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社会不適合者が凄腕のバリスタになっていた件  作者: エスティ
第19章 逆襲編
460/500

460杯目「桜の功名」

 遺書は台所に埋めたとは言っても、一体どこにあるのやら。


 カフェ・オリエントは中山道葉月として生まれ変わった。


 台所があった場所なんて分からないし、設計図だって違うものだし、見つけるのは困難だ。店の位置だって、カフェ・オリエントが建っていた位置からずれている可能性だってあるし、埋め立てをする前に掘り出されている可能性もある。既に遺書を握り潰されていたらアウトだ。埋め立てているとしたら地面の中だ。カフェ・オリエントの2階は自室くらいしかないし、台所は1階にしかない。


 考えていても埒が明かない。許可を取って地面を掘るか。


 いや、それじゃ駄目だ。バリスタランド内で起こったことは即鍛冶に伝わる。鍛冶に伝わったことは全て杉山社長や鍛冶議員に伝わると思っていい。本当に台所に埋めたというなら、恐らく地面の下だ。カフェ・オリエントの設計図を見る限り、台所は客席からは見えないクローズキッチンだ。ブログによれば、戦後建てられた家を改築したものらしいが、台所の板のすぐ下が地面だった。ブログの画像集を見ると、やはりクローズキッチンであることが窺えた。地面も写っていたが、裏口まであるようだ。地面の下なら解体工事でも、埋め立て工事でも、見つかることはない。


 真凜の両親はカフェ・オリエントが解体されることを知っていた。


 せめて台所の位置さえ分かればいいんだが――。


 唸りながら頭を抱えた。見かねた真凜がコーヒーを淹れて持ってくる。


 気づかせるようにコーヒーカップを僕のそばに置いた。


「どうかしたんですか?」

「真凜、君の親父は遺書を残してる」

「えっ!? そっ、それ本当なんですかっ!? どこにあるんですかっ!?」


 顔を前に突き出しながら真凜が目を大きく見開いた。


「落ち着け。手掛かりは設計図だ」

「設計図? それがどうかしたんですか?」

「何も気づかねえか? 中山道葉月の位置とカフェ・オリエントの位置が正確に割り出せれば、遺書の在り処も分かるってことだ」

「あっ、なるほど……でもどうやって割り出すんですか?」

「何かヒントになることを知っていればって思ったんだけどな」

「すみません……ん?」


 桜の花弁がひらひらと中山道葉月の中にまで入ってきてしまい、カウンターテーブルの上に落ちた。


 そういやもう春なんだな。忙しすぎて季節の変化に全く気づかなかった。バリスタランドにもいくつか桜の木が立っているが、時代考証的にも特に矛盾がないため、切り倒されることはなかった。


 ふと、真凜が窓の外を見ると、何かに気づいた様子だ。


「どうかしたか?」

「あの桜の木、まだ立っていたんですね」

「あー、店の前に立ってる桜の木か。あれがどうかしたか?」

「いえ。壁の外に立ってる大きな木です。この地域で1番大きな桜の木で、大桜と呼ばれています」


 木の上の部分だけが、ひょっこりと壁の上から姿を見せている。


 大桜の枝からは桜の花が咲き乱れ、バリスタランドと外側を隔てている壁の向こう側にあることを確認する。真凜は懐かしむように大桜に目が釘づけだ。


 ここらは高い木がいくつも立っていたと那月が言っていた。バリスタランド設立のため、周囲にあった木の多くが切り倒された。当初は桜の木も倒木撤去される予定だったが、町全体の景観を損なうという理由から住民に反対され、倒木撤去を免れたと那月は言った。


