424杯目「訳ありの料理番」
翌日、5月を迎えると、僕を取り巻く運命の歯車が急速に動き始めた。
バリスタランドは運命の月を迎え、雇われているスタッフたちは天国をひっくり返されたかのように多忙化していった。カフェとアトラクションを同時にこなす二正面の戦争が遂に幕を開けたのだ。
中央エリアはオープン当初から常時繁盛期だが、投資している分、専属のアトラクションスタッフに助けてもらえるおまけつきだ。中山道葉月は周囲の店舗からマークされ、足を引っ張られる格好となった。値段を下げられてしまえば、客が来ないのは必至。
相手もリスクを取っている分、営業妨害で訴えられないのが厄介だ。
しかしながら、不可解な点がある。何故売り上げランキングワースト5位になるリスクを取ってまで、うちの邪魔をするのか、一度調べてみる必要があるな。本来こういう妨害工作を防ぐためのルールでもあるはずだが、杉山グループの手下と考えれば説明がつく。まずはこの状況を把握しないと。
「ええ~っ! 店の営業時間を短縮する~っ!? んなアホなー!」
「仕方ねえだろ。今日から神崎はカフェの管轄で、成美はアトラクションの管轄だ。午前は全休にして、料理もドリンクメニューも全部昼以降だ。余裕がない時は客席制限をしてもいい」
「――もしかして、そのためにマスターを2人にしたの?」
「その通り。マスターを複数人雇っちゃいけないというルールは存在しない。できることなら全員をマスターにしたかったけど、それだといちゃもんをつけられる可能性があると思って、オリエンタルモールの役員と話し合った結果、マスターは2人まで認めてもらえることになった」
かつてローマ帝国では、北と東の両側から攻撃を受けることがあったが、共同皇帝を確立することで、二正面の戦争に対応できるようになった功績がある。誰かがカフェの営業をしている間、もう1人がアトラクションを担当する必要があったのだ。どちらかが中途半端になる店舗が後を絶たないが、マスターが2人いれば、どちらに対しても問題なく機能する。情報共有を徹底し、必要があれば足りない方に増援を送る。午前からの出勤は廃止し、正午からの勤務に専念してもらい、一緒に働く時間を増やす。
営業時間が長いと、どうしても時間当たりの利益が下がってしまうし、大幅に上がった人件費が重く伸し掛かってしまう。そこで考えたのが短縮営業だ。葉月珈琲も創業以来、ずっと短い時間にサクッと利益を稼ぐ方針を貫いてきた。結果的にうまくいったし、どの道他の店が値下げという名の営業妨害をしてくるのだ。客をうちに惹きつけるには値下げ勝負ではなく、アトラクションを利用した知名度向上に努めるべきだ。せっかく戦いの舞台を2つも用意してくれたんだ。ここで一気に稼がない手はない。
コーヒーイベントによる優勝回数勝負だけかと思いきや、こんな方法でうちの本部株を狙いにくるとは思わなかったが、アマチュアチームはそこまで信用されていないようだ。バリスタランドの売り上げランキング勝負は負けても、杉山グループ傘下の株を失うだけで済む。アフターケアも万全だ。
優勝回数勝負で決着がつくよりも先に葉月グループを乗っ取ってしまえば、優勝回数勝負で勝つ必要がなくなるわけだが、勝負を焦っているようにも思える。まるで一刻も早く勝負を決めたい姿勢が窺える。葉月グループはノウハウを積み上げるのが非常にうまい。
時間が経てば経つほどこっちが有利になることは既に筒抜けのようだが、アマチュアチームを起用したのも甚だ疑問だ。千尋たちは打倒アマチュアチームのために躍起になってるし、プロが本気を出せば勝てるはずだが、アマチュアチームの自信は、一体どこからくるのだろうか。
まるで勝利を確信しているかのような――。
「でも客は全然こーへんで。客席制限なんてする意味あるんか?」
「これからたくさん呼ぶ。バイトは全員正午からの勤務にしたか?」
