400杯目「マスターの系譜」
第16章終了となります。
次回からは死闘編を投稿していきます。
あず君や仲間たちの活躍にご期待くださいませ。
来年初頭は少しばかりペースダウンしますが完結保証です。
12月下旬、今年もクリスマスの時期が近づいてくる。
強化合宿は無事に終わり、選ばれしバリスタたちの層が厚くなった。
神崎はバリスタトレーナーとしてバリスタたちのカッピング担当となり、鋭い指摘から改善指南までを担当してくれているばかりか、ユーティリティー社員として慢性的な人材不足に悩んでいたマイナー店舗のスタッフを兼任することとなった。接客という長所も活きている。
労働の機械化が進んだ現代日本においても、労働者は市場に溢れるほど余っている。葉月グループは給料分の働きを示さない者には厳しく、簡単にサボれないようにするためのユーティリティー枠でもある。社内貢献度の低い社員は居座り辛く、昇格も降格も解雇も条件付きで緩くしていることで、雇用の流動性を実現している。大したことではない。国際標準にようやく追いついただけだ。
無論、これは残酷なまでの実力主義に基づいたもので、利益率が高い反面、入社のハードルが上がっていることも人事が忙しくなっている理由だ。美羽たちは国外にまで逸材の手を伸ばし、トップバリスタの輩出を目論んでいる。コーヒー農園のスタッフは国外スカウトも兼ねている。
「あの、本当にマスター辞めるんですか?」
物惜しそうな目で訴えかけてくる伊織。
「引導を渡した張本人とは思えない言葉だな」
勝つべくして勝ったというのに、まだ器が追いついていないか。
「だって、あず君がマスターを務める姿を見るために来てるんですよ。今更ながら後悔しています。こうなるって分かってたはずなのに、私はどうして本気を出してしまったのでしょうか」
「コーヒーの声に応えるのに必死だった。あの大舞台でバリスタができることはそれだけだ」
「あず君はマスターを続けたくないんですか?」
「続けたい気持ちもあるけど、他にやるべきことがある。コーヒーは僕に戦えと言っている。伊織がバリスタオリンピックチャンピオンになってくれたのは、ある意味丁度良いタイミングだ。僕は葉月グループのために戦う。伊織の最後の役目は、うちのマスターを継ぐこと。その後は完全な自由だ。好きに生きていけ。ここにいてもいいし、修行の旅に出てもいいし、独立して自分の店を持ってもいい」
「私はどこにも行きません。ずっとあず君を支え続けると決めたんですから」
伊織の温もりが僕の背中にべったりと貼りつく。
これじゃ一生雇われ店長だ。そんな地位でも満足できる人がいるのだと、教えてくれている気がする。
バリスタ競技会以外の時はとことん主体性がない。そんな伊織も大好きだ。
一呼吸置いてから、僕と伊織は口づけを交わし、お互いに身を委ねた。スベスベできめ細やかな肌は、どこか幼さを感じさせるが、引き締まった体は立派な大人と言えるものだ。
「伊織、マスターがやるべきこと、分かるか?」
「お客さんをおもてなしすることですか?」
「それもあるけど、もっと大事なことがあるよな」
「分かりません。勿体ぶってないで教えてくださいよ」
「仕事しすぎないことだ。マスターは責任重大と思われがちだけど、それはあくまでも、誰かが責任を取らないといけない時だけで、働きすぎてもいい理由にしちゃいけない。自分でやりたいことがあっても、部下に任せないといけないこともある。マスターはこの判断が難しい。何でもかんでも全部1人で背負い込むなよ。スタッフを手足のように使うことを惜しまない。ここはメジャー店舗だ。この店から参加するバリスタは勝つのが宿命だってことは分かってるよな?」
「はい。バリスタオリンピックチャンピオンを2人輩出したお店です。これからここに来る人たちを精一杯導いていきます。ところで来年は誰が来るんですか?」
「皐月と桃花だ」