 故に更地にされる前から、唯一変わっていない場所だ。


 思い出の場所を奪うことはできても、昔から変わらない景観まで奪うことはできなかったようだ。


「この場所からあの大桜までの距離、知ってますか?」

「知らねえよ。そう言う真凜は知ってるのか?」

「昔お父さんが実家の扉から大桜までの距離を測ったら、丁度327メートルだったんです」

「どこが丁度だよ。ていうか何でそんな測量みてえなこと――! 今、何と言った?」

「実家の扉から大桜まで丁度327メートルだったんです。奇しくも今日、3月27日が桜の日で、運命だと思ったんですよねー」

「真凜、バックヤードに歩行式メジャーがあるはずだ。持ってきてくれ」

「は、はい」


 真凜が歩行式メジャーを持ってくると、すぐに受け取り、裏口からバリスタランドの外に出た。


 首が痛くなるほど上に聳え立つ大桜は枝が風に揺られ、花弁は舞うように地面に落ちる。歩行式メジャーを手に持ち、大桜の根っこから距離を測り始めた。カフェ・オリエントの玄関までの距離が327メートルだと分かれば話は簡単だ。カフェ・オリエントは今も生きている。


 遺書を見つける大きなヒントだ。


 壁の厚さも測り、再び裏口を通り、バリスタランドへと戻った。歩行式メジャーがぶつかった壁の反対側から測量を再開する。中山道葉月についてみれば、不審を感じた皐月が扉の外に出た。


「何故測量なんてやってるんだ?」

「遺書の在り処を突き止めるため」

「真凜の両親が残したのは、カフェ・オリエントの設計図と犬小屋のネックレスじゃないのか?」

「そうじゃないかもしれねえぞ。もし見つかっていたとしても、どの道希望はこれしかない」


 丁度327メートル地点に立った。中山道葉月の扉から少しばかり離れている。


 扉までの距離は5メートル。2つの店の設計図を重ねて空に翳し、扉の位置を重ねてみる。物置き部屋と一致するが、これは正確な位置ではない。


 1つの謎が解けた。物置きには不自然に掘られた穴があった。穴は土で再び塞がれた跡があり、木の板で蓋をされていた。木の板の上には、土が乾いたものと思われる砂が散りばめられていた。


「2枚の設計図を重ねてどうするつもりだ?」

「さっき説明した通り、遺書を埋めた位置がこれで分かる」

「遺書は台所に埋めたというやつか。だが建て替えられてしまった今、場所なんて分からないぞ」

「――まあ見てなって」


 あくまでも仮説だが、中山道葉月は運良く最悪の事態を免れたようだ。


 鍛冶議員には既にバレていた。自分で気づいたわけじゃない。バリスタはアイドル化が進み、ルックスに優れたバリスタも増えてきている。ルックスが活きるメイドカフェに勤めていた人だって少なくない。鍛冶珈琲には地元福井市のバリスタもいる。真凜の両親と交流があったとすれば、ブログを見ている人がそれなりにいても不思議じゃない。わんわんかふぇに通っていたか、あるいは勤務していた誰かが部下にいて、きっと部下を通して鍛冶議員に伝わった。


 しかし、伝わった時点で既に工事は進んでいた。設計者は正面の扉をカフェ・オリエントの扉があった位置と同じ場所に設置する予定だった。しかし、そばにある桜の木が邪魔であったため、店の位置を少し後ろにズラすことになってしまったと考えれば説明がつく。


 結論、鍛冶議員は犬小屋の謎解きを解読していたが、建設する時点での店の位置がずれたために遺書は見つけられなかった。僕の仮説が正しければ、遺書はまだ見つかっていない。


 中山道葉月の設計図の位置を5メートル分ずらし、カフェ・オリエントの台所の位置を突き止めた。


 台所と一致した場所、それは物置きから5メートル手前の位置、オープンキッチンにあるカウンターテーブルの真向かいにある冷蔵庫だ。客がいない今のチャンスを逃す手はない。


