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社会不適合者が凄腕のバリスタになっていた件  作者: エスティ
第18章 包囲網編
436/500

436杯目「瀬戸際の潜入」

 8月下旬、中山道葉月が営業停止してから1ヵ月が経過する。


 他の店舗が中山道葉月を陥れている証拠は全く見つからない。


 葉月グループはオリエンタルモールから1ヵ月も閉店するだけの正当な理由を求められた。当初は鍛冶も納得してくれていたが、杉山社長に入れ知恵されたのか、バイトによるストライキだけでは物足りないと、先月までの態度を硬化させ、8月末までに証拠を提出しなければ、本部株20%のペナルティを受ける破目になった。オリエンタルモール本社まで赴いた美羽は、約束が違うと反論したが、ストライキの規則が設けられていないところを見て、ルールの穴を突いた葉月グループ側に非があるとした。


 どうにか8月末まで待ってもらえることとなった。バイトたちは変装して各地のエリアを訪問し、うちの経費でコーヒーを飲みながらスタッフに情報を探っている。好きでもない仕事のためにここまで頑張ってくれているこいつらにストライキをさせるなんて、璃子もなかなかえぐい手を思いつくよな。


 一方、那月は異なる競技でダブルファイナリストとなったことが話題を呼んだ。


 コーヒーファンだけでなく、スイーツファンをメジャー店舗に呼び寄せたばかりか、スイーツの色が強いマイナー店舗にも多くの観光客が訪れた。歴史的才能を持つ那月を育てたというだけで、これほどの権威を得られるとは思わなかった。莫大な利益を得たことで、葉月グループは更なる発言力を得た。次なる目標として、葉月グループからジャパンスペシャルティコーヒー協会の幹部を育て上げる計画が璃子から提案された。コーヒーイベントのルール改定に大きな影響力を持つことを目的としているが、今はどちらかと言えば、コーヒー協会の会長でもある、杉山社長への対抗馬を送るためと言っていい。


 優子に呼ばれ、美羽と珈琲菓子葉月へと赴いた。彼女の口から無尽蔵に愚痴が飛んでくる。


「はぁ~、一方的に約束を反故にして、本部株を引き出させるなんて、ホント汚い連中ね」

「それがあいつらだ。悪魔と契約を交わす時は、銃を突きつけて契約書にサインさせないとな」

「それより証拠はどうするの? このままだと本部株を持っていかれるよ」

「心配すんな。今のあいつらに吸収合併されることはない。那月のお陰で利益も得たし、プロ契約制度のお陰で快挙を成し遂げたことを世間にアピールできた。プロ契約制度反対派の連中も、これでしばらくは何も言えないはずだ。次の動きを見せる前に何とかしねえとな」

「他のお店が中山道葉月を陥れた証拠を手に入れるために営業停止したのに、その営業停止を餌に陥れられるなんてねー。でもどうしてバイトたちに証拠を集めさせてるの? 探偵に依頼すればいいのに」

「無理なんだよ。探偵に依頼してどうにかなるんだったら、今頃はとっくに杉山社長の悪事が露見して万事解決のはずだろ。つまり探偵に依頼した時点で、杉山グループにこっち動きが筒抜けってことだ」

「それってどういう……」

「あくまでも璃子の仮説だけど、探偵業を営んでいる奴らの中に、杉山グループの密偵がいる」

「密偵って、じゃあ、杉山グループが雇っている探偵がいるってこと?」

「そうとしか言いようがないってことだ。誰かが杉山グループの陰謀を解き明かしても、証拠を突きつける頃には、まるで魔法にかかったように、証拠が綺麗さっぱり消えてなくなる現象が後を絶たなかった。千尋の進退を懸けたコーヒーイベントの時、杉山社長がバリスタ競技会の結果を操作しようと、派遣社員に依頼した時の通話記録があった。でもあれは派遣社員が仕掛けた罠だった。わざと通話記録を残して、僕らの目の前で証拠として突きつけさせたんだ。こっちの譲歩を引き出すためにな」


