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社会不適合者が凄腕のバリスタになっていた件  作者: エスティ
第2章 自営業編
44/500

44杯目「ラテアート戦争」

 ――大会2日目――


 早めに起きると、午前9時にはホテルを出発する。


 まだ大会まで時間があったため、途中でカフェに寄ることに。


 最初に立ち寄ったカフェ・ホットランタへと赴いた。アトランタは南部特有の熱さ故、ホットランタというあだ名をつけられているらしい。これは大会前、ここのマスターから聞いた。


「いらっしゃい」

「カプチーノ1つ」

「はいよ」

「おっ、アズサじゃん」

「ジャスティンとジョナサンか。また会ったな」

「俺たちここの常連なんだ」


 どうりで大会前の朝もここにいたわけだ。


 ここは特に朝食が上手いらしく、追加でボリューミーな朝食セットを注文する。マスターが機転を利かせてくれたのか、カプチーノをセットに組み込んでくれた。


 誰もいないカウンター席の中から端っこを選んで座る。


「はい、朝食セット」

「ふーん、美味そうだ」


 朝食セットはハンバーガーとポテトとカプチーノのセットだった。流石はアメリカ、やることが派手だねぇ~。でもこれ……朝食にしては重すぎないか?


 恐る恐る視界いっぱいに聳え立つハンバーガーに思わずかぶりついた……うん、美味い。これはテリヤキソースか? それにしては甘味がある。ポテトはあっさりした味だ。塩加減も丁度良い。


「どうだ? フランクリン・アダムズお手製の朝食セットは美味いだろ?」

「うん。美味いよこれ。朝食にハンバーガーはどうかと思ったけど、これならいける気がする」

「だろ? 喜んでもらえて良かったよ」


 カフェ・ホットランタのマスター、フランクリンが安堵する。彼は僕を知らなかったが、ジャスティンたちが僕のチャンネルを教えたのか、すっかり僕のファンになっていた。


「これから大会だろ。それ食って戦ってこい」

「うん、ありがとう」

「アズサ、俺たちも後で行くよ」

「俺も行きたいなー」

「あんたは店の仕事があるだろ」

「へいへい。結果が分かったら教えてくれよ」


 朝食セットを少し時間をかけて完食している間、フランクリンはアトランタの魅力を僕に語る。暇な時は僕の動画を見ているらしい。僕のチャンネルに登録している人の大半は、恐らくバリスタかバリスタ志望の人なんだろう。ピアノ動画の方は音楽家の人や、音楽家志望の人が登録していた。


 やっぱこういうのって、趣味が合う者同士が惹かれ合うのかな?


「それにしてもさ、ジョナサンがまたラテアートを始めるって聞いた時は驚いたよ。もうバリスタ辞めちまったって思ってたからさ」

「だってさー、アズサが楽しそうにラテアートを描いてるのを見てたら、何だか昔を思い出してさ、またやりたくなってきたんだよ」

「そういえば、何でバリスタ辞めたんだっけ?」

「若い頃に勤めてたカフェが潰れちゃってさー、それで親父が弁護士の仕事を勧めてきたから、他にやることもなかったし、流されるように弁護士の勉強を始めたんだよ」

「お前法律にめっちゃ詳しいもんな」

「まあな。元々得意だったこともあってすぐ弁護士になれたのはいいけど、毎日めんどくせえ訴訟ばっかでさー、得意ではあっても情熱を注げるもんでもねえし、もう弁護士辞めようかと思ってんだ」


 バリスタになる前、何度かピアニストの道を勧められたことがあった。


 僕はバリスタ以外の道を断固拒否し続けて我武者羅にここまでやってきたが、店が潰れたことを鈴鹿が知ったら、またピアニストの道を勧められるのかな?