 世戸さんが帰ったところで閉店し、外から見えないようシャッターで覆い隠した。


「ねえ、まだ閉店する時間じゃないでしょ。何をするつもりなの?」

「冷蔵庫の下を掘り返す」

「掘り返すって、宝物でも埋まってるの?」

「その通りだ。あっと驚くぞ」


 皐月と真凜が2人がかりで息を合わせ、冷蔵庫を持ち上げて移動させる。


 冷蔵庫の下は黄土色のフローリングだ。木の板を取り外すのは面倒だがやるしかない。オープンキッチンの引き出しの中にぶら下がっているナイフを取り出し、上貼りされた木の板に突き刺した。奥まで思いっきり刺すと、空間らしき場所に先端が出たのが肌で分かる。下には土がある。ザクザクと正四角形に力いっぱい切りながら板を1枚1枚剥がしていき、床を掘り返すと、茶色い地面が見えた。


 ナイフをスコップのように使い、土を掘り返していく。


 先端に神経を集中しながら掘っていくと、ナイフの先端が硬い何かに当たる。


 古い木箱が四角い姿を現した。またしてもビンゴだ。


 アルバイトたちがオープンキッチンに集まってくる。幸いにも今日は全員のシフトが重なっている。


「木箱がこんな所にあるなんて、どういうことなの?」


 疑問を呈する実莉を他所に、箱を空けて中を確認する。中には1枚の遺言状が置かれている。ボロボロに古びてはいるが、大昔に封入されたものではない。遺言状なんてウェブ書きで残せるが、あえてそれをしなかったのは、敵に見つからないようにするためだ。


 早速遺言状を広げて内容を確認する。決して綺麗とは言えない字が綴られている。


『真凜、お前がこれを見ている頃には、私はもうこの世にはいないだろう。私は偶然にも鍛冶の悪事を聞いてしまった。私が抗議しようと鍛冶がいる会社まで赴いた時だ。うちの隣に土地を持っていた友人の1人が不審な死を遂げた。鍛冶が殺したんだ。読んだらすぐにこれを焼却して逃げなさい。木箱の底にUSBメモリーがある。鍛冶の悪事を録音した。信頼できる人に渡してくれ。鍛冶はこっちの動きに感づいている。私もお母さんもいつ消されるか分からない。どうか無事でいてくれ。私の愛する娘よ』


 真凜が遺書を読み上げると、途中から段々と涙声が耳に刺さるように聞こえてくる。


 周囲のアルバイトたちも目に涙を浮かべ、鼻水を啜りながらシンパシーを感じていた。


 ここまで切実な遺書は初めて見た。


 木箱の底には紫色の布で覆われている。布を捲ると、青いUSBメモリーが置かれている。命を削って集めた悪事の証拠だ。普通に隠すだけではすぐに見つかってしまう。だからこんな手の込んだトリックを用いたわけか。犬小屋の謎解きを解読されるところまでは計算できなかったようだが、設計者が桜の木を理由に建設の位置をズラしてくれていなかったら、とっくに見つかって処分されていた。


 人々の心を掴んだ桜が……真凜を助けてくれた。


「ううっ……お父さん……お母さん……気づいてやれなくて……ごめんね」

「見ての通り、これは真凜の親父が残した遺書だ。言っとくけど、このことは他言無用だぞ。言ったら消されると思え。誰が鍛冶の手下か、分かったもんじゃねえからな」

「「「「「……」」」」」


 真凜が制服で涙を拭い、USBメモリーを手に取った。


「あず君、これで鍛冶議員を辞職に追い込めないでしょうか?」


 差し出されたUSBメモリーを手に取り、右のポケットに入れた。


「内容次第だ。仮にこれを公にしたところで鍛冶議員が殺人を犯したという確実な証拠がなければ、ただのでっち上げと言われて誤魔化されるかもしれない。迂闊にばらせば、真凜の身に危険が及ぶし、周囲の人間にも危害が及ぶ。初対面の時から疑ってたけど間違いない。鍛冶議員はサイコパスだ」

