40杯目「守るべきもの」
のんびりしている場合じゃないと思い、急いで実家へと戻る。
しばらくしてから、璃子が穂岐山親子を連れてくる。
――璃子は押しに弱いのか、押されるがまま連れてくる破目になった。良くも悪くも従順すぎる。
だがそれがいい。こういうところが愛おしく思えることもある。
仕方ないと思いながら店に入れることに。まだ営業日じゃないため、コーヒーは出せない。ていうかこんな状態では最高のコーヒーは淹れられない。
「へぇ~、ここがあず君の店なんだ~。凄くオシャレだし、外国人観光客限定にしておくには勿体ないと思うんだけど、そんなに病気重いの?」
「う……うん。運命の日から、身内以外の日本人を見ただけで恐怖とか憎しみの感情が湧いてきて、それが強いストレスになって、その場にいられなくなる。こんな状態で高校なんて行けねえよ」
「君のお父さんから聞いたよ。物凄い迫害を受けてたんだってね」
「うん、あたしも聞いた。本当に酷いと思った」
穂岐山が真剣な声で呟く。僕は後ろを向いたまま、穂岐山たちの言葉に耳を傾けていた。
同情してくれたが、彼女たちが僕と同い年で学校現場にいたら、同じことを言えるだろうか。
僕の耳には気休めの言葉にしか聞こえなかった。
「分かったらもう帰ってくれ。僕は茶髪すら許容できない連中を店に入れたいとは思わない」
これはあいつらへの差別ではない。理不尽への抵抗である。
そうとでも思わなければ、とてもあいつらへの憎しみを抑えきれなかった。
「茶髪で……ロングヘアーの男子ってだけでっ……怒鳴ったり……殴ったり……骨まで折ったりするなんて。ううっ、うっ……許せない……なんて人たちなの」
さっきまで怒っていた美羽が急に悲しみの表情に変わり涙を流す。
「このことが親戚にばれたら、僕は親戚から迫害を受けるかもしれない。親父も言ってたと思うけど、僕の事情は他言無用だ。もちろん、国内向けの宣伝も禁止だ」
幸いにも親戚一同は、テレビや新聞ばかりでパソコンは見ない。コーヒー好きは多いが、コーヒーの動画は見ない。だが人から噂が入ってくればそれまでだ。一応ばれた時の言い訳は考えてあるが、せめて完全独立を果たすまでは黙っていたい。穂岐山社長は僕がその気になったらいつでも歓迎すると言ったが、僕は会社で会うことはないと心底思った。
「うちの子、どうかな?」
まるで名刺交換のように尋ねてくる穂岐山社長。
「可愛いと思うよ」
これ以上話すのが耐えられず、穂岐山親子の相手を璃子に任せると、逃げるように2階へと引きこもってしまう。やっぱ身内以外の日本人とは長時間一緒にいられない。近づくだけで肌がピリピリする。残酷にも体は正直だ。外国人観光客を増やすべく動画制作を始める。1階は既に占領され、いくつかある動画を編集する。しかし、僕が2階で動画制作に没頭していると、階段を上がる音が僅かに聞こえてくる。編集に夢中で気づかなかったが、穂岐山が2階まで上がってきてしまったのだ。
「1階のピアノ、凄くいいね」
「!」
――げっ! 何で上がってくるんだよ!?