 そうなった時に店がなかったら、僕とて流されない保証はない。


 マルチスキルを持つ者特有の悩みかもしれない。


 きっとジョナサンも店が潰れなければ、バリスタとして生きていたのかもしれない。僕の動画が昔カフェに勤めていた時の情熱を彼に取り戻させたのかもしれない。


「だからさ、お金が貯まったら、自分で店を持ってみようと思うんだ」

「店が売れる保証もないし、弁護士はどうすんだよ?」

「弁護士は資格さえあればいつでも復帰できるし、今は好きなことをやってみたいんだよ」


 潰れた後のアフターケアまでついてる奴はいいな。


 でも陰ながら応援してるぞ。いつか行ってみたいな。


「ありがとう。大会頑張れよ」

「ああ、行ってくるよ」


 カフェ・ホットランタを後にすると、その足で会場へと赴いた。


 昨日勝ち残った競技者はリハーサルをしており、昨日敗れた者は知り合いや友人の応援をしようと客席にいる姿が何人か確認できた。ここにいない人は既に帰ってしまった。せっかくここまで来たなら、誰かが優勝するところを見届けてもいいと思うのだが。


「それでは今から2回戦を開始します。3回戦へと進出された方は、そのままお待ちください」


 2回戦からのトーナメント開始の時間が来る。僕の出番はずっと後の方だった。ベネディクトは2回戦を突破したらしい。僕も後に続かないと。


 僕の出番が直前に迫った……その時だった。


 ――うっ! 何だっ!? この腹の痛みはっ!? 痛みで体が動き辛い……体を早く動かすと無性に気持ち悪くなる。一体どういうことだっ!?


「アズサ、あなたの番です。競技の準備をしてください」


 まずい、こんな状態で競技をして大丈夫なのか? あぁ……腹が痛い。早くトイレに行きたいが、この状況では、とても行かせてもらえそうにない――。


 腹の痛みからなのか、額から汗が出た。仕方なく競技の準備に取りかかる。


 いかん、いつもより動きがゆっくりだ。スピード勝負に負ければ、5項目の1つを失う。つまり他の要素で相手に勝たないといけなくなる。


 2回戦の相手はドイツ人だった。インテリ系っぽい格好で、眼鏡をかけた人だ。


 3分間の制限時間内ならいくら描いてもいいが、ジャッジに出すのは自分が気に入った1つだけだ。基本的には最初に書いた1つ目を出すのがセオリーだ。2つ目を描いた時点でスピードでは負けたと思っていい。だがみんなは失敗することなく、リラックスして描けていた。


 やっぱりみんな、コーヒーを淹れてる時が1番楽しいのだろう。


 昨日の僕に負けないくらいのスピードを出そうとするが――。


 うっ! いってぇ。仕方ねえ、ここはゆっくりやるか。


「――あいつ、昨日より遅くねえか?」

「うん、昨日はあんなに早かったのに、一体どうしたんだろ」


 はぁはぁ、やべえ、段々腹の痛みが増してくる。頼むっ、持ってくれ、僕の体。あの時の痛みに比べれば、ぜんっぜんっ大したことないっ!


 相手が先にラテアートを提供する。ハートに弓矢が刺さったラテアートだった。


 この時点でスピード勝負は負けだ。だが制限時間内ならいくら遅れても大丈夫であるため、じっくりと複雑なラテアートを描いてやろうと思い立った。


 以前の大会と同様、エスプレッソはツーショット分だ。だからカップは1つでいい。ワンショット分の時よりもずっと複雑なラテアートを描ける点も大いにプラスになった。僕はドイツの人より30秒以上も遅れて鹿のラテアートを提供する。角の部分はゆっくり時間をかけるほどに複雑さが増す。僕はスピード勝負で勝てないところを逆手に取った。まず馬の形を描いた後、鹿の角は羽と同じ要領で描き、最終的に見事なシンメトリーとなった2つの角を完成させる。


「すげえ! あんなラテアートは初めてだ」

「ああ。あんなの見たことねえよ」


 当時はフリーポアで描く動物のラテアートと言えば、白鳥か白馬くらいだった。


 そのためか、観客たちは驚きを隠せなかった。


「私はアズサハヅキが優勢だと思います」

「私も同意見です」

「決まったぁー! 2回戦もアズサハヅキの勝利だぁー!」


 司会者の発表と共に歓声が沸いた。


「ふう、何とか凌いだ」

「負けたよ。僕はヨハン・パーペンロート。まさか鹿を描くなんて思わなかった。てっきりハートのチューリップを描くものとばかり。勝てると踏んだけど、意表を突かれたね。3回戦も頑張って」

