』である。桃花が騒ぎを起こしたことで大きく評判を落とした。何を思ったのか、奈良漬けとコーヒーを同時に提供し、両方味わった客が相性最悪とレビューしてしまったこともありこの順位だ。中山道葉月の騒動にも巻き添えとなった。


 ワースト4位は南西エリアの長崎県代表店舗、『対馬喫茶』である。韓国に近いこともあり、キムチをセットで出してしたのが運の尽きだ。韓国料理自体は人気だったが、コーヒーと合わず、本末転倒な結果となり、遂にコーヒーすら注文されなくなった。漬物は緑茶には合うが、コーヒーにはNGだ。


 ワースト3位は南東エリアの香川県代表店舗、『讃岐珈琲』である。何を思ったのか、うどんコーヒーなるものを作り出し、最悪の評判であった。うどんとコーヒー自体が合わず、お蔵入りとなってしまった後は特に目立つこともなく、終始空気のような存在であり、僕でさえ忘れていたくらいだ。


 ワースト2位は南東エリアの新潟県代表店舗、『越後ロースト』である。地元のコシヒカリを使ったコーヒー飯を提供していたがほとんど売れず、お茶漬けならぬコーヒー漬けも敬遠され、早々にレースから脱落したが、物を試すことに抵抗がない姿勢は見習うべきだろう。


 何事もなかったかのように、僕のそばへとゆっくり歩み寄る杉山社長。


「……やってくれたな」

「はて、何のことやら」

「何か不正を働いたなら今すぐ言え。寛大な処分で済ませてやる」

「これは()()()()勝負だろ? だから売り上げに貢献しただけだ」

「社長、これを……」


 杉山グループ社員の1人が売上明細表を手渡した。


 頭に血が上りながらも、冷静さを保っている杉山社長は両手が震え、売上明細表を破り捨てた。


 胸ポケットに入っていた株券30%分をテーブルに叩きつけ、早歩きで帰ってしまった。


 約束通り、杉山グループ本部株30%分を手に入れた。


 大広間がざわついたまま、決算記念パーティはお開きとなった。


 この時点でオリエンタルモールの株20%を獲得し、杉山グループ側から寝返った役員からも5%分を譲渡してもらった。株式は合計で70%となり、オリエンタルモールの経営権を手中に収めた。オリエンタルモールの支配を盤石なものとし、ワースト5位以内に入った企業から受け取った本部株は約束通り、そっくりそのままお返しした。オーナーたちは満足して帰っていき、今後は葉月グループ側のコーヒー会社として味方してくれることを約束した。杉山グループに関しては、一切のペナルティを受けない内容の密約により、本部株20%のペナルティを免れている。相変わらず抜け目のない奴だ。


 劇場の大広間には、僕、皐月、千尋だけが残った。


「千尋、裏切り者のお前が何故ここにいる?」


 皐月が僕の前に力強く一歩を踏み出した。


「……何でって、一応僕、杉山グループの役員だよ。バリスタランドをこうもあっさり乗っ取るなんて、流石はあず君だね。やり方はちょっとせこいけど」

「お前、伊織がどんな思いでいたか分かってるのか?」

「僕は新しい希望を掴んだだけだよ。そのためには不要になった希望を捨てる。投資の基本だよ」

「何か伝えたいことがあって来たんじゃねえのか?」

「やっぱ気づいちゃったかー。僕は杉山珈琲からコーヒーイベントに出る。アマチュアチームの一員としてね。あず君も知ってる人だと思うけど、世戸さんもアマチュアチームの一員になったよ」