ビビったように驚く。これじゃ完全にお見合いだ。
「こ、来ないで! それ以上近づかないで!」
震え声で執拗に接近を拒否する。
「本当に怖いんだね」
「理屈では説明できない。馬鹿げた話だと思うかもしれないけど、これは本当の話だ……だから、僕には絶対近づかないでくれ」
「……あたしはあず君の敵じゃない。だから安心して」
「みんなそうだ。最初はそう言って、味方のふりをして僕に近づいてくる。でも僕が少しでも人と違うところを見せると、途端に牙を向いて迫害行為を始めてくる。僕は今までそういう汚い奴らを山ほど見てきたんだ。もう絶対騙されない」
彼女に心を許そうとはしなかった。あんな目に遭うのは真っ平御免だ。
「そう思うのは自由だけど、壁を作ってばかりだと、一生日本人を許せないと思うし、病気もずっとそのままになっちゃうと思うよ」
「無理に全員と仲良くしようとした結果がこれだ。僕だって……昔はみんなと争わないように尽力してきたつもりだ。でも周りは僕を許さなかった」
みんな仲良しなんて、管理する側が楽をするためだけに設けた傲慢な思想に過ぎない。全員と仲良くしようとするから、仲良くできない人を排除する動きになるのであって、無理に仲良くしようとしなければ、あそこまでの迫害は受けなかったはずだ。適度な無関心は必要だと思う。
人間関係で躓く人は、ほぼ例外なくつき合う相手を選べなかった人だ。
僕はそれを思い知ったからこそ、体の判断に全てを委ねているのだ。
「ねえ、今度デート行かない?」
「外出はあまりしたくないんだ。穂岐山さんだけで行ったら?」
「そんなの嫌。それと、美羽って呼んでくれないかな?」
「……別にいいけど」
前々から思っていたのだが、女子にとって下の名前というのは、家族か恋人に読んでもらうための名前じゃないのか? 他の男子にも下の名前で呼ばせているかを聞いたが、家族以外だと僕だけらしい。
「あたし、梓君を動画で見てから、一度会いたいと思ったの」
「まさか外国人向けに作った動画を見られてたとはね」
「あの可愛い子がお父さんの同級生の息子だったなんてね」
「男でがっかりしたか?」
「そんなことないよ。さっきも言ったけど、あたしもバリスタを目指してるの。だからさ、もしよかったらでいいけど、色々教えてくれない?」
「今はそっとしておいてくれ。日本人が怖いんだ」
「目も合わせられないの?」
美羽が当たり前のこともできないのかと言わんばかりに尋ねた。
目を合わせなければ会話できるが、日本人の大半は目を合わせて会話しましょうと教えられている。何の事情も知らずに僕と話そうとすれば、間違いなく不快感を抱くだろう。
ただでさえ相性が悪いというのに、話しかけられることさえ烏滸がましいと思った。日本で就職なんてしたら、毎日あいつらとくだらない会話をしないといけなくなる。
それだけは防がなければならない。
気がついてみれば、僕は部屋の端っこにいた。無意識の内に回避行動をしてしまっていたようだ。
美羽はそんな僕に構わず抱きついてくる。
「やっ、やめてっ! 離してっ!」
「大丈夫、何もしないから」
「もうしてるだろっ! 離れろよっ! 何で……何でこんなことするんだよっ!? ――!」
「よしよし……辛かったね」
僕の抵抗に構わず、美羽は僕を後ろから抱き締め続ける。泣いて怒りながら抵抗を続けるが、抵抗は次第に弱まっていく。美羽の筋力に勝てないことを悟った僕は……考えることをやめた。
美羽は僕を抱きながら、まるで子守りのように頭をトントンと軽く叩く。人に触られるのは好きじゃないけど、辛い時にこうやって抱きしめられると、何故だか解放された気分になる。
「……」
「落ち着いた?」
「うん……だからもう離して」
恐る恐る言うと、美羽がようやく手を離し、適度なパーソナルスペースを保つように離れた。どうやら美羽には逆らえないと本能的に判断したらしい。
「今動画作ってたよね?」
「そうだけど……」
「うっかりお父さんに言っちゃったけど、あれタブーだったんだね」