「お、おう。ありがとう」


 腹痛を隠しながらヨハンと握手を交わす。


 2回戦もジャッジから優勢判定が出て勝利した。


 一歩間違えばタイムオーバーという危機一髪の勝利だった。


 トーナメントって色んな人と出会えるんだな……って感心してる場合じゃねえ。早くトイレに行かないと負けちまう。相変わらず西洋人の参加者が多かったけど、アジア人もちらほらいた。ベスト16に残ったアジア人は僕だけだった。それもあってか、多くのアジア勢から応援の声が届いてくる。


 ――あれ? この光景どっかで見たような。


「アズサ、3回戦の準備をしてください」

「えっ!? 3回戦はまだ先じゃないの?」

「みんな思ったよりも早く終わったみたいなので、3回戦を始めるそうです。準備お願いしますね」


 嘘だろ? 何でこういう時に限って早く終わるんだよっ?


 それにしても、何でこんなに腹が痛いんだ? 腹痛を起こすようなものを食べた覚えは……あった。


 そういやさっき、あの朝食セットを食べたんだった。ハンバーガーとポテトという重いメニューで腹がびっくりして、そこにカプチーノ特有の利尿作用というダブルパンチ……いや、違う。カプチーノには牛乳も含まれてる。僕の腹は牛乳に弱いからトリプルパンチだ。


 ――カプチーノだけにしときゃよかった。


 軽率な朝食セットの注文を後悔する。だが時既に遅し。しかもみんなが早めに競技を終えたせいで予定よりも早く3回戦が始まるとか……トイレ休憩はさせてもらえそうにない。


 もうやるしかないっ!


 覚悟を決めた。この体がどうなろうと、ここは勝つしかない。


 まさに背水の陣、後戻りは許されない。


 3回戦の相手は地元のアメリカ人だった。イケメンで青春系の顔立ち、スレンダーな体型からしてスポーツを嗜んでいそうな青年だった。


「それでは始めます。レディー……ゴーッ!」


 開始の合図と共に、競技が始まる――。


 くっ、腹が痛い。あと少し……あと少しで終わる。持ってくれよ……頼むからっ!


 やはり相手より遅くなってしまった。エスプレッソをツーショット分カップに注いでいる時には相手がミルクピッチャーに入った牛乳にスチームノズルを入れていた。


 僕も大幅に遅れながら牛乳を温め始める。


 ええい、どうせスピードじゃ勝てないんだ。これがっ、今できる最善のラテアートだっ!


 2分が経過したところで、相手がジャッジにハートのフラワーを提供する。シンメトリーは完璧だ。しかも複数のハートを何重にも上手く重ねている。僕はリーフと同じ要領で木の枝を描き、小さな体に丸い耳を描いた。時間ギリギリにコアラを描いて提供する。


