390杯目「懺悔と反目の即興曲」
8月上旬、コーヒーイベント1ヵ月前のこと。
葉月創製に赴き、皐月たちの様子を窺っていた。
皐月たちはサポーターチームでの活躍が認められ、皐月に至ってはマスター代理を任されるまでに出世を果たしていた。10代でのマスター代理は葉月グループでも数少ない記録だ。
だが本人は一向に満足の顔は見せず、常に上を目指すことばかりを考えている。
それもそのはず、弥生と皐月は今年からメジャー競技会にデビューすることが決まったのだ。バリスタオリンピック選考会に参加するには、書類選考を通過しなければならない。
まずは他の大会で実績を積むということだが、2人は同時に2大会出場するようだ。
「本当に2つの大会で予選を突破するとはな?」
「私はJBCとJBrCに出て、両方共コーヒーイベント進出を決めたぞ。聞いていた通り、予選からプロがたくさん参加していた。参加枠が広がったお陰で、プロ契約を結んでいない人もいたが、興味深いのは、アマチュアのバリスタたちがチームを組んでいたところだ。プロに対抗しようと躍起になってる。バリスタのプロ契約制度に反対する勢力もそれなりにいるようで、プロ契約しなくても勝てることを証明したいらしい」
「あず君がやっとの思いで作り上げたのに、何であんなことするかなー」
「バリスタにはプロ契約制度がなかったからな。プロにならないとバリスタとは見なされないと勘違いした連中が、アマチュアチームを結成していても不思議じゃない。そいつらは言ってしまえば免疫細胞だ。時代が進むと都合が悪い保守派ってのはどこの業界にもいる。そいつらを懐柔していくのが僕の役割だ。保守派が支配する業界は必ず腐敗する。人類はその間違いを何度も繰り返してきた。この国でこれから需要が伸びてくるコーヒー業界を保守派の連中が支配するようなら、僕はこの国を見限ることにする」
いつでも逃げられるんだ。もっと気楽にやっていこうじゃないか。
葉月グループは社員たちの中に植えつけられていた昭和の常識を終わらせた。
社員教育を通して悪魔の洗脳から解き放った成果が次々と現れたのだ。
うちを辞めた社員の多くは自ら事業を始め、今でも力強く生き続けている。
飯を食える大人を作る教育の正しさが証明されたのだ。学歴が低く、生命力もなかったような連中が、今じゃ自分たちのチャンネルで僕の教えを広める側に回っている。
「弥生はどうだった?」
「私はJLACとJCTCに参加して、両方ともコーヒーイベント進出はしましたけど、アマチュアチームの人たちもコーヒーイベント進出を決めているみたいです」
「穂岐山珈琲の連中は?」
「一応いましたけど、今回の件で随分と躍起になっていて、どうも社運を懸けているみたいなんです」
陽菜子が皐月の横から現れると、穂岐山珈琲のことを解説してくれた。
根本たちは引き続き世界チャンピオン輩出を目指し、参加し続けるようだが、このまま結果を出せなければ倒産は必至だろう。宣伝する店があるとはいえ、できたばかりでメニューも少ないし、中津川珈琲のバックアップがあるとはいえ、支援は今年までだし、今回が事実上のラストチャンスだ。
今までの穂岐山珈琲の連中とは異なり、危機感に満ちた目つきだった。
大手だった頃は勝ち組であることに胡坐を掻いていた。育成部に入れただけで満足していたが、もうそんなことは考えていられない。ここからが本当の真骨頂だ。
「ところで、穂岐山珈琲は大丈夫なのか?」
「事業の9割を持っていかれちまったけど、元々あいつらが切り捨てるつもりだった育成部だけは分社化を認めてもらえた。しかも穂岐山珈琲の看板保持までな」
「つまり、穂岐山珈琲のブランドはいらなかったということか」
「コーヒー会社として実績を残していて、なおかつ落ち目にいる関東の企業として、穂岐山珈琲が狙われたんだ。杉山グループはコーヒー人気に乗じて利益を上げるつもりだ。自分たちで始めることもできただろうが、コーヒー会社を経営したことのない連中には、バリスタとしてのノウハウがない。そこでバリスタ経験豊富なコーヒー会社を乗っ取る方が近道と考えるのが自然だ。穂岐山珈琲が持っていたコーヒー農園との契約も全部引き継いでるし、優秀なバリスタを確保できれば、それで充分ってわけだ。穂岐山珈琲には優秀であっても、バリスタ競技会には参加しなかったような連中がたくさんいるからな」