皐月はコーヒーイベントでメジャー競技会二冠を達成しているし、桃花もマイナー競技会で結果を出している。元々メジャー店舗にいる2人だが、それぞれの希望で葉月珈琲への移籍となった。
「2人来るってことは、2人押し出しになるんですよね?」
「ああ。僕はマスターを辞めて総帥の仕事に専念する。葉月珈琲社長の座も他の人に譲り渡す」
「本社って、確かシンガポールにあるんですよね?」
「そうだけど、仕事はスマホがあればどこでもできるし、本社に赴く必要はない。うちは創業してからずっとリモートワークを重視してきた。どこにいても連絡が取れるのに、いちいち会社のオフィスに行くなんて、時代遅れもいいとこだ。リモートワークであれば、葉月グループの未来について熟考できる」
グループ本社をどこに置こうかと考えていた時、老人の既得権益が支配する日本に税金を払いたくないことを相川に相談すると、すぐにシンガポールを勧めてくれた。
主に税制面で事業の自由度が上がるのは大きい。
今後の日本の動向を見て、事業がうまくいくようなら留まり、衰退が止まらないようなら本格的な日本撤退を検討するし、ここはもっと柔軟に考えたい。歴史の長い国なだけあり、観光立国として十分な価値がある点を踏まえれば、葉月珈琲だけは残してもいいが、他の法人は外国に逃がそう。
所有するコーヒー農園を統括するシステムとしても、本社機能が欠かせない。
――クリスマス当日――
葉月珈琲には各店舗のマスターの他、数多くの身内が集まってくれた。
この日は僕がマスターの座を伊織に継承する日でもある。長年留まり続けた地位を誰かに譲るのは感慨深いものがある。小夜子たちに至っては、あからさまに寂しさを隠せないでいる。
実に幸運な時代を生きた。ある文献によれば、1991年のバブル崩壊から、2021年のデジタル庁設置までが日本の停滞期とされ、今は緩やかな衰退期に入っている。経営者や研究者などの優秀な人間が海外に移り住む現象が続々と起きてくるだろう。となれば相対的に国内の無能率が高くなる。今の教育制度に、この事態を打開するだけの力はない。その証拠に、不登校児もニートも段々と数を増やしている。
物事はトレードオフだ。学校は基礎知識や社会性の習得といったプラス側面ばかり注目されがちだが、マイナス側面がその影響力を増していることを知っている者はほとんどいない。自分の頭で考えて生きていかなければならない変化の時代であるにもかかわらず、この国は相も変わらず思考停止した奴隷を作っている。何の取り柄も見つけられない人たちにとって就職レールは最後の砦だが、それはもう崩壊しつつある。公務員でさえ非正規雇用が増えているし、そもそも目指した者全員がなれるものではない。
これに対処する方法は1つ。公教育の影響を無視できるくらいに力を蓄え、再教育に尽力することだ。
葉月珈琲塾は飯を食える大人を増やすことに貢献している。
プロ契約制度は1つのインセンティブだ。これを潰されれば、子供たちは従来の教育に逆戻りし、多くは飯を食えない大人として、一生親にぶら下がり続ける。伊織も予備軍の1人であったことを考えれば、自分の頭で考えないことを前提とした教育を受け続けることが如何に危険であるかがよく分かる。
日本の教育は五感で吸収する放射能に成り下がっている。
基礎知識や社会性は与えてくれるが、代償として自主性や好奇心を奪い、従順性と同調性を植えつけられてしまい、劣等感や嫉妬心に塗れた醜い人間に近づく。学生の時はテスト、会社に入ればノルマ、常に競争の渦中に晒されるのだ。そんな生活を送っていれば、自分のあり方が見えなくなり、誰かの成功を喜べなくなり、自己肯定感の低い常識に支配されたつまらない人間の完成だ。
社会不適合者とは、つまらない人間のなりそこないだ。
……むしろこっちの方がまともに見えるくらいには過小評価されている。