「あいつ、また見たことのないラテアートを描いたぞ!」

「あれはコアラか?」

「マジかよっ!? あそこまで繊細にコアラを描いたってのか?」

「!」


 これには対戦相手も驚きを隠せなかった。


「アズサハヅキ優勢です」

「……私も同意見です」

「何と何とー、アズサハヅキが3回戦も勝利だぁー!」


 またしても歓声が沸いたが、この時の僕には聞こえなかった。


「ううっ、勝ったぁ~」

「おっと、大丈夫?」


 その場に倒れかけたが、異常に気づいていたアメリカ人が僕の体を受け止める。


 両手で腹を押さえる仕草を隠しもしなかった。


「あぁ……済まないが、トイレまで連れていってくれないか?」

「お、おう」


 対戦相手に肩を貸してもらい、トイレまで連れていってもらい、彼に事情を話した。


「あー、そういうことかー。だから調子悪かったんだ。そりゃ慣れてないのに、朝からハンバーガーやポテトなんか食べたらそうなるって」

「悪いな。もっと体調管理に気を配るべきだった」


 皮肉なもんだ。小夜子には本番は回復を待ってくれないなんて大層なことを言っておきながら、自分がこんな目に遭うなんて。これじゃ人のこと言えないな。


 それにしても、まさか唯の無茶振りに応えて色んな動物を描いていたのが、こんなところで役に立つとは思わなかった。葉月珈琲は確実に僕を成長へと導いてくれていた。


 僕は自らの進歩を確信した。


「ふう、ありがとう。やっと腹が落ち着いたよ」

「ふふっ、そんな状態で勝つなんて規格外だね。あのコアラ、今度アズサの店に行った時に教えてよ」

「お、おう。ていうか僕のこと知ってたの?」

「そりゃそうだよ。だって僕は君の動画を見てバリスタを始めたんだからさ。ニコラス・ライアンだ。あのラテアートを見て、ますますアズサの店に行きたくなったよ」

「うちはいつでも大歓迎だよ。あっ、でも大会の時とか、年末年始とかは休みだからな」

「分かった。君のマイページをチェックしとくよ」


 ニコラスと握手を交わし、会場へと戻る。


 僕の動画がきっかけで、引退後バリスタに復帰しようとする者やバリスタを始める者もいた。もはや僕の動画は人の人生さえ変えてしまう代物になっていたことを思い知らされた。


 全員の競技が終わり、ホテルへと戻った。


 ホテルの食事はバイキング形式だ。夕食は体への負担が少ないものを意識して選んだ。もう同じ過ちは繰り返さない。体が思った以上に疲れていたのか、歯磨きをして風呂に入った後でぐっすり眠れた。


 ――大会3日目――


 起きてからすぐにホテルで軽めの朝食を取る。


 ベスト8から決勝まで3回続けて行うため、ちゃんと睡眠を取っていたのは正解だった。このあたりからは昨日よりも難しく複雑に描く必要があると感じた。結果が出る度、昨日以上に歓声が沸いていたのだ。それもそのはず、会場には今まで以上に人が集まっていた。


 4回戦の相手はイタリア人だった。黒髪の丸い頭にダンディーな顔立ちだ。


 競技が始まると、僕は元の迅速かつ正確な動きを取り戻した。


「おっ、あいつ、昨日と違って早いぞ」


 凄い。自分でも早い思うくらい、スムーズにラテアートを描くまでの動きができる。昨日の僕が止まって見えるぜ。何というか……体がすっげえ軽い。どうやら体がここの環境に慣れてきたようだ。朝食も目覚めの良いものにしたし、今日はいつもよりも軽い服装だ。


 昨日までは比較的重装備だったため、今日は服装を軽くしてみた。


 バリスタの服って意外と重いんだよな。今日は短パンにTシャツにした。以前から他のバリスタも私服で来ていた。理由はやはり熱いためだ。


 それからの僕は快進撃を続けた。


 フリーポアでユニコーンを書いて勝利した。馬の目の形や足を上手く描き、背中の部分に羽を描いて完成だ。かつてはエッチングでしか描けなかったものがフリーポアでも描けるようになっていた。相手はハートのチューリップだった。もはやそんな基本的なラテアートじゃ勝てないぜ。


「エッチングなしであそこまで書けるなんて、凄いねー」

「毎日店で練習してるからな」

「僕はカルロ・ボルディーガ。準決勝も頑張ってね」

「ああ、任せろ」


 カルロの毛深い手と握手を交わす。


 今まで対戦した人たちや、応援に来た人たちが集まってくる。まさに人種のサラダボウルだ。


「それでは今から昼休みに入ります。準決勝は2時から行いますので、2時には必ず集合するようにしてください。残った参加者の方は、2時になる15分前に集合してください」


