表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
社会不適合者が凄腕のバリスタになっていた件  作者: エスティ
第18章 包囲網編
449/500

449杯目「性根を試されて」

 午後3時、非売品ながら、最新式エスプレッソマシンで淹れたエスプレッソを飲んだ。


 久々に飲んだスペシャルティコーヒーに舌が唸る。この頃ずっと中山道葉月でコモディティコーヒーばかり飲んでいた僕にとっては至福の一時だ。ゲイシャでもシドラでもない、シングルオリジンのコナコーヒーだが、最新式コーヒーマシンの恩恵はあまりに大きく、本来の味わいを現出している。


 最新式エスプレッソマシンは、見るからに機械仕掛けだ。オープンキッチンに何とか置けるくらいのサイズで、重量級なだけあって目立つし、入ってきた客の目に真っ先に留まるのは間違いないだろう。3人で腹を割って雑談を続けていると、立花グループの社員らしき人たちが現れ、コーヒーマシンを勝手に利用し始めた。立花社長は特に咎めるでもなく、余裕を持った顔のまま微笑ましく見守っている。


 立花社長は全ての事情を説明してくれた。


 立花グループ初代総帥、つまり立花社長の祖父がグループを立ち上げた経緯は些細なことだ。立花社長の祖父はごく普通の建築業を営んでいたが、車の普及に伴う交通事故の増加により、身体障害者のための家を建ててくれと言われたことが元で『バリアフリー建築』を始めた。階段は坂やエレベーターにして、車椅子でも不便がない設計を推し進めるべく、他の関連事業にも手を出し、バリアフリー建築が少子高齢化社会の需要とマッチし、3代にわたって九州を代表するグループ企業となった。


 障害者を積極的に雇用し、今日まで障害を持つ労働者の質を高める研究を重ねてきたという。しかしながら、研究は未だ実ることはなく、健常者ばかりを雇う他のグループ企業に押されるようになり、起死回生の機会を求め、コーヒー業界に手を出したはいいが、プロバリスタを目指す者たちは、いずれも健常者であるため、大会用と見なされたグラインダーやコーヒーマシンは競技会の時しか売れず、業績は緩やかに下降していった。退くに退けなくなった立花社長は皐月のプロバリスタの夢に懸けた。


 更には杉山グループと業務提携を結び、オリエンタルモールの株を付与され、バリスタランドに店を構えている。これは杉山社長が仕掛けた罠だ。万が一裏切って葉月グループの味方をしてもすぐに始末できるよう本部株を人質に取る作戦だったのだ。既に杉山グループに見放され、本部株を取られている企業、もしくは蜥蜴の尻尾切りという形で独立を果たした店舗は岐阜と東京を除いた45の都道府県の内、8つにまで上っている。妨害に失敗した珈琲屋川崎も同様だが、杉山グループと癒着のあるオリオンカフェに関しては、はなっからペナルティなど設けていない。


 しかも珈琲屋川崎には土門の奴がマスターとして君臨する始末だ。


 尻尾切りによって独立した店舗はマスターがオーナー兼店長となり、店舗の全責任を負わされる。各店舗のマスターは予め契約を交わしており、店舗が独立を決めた場合、独立時点でのマスターが新しい会社を設立し、社長兼マスターを最低1年務めることが定められているとのこと。ペナルティどころか損失を免れるために、マスターやバイトたちを犠牲にするつもりらしい。美羽の調べで分かったことだが、各店舗のマスターやスタッフは社内競争に敗れ、左遷されてきた者たちであることが浮き彫りだ。重要な人物であれば、あんな所に派遣などしない。大方最後のチャンスと言って契約書にサインさせたんだろうが、これはむしろうちにとって有利と言える。


