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社会不適合者が凄腕のバリスタになっていた件  作者: エスティ
第19章 逆襲編
453/500

453杯目「誤った矛先を向けて」

 競技とは生き方そのものである。


 僕ぐらいになると、競技を見ただけでおおよその人生観が分かる。


 弥生はコーヒーが心底好きなのが見て取れる。


 コーヒーイベントはバリスタ人生の縮図と言っていい。弥生の競技は丁寧で安心を感じさせるが、時折無理をしすぎているのか、表情に余裕がない時があって、どこか嘘くさい。本当の自分を覆い隠して生きている人に多い言動だ。最初に競技を見た時から疑っていた。完璧主義の中に綻びが見えたのだ。


 弥生は全身を震わせ、悔しさを露わにする。


 日が暮れてきたのか、道路の照明灯が明るく光り始めた。


「弥生、自己弁護するわけじゃないけどさ、旧虎沢グループは遅かれ早かれ滅んでいた。それに君の両親だけど、1つ大きな罪を犯している。何だか分かるか?」

「……両親が何をしたって言うんですか?」

「巨悪を放置した罪だ。親から事情を聞いたってことは、不祥事を知る内部の人間でありながら、状況を放置したってことだ。ただでさえ労働基準法ガン無視な上に、ワンマン経営者の暴挙を誰も止められなかった。組織として見れば、かなり腐敗が進んだ状況だ。腐敗には利子がつく。それだけのことだ」

「仕方ないじゃないですか! 逆らえばクビなんですよ! 立場の弱い人間が家族を養いながら生き抜くには、権力の犬になるしかないんです! ……きっと多くの人は、惨めさを晒すのが怖いんです。私のように……足が竦んで動けないんです」


 ヒステリックに声を張り上げる弥生だが、途中から声に力が入らない。


 中学生になってからの弥生は出世を渇望した。親戚が残した遺産を切り崩し、独学でバリスタの技能を死に物狂いで習得し、中学を卒業してから葉月珈琲塾に入塾した。卒業と同時に発展途上にあったうちのメジャー店舗の1つ、葉月創製に所属となった。葉月グループにおいては一足先に入塾していた皐月と同期だ。弥生も皐月もポテンシャル採用された社員の中では群を抜いていた。葉月珈琲塾の卒業生として初めてのメジャー店舗所属となった弥生は皐月にも劣らない可能性を秘めてはいた。弥生はバリスタ甲子園で優勝したが、翌年には皐月に敗れ、そこから3連覇を許す形となった。


 通学していない分自由時間が多いのだから、勝てて当たり前ではなくなった。


 弥生は黙ったままキッチンで調理をし始めた。


 冷蔵庫からうどんや鱈子を取り出し、うどんを煮て皿に移した。刻んだネギ、鰹節、卵黄を投入する。チューブから出した鱈子をやや多めに混ぜ、最後に刻み海苔を乗せ、鱈子うどんの完成だ。


 目の前に皿をコトッと置かれ、弥生も同じ皿を自分のそばに置き、席に着いた。


「どうぞ」

「お、おう」

「それ食べたらすぐ帰ってください。これ以上話すことなんてありませんから」

「……美味い。めっちゃ手軽な飯なのに、毎日食べたくなる味だな」

「調理と食事の時間を少しでも短縮するためです。ただでさえコーヒーイベントに向けた練習があるんですよ。バールスターズに出ている余裕なんてありません」

「バールスターズはプレゼンなしだ。でも今までに培ってきた引き出しの多さが問われる。引き出しの多さだけなら、誰にも引けを取らないはずだ。これだけたくさんの練習をこなしてるんだからな。君はもっと自分に自信を持つべきだ。才能なら皐月にだって負けてない」