「君の親父はコーヒー業界に対してそれなりの影響力を持っているようだ。一歩間違えば全国中に宣伝されて、親戚一同にばれるとこだった」
「親戚にばれたら、親戚から迫害を受けるかもしれないって言ってたけど、具体的にはどうなるの?」
美羽が唐突に素朴な疑問をぶつけてくる。おじいちゃんあたりは擁護してくれると思うけど、多数決の原理に基づいて考えれば、僕が圧倒的に不利だ。
「うちの親戚は約束事にうるさいからな、親戚の集会に出禁になって交流できなくなると思うし、最悪の場合、借りた300万円をすぐに返せって言われるかも。そうなったら店どころじゃなくなる。3年店が持たなかったら、一生親の言いなりになるって約束しちまったし」
店が潰れたら親の言う通りに生きることになるが、今のところ、うちの親が穂岐山社長の会社に本気で僕を入れるつもりでいることを説明する。
「あー、だからあず君のお父さん、うちのお父さんの会社にあず君を入れたがってたわけだ」
「そういうことだ。僕がこの店を潰せば、一生君の親父の奴隷になるってわけだ」
「奴隷って言い方はないと思うなー。お父さんの会社はブラックじゃないから大丈夫だよ」
「そういう問題じゃない。僕は集団が大っ嫌いなんだ!」
威嚇するように言うと、パソコンをカタカタ鳴らして編集作業を進める。
会社がブラックじゃないのは当たり前だ。彼女は何も分かっちゃいない。そもそも就職というもの自体が向かない人がいるということを。じゃあ起業家はブラックじゃないのかと言われれば、そうとも言い切れない。結論から言えば、起業家もブラックだ。
僕なんて曜日を問わず1日中働いている。午前中は寝ているが、午後からは店の営業があり、午後6時からは宣伝のために動画を作り、夜中の3時くらいを回ってようやく寝ることもざらにある。だが不思議なことに、僕の体は働くことに対して拒否反応を起こさなかった。
嫌なことをさせられた時は、すぐに体がバテて熱を出し、寝込むこともあるが、バリスタの仕事は僕の体にフィットしているのか、なかなか疲れが出ず、毎日続けることができる。
「あっ、これ何?」
美羽が僕の部屋をカラスのように物色する。
すると、本棚の中から、僕の日記やポエムを次々と見つけてしまった。
「あっ! ちょっと! それ見ちゃ駄目だって!」
美羽が持っているポエム帳を取り上げようとする。
だが美羽はなかなか返してくれず、ポエムを読み上げてしまう。
「えーと、なになに。ああ、最愛の恋人よ。何故君はこうも気まぐれなのか。会う度に姿を変え、全く違う香りと味を出す。なのに、どの君にも僕は魅力を感じてしまう。形を変えながらも、その魅力が色褪せることはない。それが美しさというものなんだろう。ふふっ、何これ?」
あああああぁぁぁぁぁ! ……読まれたぁ~! 恥ずかしい。それだけは読まれたくなかったのにっ!
――僕、こいつ苦手かも……ていうか何で物色してんだよ?
「あず君って恋人いるんだー。ねえねえ、どんな人?」
「……教えない」
「ケチ。でも恋人いたんだ。残念」
「……」
勝手に恋人がいるものと勘違いされた。人間の恋人とは一言も言ってないんだよなー。
「ラテアートとピアノ以外はやってないの?」
「今のところはな」
「他にも動画を出してみたらどう?」
「検討しとく。分かったらもう帰れ。ここは僕のテリトリーだ」
「分かった」
冷たい声で言うと、美羽はようやく帰る決心がついたようだ。美羽たちは1階で璃子たちと話した後で帰った。美羽はこれからも僕の動画を見続けてくれるらしい。だが国内には広めないでほしいことを伝えた。日本人規制法がある時点で、国内に宣伝する意味がない。
「今度は営業してる時に来てもいい?」
「たまになら……でも1人で来てくれ」
夜を迎えると、ようやく体の震えが治まった。
「お兄ちゃん、大丈夫?」
「――美羽に抱かれちゃった」
「えっ……私が穂岐山社長と話してる間に抱かれたの?」
「そうだな。ガッチリ掴んで離さないんだ。だからさっきまで震えが治まらなかったわけ」
「あー、そっちの方か」
「こんな状態じゃ、あいつら相手に接客は無理だ」
「無理しないでね」