 つまり、立花社長もいざとなれば、蜥蜴の尻尾切りができるということだ。


 午後6時、夕食の時間を迎え、立花家に入ると、畳だらけの大広間に案内される。


 既に食事の準備ができており、僕の隣に皐月が陣取り、向かい側に立花社長が腰かけた時、もう1人見覚えのあるチャラい男性が襖を開けて入ってくる。


「おお、やっと来たか。そこに座ってくれ」

「おじさん、久しぶり。あれっ……もしかしてあず君?」

「何で君がここに?」

「知り合いですかな?」

「皐月がバリスタ甲子園で活躍していた時、優勝を見届けようとしたら、大声で僕にサインを求めてきた不届き者だ。お陰で目立っちまった」

「人聞きが悪いなー。だって聞こえなかったんだもん」

「もしかして親戚か?」

「そうだな。立花樹(たちばないつき)、私のいとこで、立花グループの後継者だ」

「後継者!?」


 思わず首を傾げてしまった。寄りによってこいつかよ……。


 立花はノリだけで生きてきたような陽気さ、ボサボサで全方向に棘を向けている黒髪、中肉中背で周囲をキョロキョロと見渡しているのが特徴だ。僕より11歳年下の23歳、おっさんみたいな外見で伊織や千尋よりも年下なのが不思議である。僕が久方ぶりのバリスタ甲子園で観戦していた時、声をかけられて会場が混乱した。この時に会って以来、追っかけで僕の応援をしていた葉月梓ファンクラブ会員である。まさか皐月のいとことは知らなかった。


「おじさんは俺の伯父。んで俺は今年から立花グループ本社に入ったばかりの新人社員。うちと業務提携を結びたいんだってね」

「仕事の話は後にしろ。まずは葉月社長にうちの理念を理解していただいたかどうかを聞かんとな」

「理解は十分してるぞ。特に邪魔する気もないし、うちは一向に構わん」

「さっきの親父の話から何も感じなかったのか?」

「感じたよ。障害を持つ人も就労のために努力してるってことはな」

「葉月社長、うちは障害者雇用促進法を支持する立場です。障害者を全く雇っていないグループと業務提携を結ぶとなると、うちの社会的信用に関わります。よく熟考されてから……お決めくだされ」


 盃に透明な日本酒を注ぎながら告げると、ゆっくりと喉を潤すように飲み干した。


 立花社長は僕に考える時間を与えたいのか、立花とのんびり話し始めた。可処分時間なんてまるで気にしてない様子だ。当分は休みと言ったが、特に病気でもなさそうだ。でも総帥の仕事はどうするつもりなんだろうか。かく言う僕も総帥の仕事の大半を優秀な役員たちに任せている。


 立花社長の言いたいことはよく分かった。


 僕はきっと試されている。表面上だけ障害者を雇い、何もしなくても給料が貰えるだけの部署を各企業に設ければできんこともないが、メンツのためだけに無駄な経費が生じるようでは無駄な会議をしている企業と何ら変わりない。障害者は離職率が高く、職場に定着しにくい傾向が強い。健常者の面倒を見るだけでも一苦労だってのに、障害者が好きな人だけ積極的に雇えばいいじゃねえか。押しつけられる側の身にもなれってんだ。戦力にならない人間は労働市場に出てくるべきじゃない。学校が社畜養成工場なら、施設は社畜再生工場だ。社畜の成りそこないである時点で懸念を持つのは当たり前だ。労働者に需要があるなら、リストラが問題視されることなどない。


 無能は家に引き籠って、社会保障を受けて生活してくれと僕が思うのには壮大な理由がある。


 ――忘れもしない……親父とお袋が、施設にいた障害者を勝手に雇った時の話だ。


 5年間施設にいた岩畑が言うには、風が吹けば飛ぶような根性なしが大勢いたとのこと。


 定着はできなかったが1年は働いたとかそういうレベルじゃない。


 3ヵ月持ったら御の字と言えるレベルだ。戦力として利益を出せるなら障害者の雇用は賛成だが、社内貢献度プラマイゼロも維持できないなら雇用されるべきではない。本来労働とは、仕事ができる人のみがこなすもので、労働力にハンデを抱えている人ほど働かずに生きていく方法を試行錯誤するべきだ。彼らの多くは岩畑も含め、ストレスに弱く、労働市場に耐えられる精神性ではないことを僕は思い知った。