「杉山グループは中部地方を拠点としているグループ企業だが、関東にも手を伸ばしたということだな」
「最初は居酒屋チェーンから始めて、関東と関西にも事業規模を広げた後、今度はインバウンドで大勢の外国人観光客がやってくるようになるのを読んでホテルの経営を中心に事業を拡大して、今はコーヒーブームに乗じてコーヒー事業にも手を出したってとこだ。利益が出ると思った事業は何でもやるみたいだ」
「グループ企業は利益を吸い上げる機能を持った何でも屋だ。セオリー通りの経営だな」
皐月が手を組みながら杉山グループを語る。
立花グループの令嬢なだけあって、この手の仕事には精通しているようだ。
杉山珈琲の方針で最も不可解なのは、コーヒー業界に参入しながらも、プロ契約制度には徹底して否定的な姿勢を示しているところだ。ハイリスクな苗床には一切の投資はしないということか。それよりも大会が終わる毎に売り上げが増加する店舗経営に力を入れている。
つまり奴らはバリスタ競技会が盛り上がるほど利益が出ると考えていて、実際その通りになっている。僕らは知らず知らずの内に、奴らの利益に貢献していたわけだ。今後大会が行われる度に、杉山珈琲は労せずして利益を上げ、影響力を更に強めていくだろう。
この国は最も勢力の大きい企業の方針に倣う慣習がある。
杉山珈琲が日本で1番のコーヒー会社となれば、他のコーヒー会社もその方針に倣い、プロ契約制度を中止するようになる可能性が高い。そうなれば国内におけるプロのバリスタばかりか、バリスタ競技会さえも廃れてしまうし、外国のバリスタたちに大きく後れを取ることは言うまでもない。
日本のコーヒー業界の未来は――奴らとの戦いに勝てるかどうかで決まる。
カランコロンと、ドアベルの音が僕らの耳に囁いた。
「いらっしゃいませー」
「! お前はっ! 石原沙織!」
「皐月さん、お客さんにお前は駄目ですよ」
「あっ、すまん。つい体が反応してしまった」
「でもどうして沙織さんがここに?」
「ずっと葉月社長を探してたの……葉月珈琲に行ったら、ここにいるって本巣さんに教えてもらったの」
「ここに来たってことは、鍛冶社長に裏切られたのか?」
「……うん。私が間違ってた。今更戻ろうなんて思わない。ただ、もし鍛冶社長をどうにかしたいのであれば協力する。ここまでの経緯を知ってほしいの」
「そんな都合の良い話があるか。あず君は忙しいんだ」
「そう言うな。恥を忍んでここまでやってきたんだ。話くらい聞いてやろうぜ」
悔しそうな顔を僕らに向けたまま、観念した様子の石原が全てを話してくれた。
石原は穂岐山珈琲を裏切ることを条件に、鍛冶社長と役職に就かせるという契約を結んだが、それはあくまでも鍛冶社長が会社を乗っ取ればの話であり、実際に乗っ取ったのは杉山社長の部下だ。
この場合、鍛冶社長が約束を守る必要はない。ここまで巧妙に工作しながら、穂岐山珈琲を内側から破壊した上で乗っ取りまで図ったのは杉山社長だ。自分の手は汚さず、他人にやらせるところが実にあいつらしい。かつての悪事の証拠を回収しようとしたが、既に握り潰されていた。
証拠を持って行った氷河期世代の男とは連絡が取れない。
僕は奴を咎める唯一の機会を逃してしまったのかもしれない。
葉月グループに対して直接手を出したわけではないが、コーヒー業界発展の鍵を握っているバリスタ競技会を干上がらせるつもりなら容赦はしない。穂岐山珈琲が分社化してからというもの、一部のコーヒー会社がプロ契約制度を廃止し、プロバリスタを他のコーヒー会社に全員売り渡してしまったのだ。
理由を聞けば、穂岐山珈琲がプロ契約制度をやめてしまい、杉山珈琲に乗っ取られたことで、プロ契約制度はハイリスクという印象を周囲のコーヒー会社に与えてしまった。その結果、このままでは連鎖的にプロ契約制度を廃止するコーヒー会社が増えていき、葉月グループの独壇場となるだろう。
本気でプロバリスタを目指す人は、迷わず葉月グループに入ってくる。
それでは面白くない。他のコーヒー会社と競うことこそがバリスタ競技会における趣旨の1つだ。奴らはバリスタ競技会そのものを否定している。ジャッジを買収して千尋を負けさせようとした前科があり、協会からは警戒の目で見られている。あからさまに自ら手を下すことはないだろう。
いらなくなった石原はあっさりと捨てられ、今月限りで杉山珈琲をクビになったらしい。
名目上は人員整理、要はリストラされちまったわけだ。