 璃子は杉山グループの社員を入念に調査し、派遣社員の身元を突き止めた。


 派遣社員は一度行方を晦まし、再び杉山グループに正社員として入社した。こっちの味方として証拠を突きつけるふりをしていたが、最初から杉山社長の味方だった。最後まで味方でいたら正社員昇格の約束をしていたと考えれば説明がつく。派遣社員は伊織の説得に応じるふりをし、杉山社長は悔しがるふりをして僕らを油断させた。コーヒーイベントの後、腹を抱えながら笑っていたのが目に浮かぶ。


 すっかり騙された。僕らはずっと手の平の上で踊らされていたんだ。


「万が一企みがバレた時のために、証拠を作る側の人物を自分に忠実な人間に引き受けさせたわけだ」

「あず君が譲歩しなかったらどうなってたの?」

「その場合でも証拠を握ってるのは杉山グループ側の人間だし、派遣社員に証拠を提出すると言わせて僕らを安心させたところで通話記録を消して、派遣社員の行方を晦ませて僕に赤っ恥をかかせて……貸しを作るつもりだったんだ。あれは巧妙に仕掛けられた二重の罠だった。もし譲歩せずに踏み込んでいたら、吸収合併の矛先がこっちに向く口実を与えてしまうばかりか、名誉棄損で訴えられて、うちの評判まで下がるところだった」

「流石は元演劇部だねー」


 優子がケーキを乗せた白いトレイを持ちながら歩み寄ってくる。


 ケーキとコーヒーをテーブルに置くと、優子は僕の隣に腰かけた。


 注文したコーヒーケーキは期間限定のアンバーマウンテンを使ったケーキだ。品評会で満点を記録しただけあってスイーツの食材としても優れている。ただコーヒーとして使うだけでなく、様々な用途に利用する動きが顕著に表れている。マイナー店舗は実験店舗でもあり、あらゆる制度の実験台となっている。もし成果を上げることができれば、メジャー店舗でも採用が検討される。


 珈琲菓子葉月では満員防止法の一環として、満員時のみ来店から30分が経過する毎に、満員税として追加料金を徴収するイートクロックを試験的に採用し、満員でも客席サイクルが回りやすくなることが期待された。結果は目論見通り、満員時の混雑が解消された。


「君が言えたことか?」

「何それー、まるであたしが狡猾な人みたいじゃーん」

「自覚ねえのかよ。まっ、そういうところも気に入ってるけどな」

「「女たらし」」


 優子と美羽が同時に口遊む。妙なところで気が合うんだよなぁ~。


「元演劇部って?」

「杉山社長は大学時代まで演劇部だったの。人を笑わせながら……心底で人を笑っていた」


 さっきまで笑顔を見せていた優子の表情が一気に暗くなり、燃え上がるように目つきが鋭くなる。


 優子も独自に杉山グループを調べ上げ、役員たちの経歴まで調査しているようで、少しでも葉月グループに貢献できればと、健気な貢献を見せる優子に惚れ直しそうだ。


「なーんてね。てへっ」

「そろそろ帰るか」

「ちょっとー、これからが本番なのにぃ~」

「勿体ぶってないで早く言え。今は1秒でも惜しい」

「杉山社長の出身県って知ってる?」

「知らねえよ。それが重要な情報か?」

「昔っから人に興味がないところは全然変わらないね。杉山社長は神奈川県川崎市の生まれなの。思い入れがあるかどうかは分からないけど、杉山珈琲として最初に建てた支店が川崎市にあるの。そこの近くに本社を構えている社長と凄く仲が良くてね、お互いの弱みを握り合ってるって言われてるの」

「何でそこまで分かるわけ?」

「だってそこの社長と話している時、凄く機嫌が良いって専らの噂なの」


 言いたいのはそれだけかよ。出身地を知ったところで大したヒントには……。


 ――ちょっと待てよ。確か南東エリアの店舗にそれっぽいのがあったような。


 スマホを取り出してバリスタランドの店舗を調べた。中山道葉月は未だ閉店中、検索サイトでもそのことは載っているようで、売り上げなんて全くない状況だ。最初こそ売り上げランキング上位を維持していたが、遂に最下位に落ちた。もちろん閉店も璃子の提案だが、一体何を考えてるんだ?