 言い方は悪いが、無能な働き者になる確率が高い。


 初めて拓也がいた施設に行った時、遊んでばかりで指導する気のない指導員がいて、実際に来ていた訓練生と体験生のほとんどは、明らかに競争社会で生き抜くこと自体が向かない翻車魚族と確信した。全てにおいて受け身で、仕事に対する情熱もなく、小学生レベルの日常単語すら理解できない始末だ。意欲も才能も発揮せず、流されて生きてきた連中が山のようにいた。とりあえずのプログラムで翻車魚族を付け焼刃のような労働者に仕上げて卒業させたところで、積み上げていくのは短期職歴のみ。内定を取ったかと思えば、3ヵ月もしない内に何度も施設に逆戻りしてくる連中を何人も見てきたと拓也は言った。働く能力もなければ、働く気力すら感じられない連中に対し、僕は虚無感すら覚えた。しかも翻車魚族の親に限って正社員信仰が強く、子供に向いていない仕事しか知らず、親に言われて通所する人もいた。それこそあいつらの真後ろに死神が立っていても不思議じゃないくらいに無気力だった。


 あの中の何割が安定した生活を手に入れられただろうか。


 果たして、翻車魚族を無理に就職させるのが、本当にそいつらのためなのかと考えさせられた。


 葉月グループには健常者や障害者といった括りは関係なく、人員が足りない部署において優秀であるかどうかを問うのみで、有能かどうか以外の部分は見ていない。他の企業とは根本的に考え方が違う。もしかしたらうちにも障害を隠したまま雇用されている人間もいるかもしれないが、問題なく溶け込めている時点で障害者ではない。労働市場に溶け込めない要因をどこかに抱えているから障害者なのだ。


 多くの場合、要因は社会側が抱えている。障害者とは社会が作った障壁に害されている者を言う。


 うちが障害者を雇ったところで、競争の激しい葉月グループではまず生き残れない。社内失業者と化した後、居場所がないことを察して辞めるのがオチだ。もしそれが障害者雇用促進法を導入した連中が望んだ結果なのであれば、残念としか言いようがない。引きこもり支援という観点がまずおかしい。引き籠りとは立派な才能だ。引き籠っていても一生暮らせる戦略で生きればいいのだ。


 皐月が困った顔を近づけ、肩を優しく指で突いた。


「今の内に考えを改めた方がいいんじゃないか?」

「皐月まで何言ってんだよ。今更退けるかっつーの」

「立花グループと業務提携を結べなかったらどうするつもりだ? 他のバリスタにも親父が開発した最新式コーヒーマシンを使わせる計画じゃなかったのか?」

「すんなり通ればそうしていた。でもこればかりは譲れない」

「はぁ~、次のコーヒーイベントが心配になってきた。何故そこまで頑固になれるんだ?」

「流される人間になっていたら、僕が障害者雇用促進法の恩恵を受けていたから……かな」

「あー言えばこーゆー」


 皐月は目を半開きにしながら箸を持ち、料理に手をつけた。


 僕らの前に置かれている料理は、どれも豪華なものだ。和牛の肉寿司、かぼす鰤の刺身、豊後河豚の唐揚げ、鴬宿梅(おうしゅくばい)を使った鴬宿梅酒、どれも郷土料理や名物ばかりだ。


 好奇心の赴くまま、僕は花柄の立派な箸を使い、料理を次々に口の中へと運んでいく。和牛は全国和牛能力共進会種牛の部で幾度となく日本一に輝いてきた大分和牛だ。柔らかい肉質、しつこさのない旨味が下を唸らせる。恵まれた自然、肥沃な大地で育まれ、生産者が愛情を注いだ最高級の和牛ブランドのようである。ステーキ、すき焼き、しゃぶしゃぶもお勧めだが、肉寿司にしてきたか。味も申し分ない。それにこの光沢が目立つかぼす鰤も美味い。波の影響を受けにくいリアス式海岸が続く大分県では鰤の養殖が盛んに行われ、養殖鰤の中でも大分県の名産にして有機生姜のかぼすを餌に混ぜて育てられている。かぼすの抗酸化作用により、血合いの変色が遅く、さっぱりしていて香りが良い。刺身で味わうとプリッとした弾力と新鮮な瑞々しさが感じられるし、ここまで素材の相性を考えているとは、先人の知恵恐るべし。


