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社会不適合者が凄腕のバリスタになっていた件  作者: エスティ
第17章 死闘編
407/500

407杯目「破局理論」

 頭より先に動いた僕の減らず口に、村雲は嫌悪とも言える目をこっちに向けている。


 鷹見は建物の壁に背中をもたれさせ、冷静に摩天楼を眺めながら、村雲の過去を話半分に聞いている。


 アマチュアチームの日本人は、いずれも穂岐山珈琲から将来有望と目されて入社した。ポテンシャルだけなら葉月珈琲のバリスタにも負けていない。しかも尻に火がついているのだ。死に物狂いで勝ちにくるのは当然だろう。去年は2人共皐月に負けているのだから。


「そのまんまの意味に決まってんだろ。大体隠居って言葉を使ってる時点で、君はのんびりって言葉の意味を履き違えてる。隠居したところで、今度は退屈との戦いだ。ただひたすらに暇な時間がずーっと続いていくし、そのことを気にも留めなくなったら、マジでボケまっしぐらだぞ。最近は投資からの早期リタイアがFIREなんて名前で流行ってるみたいだけど、それってただの思考停止なんだよな」

「……何が言いたい?」

「僕は経験あるから分かるけど、引きこもりは辛いぞ。引きこもりって楽なイメージあるけど、実際は退屈凌ぎのために過ごす毎日だ。色んな著名人たちの活躍を、ただ指を咥えて見ているしかないし、1日中パソコンに釘づけで、ロクに運動もしなくなったら末期だ。当然無趣味の人は耐えられない。僕も最初はそんな生き方に憧れてた。でも憧れは憧れでしかない。バリスタオリンピック優勝を決めた後、試しにそれをやろうとしたら、体が拒否反応を起こして、仕事を中心とした生活を変えられなかった。その時に気づいた。本当にやりたいことじゃなかったって。一度仕事を好きになると、下手に休むのが苦痛になる。君が労働をくだらないと思ってるのと同じくらい、僕にとってもFIREなんてくだらねえってことだ。君のように貧困暮らしをしてきた奴が大金を手にしたところで、贅沢したい欲望をコントロールできないのは自明の理だ。宝くじを当てた人の6割は破産しているという話もある。貧困者ほどマネーリテラシーが不足しているからな。君も例外じゃない。やめておいた方が身のためだぞ」


 仕事を愛せない奴に、仕事をする資格などない。仕事を愛するとは、プロ意識を持つことだ。


 会社員だって本来はプロじゃないといけない仕事だ。プロ意識のない者は仕事を愛せないし、同じ職場にいるプロ意識のある者に淘汰される。労働市場に出れば、必ず椅子取りゲームに参加させられるのだ。


 熱意のない仕事はロボットやAIに乗っ取られていく。同じ熱意がないなら、機械の方が優秀だ。


「勝手なこと言ってんじゃねえよ。あんたがバリスタの仕事をプロの仕事にしちまったせいで、普通にバリスタに仕事をしていたいだけの奴が、みんな失業しちまったんだぞ」

「僕は1つの職業をあるべき姿に戻しただけだ。それにバリスタの人口だって増えてる。それともバリスタが舞台背景でしかなかった時代に戻りたいのか?」

「よくそんなことが言えるよな。穂岐山珈琲はプロ契約制度のせいで衰退したってのに」

「まあでも、お陰で俺たちにはチャンスが舞い込んできたけどな」


 藍色と黒の水筒を左手に持ち、中の液体を口に流し込むように飲み干す鷹見。


 村雲とは対照的に終始冷静な顔だ。確か弟が皐月の同級生で、初対面の時点では、こいつも皐月のことを少なからず意識していることが見て取れる。何の因果があるのかを知っておきたい。