 このままじゃこっちが不利どころか、確実にワースト5位に入っちまう。


「ちょっとバリスタランドに行ってくる」

「えっ、何で?」

「いってらっしゃーい。良い報告待ってるよー」

「優子さん、放っておいていいんですか?」

「いいのいいの。ああいう時のあず君は頼もしいから」

「……ですね」


 バリスタランドに入ると、真っ先に南東エリアへと向かった。


 中山道葉月には誰もいない。閉まってからも定期的に清掃員が掃除した跡がある。合鍵を使って中に入ると、事務室の床下点検口に手を伸ばし、取っ手を持つ指に重みを感じながら持ち上げ、入っていた木箱を取り出した。木箱には雁来木染変装セットが揃えられ、雁来木染に変装し、自分の服を木箱に詰めた。杉山社長の出身は神奈川県、つまり神奈川県代表店舗に何かあるってことか。


 特に仲の良い社長ってことは、杉山社長の右腕にあたる可能性が高い。


 珈琲屋川崎へと赴いた。以前バイトたちが赴いた時には何も聞き出せなかった。百美たちはこの店のスタッフと雑談をしたが、特に何も聞き出せなかったばかりか、中山道葉月のバイトであることがバレてしまい、店から追い出されてしまったという。スパイラルスパイ作戦がこうも容易く破れるとは思わなかったが、かなり頭の切れるスタッフが店内にいることは間違いない。


 マスターの海野さんが出迎えてくれた。


「いらっしゃいませー」

「お勧めのセットとかある?」

「豚肉の味噌漬けセットがお勧めです。今ならプラス300円でシグネチャーもついてきます」

「じゃあそれでお願い」

「畏まりました」


 接客は至って丁寧だし、とても追い出されたとは思えない。


 豚肉の味噌漬けセットが届き、早速口に頬張った。味噌漬けにしてるだけあってしっかりと塩の味がするし、シグネチャーは塩辛いこの豚肉と相性が良い。高級食材ではないが、安い食材で作った高級料理のように見え、このギャップが客に好印象を与えている。


 神崎に理由を尋ねた。百美がトイレと間違えてバックヤードに行ってしまい、廊下で見つかってしまったばかりか必要以上に叱られ、正体までもがばれてしまった。トイレとバックヤードが近い場所に設置されていたためのミスだった。中山道葉月のスパイを疑われ、次に雇ってもらう店を探している最中だと嘘を吐いたが、警戒心を剥き出しにさせてしまった。


 雑談程度で秘密を吐いてくれるはずもないし、寄りによってこの店かよ。


 できれば酔わせて情報を引き出そうと思ったが、アルコールを含むメニューが存在しない。


 ここに重大なヒントがあるってことが分かったのに、どうやって侵入すれば――。


「どうしました?」

「何でもない。ちょっと人が少ないなって思ったの」

「あー、少し前から南東エリアの店舗が中山道葉月を陥れたっていう噂が出始めて、南東エリアの店舗にお客さんが寄りつかなくなってしまったんです。しかも中山道葉月は閉店していて、お店にいたバイトたちが次の職場を探し始めているみたいなんです」