 豊後水道の荒波に揉まれ、身が引き締まった河豚は独特の食感と甘味がある。新鮮さを思う存分味わいたい時は薄引きの刺身で、旨味を引き立てるならカラッとした食感の唐揚げがお勧めだろう。ちょっぴり贅沢なディナーにはうってつけだ。梅酒造りに適しており、大分県大山産の鴬宿梅(おうしゅくばい)を使用し、3年間熟成させた梅酒を高級ジャパニーズ・ウイスキーの熟成に使われたホワイトオーク樽に再貯蔵し追熟する。ウイスキーの香りとホワイトオーク樽の香りが熟成梅酒の奥深い味わいに絶妙にマッチした最高級の鴬宿梅酒だ。長期熟成ならではの芳醇な味とコク、本物への拘りが生んだ梅産地ならではの逸品は、酒好きにはたまらない一品だろうな。


 僕は下戸だけど……でも一度飲んでおくか。1杯だけなら大丈夫だろう。


 料理を思う存分味わうと、鴬宿梅酒を一口だけ飲んだ。


 うん、梅酒だ。ウイスキーの風味もある。これなら最高のカクテルに――。


 ――待てよ、これ、使えるんじゃねえか? さっきの雑談で分かったが、皐月は地元愛が強く、まだ飲んだことのない鴬宿梅酒にさえ精通していた。


「……美味い」

「全部食べたな」

「こんなに美味いものを毎日食ってるのか?」

「そんなわけないだろ。鴬宿梅酒も味わったことがない」

「この鴬宿梅酒だけどさ、来年のJCIGSC(ジェイシグス)で使ってみないか?」

「正気か? まだ味わったこともないと言ったはずだぞ」

「正気だとも。伊織は飲んだこともない伊織梅酒でバリスタオリンピックを制覇した。これと同じことができるようにならない限り伊織を超えることはまず無理と思え。それに来年は20歳(はたち)だろ。日本でも酒が飲めるようになるんだ。アグデルにいた時、梅酒とウイスキーを飲んでいたのは、これを飲むためじゃねえのか?」

「……気づいてたか」


 予てからコーヒーカクテルの製作に意欲を示していた皐月は、外国で日本の酒を度々飲んでいた。


 特に梅酒とウイスキーを嗜んでいたが、謎がやっと解けた。皐月は早くも酒豪であることを証明した。コーヒーカクテルなしではバリスタオリンピックを制覇できないことを知っている。コーヒーとアルコールと副材料だけで選択肢が無限にあるため、挑戦を渋る者も少なくない。


 3月を迎えれば、皐月もコーヒーカクテルのテイスティングができるし、何より酒を飲んでも酔わない頑丈な体質を持っている。体は資本とはまさにこのこと。興味があるってことは、そこに大きな才能が眠っているということだ。真理愛に協力を打診すれば飛躍的に伸びるはずだ。


「立花社長、どうしても障害者雇用促進法を守っているグループじゃないと駄目か?」

「……絶対に……とは言いません。相応の見返りや保証があれば、例外的に認めましょう」

「皐月にうちの広告塔になってもらう予定だ。丁度現バリスタオリンピックチャンピオンがバリスタ競技会からの引退を決めたばかりで、広告塔の席が空いているからな。立花グループにとっても大きな宣伝になる。葉月珈琲農園が誇る世界最高峰のコーヒー豆を優先的に提供する」

「それだけですかな?」


 酒が回っていながらも、正気を保っている立花社長。


「……足りないか?」

「私はてっきり、娘を貰ってくれるものとばかり」

「なっ、何ゆいよんのや!? あず君には2人ん恋人がおるんど!」


 柄にもなく赤面しながら声を荒げる皐月。


「事実重婚認めちょんちゅうなら、2人やろうと3人やろうと似たようなもんや。それに葉月社長の恋人たちと関わりゅう持つ者たちゃ、事実重婚の話題性だけじ潤うちょんやんか」