「とりあえず全員正午からのシフトにしといたけど、てっきり俺と成美さんの2人だけで、午前中を凌ぐもんやとばかり思ってたわ。でもホンマにそんなんでええんか?」
「構わん。よくやってくれた。午前中はほとんど人が来なかっただろ。どの道来ないんだったら店を開いていても意味がない。午前12時から午後8時までの時間帯で勝負する。平日の学生バイトは夕方以降にしか来れない。それに午前中は料理番が眠たそうにしてるからな」
クローズキッチンの方へと顔を向けると、神崎も成美も同じ方向に顔を向けた。
予てから実莉は1つ大きな問題を抱えていた。前職の影響なのか、習慣レベルの夜行性なのだ。
夜遅くまでホステスとして勤めていた体は午前に強く午後に弱い。ホステスを辞めたとはいえ、一度染みついた生活習慣はそう簡単には直らない。身寄りはなく、残された家族は実莉のみ。兼業していることは履歴書で判明しているが、どうやら夜の仕事自体は続けているらしい。夜は自宅をリフォームしたスナックを営んでいるようで、深夜営業ができないクラブとは異なり、日を跨いでも人と話せる場所を選んだ理由が手に取るように分かる。彼女は昔の輝かしい自分を忘れられないのだ。
中山道葉月での化粧はやめさせたが、本人は納得がいかないらしい。アラフォー世代の女性は大変だ。女性は年を取れば取るほど不利になる。若い内はちやほやされるが、男性は脂が乗った女性には魅力を感じないことが多く、何なら女性の方から遠ざけてしまう。多くの場合、女性は自身の収入以下の男性に魅力を感じない。そんな状態のままアラフォーを迎え、慌てて婚活市場に名乗りを上げても、ほとんどは手遅れだ。実莉も例に漏れず、婚活に失敗していることを成美を通して知った。
今日は少し遅い時間からみんなに来てもらったが、これで少しはマシになったと思いたい。
クローズキッチンを覗いてみると、実莉は休憩と言わんばかりに椅子に腰かけ、自分で淹れたドリップコーヒーを飲み干し、強く目を瞑りながら喉を潤した。
「目は覚めたか?」
「あず君……今日も完全監修なの?」
「まあそんなとこだ。昨日も派手にスナックの仕事をやってたみたいだな」
「何で分かるの?」
「……酒臭いから」
「えっ!? そんなに臭う?」
慌てて自らの口を手で覆いながら息を吐く実莉。
「僕は人よりも味覚と嗅覚が鋭いからさ、飲んでる奴はすぐ分かる。今日から忙しくなるんだ。二日酔いになる前に酒は控えてくれ。それと強い香水は化粧と同じく、料理の味を変えてしまうからやめてくれ。こっちは時給3000円も出してるんだからな」
「分かった。あず君は過干渉だなー」
「仕事は楽しいか?」
「夜の方はね。ていうか昼からの業務になってくれたのホント助かるー」
「午前中は好きなだけおねんねしてていいけど、午後の業務にだけは支障をきたすなよ」
「はいはい」
めんどくさそうに言葉を返す実莉。
拍子抜けだな。僕より年上だってのに、どこか子供っぽいんだよなー。
料理の腕は確かだ。どのメニューにも外れはないが、一度習得すればそうそう不味くならない料理ばかりなところに無自覚な手抜きを見た。しばらくは泳がせておきたいが、そういうわけにもいかない。料理以外のパフォーマンスは決して高いとは言えない。うちはハラスメントこそ極限までなくす方向に尽力しているが、常に最高の仕事を社員に求めるため、やはり辛抱強さが必要なのだ。
飯を食えない大人には務まらない仕事だ。
「あず君、おはようございます」
笑顔を振り撒きながら声をかけてくる真凜。
「真凜、アトラクションの方は頼むぞ」
「はい。任せてください」
「でも今日は雨だよ。お客さん少なくなるだろうね」
「運が良かったです。その分負担も減るので、忙しくならないですね」
「――真凜ちゃん、なんか昨日までと全然違うね」