 プロ契約制度に反対する者たちの多くは、新しい制度だからというのが反対理由の他、ファイトマネーを賄賂として使うことができたり、気楽にバリスタの仕事がしたい人に支障が出るというものだが、どれも簡単に反論ができてしまう。ファイトマネーがあろうとなかろうと、賄賂を渡すような人はどの道何らかの方法で賄賂を渡すだろうし、気になるなら全部電子決済にすればいいのだ。うちは既に足がつく以外の方法でファイトマネーを渡すことを禁止しているし、プロバリスタの仕事がしたい人と、気楽にバリスタの仕事がしたい人は既に住み分けができている。バリスタですらない人までもが反対するのも滑稽だ。


 反対者はいずれもアマチュアチームを応援している。


 葉月グループ包囲網は……段々と出来上がりつつあった。


「あんたも何か事情があるの?」

「ないこともない。あんたには話しておく必要があるな。俺はマイケルに憧れてバリスタを始めた。大分のカフェで修業しながら毎年バリスタ競技会に挑んでいた。全国から集まったバリスタと交流を重ねて、お互いに相手の店に遊びに行くのが楽しみだった。でもあんたがプロ契約制度を普及させたせいで、プロを目指していないバリスタが職を失った。お前は俺と仲が良かったバリスタから、居場所を奪ったんだ」

「――もしかして、鷹見の知り合いはみんな大手の社員か?」

「ああ、そうだ……そうだったと言うべきなんだろうが、数年前から才能があるだけの奴が、次々とコーヒー業界に参入してきて、立花はプロを目指すようになった挙句、葉月グループに入っちまった。お陰で弟は引きこもりになっちまったんだよ。俺はお前を絶対に許さねえ」


 殺意の目を僕に向ける鷹見。何故恨まれているのかさっぱり分からん。


「何の話だ?」

「うるさいっ! 俺はお前みたいに、利益のためなら何でもする奴が気に食わねえんだよ!」


 突然感情を露わにしながらも、鷹見は険しい顔を崩そうともしない。


「うちの利益はコーヒー業界の利益だ。それに利益のことしか考えてないというなら、杉山社長の下で働く意味が分からないし、一生分の年金が懸かってる君も変わらないと思うけどな」

「一緒にするなっ! 俺は店を復興するために金が必要なんだよ。お前のせいで俺がいた店は潰れちまったんだからな。そんな時に穂岐山珈琲から誘いの声がかかった。マスターだった人が紹介してくれたお陰でな。杉山珈琲に鞍替えしてから、お前と立花の両方に復讐するチャンスに恵まれるとは思わなかった」

「なるほど、そういうことか」

「まっ、プロ契約制度が廃止されるまでの短い期間を精一杯生きるんだな」


 村雲と鷹見が警告を済ませると、2人は群衆の中へと消えていった。


 鷹見については皐月に聞いた方が良さそうだ。何やらとんでもない因縁に巻き込まれたらしい。


 プロ契約制度がバリスタの仕事に与えた影響は多大なものだった。あいつらの知り合いが職を失ったのは競争力が高まり、変化に適応できなかったからだ。プロ契約制度はきっかけの1つにすぎない。時代の変化に適応できない者は、遅かれ早かれ淘汰される。


 まさかあいつらの生活を破局させる理由になってしまうとは。


 栄える者あれば――滅ぶ者あり……か。


 だがそれで僕を恨むのはお門違いだぜ。


 数日後――。


 アマチュアチームの情報を璃子に話し、対策の参考にしてもらった。


 プロ契約制度の思わぬ落とし穴が発覚したし、ここをどうやって埋めるかが新たな課題だ。


 正当性を示すのも大事だが、何よりプロを目指す者と同じくらい、プロを目指さない者たちの生き方を尊重する必要がある。プロにならない時点で趣味の領域だ。趣味=仕事となりつつある世の中では、趣味でも仕事のように本気を出す者が後を絶たない。だがそれは気楽さを蔑ろにする行為ではなかろうかと、あいつらに問いかけられている気がする。プロの仕事と競争に参加しない自由を共存させるのはこれほど難しいのか。調べたところ、退職した者たちはバリスタを引退し、コーヒー業界を退いたとのこと。