子供たちは自ら積極的不登校を選択し、ホームスクーリングの恩恵を享受することで悪影響を免れた。自ら選択することによって責任感が芽生え、通学している生徒たちよりも気力旺盛な毎日を送っている。通学や就職ができないから駄目なんじゃない。就職の枠が狭まっている以上、自分で仕事を作っていける人間を育てる方が遥かに生産的なのは明白だ。
鍵を握るのは学びの選択肢だが、通学以外の選択肢がない家庭が可哀想に思えてくる。
「来年からはマスターとしてのあず君が見れないのが残念だ」
物惜しそうな目でオープンキッチンを見渡し、ため息を吐きながら皐月が嘆く。
「やっと後継者ができたからな。普段は2階にいるけど、暇な時に教えるくらいだったら、別にいいぞ」
「本当かっ!?」
「とは言っても、皐月に指導の必要はないと思うけどな。サポーターなら伊織がいる」
「伊織は尊敬する先輩の1人だが、できればあず君の指導を受けたい。今の私には足りないものがある」
「足りないって?」
「私はよく完璧だと言われる。でも完璧というのはある種の限界でもある。あず君の競技には完璧すらも超えてしまう何かがあった。それを掴み取るために、あず君に指導してほしい」
皐月の自己分析には舌を巻くものがある。
普通に就活していても引っ張りだこだろう。
来年は2種類の世界大会に臨むわけだが、僕ですら成し得なかった偉業に挑戦しようとしている。かつての僕にここまでの器用さはなかった。むしろ僕が教えてほしいくらいだ。皐月が葉月珈琲への移籍を望んだのは、より良い条件で大会に臨むためというよりは、僕の指導を受けたいからだとすぐに分かった。
権威主義に囚われているのがよく分かる。
「皐月、誰が指導したかよりも、どんな指導を受けたかの方がずっと大事だぞ。僕は指導者としては半人前だ。伊織にだってほとんど指導とかしたことないし、僕が教えたから勝てたというのは結果論だ。確かに僕は競技の完成度も改善点も手に取るように分かるけど、あくまでも結果は伊織自身が出したもので、僕が指導すれば勝てるってものじゃない。皐月は僕の指導がなくても優勝できた。もっと自信を持て」
「それも一理あるが、やはりあず君の言葉が1番刺さる」
「僕がバリスタオリンピックチャンピオンになっていなくても、同じことが言えるか?」
「それは……言えないだろうな」
一瞬目を逸らす皐月。彼女の揺らぎを僕は見逃さなかった。
何を言ったかよりも、誰が言ったかを重視するのは、立派な権威主義だ。
それで腐敗した組織を僕は何度も見てきた。うちのエースを名乗るなら、今の内に是正しないと、後でとんでもないことになりそうだ。極論を言えば、権威主義者はニートの正論よりも大手社長の出鱈目を信用するという最大の弱点を抱えている。誰が言ったかというのは、あくまでも説を立証する上での最後の一押しでしかないし、誰かを先に持ってきている時点で馬鹿げている。
それが分からないような人が、組織で幅を利かせるようになれば末期だ。
「じゃあこうしよう。どうしても指導を受けたいなら、来年の世界大会で結果を出せ。両方でファイナリストになったら考えてやる。誰が言ったかが大事なら、まずはその誰かになってみせろ」
「……分かった。ところで、1つ気になることがあるんだが、弥生が時々行き先も言わないで出張することがあるんだ。何か知ってないか?」
「人の事情に首を突っ込んでる暇があるなら、競技内容でも考えることだな」
「……」
不満そうに目を尖らせながらも、皐月は疑問を投げ捨てることはなかった。
出張はあくまでも関係者以外知ってはいけない。たとえそれが身内であってもだ。
葉月グループでは、大会以外での出張は珍しい。疑われるのも無理はないが、今は大会に集中させる。葉月グループの立場から言えば、世界大会の結果は関係ない。国内予選での結果の方が優先順位が上だ。優勝できる人の指導は後回しにして、総合力を磨くべきだ。皐月に悟られてはならない。
「響さん、来年からよろしくお願いしますね」
「ああ、よろしく。真理愛さんが復帰するまでは、しっかりとマスター代理を務めよう」