「えー、そうですかー。気のせいだと思いますよー」
「ふ~ん」
実莉は無関心な顔を後ろに向けると、すぐに仕込みを始めた。
「真凜、『3Dラテアートゲーム』はどうだ?」
「はい、順調ですよ。でもよく思いつきましたねー」
「WTDが終わってから、ずっと空前絶後の3Dラテアートブームになってただろ」
「あー、確かあず君たちが優勝を決めてから流行ってますねー」
「流行の発端になったのは葉月グループだ。つまりうちが3Dラテアートをやれば、流行ること間違いなしだ。今週はメジャー店舗のバリスタを日替わりで連れてくる。これからどんどん人が押し寄せてくる。他のバイトと協力して、うちに引き込んでくれ」
「はいっ!」
真凜が返事をしながら店の外に出た。
アトラクションの大半は屋内で行われる。
雨天決行が可能ではあるが、客が少なくなるのは助かる。真凜にしては良い着眼点だ。運が良いと思えるようになれば、自ずと運の良い方向性を見出そうとするもので、これは葉月珈琲塾でも実践していることだ。一見良くないことからも学べることを実践するだけでも社会への味方が変わってくる。
悪い奴に出会った時、こいつは自分の評判を下げてまで、反面教師になってくれているんだと思えるかどうかの差は非常に大きい。生きてるだけで丸儲けと思えるようになれば、自ずと主体性も育つし、自信が持てるようになってくる。育てるのではない。放っておいても育つ人間にするのが教育だ。
3Dラテアートゲームは至って簡単なアトラクションだ。
モニターに表示されている動画で3Dラテアートの作成方法を学んでもらった後、実際に3Dラテアートを客に描かせ、終わった後は参加賞として中山道葉月の『セットメニュー割引券』をプレゼントする。もちろん何周してもいい。物価の安い商品しか使えない以上、原価なんて知れている。セットメニュー限定にすることで、単品からセットに注文を誘導できるし、トータルで見ればプラスだ。フードメニューの注文も増える。料理番の負担も大きくなるってのに、商売繁盛の鍵を握る人があの体たらくじゃ、売り上げランキングトップどころか、最下位争いですらある。
実莉の料理は単純なものかと思えば、アイデアに富んだものだった。
1つ不可解な点がある。彼女はナンバーワンホステスとは思えないほど料理の腕が立つし、賄いでさえ舌が唸るほどだ。あれは長い間修行でもしていないと身につかない。接待の合間に腕を磨いていたと考えれば説明がつかなくもないが、本来クラブにおける料理はホステスの仕事ではないはずだ。
男の客に口を開けさせて食わせることはあっても、自分で作るのは不自然だ。
「そういえば今日のメジャー店舗スタッフは誰なんや?」
「もちろん、最初の1人はWTD優勝に貢献してくれた桃花だ。今日アトラクション用の見物に呼んでるし、来週には凜を連れてくる」
「ということは出張やな。伊織ちゃんが来る場合は誰をマスター代理にするんや?」
「千尋だ。将来どうするかは知らねえけど、独立するってんなら、マスターの仕事くらいできねえとな」
「あー、あの美少女みたいな男の子やろ。強化合宿で1番頑張ってたわ。アマチュアチームを倒すために躍起になってたなー。今度のコーヒーイベントも期待できるんちゃうか」
「……だといいがな」
僕の心配を他所に、段々と日が暮れてくる。
千尋は自力で練習ができるため、特に神崎と話すこともなかった。
午後3時、早速効果が表れた。WTDチャンピオンの1人である桃花を一目見ようと多くの人がアトラクションに押し寄せ、長蛇の列を作った。桃花は戸惑いを見せるどころか、1人1人のコーヒーファンと正面から向き合い、堂々とサインや握手に応じていた。大会が終わり、葉月珈琲で働くようになってからは、トップバリスタとしての自覚を持つようになった。