璃子が優しく呟くと、僕を後ろから抱き締める。
目を瞑りながら温泉にでも浸かったかのような癒しの表情になる。
あぁ~、気持ちいい。良い匂いだし、背中にはダブルで張りついてくるマシュマロのような柔らかい感触が神経に優しく響く。人を駄目にする妹だ。
この数少ない癒しである璃子に甘えながら、この日はぐっすりと眠るのだった。
この年初めての営業日がやってくる。この頃から毎年1回はバリスタの大会に出ることが、僕の中ではノルマになっていた。宣伝したいのもあるが、何より競技を楽しみたかったのかもしれない。唯たちにはこの年出る大会の話をした。この大会を勧めてきたのはカールだ。
以前勧められていたCFLに出場することに決めた。年に3回行われているトーナメント形式の大会だ。見た目、明確さ、色の表現力、創造性、速さの5種目を競い、これらの要素で対戦相手を上回っていれば勝ち進めるというものだ。
制限時間中なら何杯作ってもいいが、スピード勝負は捨てることになる。
6月に行われるCFLアトランタ大会に予約をすると決めていたこともあり、受付が開始されると、すぐに予約をし始めた。トーナメントだし、ある程度運にも左右される。如何にコンスタントに勝ち抜けるかがポイントになるだろう。そのためには技術だけじゃなく体力も必要だ。
ある日のこと、常連は僕が勝ち抜けるようにアドバイスをくれた。対戦が終わる度に切り替えが必要だよと言われた。同じものばかりを作ってたら飽きられるだろうし、今まで以上にレパートリーを増やす必要がある。大会が近い時はカプチーノの注文が増えるように工夫し、仕事が終わった後も練習を続けた。この時の光景も動画に投稿している。
「「「「「おおーっ!」」」」」
常連たちからパチパチと拍手の音が耳に響く。
「あず君のラテアートって、綺麗で可愛くて正確ですねー」
唯が目をキラキラと輝かせ、両手をグーにしながら僕のラテアートを見つめる。
「これが僕の生きる道だからな」
「でもこの頃お客さんいませんよね?」
「それを言ってやるな」
ジェフが唯にツッコミを入れる。事実なんだからしょうがない。2月を迎えたあたりからあまり外国人観光客が来なくなる。途切れはしなかったものの、このままではまずい。唯を始めとした常連たちのおかげで店が持っているが、対策を考えなければ。
アメリカやヨーロッパの人がターゲットなのに、目的地である日本が遠すぎて来にくいのだ。東京や大阪しか知らない外国人にとって、岐阜はただの通り道でしかない。中部地方に来るにしても、すぐ隣には強力なライバル、名古屋がある。
しかもここもカフェの激戦区で、尚更競争が激しい。
そんなことを考えながら、常連以外はほとんど来ないこの店でインスタントコーヒーを使ったラテアートの練習を黙々と続けた。作ったコーヒーはメニューを注文してくれた常連に限り、ただで何杯も提供することになる。常連はコーヒーの飲みすぎで腹がタプタプになる。捨てるのも勿体ないし、練習で淹れた分は僕か璃子が飲むことになるのだが、僕の腹も限界が近づいてくる。
今日はこの辺で勘弁してやるか。
2月の日曜日の朝、吉樹からのメールを受信する。
『あず君、今日散歩の日だけど、起きてるなら昼から来てよ。待ってるから』
そういや一緒に散歩をする約束をしていたんだった。しょうがねえ。つき合ってやるか。とりあえず僕の方から迎えに行こう。吉樹は僕が実家に住んでると思ってる。
あいつの方から訪問されるのはまずい。
正午、僕は楠木家まで赴き、吉樹を散歩に誘う。
「良しっ、じゃあ行こっか」
「それはいいけど、どこまで行くの?」
「あっ……決めてなかった」
だと思った。誤魔化すためとはいえ、璃子が僕を散歩が趣味だと言ったばかりにこうなった。それもあって璃子には散歩コースを教えてもらっていたのだ。
うっかり家の前を通らないようにしないと。
「やれやれ、じゃあ岐阜城まで行くか?」
「そうだね。観光スポットだから、一度行ってみたかったんだよねー」
「えっ、行ったことなかったの?」
「ないよ。こういう機会でもないといけないんだよねー」