「えっ、響さん、移籍するんですか?」
「本職はバーテンダーだからな。こっちの方が私には合ってることがよく分かった。葉月珈琲で働けたことは誇りに思うけど、ここはバリスタの色が強い。世界一のバーテンダーを目指すなら、葉月コーヒーカクテルの方がずっとやりやすい。バリスタの仕事をして初めて分かった。私はコーヒーよりも酒が好きだってことがな。それと葉月グループからバーテンダーを輩出しようと思ってる。あず君たちと一緒に競技をしている内に、私もやりたいことを究めたいと思った」
「それで移籍を申し込んだんですね」
「まあな。桜子はどうするんだ?」
「実を言うと、私はまだ、本当にやりたいことが見つかってないんです。やりたいことが見つかるまで、バリスタの仕事を精一杯こなそうと思います。次のバリスタオリンピックが終わるまでに決めたいです」
微笑みながら桜子が言った。バリスタはあくまでも繋ぎか。
それを隠さないところが、うちの社員たちの良いところだ。
葉月珈琲塾は、岐阜県と滋賀県を囲むように、中部地方から近畿地方にかけて勢力圏を拡大している。早くも再教育の成果が表れた。皐月を始めとした成功例が続出したことを皮切りに、公教育を放棄するようになり、葉月珈琲塾に子供を預ける親が増えてきたが、いずれも裕福な家庭ばかりだ。
本当は貧困な家庭にこそ、選択肢が必要なのだが……。
まずは行動の早い家庭から動かせってことか。
命運が懸かっているこの時でさえ、葉月グループは拡大を続けている。もし杉山社長の手に落ちれば、利益を全て独占される。この国は一生老人たちの既得権益から抜け出すことはできなくなるだろう。プロ契約制度にとって、葉月グループは基盤とも言える。国内におけるコーヒー業界は、終始その地位を上げることはなくなり、常に外国に後れを取る。つまり今までと同じことの繰り返しだ。
遅れているのは教育だけで十分だ。僕はきっと、まだこの国を諦めてはいないのだろう。
「お兄ちゃん、ちょっといい?」
「璃子、どうかした?」
「決戦に勝ったらどうするつもりなの?」
「まだそこまで考えてないけど」
「確かベーシックインカムを導入させたいって言ってなかった?」
「ああ。雇用で生活を支えるのは限界があるからな」
「決戦に勝つのが前提になるけど、良い方法があるよ。勝ったら相手のグループにある会社を全部乗っ取れる契約でしょ。杉山グループには10万人を超える従業員がいる。そこで杉山グループの社員を全員引き抜くかリストラにしてしまえば、失業率が大幅に上がって――」
「政府も動かざるを得なくなる。確かに良い方法だ」
璃子が思いついた計画はこうだ。
相手グループの全財産を貰うとは、グループ傘下の企業を吸収合併できるということだ。
今の日本は雇用で生活を支えることが社会保障の基盤となっている。つまり乗っ取ってから一斉にリストラしてやることで、失業率を大幅に上昇させる。失業した人たちの一部はすぐに次の仕事を見つけるだろうが、ほとんどは一度レールから外れたら元には戻れない連中だ。
生活困窮者を一気に増やすことで、生活保護のハードルを一気に下げてやれば、与党もいよいよベーシックインカムを公約にせざるを得なくなる。どうせどこかで限界はやってくるのだ。誰かが背中を押さなければならない。だが誰も改革をしてこなかった。そのツケが今の衰退期だ。
この国に最後のチャンスを与えた。もし無下にしようものなら僕が日本を撤退する十分な理由になる。
前進することをやめた国に未練はない。
「随分とエグい発想だな」
「お兄ちゃんに言われたくないんだけど。まあでも、これだけやっても日本が変わらないようなら、足を引っ張られる前に撤退した方がいいかもね。外国にはお兄ちゃんと波長の合う人がたくさんいるし、ここがお兄ちゃんの居場所足り得るかが問われるだろうね」
「璃子、あんまりこんなこと言いたくないけど、万が一の時は、葉月グループを頼む」