 弥生の手が止まり、啜る音が途切れた。部屋の奥にはドリップコーヒーマシンが置かれている。


 最新式ではない。使い古した跡が残り、今にも壊れそうなくらいに使い込まれている。


 バリスタ甲子園時代からはラテアートに携わり、今はバリスタの基礎とも言えるカッピングの訓練を積んでいるようだが、JCC(ジェイシーシー)JCTC(ジェイクトック)もカッピングを必要とする競技だ。弥生は類まれな味覚を持っているし、僅かなフレーバーの違いに気づくことができるのは確かな強みだ。他のバリスタたちのセンサリージャッジ役を引き受けたりと、精力的に強化合宿の中心人物であり続けている。だがそれでも皐月には及ばないと、劣等感すら持ってしまっている。


 固定観念ほど人の可能性を狭めるものはない。弥生は自信を失いつつあるばかりか、親の人生にとどめを刺す遠因となった僕に手を貸すことなどできない気持ち、トップバリスタとしての活躍を期待している家族に応えたい気持ちが彼女の中で鎬を削っている。無理にとは言わないが、どうしても駄目なら他に候補を探さなくてはならない。チームメイトが僕と皐月というだけで多くのバリスタは委縮する。他に候補がいないことを知った上で弥生は断ろうとしている。ただの緊張ではない。コーヒーイベントには力を貸すが、僕に直接力を貸すことはできないと言いたげだ。まだ自分の殻を破ってはいない。


「どうしてそこまで言えるんですか?」

「この鱈子うどん、本当はもっと薄味だろ?」

「……よく分かりますね」

「弥生は僕が濃い味が好きなのを知っていたから、いつもより鱈子の量を多めにしたんだろ。僕の鱈子うどんの方が鱈子の量が多いし、ここまで気遣いができるバリスタは珍しい。センサリージャッジの好みを把握して量を調整したり、好みの味にカスタマイズしたりするくらい、造作もないと思うけどな」


 間違いない。弥生は相手の味覚に共感する能力を持っている。


 カッピングよりもシグネチャーを作る方が向いている気がするが、理由は皐月を避けるためだ。そうとしか思えない。皐月が挑戦する競技を選んでから競技を選んでいたあたり、競合すれば負けると体に刷り込まれていることは想像に難くない。メジャー競技会のダブルファイナリストであるにもかかわらずだ。何らかの原因で自信を削られている。謙遜ではない。自己肯定感が低いのだ。


 せっかく死に物狂いで這い上がったというのに、皐月のような才能の塊を前にすれば、今までの努力は何だったのかと意気消沈する。弥生は皐月が同じ競技に出場することを知った時、口が空いたまま顔が青褪めていた。JCTC(ジェイクトック)では2人共全問正解だ。僅かなタイムの差で皐月が勝ったわけだが、そのことがより一層弥生から自信を奪った。結論、弥生は順位を気にしすぎている。


 ランキング症候群、競争における順位や集団における自分の立ち位置を過剰なまでに気にしている状態の総称である。自分と違う順位の者に対して、勝っていればマウントを取り、負けていれば嫉妬する症例が数多く見られており、横並び意識の強い日本人に多い病的状態だ。今はどこでもインターネット環境が充実してきたこともあり、外国でも同じ症例を観測する機会が増えた。最も身近な現代病だ。


 1位以外は幸せになれないと強く教え込まれ、誰もが1位を目指す様は地獄絵図だ。


 ほんの僅かな人しか幸せになれない、才能の殴り合いに何故参加しなければならないのかと、弥生は自問自答している。チーム戦ならば、敗北に直結する場面が訪れ、叩かれることもあるだろう。自分のせいで優勝を逃したことを明確な形で突きつけられることを恐れている。弥生は行き場のない僕への憎しみでいっぱいだ。そして何より、弥生は皐月に憧れを抱いてしまっている。