「いつもは家でゲームだもんな」
吉樹の休日と言えば、家でゲームをするか、友達の家に遊びに行ってゲームをするかのどちらかだ。もうすぐ高2だが、これが一般的な高校生の日常なんだろう。僕は休業日ですら新しい食材の仕入れがあるし、客がいないこともあり、ラテアート動画の撮り溜めもしていた。
「はぁ、はぁ、疲れたー」
「えっ、もう疲れたの?」
「僕体力ないんだよねー。あず君は疲れないの?」
「毎日鍛えてるからな」
「昔は虚弱体質って言われてたのに、本当に変わったね。なんか人が入れ替わったみたい」
「そうかな? 昔から変わってないけど」
生活スタイル以外は……な。
岐阜城の麓に着くと、今度は山を登り、更に高い所に着くと、岐阜市の住宅街を見下ろした。
――うちの町って、こんなに広かったんだな。
「ふぅ、やっと着いた。あず君、置いてかないでよー」
「吉樹が遅いんだろ。これに懲りたら、毎朝筋トレでもするんだな」
昔は一緒に公園まで行く時、僕が吉樹にリードしてもらう立場だったのに、ここ数年で立場が逆転した気がする。今は吉樹の背中がとても小さく見える。
そんなことを考えていると、急に僕の胃袋が空腹を訴えてくる。
「あっ、そういや何も食べてないんだった」
「じゃあ戻って昼飯食べる?」
「そうする。近くにカフェを見つけたから、そこに行こうぜ」
「僕、お小遣いないんだけど」
「じゃあ僕が奢るよ。好きなもん頼みな」
「えっ! マジで言ってんの!? じゃあ遠慮なくごちになるねー。なんかあず君って去年からめっちゃ逞しくなった気がするよ」
こいつ、奢るのが分かった瞬間元気になりやがった。
そりゃ逞しくもなるって。今の僕には守るべきものがあるのだから。それに、一応僕自営業者だし、そこらの高校生よりずっと稼いでるし。
僕らは近くのカフェで一緒に食べた後、夕日を見る前に別れた。
実家に帰るふりをして、うちの店に帰った。
そんなこんなで、僕らの散歩は終わりを告げるのだった。
3月がやってくると、小夜子たちが春休みに入り、葉月珈琲へとやってくる。
しかも何の因果なのか、同じ日に美羽までやってくる。
「ねえ、この人たちはいいの?」
「うん。学生の時からの知り合いで、比較的仲が良かったからな」
「ふーん、2人共美人じゃん」
「美羽は2人に興味あるの?」
「うん。だってあず君と仲が良い人って珍しいと思うし」
「美羽さんはどうやってあず君と知り合ったんですか?」
小夜子が美羽に僕との出会いを聞く。
美羽が怖いこともあり、カウンター席から距離を置いた位置にいた。やっぱりこの人やりにくいや。
「あたしとあず君は親同士が元同級生で友達なの」
「社会的地位にはかなり差がついてるけどな」
「あず君、一言余計だよ」
「確かにお父さんは社長だけど、お父さんが会社を立ち上げた時は景気が良かったからねー」
美羽が言うには、穂岐山社長はバブルの時期になると岐阜から上京し、コーヒー会社を立ち上げた。しかもバブルの影響で事業がぐんぐん成長し、バブル崩壊後も会社に貢献し続けたことで、やっとの思いで大手になれたらしい。やっぱり親父とは対照的だな。
人と人を比べるのはナンセンスと思うが、こうも差がついているのによく友達でいられるよな。僕だったら間違いなくフェードアウトしているところだ。親父は同窓会にも堂々と出席していたらしい。
親父以外の出席者は全員正社員だった。地位の高い人以外は同窓会に行けないのが、同窓会における暗黙のルールらしいのだが、そんな場に出て、自己肯定感とか下がらないのかな?
話題は親父の同窓会出席に移っていた。美羽は彼女の親父から話を聞いていたこともあり、色々と知っている様子だった。彼女は親父と穂岐山社長のやり取りを話してくれた。今までにない親父の側面が見えてきた。まさかそこまで僕の将来を考えていたとは思わなかった。親父はこういう時だけ勇者だ。その勇気を別の方向に活かしてほしかったと感じた。
例えば僕を不登校にするタイミングとか……な。
守るべきものがあると強くなります。
守るべきものがないと無敵になります。