「さっ、サイコパスって……平気で殺人とかする人でしょ?」


 澪が体を震わせ、首をのけ反らせる。


「厳密に言えば、一般的な人が躊躇するようなことを淡々とこなせる特性だ。経営者とか政治家とか裁判官に向いていて、主観とか共感とかの余計な要素を排除して、冷酷な判断ができる側面もある。うちのいとこはそれができずに会社を潰した。良い奴ほど出世できない。狡猾になれとは言わないけど、心の汚い奴に陥れられないようにするためだけでも、学習する意味はあると思うぞ。知識があれば人生が良くなる保証はないけど、悪い方向に転ぶ確率を下げることには貢献する。ちゃんと勉強しないと、君たちを舐め腐ってきたような連中ばかりが出世して、社会を腐らせる要因になることは覚えておけ」

「杉山社長や鍛冶議員が出世していったのは、私たちにも責任があるということですね」

「そういうことだ。君の親父が真凜と同じくらいの頭脳だったら、証拠すら残さずに()()()()()()だろうな」

「なんか言い方に棘があるんですけど……」

「気にするな。大抵の人間は馬鹿だ。でも安心しろ。これで状況は確実にうちに傾いた。後で君の両親について詳細を教えてもらう。皐月、業者を呼んで、ここの穴を塞いでおいてくれ」

「分かった。業者にはタイムカプセルを掘り返したと伝えておく」


 皐月が頷いた。すぐに電話で業者を呼び、工事を行わせた。


 真凜以外のアルバイトには帰宅を命じた。半ば脅す形で口止めもしたから大丈夫だろう。


 真凜は気づいていないが、真凜の両親は病死なんかじゃない。殺されたんだ。


 真凜と話し込み、新たな情報が入った。ブログで何度か真凜の両親の写真を見た。病死したとされる半年前の姿だが、至って健康だった。真凜の両親が死んだ時、真凜はどっちの時も仙台にいた。真凜が戻ってきた時にはぐったりした状態のまま部屋で発見されたという。真凜の父親は過労による心臓発作だが、勤務先は創設したばかりの鍛冶珈琲であったとのこと。心臓が弱いことに目をつけ、狙い撃ちをするように働かせ続けた結果、心臓に負担がかかり死に至った。真凜の母親はコーヒーを飲んだ後急に倒れたらしいが、検死結果は食中毒であったとのこと。恐らく誰かが菌の繁殖した状態のコーヒー飲料を飲ませた。コーヒー飲料はどの温度帯でもすぐに菌が繁殖する。食中毒に陥らせるには十分だ。じゃなきゃ急に飲料で倒れるはずがない。人間社会だけじゃない。コーヒー業界への挑戦だ。


 どちらも病死とされたが、鍛冶議員に感づかれた時点で病死ではない。殺害方法は未必の故意によるものと仮説する。過労死は良くて書類送検だ。日本で認められている事実上の合法殺人である。証拠を見つけるのは極めて難しい。鍛冶議員にとって都合の悪い人間ばかりが、立て続けに死んでいるのだ。なのに誰も違和感すら抱かないのが実に不思議だ。狙われたら最後、知らぬ間に殺されてしまう危険すらある相手だ。鍛冶議員をどうにかするなら、狙われないように立ち回りながら水面下で仕留め、逮捕にまで導くしかない。ある意味では杉山社長よりも厄介かもしれない。


 ――まさか、鍛冶議員が杉山社長の言いなりになっているのって……。


 翌日を迎え、中山道葉月に世戸さんを呼び出した。


 バックヤードで2人きりになったところで、真凜から預かった遺書を見せた。


 世戸さんは青褪めた様子で、一字一句を目で追っている。


「……これ、本当に遺書なんですか?」

「これが鍛冶議員の不祥事の証拠と信じるかどうかは世戸さんの判断に任せる。一応言っとくけど、このことは他言無用だ。もしこのことが公になったら、真凜の身に危害が及ぶことは伝えておく。鍛冶議員はまだこっちの動きに気づいていない。もしこのことを鍛冶議員に報告すれば、ワールドコーヒーコーポレーションに推薦してもらえるだろうな。何の罪もない……真凜の命と引き換えに」