 潰しが利くようにするための大卒じゃねえのかと言いたくなる。


 レールから外れたくらいで駄目になるようなら、潰しが利いているとはとても言えんな。


 数日後――。


 WTD(ワテッド)アジア予選を突破した僕は、葉月珈琲のクローズキッチンにいる。


 桃花と凜も一緒に3Dラテアートの作成に勤しんでいる。


 特に凜の二丁スプーン捌きは目を見張るものがあり、あっという間に立体的なラテアートが具現化されていき、ドラゴンにフェニックスといったファンタジーに出てくるモンスターが出来上がってしまった。その隣では桃花がコーヒーカップと睨めっこをしながら二丁スプーンを使い、凜ほどではないが、テーマとなる世界観を保ちつつも、立体的なモンスターが完成する。


 特に飲む予定のない3Dラテアートは完全なる見世物だ。


 スプーンの丸い部分をうまく使い、形を整えていく様は芸術の造形そのもの。


 伊織、千尋、那月、皐月までもが食い入るように魅了されている。


「あまりやっていないと聞いていたが、まるで精密機械のような出来栄えだな」

「まあな。ラテアートからはしばらく離れてたけど、手先の細かさなら誰にも負ける気がしない」

「総帥より職人の方が向いてるんじゃない?」

「千尋君、そういうこと言わないの」

「いいのいいの。実際その通りだし、総帥なんかよりずっと楽しいからな」

「総帥がそれを言ったらお終いだぞ」

「相変わらず真面目だな。練習はもっと気楽にやるもんだぞ」


 僕がそう言うと、皐月は軽く腕を組みながら目線を逸らした。


「時々あず君が分からなくなる。真剣にバリスタ競技会に挑んできたかと思えば、練習の時はとても楽しそうに時間を忘れて没頭する。どっちのあず君が本物だ?」

「どっちも本物に決まってんだろ。多角的側面ってやつだ。あっ、ちょっといいか?」

「ああ……?」


 疑問を隠せない皐月をバックヤードまで連れていくと、皐月はロッカーに背を預けた。


 千尋は不思議そうに皐月の後を追うが、伊織に服を掴まれ、あっさりと作業に戻された。


 接客面では皐月が群を抜いて人気が高い。ムスッとしたつり目を尖らせているが、客にはクールで知的な印象を与えているようで、時折見せる笑顔とのギャップが忘れられないと評判になっている。生真面目な性格ではあるが、それは献身的であることの裏返しでもある。


「皐月、鷹見のことで何か知っていたら教えてほしい」

「鷹見さんのことか、それはいいけど、何かあったのか?」

WTD(ワテッド)アジア予選で難波に行った時、アマチュアチームの連中に会った。その時鷹見が僕に恨みを持ってることを知って、正直戸惑ってる。鷹見が言うには、皐月がうちに入ってから弟が引き籠りになったって話なんだけどさ、何か心当たりないか?」

「……」


 皐月が一瞬目を細め、左手を右腕の肘に添えた。


 光沢を放つくらいにきめ細かな黒い姫カットを指で引っ掻くように手入れをする。髪はサラサラとしていて、全く指に引っ掛からない。ただ美人なだけじゃない。普段の生活態度が滲み出ている。


 こいつ結構モテるからなぁ~。恋愛とか全然興味なさそうだし、何なら仕事と結婚している状態の典型例と言っていい。2つの世界大会に向けた準備は想像を絶するもので、僕ですら経験がない。皐月は競技の練度を着実に上げているが、できれば邪魔はしたくない。でも何も分からないまま本戦を迎えるのはもっと嫌だ。もやもやしたままじゃ、桃花にも凜にも迷惑がかかる。