この国はこれでもかというほど、クリーンであることが求められる。しかもバリスタオリンピックの影響で、コーヒー業界では悪名高き存在となってしまった石原が再就職を果たすのは絶望的だ。
「なるほど、そんな抜け道を用意していたか」
「自業自得だ。お前は会社を裏切ったんだ。その辺の事情はあず君から聞いている。貧困から脱出したいからとはいえ、やって良いことと悪いことがあるよな。もし本当に裏切られたというなら、穂岐山珈琲の人たちの気持ちがよく分かるよな?」
「皐月ちゃん、そんなに責めないであげて。彼女はもう罰を受けたんだから」
「……まあ、弥生がそう言うなら勘弁してやる」
「就活はしてるか?」
僕が隣の席を指差すと、石原は隣の回転椅子に腰かけた。
「してることはしてるけど……多分もう正規雇用は無理だろうね。バイトも受かったら良い方だし、私にはバリスタの才能なんてなかった。ていうかそもそもバリスタ競技会なんて望んでなかった。私が穂岐山珈琲に入った時、私はバリスタとして勤務することを望んでいた。でも当時の育成部から誘いを受けて、プロ契約を結んで大会で結果を残せば、20代の内に一生分稼げるって、当時のマスターにも背中を押されて、断ろうにも断れず、結局参加した。でも育成部は私には厳しすぎた。一生分稼げるとは言っても、それは才能があればの話であることにすぐ気がついた。そして去年、遂に穂岐山社長から、このままだと育成部に残ることは厳しいと言われて、途方に暮れていた私に鍛冶社長が声をかけてきたの。穂岐山珈琲を乗っ取るから手を貸してくれって。定年まで役職に就けることを約束するって言われて、全然余裕のなかった私に断る選択肢はなかった。ちょっと考えればすぐに気づく罠に、私はまんまと引っかかった」
貧困故の余裕のなさにつけ込まれた石原は、猛省するように鍛冶社長とのやり取りを自供する。
僕らは彼女の言葉に耳を貸し、一度も止めることなく最後まで聞き続けた。
話し始めてから30分が経過しても話は尽きなかった。自分の悩みを周りに相談できないことが孤立無援を招き、この事態を招いたことを僕らは痛感する。つけ入る隙を与えたのは穂岐山社長だ。犯人捜しがしたいわけじゃない。これは他人事ではないという認識をするべきなのだ。
「穂岐山社長が根本脱落の件でこんなことを言ってた。根本に敗因があるとすれば、それは社員を守ってやれない弱い企業に所属してしまったことだってな。石原も同様の敗因だ。やったことは良くないけど、君が被害者であることに変わりはない」
「葉月社長、もし鍛冶社長を潰したいと思ってるなら、私も協力するよ」
「それは嬉しいけど、何か有力な情報でも持ってきたか?」
「この契約書だけど、鍛冶社長を潰すために使えないかな?」
石原が鰐革の黒いバッグから出したのは、1枚の紙だった。
紙の正体は契約書で、そこには石原と鍛冶社長が達成されることのない約束を交わした証拠が堂々と載っていたのだ。何より鍛冶社長自身の筆跡で書かれた名前と判子がある。
「これは使えそうだな」
僕が笑みを浮かべながら契約書を受け取った時だった――。
「ちょっと待て」
咎めるように皐月が割って入った。
「皐月ちゃん、どうしたの?」
「本気で協力するなら、石原さんが杉山珈琲をクビになった証拠を出せ。杉山社長も鍛冶社長も私たちが思ってるよりずっと狡猾だ。クビになったと思わせた後、協力するふりをして、葉月グループから情報を得るための策かもしれないからな。味方になったふりをして、敵の状況報告をするのは情報戦の基本だ」
「そんなに疑わなくても……」
「それと、スマホに登録している人の名簿も全部公開しろ。杉山社長か鍛冶社長の名前が登録されているならスパイの疑いを持たれても文句は言えまい。お前は穂岐山珈琲を裏切った。ただでさえ信用されなくて当たり前の立場だ。それくらいの誠意は見せてもいいと思うが」
皐月の言う通りだ。僕もクビについては疑っていた。
クビにするにしてはスピードが速すぎる。偽装するにしたって、もっと時間を置いてもいいはずだ。
僕とてこいつを信用しているわけじゃない。こっちも騙されたふりをして、しばらくは様子を見ようと思っていたが、こうなっては真意を確かめる他あるまい。
「……ふふっ、やっぱ駄目かー」
開き直ったように笑うと、バッグからスマホを取り出し、名簿を僕らに見せつける石原。