 64人もいた参加者は、僕を含めて4人になっていた。


「アズサ、君本当に凄いよ。あんな見たこともないラテアートを隠し持ってたなんて」

「ありがとう。でも勝負はこれからだよ」

「一緒にご飯食べに行かない?」

「えーと、僕、食事は1人でしたい派の人間だからさ」

「あー、そうなのー。じゃあまた後でね」

「うん、じゃあな」


 参加者たちの一行は会場から去って行く。


 外にあるレストランにでも食べに行ったんだろう。


 日本だったら、空気が読めない奴と思われているだろう。だがあの人たちがそんな風に思っている様子はない。1人1人の違いを尊重する文化が根付いている。


 やっぱ食事ってのは、誰にも邪魔されず、好きなものを食うのが1番だ。


 会場に設置されていたカフェで食事をすることに。


 朝と同じく、軽いものをパッと食べてサッと出ようと思い、ホットサンドとアイスコーヒーのセットを注文した。向こうじゃアイスコーヒーを注文する時はコールドコーヒーと言わないといけないのが地味に面倒だが、コーヒー味のアイスクリームを食わされるよりかはずっとマシだ。


 ホットサンドは4等分されており、ふわとろになった卵やソーセージまでついてくる。


 ――これ毎日食ったら絶対太るやつだ。


 これで値段は10ドル。高いのか安いのか分からん。


 ここでも10%程度のチップを払う。


 日本では馴染みのない習慣だが、外国の多くはチップの習慣がある。売り物に対してではなく、サービスの質への対価だ。サービスが悪かったら払わなくてもいいが、そうでないなら払うべきだ。僕も普段は客に商品を提供する側だし、気持ちはよく分かる。


 食事のプレートを持ち歩き、空席へと着いた。


 あぁ……美味い。このサクサクしたパン生地、とろけるチーズ、簡単に噛み切れる生ハム。これがアメリカの味なのか。ふわとろ卵とソーセージはまあまあかな。


「ねえねえ、あの子すっごく美味しそうに食べるよねー」

「うん、めっちゃ可愛いー。中国の子かな?」

「違うよ。あの女の子はアズサハヅキ、準決勝に進出したんだって」

「へぇ~、凄いねー」


 中国人でもないし、女の子でもない。日本生まれ日本育ちの男の子にして、高機能社会不適合者だ。


 完食した後、会場にある色んなブースを見て回った。


 新しいコーヒーも売られていた。飲んでみたいけど、それは大会が終わってからだ。あんまり飲みすぎると、またトイレに行きたくなってしまう。ここに来てからまだ1杯もスペシャルティコーヒーを飲んでいない。段々とうちの店で飲んでいたあの味が恋しくなってくる。


 これがホームシックというやつなのか?


 悩んでいてもしょうがない。時間になるまで会場にある各ブースを見て回ることにしたが、どのブースにも魅力的なコーヒーがあり、度々誘惑に負けそうになる。これじゃまるでお預けプレイだ。


 ああ、最愛の恋人よ。僕はずっと君のそばにいるというのに、君の香しいアロマとスイートな味を忘れてしまいそうなのが恐ろしい。早く君の味を思い出したい。こんなにもそばにいながら、僕にこんな寂しい思いをさせるなんて、本当に君は罪な女だ。


 目の前で売られているコーヒーを見ながら物欲しそうに顔を赤く染めた。


 惜しむように、ポエム帳に自らの気持ちを刻むのだった。


 午後1時45分、待ちくたびれた僕は司会者に呼ばれ、会場の競技者用スペースに集合する。


 ふう、やっと時間が来たか。ここまで僕を放置プレイした代償は高くつくぞ。いつも以上に元気が出ていた。原動力はもちろんコーヒーだ。


「それでは今から準決勝を行います。残った参加者は準備を始めてください」


 念入りにエスプレッソマシンの状態を確認する。状態は良好だ。グラインダーも問題はない。後は人事を尽くして天命を待つだけだ。


 午後2時、準決勝に挑むこととなった。店を潰さないためにも、ここは戦うしかないんだっ!


 のんびり生きることが許されるまではっ!

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