「「「!」」」


 僕、皐月、立花が同時に耳を疑った。常人の言葉とは思えなかった。立花社長の言う通りだ。唯の両親はロンドン郊外の店を継ぎ、どうにか経営を立て直した後、事実重婚が発覚してからは毎日のように客が来るようになり、商売繫盛と恋愛成就のパワースポットと化している。伊織の親戚である中津川社長も経営が軌道に乗り、吸収合併されるまではどうにもならない状況を脱していた。


 穂岐山珈琲とは業務提携を結び、育成部の人材育成にも一躍買っている。本社が乗っ取られる直前に全国から育成部所属の逸材を掻き集め、焦土作戦を同時進行しながら育成部だけを亡命政権として切り離した。杉山珈琲には僅かな人材と廃屋のように壊れた店舗のみが残った。根本はバリスタオリンピック2023ダブリン大会を知る者たちのから同情を買い、皮肉にもこの悲劇が元で人気店舗となった。


 本来なら受け入れられるはずはないが、背に腹は代えられない。


「えっ、おじさんホントに皐月ちゃん嫁がせようとしちょんの? 他に候補やらおらんわけ?」

「最近ん男共は弱なった。俺がおるだけじ周囲は積極的に声出そうともせん。完全にビビっちやがる」

「親父は威圧感の塊だからな。もう少し笑顔でも振り撒いた方がいいんじゃないか?」

「……葉月社長は骨のある男だ。明治の頃にはたくさんいた連中の気骨と同じものを感じた。業務提携はともかく、葉月社長になら安心して皐月を託せる。どうですかな?」

「どうって言われても……」


 目を逸らしながら言った。皐月は完全に呆れている。


 子供が親のことをよく見ているように、親もまた、子供のことをよく見ているもんだ。


 やばい、酒が回ってきた! 部屋がグルグル回っているように見えるっ!


 皐月たちが何か話しているが、何の話題かは覚えていない。僕は皐月の膝枕に頭を預ける格好となっている。しばらく休み、酔いが醒めてから歯を磨いて大きな風呂に浸かり、藍色を基調とした浴衣を着用している。再び部屋に戻ってみれば2人分の布団が横並びに敷かれている。部屋が狭いわけでもないのに、不自然なくらいに間隔は一切空けてないし、何故こんなにも近いのだろうか。思考が止まっているこの時は気づけなかった。さっきまでのやりとりが全て夢のように思える。


 一部例外を除き、僕と関わった人たちが幸福な日々を送っていることを立花社長は見抜いていた。皐月の洞察力は親父譲りか。つり目が怒っているように見えるほどの眼力、すぐ実行に移す行動力、肝が据わった面構え、男勝りだが可愛らしさもある。


 ――ハッ! さっきからずっと皐月のことばっかり考えてるじゃねえか! いかんいかん、雑念を捨てて早いとこ寝よう。きっと僕は疲れている。話がうまいようにも思えるが、本質は政略結婚だ。唯と伊織のこともあるし、籍を入れることだけはできない。


 だが愛し合うことなら――あぁ~、また皐月のこと考えてるし。


 明かりを消して掛け布団に入り、天井を見上げた――古風な木造建築って、こんなに綺麗なんだな。


 僕より少しばかり遅れて入ってきた皐月が何の躊躇いもなく隣の布団に入った。


 これ、完全に夫婦じゃねえか。でも何で事実重婚に娘を巻き込むんだ? スパイ容疑をかけてしまったばかりか、強化合宿のことも隠していた皐月に対しては負い目もある。だが大事なのは皐月の気持ちだ。そこまでして嫁がせたい理由さえ分かれば、業務提携に結びつけられるかもしれない。


 結局、交渉は難航したまま、ひたすら平行線を辿るのだった。

読んでいただきありがとうございます。

気に入っていただければ下から評価ボタンを押していただけると嬉しいです。

立花樹(CV:阪口大助)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