「その顔は事情ありだな。もし良ければ教えてくれ」

「……分かった。鷹見さんの弟が私の同級生だったことは知っているな?」

「ああ。もしかして振った?」

「いや、振ってすらいない。鷹見さんがいた大分の店は、立花家が一家揃って常連だった。それで私が中学を卒業するまでの間、バリスタを目指すために、定期的に葉月珈琲塾に通いながら、大分の店のお手伝いとして働いていた。そんな時、鷹見さんから鷹見とつき合ってみないかと催促された。でも私は興味がなかった。親父は所帯を持って一人前という考えを持っていてな。そこで婚約を免れるために、葉月グループがプロバリスタを募集している情報を手に入れて、葉月グループに入った。そしたら鷹見さんから、鷹見が引きこもりになったのはお前のせいだって言われた。事情を聞いてみれば、どうも私は鷹見の許嫁だったらしい。親父とお袋にも確認したから間違いない。私は地元名門校への進学を蹴って葉月グループに入った。大分から岐阜に引っ越して、メジャー店舗からスタートさせてもらえて、バリスタ甲子園でも優勝できた。弥生と一緒になれたのも嬉しかった」


 拳に力を入れながら細かく説明する皐月。


 いつの間にか、鷹見の話から、皐月の自慢話に内容がすり替わっている。


 どうやら『長男』の方は気にしているが、『次男』の方は気にも留めていないらしい。


 必要な情報は得た。鷹見は皐月が葉月グループを選び、岐阜に引っ越したことで振られたと勘違いしているのはよく分かった。許嫁とは言っても、親同士が勝手に約束していただけで、当の本人は何も知らないんじゃどうしようもない。既に後継者はいるはずだが、娘の結婚は気になるらしい。


「立花グループの後を継ぐわけじゃないのに、何で許嫁だったわけ?」

「うちには独りで老いるなという家訓がある。だから後を継がなくても、結婚だけはしておけと何度も言われていた。私は結婚なんてする気はない。多分、苗字を変えることになるからな」

「立花家の一員として誇りを持ってるんだな」

「ああ。私はずっと――立花皐月でいたい。いつか結婚する人にも苗字を変えないでほしい」

「独りで老いるな……か」


 かつて世界一貧しい大統領と言われた人が言っていた言葉だ。年を取るのはあっという間で、自分1人だけじゃ生活が成り立たなくなる時がやって来る。その時の孤独ほど身に応えるものはないと言いたげだった。ぼっちで結構なんて抜かしている内は、本当のぼっちを知らないのかもしれない。


 孤独死が珍しくなくなってきた現代日本への警告にも聞こえる。窮地に陥っても誰も助けてくれない行き過ぎた自己責任論が支配する社会の象徴だ。自己責任が口癖の連中は、悲惨な孤独死を迎えても一切文句は言わないのだろうか。自然死と言ってしまえばそれまでだが、何故だか頭に引っ掛かるものがある。


 鷹見が僕と皐月を恨んでいることを話した。だが皐月は驚くほど冷静だった。


「鷹見兄弟は昔っから意気地がない。鷹見さんがバリスタになったのは、マイケルに憧れているのもあったが、性格を考えれば、何よりコーヒー業界の躍進を見て、バリスタを選んだのが大きいだろう。鷹見兄弟の親は安定志向の人間で、将来は地方公務員か大手正社員が口癖だったくらいだ」

「なるほど、コーヒー業界が安定した成長を見せていることを考えると、バリスタの選択は当然か」

「済まないが、鷹見が引きこもりになった経緯までは分からない。今度鷹見さんに会った時に聞こう」

「そっか……仕事中に悪かったな」

「いや、いいんだ。私からも1つ聞きたいんだが、あず君が葉月珈琲塾を始めたのは何故だ?」


 皐月が真剣な眼差しを僕に向けたまま、唐突な疑問をぶつけた。


「――僕がまだ19歳くらいの時だったかな。大阪に住んでいた身内の1人に誘われて、そいつが通っていた就労支援施設を訪問したことがあってな。騙されたと思って入ってみれば、そこでごっそり飯を食えなさそうな連中の山を見て腰が抜けた。特徴は優しい、真面目、大人しいの三本柱で、言われたことはできるけど、やりたいことが言えなくて、あからさまに覇気がなくて、モテそうにない感じ。そういう奴が山ほどいるわけ。わざわざ過去を聞かなくても、そいつらの言動が全てを物語っていたというか、まともな人事だったら絶対雇わないような連中だ。僕はそいつらのことを魂と知性の抜け殻と呼んでる。何というか……生命力の対極に位置する存在って言えば分かりやすいかな」