 鱈子うどんを食べると、僕はその場に寝転んだ。


 畳の匂いが部屋全体に染み渡っている。車があまり通らないから静かだし、狭いながらも落ち着きのある空間だ。まるで今の僕を揶揄しているかのような……。


「あの、もう帰っていただけませんか?」

「これから練習するんだろ。一度見させてくれ。社員がちゃんとリモートワークをしているかどうかを見るのも総帥の仕事だからさ」

「……分かりました」


 渋々滞在を認め、部屋の奥にあるドリップコーヒーマシンを作動し、コーヒーカップを3つ置いた。


 ドリップコーヒーマシンに3杯分のコーヒーを淹れると、コーヒーカップを1つ選び、シグネチャードリンクの材料と思われる液体が入った注射器を取り出し、1滴だけ垂らして3つのスプーンを使って掻き混ぜてからシャッフルすると、スプーンの入ったカッピング用の紙コップと共にテーブルに置き、僕の前に指でそっと押しながら突き出した。真っ白なコーヒーカップはどれも見分けがつかない。


 カップの底にシールは張られているだろうが、実際の競技とは異なり、品種の違いどころか、1滴分の違いを見抜かなければならないのはハードルが高い。


 実際の競技よりもずっと難しい模擬訓練を行うことで、本番の難度を下げるトレーニングだ。


「3つのコーヒーカップの内、1つだけシグネチャードリンクの食材が入っています。もしあず君が正解となるカップを当てれば、私もバーテンダーズに参加すると約束します」

「……いいぞ。じゃあもし外したら、二度と君を誘わないし、今日のことは全部忘れる」

「感謝します」


 ほんのりと弥生の口元が緩んだ。当てられない自信があるようだ。


 1杯ずつスプーンですくい、啜るように口に入れては紙コップに吐き出した。


 この時点で僕の勝利は確定している。弥生は大きなミスを犯した。


 コーヒーは僕にとって最愛の恋人、コーヒーは全てを僕に教えてくれる。どれにシグネチャードリンクの食材が混ぜられているかだって、たった1滴でも味覚と嗅覚に訴えて教えてくれる。


 無論、弥生が()を張っていることさえ、告げ口をするように教えてくれた。


「余程チーム戦に参加したくないみてえだな」

「当たり前じゃないですか。あず君は私の人生を滅茶苦茶にした1人なんですよ。本来なら私は、穂岐山珈琲に所属するはずだったんです。貧困から脱出するために昨今のコーヒーブームに乗って、好きでもないコーヒーを何度も味わいながらバリスタの仕事を究めてきました。葉月珈琲塾に入塾したのは他にバリスタを育てる施設がなかったからです。でも穂岐山珈琲は私に見向きすらしてくれず、皐月ちゃんを選びました。美羽さんにも相談しましたが、あず君に匹敵するくらいの才能があることを証明できない限り、大卒ですらない者を雇用することはできないと言われました。私は葉月珈琲塾からの推薦枠で葉月グループに入りました。二度もあなたに邪魔をされたんです」

「だったらさ、僕の人生を滅茶苦茶にするために、チームに入って妨害工作しようとか思わないの?」

「できません。皐月ちゃんは私の大事な親友です。あず君に何かあったら、皐月ちゃんが悲しみます」

「……気づいてたか」

「2人が以前からつき合っていたことはお見通しです。見ていれば分かります。そろそろ問題の答えを聞かせてください。私にも予定というものがありますから」


 僕らは同時に3つのコーヒーカップに目を向けた。


「……答えはどれでもない」

「さっき1つだけ入れたんですけど」

「弥生が使っていた注射器の中身はシグネチャーの食材じゃない。このコーヒーと同じもの、つまり1滴分同じコーヒーを継ぎ足しただけで中身に変化はない。その証拠に、弥生は底のシールを確認せず1滴投入していたからな。どれを答えても外れなのであれば、確認する意味がない」

「やはり誤魔化せませんか」

「味は絶対嘘を吐かない。それだけのことだ」


 立ち上がって扉に手をかけた。弥生は観念したように座ったまま息を吐いた。


 どのコーヒーカップからも、フレーバーや味わいに変化が見られなかった。つまりあの1滴は全く同じコーヒーを継ぎ足しただけで、当てさせる気がない出来レースを仕掛けていたのだ。コーヒーを淹れていた時の弥生は、僕を陥れようとしていた連中と同じ目をしていた。心底出たくない気持ちが僕には分からない。コーヒーが嫌いだったバリスタは珍しくない。コーヒーカクテルの世界に僕という下戸の世界チャンピオンがいるように、コーヒー嫌いのトップバリスタがいたって何ら不思議じゃない。