「ふーん。今度友達を連れてこようと思うんだけど、このお店って、何時までやってるの?」

「えっと、午前8時から午後4時までの営業です。4時以降はみんなアトラクションスタッフとしてあの建物で勤務するんですよ」

「じゃあもうすぐお店閉めちゃうんだ。掃除はしないの?」

「そうですね。夜中に()()()が掃除してくれますから」


 海野さんが説明を終えると、湖中さんが別の客からの注文を受けた。


 どの店のスタッフも去年のバリスタ競技会に参加している。湖中さんも非正規雇用でありながらコーヒーイベントで奮闘したが、結局準決勝で敗れた。シグネチャードリンクは完成までに経費がかかる。企業に雇われているのであれば、正社員として会社からのサポートを受けなければ、予選突破はできても準決勝以降は厳しい。才能があるのにプロ契約制度の恩恵を受けられないがために、経費の差が露骨に表れる準決勝止まりとなっている。しかし、杉山グループの味方をするのであれば、プロ契約制度による経費のサポートを断らなければならない。


 噂の発祥は珈琲屋川崎だ。ならばこの店のどこかに証拠があるはず。


 誰もいない時にここに侵入するのは無理だ。


 ――ん? そういえばさっき、夜中に清掃員が入るって言ってたな。


 中山道葉月も清掃は最低限しかやらない。夜勤でやってくる清掃員の仕事を奪うからだ。


 そうか、その手があったか。何でもっと早く気づかなかったんだ。


 食事を済ませて帰路に就く。早速バリスタランドの夜間清掃員の応募を璃子に依頼する。


 雁来木染用の履歴書を印刷して応募するわけだが、清掃員って意外と時給高いんだな。


 バリスタランドの仕事で最も給料が高いのは清掃員だ。コーヒーファンにとっては夢の舞台。そこでわざわざ清掃員として働きたがる者は少ない。特にトイレ掃除の仕事は人気がなく、常時募集中のようだ。ここに大きな抜け穴があると、僕の勘が教えている。海野さんは時折バックヤードに出入りしていたが、出入りの頻度が比較的多かった。まるで何かを守っているような気がした。


 葉月ショコラへと赴き、今までの事情を説明する――。


「何の用かと思えば、そういうことだったんだ」

「悪くねえだろ。雁来木染はバリスタランドの清掃員として働く」

「それはいいけど、清掃員は上司から指示されて、ちゃんとこなせなかったら怒られる仕事だよ」

「……誰かに雇われる経験なんて、絶対しないと思ってた。でも証拠が見つからなかったら、本部株を取られちまうからな。証拠さえ見つかれば、この窮地を抜け出せるんだろ?」

「うん。むしろ追い詰められるかも。邪魔さえなかったら、バリスタランドで売り上げランキング1位を取るくらい、お兄ちゃんならできると思ってたけど、本当に邪魔をされるとはね」

「勝つためなら手段を択ばない連中だからな」

「珈琲屋川崎に何かあるのは分かったんだね。じゃあ雁来木染ちゃんは極度のコミュ障だから、面接はなしという方向でお願いしておくね」

「そんなことできるの?」

「既に潜入している清掃員からの紹介で入社させる。期限は8月末まで。それまでに杉山グループがうちを陥れた証拠を見つけてきて。お兄ちゃんならできる」


 ほんの一瞬だけ、璃子の姿がかつての僕と重なった。


 コクリと頷き、大船に乗ったつもりで帰宅する。


 ――人に励まされるって、こんなにも背中を押してもらえるものなんだな。


 翌日、璃子を通して応募を済ませた。早速来週から来てほしいとのこと。


 特に面接があるわけでもなく、最低賃金の条件で受かったはいいが、それでも時給1775円か。


 犯罪歴を隠し持つ人も少なくないという。前科持ちがいるってことは、様々な要因で人を雇いにくい職場、もしくは雇う人を選べない職場だ。ある意味では中山道葉月と似ているが、意外にも事件や諍いが起きたことはなく、再犯率を下げる役割を人知れず担っているとのこと。夜間清掃員のシフトは2つあり、閉園時間の午後8時から午前2時までの閉園後時間、もしくは午前2時から午前8時までの開園前時間。閉園後時間終了時には電車もバスもないが、バリスタランド内に建っているスタッフホテルで泊まることができる。目立たない場所にあるが出入りも多く、遠くからやってきたマスターやバイトも泊まっているのだ。地元の人間ばかりではない。あそこは全国の縮図だ。