「何だとっ! 何故世戸さんまで」

「さあね。どうやって手懐けたかは知らないけど、ワールドコーヒーコーポレーションへの推薦を確約したら、あっさり()()()()についちゃったよ。じゃあねっ!」


 元気良くウインクしながら大広間から去っていく千尋。


 千尋はプロ契約制度の恩恵を受けられない状況だが、練習場所や食材を確保するくらいはできる。


 私財を投じてアマチュアチームをサポートするつもりらしい。さっきアマチュアチームが使っていた食材は、どれも簡単には手に入らないものばかりだった。


「おい、ちょっと待て」

「話す必要のある相手ならテーブルの下にいるんじゃないの?」


 千尋が1台のテーブルクロスを指差し、外に出て行ってしまった。


 さっきまで千尋が潜っていたテーブルだ。テーブルクロスを捲って覗いてみる。


「弥生……何してんの?」

「あーあ、バレちゃいましたか」

「なるほど、千尋に見つけられていたか」

「劇場が暗くなってからテーブルに潜り込めば、まずバレないと思ったんですけどね」

「弥生、ここは招待状がないと入れないぞ」

「招待状だったら……ほら、ここにあるよ。ちゃんと通過してきたよー。あず君から貰ったの」

「ここに来たってことは、決意したんだな」

「……はい。私でよろしければ、チーム葉月珈琲に入れてください」

「――どういうことだ?」


 弥生が皐月に今までの事情を説明する。彼女が期限ギリギリまで粘ったのには訳がある。葉月グループが杉山グループと覇権を争っていることは弥生も知っている。最低でもアマチュアチームに勝てるくらいの実力がなければ、バールスターズで優勝することはまず不可能だ。僕は他のバリスタを世界に通用するだけの実力にまで伸ばせるかどうかを品定めされていた。


 結論を言えば、寄せ集めのバイトしかいない中山道葉月を最優秀店舗に導けるかどうかを見られていたのだ。バリスタランドを無事に乗っ取ることができたお陰で、ようやく信用を勝ち取れた。


 弥生は暇を作っては中山道葉月を訪れていた。毎回服装を変えてはいるが、やはり見られていれば分かってしまう。僕とて重圧というものがある。中山道葉月のため、そしてバイトたちのために、献身的な働きを見せたことはしっかりと伝わっていたようで、弥生はバイトたちの心境さえ把握していた。


「なるほど、つまり弥生はあず君に敵意を持っていて、信用に値するかどうかを見定めていたわけか」

「私は恥なんて晒したくない。だから恥をかかずに済むくらいのチームを作れるかどうか、ちゃんと見極めておく必要があったの。あず君がどんな働きをしていたかは、中山道葉月にいるバイトたちから聞きました。私が何も尋ねなくてもみんなしてあず君のことを笑顔で話すんです。まるで恋する乙女のように。普段は無口の渚ちゃんでさえ、あず君に憧れの目を向けながら、世の中の仕組みを分かりやすく教えてくれると話すんです。私は大きな誤解をしていたようです。あず君がこんなにコーヒー業界のために働いているのに私だけサボるわけにはいきません。何故皆さんがあず君を慕うのか、少し分かった気がします。あず君なら、きっとコーヒー業界どころか……世界も救えると思いました。この前はすみませんでした。やるからには恥を晒す覚悟を決めます」

「分かりゃいいんだよ。恥をかいたって死にはしない。バールスターズ、3人で一緒に優勝しようぜ」

「はい。死に物狂いで頑張ります」

「ああ。必ず優勝しよう」


 僕は右手の甲を2人の前に翳した。


 弥生が僕の手の上に自らの右手を乗せ、誘われるように皐月も右手を乗せた。


 ここに、チーム葉月珈琲が結成された。バールスターズは12月だが、コーヒーイベントに向けた練習と並行することは十分可能だ。バリスタオリンピックは部門が5つもある。だが他のメジャー競技会は多くても2つしかないのだ。他のバリスタなら苦戦するだろう。


 しかし、この2人は違う。バリスタオリンピックに勝つ前提の訓練を積んできた。


 いくつもの競技を並行して練習する行為自体に慣れているのだ。1つ1つの部門を確実に磨いてきた伊織や千尋とは異なり、総合力で勝負するタイプのバリスタだ。早熟の皐月に対し、晩熟の弥生にとっても総合競技は得意分野だ。化ける可能性を秘めているのは弥生も同じ。1つの部門では勝てずとも、数多くある部門の合計スコアなら勝てる。