「何が言いたいんですか?」

「今の内に口止め料を聞いておこうと思ってな。いくら欲しいか言ってみろ」

「そんなことしません。嘘の可能性もありますので」


 やはりまだ疑っているようだ。しかし一般人と同程度の倫理観は持ち合わせている模様。


 世戸さんは鍛冶議員の事実上の配下にいる。こいつに事の真相を話すなら、脅されるつもりで話す必要があると感じていたが、どうやらその心配はなさそうだ。


 真凜とすっかり意気投合している世戸さんなら、ある意味では最も信用できる。


「それに私、そこまで見下げ果てた人間ではありません。これが本当なら――鍛冶議員には失望です」

「真凜の親父のブログに投稿されていた最後の文章。あれを最初に解読したのは君だな?」

「……そうですけど」

「鍛冶議員に解読結果を報告して、一応掘ってみたものの、位置がずれていて見つからず、こっぴどく叱られちまったんだろ?」

「だったら何だって言うんですか?」

「世戸さん、別に脅すわけじゃないけど、鍛冶議員とは手を切った方が身のためだ。もしこれを発見して報告していたら、事が済んだ後、君は証拠隠滅のために消されていただろうな。鍛冶議員は不祥事を知った人間を生かしてはおかない。君が真っ当な道に戻る最後のチャンスを真凜が与えてくれたんだ。それに報いたいとは思わないか?」

「……分かりました。そういうことでしたら、最後まであなたを信じます。葉月社長」

「良心的だな」

「真凜さんは大事な友達ですから。これ、私の連絡先です」


 メモ帳の1枚破って渡すと、惜しみなくニコッと微笑み、バックヤードを去る世戸さん。


 だがすぐに笑顔はなくなり、一筋の不安が後姿に表れていた。世戸さんの説得に成功したことを璃子に告げる。璃子から作戦を聞いた僕は世戸さんだけでなく、他のエリアの店舗マスターにもある行動を起こすよう告げた。この動きに喫茶処江戸が気づくことはなく、計画は着々と実行に移されていった。全ては最下位契約を達成するため……そして杉山グループの本部株を奪うため。


 その後の流れは恐ろしいくらいにスムーズなものであった――。


 世戸さんは約束通り、中央エリアにいる喫茶処江戸以外の店舗マスター全員を説得してくれた。


 プロ契約を結んでいないバリスタの中ではトップクラスの実績を持つこともあり、他の店舗マスターたちは素直に従ってくれた。秘密も守ってくれるようだ。


 翌日を迎え、中央エリアまでもが全品1億円提供を行った。


 鍛冶、石原、アマチュアチームの面々が唖然とする中、シグネチャーの開発を始めたのだ。


 みんなには僕がオリエンタルモールの経営権を握ればコーヒー研究所に生まれ変わらせると唆し、腕を上げたバリスタはプロ契約を勝ち取ることができ、コーヒーイベント前にはこの場所で好きなだけ練習に没頭できる。この場所自体が大きな合宿所だ。来客は遂に1人もいなくなった。あれだけ根強いファンが集っていた喫茶処江戸でさえ客がめっきり来なくなったのだ。つい最近まで賑わっていた土産物店にも、スタッフ以外の人がいない。アマチュアチームは勝利を確信したのか、店内でシグネチャー開発を始めてしまった。包囲網を逆に包囲されたことには、まだ気づいていないようだ。


 全ては真凜のお陰だ。うちに来てくれなかったら、どうなっていたかと思うとゾッとする。


 ――璃子、これでいいんだよな? やれることは全部やったぞ。


 喫茶処江戸以外の全てのカフェが全品1億円提供となれば、状況は間違いなくうちにとって有利な方向に傾くと璃子は言ったが、この作戦が成功するかどうかはみんな次第だ。喫茶処江戸が怯んで何もできない内に、僕は躊躇なく次の作戦へと移行した。


 全品1億円提供は客を寄せつけない盾となり、喫茶処江戸を牽制するが、それだけではない。


 盾は防御だけでなく、攻撃にも使えるのだ。

読んでいただきありがとうございます。

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