「弥生」

「何ですか?」

「今すぐ返事をしろとは言わん。4月になったら、僕は中山道葉月から戻ってくるけど、葉月珈琲から引っ越す時期でもある。皐月の別荘だった場所に引っ越す。3月が終わるまでに決めてくれ。返事がなかったら、断ったものとして璃子に報告する。国内予選がない分考える時間があるけど、もしこの話を蹴るようなら、君は一生皐月を超えられないぞ」

「! ……そんなこと……分かってます。だったらどうすればいいんですか!? これ以上私を不憫にしないでください! 私だって勝ちたいです! ……あず君や皐月ちゃんを超えたい。あず君みたいにみんなからちやほやされて、羨ましがられて、子供に憧れを抱かれるバリスタになりたいっ!」


 大粒の涙を流し、声を張り上げ、心の内に燻ぶっていた想いを吐き出す弥生。


 ――言えたじゃねえか。それでこそ葉月グループの一員だ。


 自分でも恥ずかしいくらいに褒められているようで、後ろを振り返ることができなかった。今の僕の顔を見られたら、心臓が止まりそうなくらいに恥ずかしいのだ。


「私がバリスタを目指したきっかけはあず君でした。コーヒーは嫌いでしたけど、この苦さを噛みしめる度に、何だか背中を押されているみたいで、段々好きになってきました」

「弥生、僕や皐月を超えたいと言ったな」

「はい……」

「だったら、憧れるのをやめろ。コーヒーイベントの時、弥生は他のバリスタへの憧れから、競技が受け身になっていた。決勝にはバリスタであれば誰もが知っている人ばかりが残るのは分かるけど、弥生だってさ、みんなから憧れを集めているバリスタの1人なんだぞ」


 後ろから壁に何かを押しつける音が聞こえた。押し黙る弥生には不思議と安心すら覚えた。


 家の外に出た。弥生は後を追ってこない。今は1人で考えさせた方がいい。憧れていたら永遠に越えられない。僕はバリスタマガジンを最初に読んだあの日から、トップバリスタへの憧れを捨て、超えるべき存在となった。目標でもなければ目的でもなく、価値ある通過点として。


 哀愁が漂っていた弥生のアパートは、ほんのりとした明かりに照らされていたのであった――。


 家に戻ってみれば、伊織が腹を擦りながらクリームシチューを作ってくれていた。


 そういや食べて帰るなんて連絡してなかった。何もしなくても子供たちがおかわりするお陰で、余らせてしまうこともない。いつの間にか3人に増えていた母親に対し、子供たちは違和感を抱かない。無理をするなと言わんばかりに、途中からは皐月が伊織に代わり、夕食を作っていた。伊織はゆっくりとリビングのテーブルに腰かけ、子供たちと一緒にテーブルを囲んだ。


 誰が誰の子かなんて関係ない。社会全体で育てていく。それでいいじゃねえか。


「説得はできたのか?」

「分からん。弥生次第だな」

「ああ見えて強情なところがあるからな。弥生にも話すべきだろう。私たちの事情を」

「……そうだな。弥生が覚悟を決めた時は、こっちも覚悟を決める。皐月も同席してくれ」

「分かった」


 真っ白なクリームシチューがテーブルに届く。子供でも食べられるよう、野菜は全て微塵切りに仕上げている。肉は余ってしまった飛騨牛を柔らかく煮込み、誰でも噛み切れるくらいだ。


 特に食欲旺盛なのは紫と雅だった。調理から片づけまでをきっちりとこなし、既に1人暮らしができるくらいの生活能力を手にしている。通学させていたら、ここまではできなかっただろう。学習内容だって年相応であることを強要され、15歳まで義務教育を卒業させてもらえないが、2人は早くもバリスタの歴史やコーヒーの歴史に興味を持ち、葉月珈琲塾の卒業研究を始めた。中学を卒業したら葉月グループに入社する予定なのか、早くも店の仕事を一部手伝い始めている。