 タクシーに乗り、しばらくして岐阜に着く。


 降りた先は弥生のアパートだった。初めて見る家に、皐月は驚嘆を隠せない。


「ここで降りるのか?」

「ああ。これから3人でチームを組むんだ。チームメイトのことを把握しておかないとな。弥生は何度もうちに来てるけど、皐月は弥生の家に行ったことはないだろ。皐月にも家の中を見せてやってくれ」

「別に構いませんけど、大したものは何も置いてないですよ」

「何言ってんの。これから世界に大きな影響を及ぼしていくトップバリスタの家だぞ。僕が独立した頃に住んでいた家もボロボロだったけど、今じゃ僕が住んでいた家としてプレミアム価格になってる。お陰で誰も購入できない状況だけどな」

「ここがプレミアム価格になる自信はありません。でも私が皐月ちゃんを超える自信ならあります」

「言ってくれるな」


 憎まれ口を叩きながらも、2人はユーモアを感じさせるほど、自然に笑いながら話している。


 中に入ると、弥生が夕食を作ってくれた。そういや何も食べてなかった。喫茶処江戸にお情けで注文しようと思ったが、アマチュアチームにもプライドというものがあったようで、コーヒーすら飲めない状況だった。開発中のシグネチャーを飲めれば情報を入手できたんだが、そううまくはいかなかった。


 今頃きっと驚いていることだろう。


 2週間程度は店舗改装やらスタッフの再編成やらで閉園状態が続く。


 あまりにもふざけた方針のために客からの信用を失った。当分は戻ってこないだろうが、これはむしろ好都合だ。客が入らなければ利益が入らず、鍛冶議員によって配属された役員たちが出ていくのは時間の問題だ。最終的に葉月グループ側の人間と入れ替え、バリスタランドの再編成を行う。


 経営権を手にした今、その気になればアマチュアチームを追い出すことだってできる。


 だが今は泳がせておく。今の杉山珈琲に影響力はない。


「弥生の家、凄く落ち着いた空間だな。思っていた以上に居心地が良い」

「皐月ちゃんもこのアパートの良さが分かるんだー」

「もちろんだ。コンパクトで掃除が楽なのもポイントだな」

「家賃もたったの5万円だよ。これ以上安くしちゃうと、お風呂かキッチンのどちらかを諦めないといけなかったから、妥協してここにしたの。木造だけど結構頑丈で、スーパーとコンビニが凄く近いの。葉月商店街も歩いていけるから、結果的に正解だったかもね」


 家の事情を赤裸々に語る弥生。恥を晒す覚悟ってこれかよ。


 挑戦して失敗することは恥ではない。失敗を恐れて何もしない方がずっと恥だ。


 何事にも一生懸命な弥生を……どうして恥晒しと思うことができようか。


 バールスターズへの参加自体には意欲的なようで、どちらかと言えば皐月と一緒に出るハードルの方がずっと高かったようだ。皐月は中山道葉月が撤退したことにより、葉月珈琲へと戻ることとなった。すぐ近くの職場ではなくなったが、店舗よりもずっと広い家に住めるし、わざわざ僕が店舗に住む意味がなくなってしまった。時代の流れかな……。


 璃子に弥生が参加を承諾したとメールを送った。


 すぐに返信が来る。璃子も弥生の適性は見抜いていたようで、内心ホッとしているのが見て取れる。


 午後10時、僕は弥生と別れ、皐月と2人で帰宅する――。


 この日の夜、僕は皐月とベッドに入った。


 皐月は肩が見えるくらいにブラトップがはだけていて、見ているだけで興奮する。


「今日はしないのか?」

「今妊娠したら戦力外だ。コーヒーイベントの時は僕が子供の面倒を見る。安心して行ってこい」

「分かった。バリスタランドの心配はしなくていいのか?」

「それならもう大丈夫だ」


 璃子が立案した『包囲網包囲戦略』は見事に成功を収めた。


 平たく言えば、1億円で提供されている商品を葉月グループ側の店舗同士で購入し合ったのだ。


 店に居座って飲んでしまうと、作戦を悟られるため、46都道府県代表店舗の各店舗マスターが2店舗1組で持ち帰り用の商品を10品ほど購入し合い、こっそりと持ち帰る。10億円の支出になるが、すぐに組んでいるもう片方の店舗マスターから10品購入され、10億円の売り上げを記録する。喫茶処江戸が稼いだ売り上げは、10億円の半分すら記録していない。