「何となく想像はつく。それは教育が原因なのか?」

「その通り。ニートは甘えって言われてるけど、実際は違う。あれは紛れもなく教育の成果だ。教育の専門家に知り合いがいるんだけどさ、この国は社会で通用しない人間を量産してるって言ってた。施設の連中は何を聞いても自分の意見をロクに言わない。意見してはいけないと教えられている影響だ。自分で意思決定する機会がないために、自己判断で解決しないといけない場面で詰んでしまう。社会に出たらそんな場面がたくさん待ってるってのに、そいつらは社会に出ることを想定した訓練が施されていなかった。特に多かったのが長子長男で、親からの過干渉を最も受けやすいために潰されやすい。学校は上の命令に黙って従うことしか教えない。だから通えば通うほど、自分の頭で考えなくなっていく。従うことしか能がない人間に責任なんて取れない。あいつらの責任能力は小学生並だ。そんな連中が、自己責任とか言われても響かないのは当然だ。施設の連中は社会を腐敗させている自覚もない連中が生み出した副産物だ。なのに誰もこの問題に手を打っていない。しかも魂と知性の抜け殻共をビジネスに利用する始末だ」

「それが就労支援の実態か。そこらのホラー映画が可愛く思えてくるな」

「ふふっ、僕と波長が合うとは。君も社会不適合者の素質があるな」

「誉め言葉と受け取っておこう。皮肉なもんだ。塾を始めた理由が……教育の腐敗とは」

「うちはコーヒー事業が成功してから、国内の不登校児を集めて再教育を施すことにした。うちのエースとして活躍している凜も、葉月珈琲塾に入った時は……好奇心の抜けきった不登校児だった」

「もしかしたら、鷹見が引き籠りになったのも、教育の成果かもしれないな」


 鋭い視点を得た皐月がボソッと口走った。


 関連付けるつもりはなかったが、その可能性も否定はできない。


 アマチュアチームの日本勢が持つ歪んだ感情は、教育に起因するものであることは明白だ。杉山社長はこいつらさえ利益の種にしようとしている。だが妙な点もある。ただ勝つだけならアマチュアチームを結成する必要はない。外国から集めた有望なバリスタだけで固めればいいと思うが、日本勢が何故いるのかが分からない。穂岐山珈琲に呼ばれるだけの実力はあるが、コピーする以外の能力はないように思える。


「いずれにせよ、鷹見さんとは一度話をつける必要があるな」

「そこは頼む。僕だと詳しくは話してくれないみたいだからさ」

「分かった。それともう1つ――」

「皐月さん、そろそろ戻ってください。お客さんが増えてきて大変なんです」


 バックヤードまで来ていた伊織が小さな声で呼びかけた。


「書き入れ時か。メジャー店舗で最も人気があるとは聞いていたが、葉月ショコラがそばになければ店がパンクしているところだったな」

「えっ、葉月ショコラって、そんな理由で近くにあるんですか?」

「私はすぐに気づいたぞ。人気店同士を近くに置くことで、観光客の流れをうまく分散してる。これほどの経営手腕を持つ者が……葉月グループにはいるんだな」

「……まあな」


 最初に提案したのは璃子なんだけどな。最終的に僕の判断で、徒歩5分の場所に、とびっきり可愛い外装と内装の葉月ショコラを置いたが、これからの大繁盛を読んで、ここまでの判断ができるとは。


 皐月は思った以上に狡猾だ。僕なんかよりもずっと――。

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