 放っておかれた子供たちは、大人が何もせずとも自ら学習を始めるのだ。


「ねえねえ、親父はさつねえと子供作らないの?」


 雅が僕ら2人を見ながら言った。それも満面の笑みで。


「雅、そういうことは聞いたら駄目。無理に作るものじゃないんだからね」


 唯が優しく注意するように英語で言った。ヒステリックに叱らないのもポイント高い。


「はーい」

「……考えておく」

「じゃあ今日は2人でお風呂に入ったらどうですか?」

「いいのか?」

「別にいいぞ。皐月とだけ一緒に入らないのは不公平だしな」

「あず君、皐月ちゃんを妊娠させたら駄目ですよ」

「分かってる」


 皐月は顔を赤らめながら急いでクリームシチューを平らげると、すぐに席を立ち、台所にまで自分が使った皿や食器を持っていき、自分の部屋へと戻ってしまった。


 すぐに後を追う。廊下はリビングよりもずっとひんやりしていて静かだ。


 立花社長には既に皐月との同居を認めてもらっている。懐古趣味と保守派はよく似ている。だが立花社長は時代を先に進めなければならないことに気づいている。


 皐月が言っていた杉山社長の隠し子って、一体誰なんだろうか。


 もし本当ならスキャンダルだ。結婚するよりも前につき合っていた相手だろうか。20代から30代の時にできた息子なら、今は40代か50代のはずだ。僕よりも一回り年上だし、皐月とつき合わせるにはあまりにも年が離れている。皐月と結婚させられそうな状況であったならば、隠し子は中年男性で今も独身だろう。今どこでどんな活動をしているのかさえ分からない。杉山社長の息子であることを知りながら活動している確率は低い。生まれてすぐ養子に出された。知っている方が不思議とは思うが、何故そんな隠し札を持っていたのかが不思議だ。そこまでして身内に跡を継がせたいのだろうか。


 杉山社長は人間不信を抱えている。信用できるのは身内のみ。


 なのに何故養子に送らなければならなかったのか……謎は深まるばかり。


「あず君、本当に一緒に入ってもいいのか?」

「3月には引っ越すんだぞ。ここでの最後の思い出は、皐月と結ばれたことだ」

「……あず君は本当に……変わってるな」


 呆れ笑いを浮かべながら洗面所へと移動し、服をスルスルと脱ぎ始めた。妖艶な皐月の裸体を目の当たりにした僕も服を脱がされ、沸いたばかりの風呂場に引き摺り込まれた。


 シャワーの温度を上げてフックに固定し、僕らの全身を一瞬にして濡らした。身も心も温まっていく。色白で張りと艶のある半球型の膨らみを優しく掴んで変形させ、後頭部と背中を壁に押しつける。皐月は特に抵抗する様子もなく、服従するように受け入れた。目を瞑りながら唇を重ね、今度は引き締まった臀部を鷲掴みにすると、皐月は反射的にブルッと体を震わせた。


「んっ!」

「あっ、ごめん……痛かった?」

「大丈夫だ。気持ち良すぎて……つい……慣れてるんだな」

「経験豊富だからな。一度に2人の相手をしたこともある。皐月の別荘の風呂、めっちゃ広いよな。引っ越したらさー、4人で入ろうよ」

「今は私だけを見てくれ。他の女の話はしてほしくない」

「……」


 僕にだけ獣のような目線を集中すると、今度は皐月の方から僕を押し倒し、体を欲しいままにする。


 浴場でここまで欲情する女は初めてだ。普段は冷静沈着で律儀な皐月だが、本能に忠実な姿を見た男は僕しかいないことが見て取れる。こんなに良い女と結ばれて、同居することには優越感すら覚えた。


 この日の夜、僕は皐月と深く繋がり、大人の階段を上らせたのであった。

読んでいただきありがとうございます。

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