 つまり、喫茶処江戸が10億円以上の売り上げを記録しない限り、必ず最下位となるわけだ。


 璃子は売り上げランキング勝負の()()()()()に気づいていた。


 純利益での勝負ではないため、売り上げ自体はいくらでも作れるのだ。喫茶処江戸以外の店舗を全て味方に引き入れられなかった場合は最下位契約を諦め、葉月珈琲が中山道葉月の商品を10億円分購入し、売り上げランキング1位を取る予定であったが、作戦は思った以上にうまくいった。アマチュアチームはこっちの作戦にも気づかぬまま、闇雲に定価で商品を売り続け、見事なまでに勝利を確信していた。


 公平を期すため、オリエンタルモールの経営陣でさえ、決算日までは売り上げランキングを把握できない仕様となっている。ギリギリのタイミングでこの作戦を用いたのは気を逸らす必要があるためだ。


「まっ、そういうわけだからさ、もう何も心配はいらねえんだよ」

「相手側もルールの穴に気づいてるんじゃないのか?」

「気づいていたとしても手は出せない。他の店舗には喫茶処江戸のスタッフと3月末までは口を利かないよう言っておいたし、鍛冶にも石原にも、他の店舗を動かせるだけの力はない。こっちはオリエンタルモールの株を45%握ってる。最悪うちが1位を取って経営権を握れるし、何の問題もない」

「――流石は璃子さんだな」


 天井に顔を向けながら皐月が呟いた。やはり気づいていたか。


 クルッと僕の方に首を動かしながら口角を上げる皐月。可愛い。


「喫茶処江戸以外の全店舗を味方につけたのは僕なんだけどな」

「ふふっ、あず君も立派だったぞ。敵でさえ虜にする勇者指揮官だ」


 皐月が左手で僕の頭を優しくマッサージをするように撫でた。


 かと思えば、僕の体に絡みつき、自己主張の強い膨らみを腕に押しつけた。


「経営権を掌握してどうするつもりなんだ?」

「見ていれば分かる。バリスタランドを立て直す。あっ、そうだ。膝枕と耳かきを頼む」

「しょうがないな。今日は寝かせないぞ」

「寝かせてくれよ。バイトたちの呆気に取られた顔が見たい」


 柔らかい膝に頭を預け、横に向きながら耳に至福の刺激が襲い掛かる。


 1店舗でも味方にできない店舗があれば、コーヒーイベントに全てを懸けるしかなかった。最下位契約は杉山グループに大きな打撃を与えた。杉山グループ側についていたコーヒー会社は杉山社長に対して不信感を抱き、離脱する者まで現れた。多くのオーナーと話していてよく分かった。本当はプロ契約制度を利用し、世界に通用するトップバリスタを輩出し、コーヒーファンなら誰もが知る著名なコーヒー会社を目指したいと本音を語ってくれた。何だかんだ言っても、みんな杉山社長の権威に合わせていただけで、本心ではないことがよく分かった。


 結局、この国を動かしているのは同調圧力なんだよなぁ~。


 むしろこっちの方から圧力を吹っ掛ければ、後は勝手に動いてくれる。


 スヤスヤと眠りに就いた。皐月も日を追う毎に耳かきがうまくなっている。家事全般をハウスキーパーのようにこなし、キッチンもリビングもまるでモデルルームのように片づいている。宇佐さんに色々と仕込まれていることが見て取れる。唯や伊織が苦戦していた力仕事をこなし、洗濯や掃除を任せられるようになったのは大きな利点だが、今は少しでも多くの練習時間が欲しいところだ。


 バールスターズはバリスタの基礎から経験までが問われる。


 コーヒーイベントを考慮しているのか、新しいコーヒーの開発を競技に盛り込まなかったのは多くのバリスタに配慮したバランス調整だ。基本に忠実である分、今までに培ってきた引き出しの多さが求められることに変わりはないが、負ける気など微塵もない。


 これから訪れる困難に比べれば――。

読んでいただきありがとうございます。

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