「お兄ちゃんらしくないなー。私は勝つ前提で強化合宿を始めたんだし、今は勝てなくても最終的に勝つから大丈夫だよ。決着がつくまでは精鋭部隊に練習させるから、しばらくは成長率が落ちると思うけど、そこは我慢してもらうよ。あと2年で勝敗が決まるんだし」
「分かってる。そこは璃子に任せた」
「それよりカジモール計画に参加する件だけど、お兄ちゃんに任せちゃっていいの?」
「ああ。杉山グループはカジモール計画を成功させて、利益を得ながら影響力を高めるつもりだ。そのための広告塔として鍛冶元社長を起用したんだ。でもそこには大きな穴がある。逆にカジモール計画が失敗に終われば、杉山グループの影響力は大幅に落ちる」
「お兄ちゃんは杉山社長が全国中のカフェを1ヵ所に集めて、どうするつもりなのか知ってるの?」
「あれはプロ契約制度を終わらせる計画の第一歩だ。コーヒーイベント以外で全国にいるプロバリスタを1ヵ所に集められる数少ないタイミングだ。見てみろ。プロとアマの対決が盛り込まれてる。あいつら、アマチュアチームでプロバリスタをボコボコにして戦意喪失させるつもりだ。しかもコーヒーイベントの全国中継ときた。もし全国中のみんなが見てる前で、プロとアマの対決でプロが負ければ、プロ契約制度を利用するバリスタは激減するだろうな」
スマホ画面に記された文字を入念に目で追う璃子。
「お兄ちゃん、もしかしてプロ側で参加するために出店するの?」
「いや、僕は運営側だから参加できない。カジモール計画に出店するのはあいつらの情報を得るためだ。参加する企業全てにスケジュールを公表しないといけないだろ。スケジュールの中身を見て、あいつらの計画を読もうと思った。何か良からぬことを考えてると思ったら、嫌な予感が見事に的中した」
「伊織ちゃんはマスターを継ぐから当然参加できないとして――まさかお兄ちゃん、カジモールに出店するカフェのマスターになるつもり?」
「おっ、結構鋭いな」
「ちょっと考えれば分かると思うけど」
「厳密には完全監修担当だけどな。オーナーが支店のマスターやるのも不自然だし、こっちの狙いを悟られないよう馴染むつもりだ」
「お兄ちゃんが1番不得意な分野だね。まっ、別にいいけど。引き続きスパイの仕事を頼むね」
目を半開きにさせながら冷めた声で言うと、璃子はオープンキッチンを離れ、何食わぬ顔でクリスマスを楽しむみんなのもとに戻った。大して期待されてないな。
こうしてみると、璃子って本当に群衆に溶け込むのがうまいな。
まるで迷彩のように景色の一部と化し、足音もなく唯の隣に腰かけた。
璃子は本気で決戦を制するつもりでいる。
――だったら僕も、勝つつもりで臨まないとな。
「あず君、何の話してたの?」
千尋がカウンター席に腰かけながら話しかけてくる。
「カジモール計画の話。璃子は潜入捜査を全部僕に任せてくれるらしい」
「僕は行かなくていいの?」
「千尋が行ったら警戒されるだろ。あいつらにとって千尋の頭脳は脅威のはずだ。尻尾を出させるには安心を与えてやる必要がある。千尋はカジモール計画の綻びを見つけてくれ」
「それはいいけど、あえて敵の懐に潜り込むなんて、あず君も隅に置けないねぇ~」
「杉山グループは必ずぶっ潰す。そのためなら土下座だってする」
「……なんか昔と変わったね」
「1つ良いことを教えてやる。僕はいつも変わってる」
「ふふっ、確かに」
口を塞ぐような仕草を見せながら笑う千尋。
今じゃこのあざといくらいの女々しさが可愛く思えてくる。
この豊かで平和な光景は決して当たり前のものじゃない。何故人が平和のために戦うのかが分かった。ならば僕も覚悟を決めよう。休日なんて全部返上だ。
ここにいるみんなの未来、そしてコーヒー業界の未来が懸かっているのだから。
読んでいただきありがとうございます。
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