将来はワールドコーヒーイベントでも活躍が予想されるが、優勝すれば来年には強化合宿から抜けてしまうだろう。建前上は未熟なバリスタの底上げだし、結果を出せばいつうちを抜けて独立しても良いことになっている。トップバリスタを輩出すればするほど、うちの戦力が削れていくのは皮肉なもんだ。
中山道葉月は桃花のお陰で大繁盛した。
あくまでもバイトたちへの完全監修という名目であるため、直接雇われて働いているわけではないためセーフである。一時的な流行りで終わらなければいいが、特に売れ行きが良かったのはフードメニューだった。やはり存在を知ってもらわなければ、いくら良い商品があっても意味がない。
午後8時、営業は無事に終わったが、クローズキッチンは皿とコップの山で荒れている。学生組はたった4時間の営業とはいえ、カフェとアトラクションを行き来しながらの仕事は極度の疲労を呼び、杖を突きかねないほどの足で、歩くのもやっとだ。ちょっと働かせすぎた気もするが、もし彼女たちが今まで通りの生き方に戻るようなことがあれば、これ以上に辛い人生が待っている。
「ふぅ~、疲れたぁ~」
「悪かったな。ここまで無茶をさせて」
「全くだよ。マスターも血を吐きそうなくらいきびきび動いてたし、あんなに忙しいんだったら時給5000円は欲しいかな。これじゃ夜の仕事中に寝ちゃいそう。ふわぁ~」
天井に向かって腕を伸ばし、疲れを全身で訴えてくる。
「でも……あず君が完全監修をするようになってから、同僚たちの雰囲気が段々変わってる気がする」
「雰囲気?」
「うん。仕事に対する認識が変わったというか、勤め始めの頃と全然違う。どんな魔法をかけたのかな」
「特別なことは何もしてねえよ。社会の理を教えてやっただけだ」
「社会の理?」
「資本主義社会は形を変えた戦争だ。負ければ血の代わりに涙を流すことになる。僕はただ、あいつらに社会で戦える大人になってほしいってことを伝えただけだ」
「……あず君、この後空いてる?」
「空いてる……けど」
魔性の笑みを浮かべる実莉は戸締りを済ませ、僕と一緒にバリスタランドを出た。
爪の色を気にしながらマニキュアを塗る姿からは、勝負を懸けた女の覚悟がうかがえる。
古びた看板には『スナック大奥』と小さく書かれている。営業時間は午後10時から日を跨いだ午前6時までのようで、扉に手をかけて中に入ると、中には誰もいない。
「今日は誰も来ないから安心してくれていいよ。毎週水曜日はお休みなの。上がっていって」
「意外と良い店じゃん」
「失礼しちゃう。意外なんて言われるの意外。これでもあたしの自慢の店なんだけど。何か食べてく?」
「じゃあオムライスを頼もうかな」
「分かった。ちょっと待ってて」
着替えを済ませると、早速キッチンで調理を始める。
中山道葉月にいる時とは異なり、真っ赤に染まったレースの服を着た実莉が堂々とした姿を見せた。
暖簾のない厨房に引っ込んだ実莉の後姿が見える。動きには一切の無駄がなく、厨房の隅から隅まで知り尽くしている。独立してからずっと料理を作ってきた僕には分かる。
カウンターテーブルに黙って置かれたのは、とろみのある茶色いソースがかけられたオムライスは噴火した火山のようで、ずっと見ていたくなると思いながらも、スプーンを手に取り、規則正しく山を崩し、米とソースを絡めていく。口に入れた瞬間、あらゆる旨味が凝縮されているのを舌で感じた。
「デミグラスソースで良かったよね?」
「ああ。やっぱこの味なんだよなー」
「本来なら料金取るところだけど、代わりにあたしの話を聞いてくれない?」
「それはいいけど、どうかしたのか?」
「……あんたに1つ謝りたいことがあるの」
横顔を見せながら後ろめたさを露わにすると、右手で左肘を庇うように添えた。
「実はあたし――」
「ナンバーワンホステスじゃなかったんだろ?」
「……バレてたんだ」
実莉は全てを悟ったように腰を下ろす。