 都道府県の格差が如実に表れているし、大都市ほど中央エリアで多く稼いでいる。


 アマチュアチームの売り上げも首位を独走している。


 杉山社長は首位と最下位という条件を見てから、喜んで最下位契約の賭けに乗った。


 ――まさか璃子の奴……わざと中山道葉月の売り上げを最下位に落とすことで、杉山社長を油断させ、有利な条件で賭けに誘い込んでいたのか?


「唯、璃子が中山道葉月を閉店したのって……」

「やっと気づいたんですね」

「でもさー、何もここまでしなくてもいいんじゃねえか?」

「相手は経済界きっての勝負師ですよ。こうでもしないと尻尾を出さないと思ったんでしょうね。あず君も本気みたいですけど、璃子さんも本気で葉月グループを勝たせようとしてるんです。潜入役にあず君を選ぶなんて、相当信頼していないとできないことですよ」

「……そうだな」


 思わず顔がにやついてしまった。信頼されたからには、結果で応えないとな。


 唯が言うには、僕と全く同じことを璃子も考えていたようで、当初は唯を送り込む予定だった。唯ならどこにいても問題なく馴染めるし、清掃作業にも慣れている。コーヒー業界からも忘れられつつあるし、苗字が違うことで疑われる危険性もない。偽名を使って変装する必要はあるが、これも元子役の唯にはピッタリだ。演じることにおいて、唯の右に出る者はそうそういない。


 そんな唯を差し置いて潜入するんだ。


 葉月グループのために活躍したかったと目が言っている。


 悪いな、ここは僕にやらせてくれ。


 偶然にも同じ作戦を思いついたことが決め手になったと璃子は言った。考えることが同じなら、必ず期待に応えられると考えていても不思議ではない。それにしても清掃員か。今までに多くのバイトを見てきたが、ここはまだ未知数だ。ましてや自分の家ですらない場所で掃除なんて、もう一生しないものだとばかり思っていた。掃除は学生の時以来、自分の家以外でしたことはないし、やらされで過ごすことほど無為なことはない。葉月グループを陥れた証拠を見つけるまでは決して諦めない。


 とはいえ来週から勤務し始めたとして、残り数日の間に証拠を見つけるなんて、広大な砂漠の中から1粒の宝石を見つけるに等しい確率だ。あいつらも簡単には見つからない場所に証拠を隠してるだろうし、葉月グループを陥れるためというよりは、包囲網を形成するための何かがあるはずと璃子は言った。杉山社長の生まれ故郷に住む社長の話も気になるし、いずれにせよ、清掃員の仕事に慣れることから始めるしかあるまい。アルバイトの仕事が給料の割に大変であることは何となく分かる。


「本当に私が行かなくても大丈夫ですか?」

「心配すんな。唯は子供たちの面倒を見て、伊織たちを見守る役目があるだろ」

「あず君だとすぐばれそうで心配です」

「雁来木染だって全然ばれてないから大丈夫だ。それよりも心配なのは――」

「証拠がどこにあるかですよね。隠す側の立場で考えれば、何か分かるんじゃないですか」


 余裕の笑みを浮かべながら唯が言った。


 この瀬戸際の状況で、いつもの自分をここまで保てるのか。


 敵からすれば、僕よりも璃子や唯の方が恐ろしいのかもしれん。璃子が戦略を練っていることは僕を含めて僅かな人しか知らない。言わば敵の知らないジョーカーだ。人前では寛大な姿勢を見せるが、油断すれば一転して有利な条件での講和を求めるあたり、流石は過酷な学校生活を無傷で生き延びただけのことはある。璃子には一生勝てそうにないな。


 明日への不安を忘れようと、この日はすぐ就寝するのだった。

読んでいただきありがとうございます。

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