「長年ナンバーワンだったら、美容と接客に時間を割いているはずだ。でも君の接客はナンバーワンホステスとは言えない。配膳する人が他にいない時、君は今みたいに黙ったまま雑に料理を置いていた」
「ホステスだったのは本当だよ。でもナンバーワンには一度もなれなかったの。人前に出ると、どうしても緊張しちゃって、途中からはクラブの料理人がメインの仕事になって、料理の腕は上がれども、後輩たちに追い越されていくのが耐えられなくなって、4年前から地元に戻ってスナックを始めたの。同僚たちに元々何をやってたのかを尊敬の眼差しで聞かれて、咄嗟に嘘を吐いてしまったの。そしたら一部のお客さんにまで知られちゃって、戻るに戻れなくなって……もうクローズキッチンから出られないかも」
「それだけじゃねえよな。履歴書にも料理の腕前が売りのナンバーワンホステスって書いてたし」
「ごめんなさい……そうとでも書かないと雇ってもらえないと思ったの。葉月グループは新卒採用がない代わりに、今までの実績を重視するって聞いたし、やり直すとしたら、もうここしかないって……」
「なるほど。だったらさ、本気でナンバーワンコックを目指せばいいじゃん」
「えっ……」
「ずっとクラブで料理していただけあって、料理の腕前は群を抜いている。鍛え上げれば世界にも通用する凄腕の料理人も夢じゃない。賄い飯も全部メニュー化してほしいくらいだ」
実莉の怠惰な労働とは、短所で勝負していたことだ。
社会は自分の長所で勝負してなんぼ。短所を克服して褒められるのは学生までだ。
容姿端麗というだけで、成り行きでホステスになってしまったが、コミュ障なのは致命的だ。短所を抱えたままでは最低限の仕事もできない。さっきからずっと顔を背けてるし、コミュ力もないままスナックの店長を務めてるってことは、恐らく客は身内ばかり。看板が小さいし、人気のない場所に建ってるし、既に見知っている人じゃないと、来店なんてほぼないと言っていい。
身内だけで回す仕事なんていくらでもあるが、自営業だけでは限界がある。
「それじゃあ――」
「但し、経歴詐称並びに接客スキルの不足を隠して葉月グループを欺いたんだ。罰は受けてもらう」
「そんなっ! クビだけは勘弁して! この頃不景気でお客さんが来てくれないの! この歳だから正規雇用での再就職も厳しいの……生活保護なんて受けたくない。あんな足手纏いの死人みたいな生活、絶対にしたくないっ! お願いっ! 何でもするから!」
跪きながら高い声を張り上げ、僕の服を皺ができるくらいに掴む。
「――誰がクビにすると言った」
「えっ……」
「噓吐きが償う方法は2つある。1つは嘘を吐いた相手に詫びること。もう1つは嘘を真実に塗り替えることだ。君は履歴書にこう書いた。料理のできるナンバーワンホステス。この文章を見る限りだと、料理の腕前がナンバーワンという解釈もできる。つまり君が大勢の客を呼び寄せるような本物のナンバーワンコックになれば、ギリギリだけど経歴詐称にはならないってことだ。人前に出るのが恥ずかしいなら出なくてもいい。午前中の営業はなくなったし、配膳もしなくていい」
「……ありがとう」
体を震わせながら啜り泣く実莉。その姿からは、最後まで人生を諦めたくない女の意地が窺えた。
「まっ、これに懲りたら、二度とつまんねえ嘘は吐くなよ」
「うん……」
翌日、実莉は同僚たちに謝罪し、夜の仕事もしばらくは休業するとのこと。
髪も自分で短くして、スッピンのままここで働くことに専念するようだ。
経歴詐称は良くないが、ここまでの覚悟を見せてくれたんだ。その誠意に免じて、最後のチャンスを与えるくらいは認めてやろうじゃねえの。
何でこうも……昔の僕によく似ている奴ばっかり集まるのかねー。うちのグループは。
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