名簿にはきっちりと鍛冶社長の名前が登録されている。
「……罠だったか」
「何で分かったわけ?」
「その鰐革のバッグ、国内では滅多に手に入らない外国産のブランド品だ。本当にクビにされて貧困に陥りそうなら、まずは贅沢品の売却をするはずだ。でもあんたは白昼堂々とブランド品を身に着けている。クビになった身分にしては景気が良すぎる」
「そうだよ。私はバリスタとしての経験を買われて、杉山珈琲の人事部長に任命されたの。年収は以前の10倍。ぶっちゃけ年収1000万円未満は人権ないから。私はやっとの思いで、人権を手に入れたの。せっかくのチャンスをそう簡単に手放すわけないでしょ。そこのあんた、思ってたより賢いんだね」
「それはどうも」
「あーあ、つまんない。たかがバリスタ競技会のためにコーヒー会社にリスクを背負わせるなんて、本当に馬鹿げてる。あんなのどこが楽しいんだか」
情報を引き出せず、残念そうに退屈さを顔に表し、店から出ようとする。
「杉山社長に伝言してくれ……くたばれ」
どちらかと言えば、後ろを向いたままの石原に向かって伝えるように、静かに本音を口にした。
石原は黙ったまま店の外へと出ていった。これであいつも立派な黒だ。僅かばかりの哀れみも失せた。でもよく本当のことのように嘘を話せるよな。
「あず君、口が汚いですよ」
「汚いのは言葉な」
「理屈っぽいところは、昔から変わってないね」
「マスター、帰ってたんですか?」
「はい。妻が安定期に入ったので、頻繁に休むことはなくなると思いますよ」
帰って来たばかりの俊が興味深い言葉を放つ。
「えっ、安定期ってことは――」
「そういうことでしたか。おめでとうございます」
「ありがとうございます」
柚子が今年結婚した理由はこれか。
驚くべきことに、柚子は俊の子供を妊娠していたのだ。
俊はみんなからお祝いの言葉を浴びて嬉しそうだ。子供たちが生きやすい未来を切り拓くため、僕らが直面しているコーヒー戦争を必ず制しないとな。国際競争力がなくなれば、外国人観光客を確保しにくくなるし、国内市場も少子高齢化で段々と先細りになる。
僕らの壮絶な戦いには――次世代の未来が懸かっている。
「皐月も気づいてたか」
「クビになった人間とは思えないほど余裕の顔だったからな。石原さんはルックスにも恵まれているし、あのどす黒い性格がばれない内はどこにでも受かる」
「それ本当なんですか?」
「ああ。立花グループの人事部長が言っていたんだが、イケメンや美人は看板として置いておくだけでも客寄せになるから、余程性格が悪いとかじゃなければ受かると言っていた。こんなことが世間に知れたら怒られるだろうが、どこの企業も同じ傾向みたいだ。だから就活で苦戦しているのは不自然だと思った。演技は得意でも、裏を取るのは下手のようだ」
「よくやった。流石は皐月だな」
「! こっ、これくらい当然だ」
顔を赤らめながらそっぽを向く皐月。しばらくは葉月創製で飲んでから帰宅する。
伊織に石原のことを聞いてみれば、僕がどこに行くかどうかを聞いただけでなく、杉山珈琲への勧誘までしていたことが判明した。もちろん全員が断ったが、こんな活動を他でもやっていると思うと、ますます脅威に思えてくる。油断も隙もあったもんじゃない。
「どんな条件を提示してきた?」
「ポストを保障するって言われたけど、そんなものなくても生きていけるって言ってやったよ」
「それにあたしの実家を潰した人の上司の下で働くなんて絶対嫌だし」
「あの様子を見るに、かなり戦力面で困ってるのかな。杉山珈琲からも何人かのバリスタが予選突破してるみたいだけど、外国人まで参加させてるみたいだよ」
「杉山社長はバリスタ競技会を制するためのプロ契約制度を無駄なものだと思っているけど、今のバリスタはプロ志向が芽生えてることを知らない。それでもバリスタ競技会に社員を参加させてるってことは、ワンチャン優勝でも掴めたらラッキーと見たか」
「でもプロ契約を結んでいないバリスタにはモチベーションがない。僕が参加していた頃は勝つためじゃなく、暇潰しで参加してる人ばかりで、本気で競技をしている人が世界大会にしかいなかったけど、あの頃とはもう別の世界だ。国内予選の段階から本気を出さないとまず勝ち抜けない。何の対価もなしに勝とうなんて、甘いとしか言いようがねえな」
「楽しいだけじゃ……駄目なんだね」
何かを悟るように那月が言った。個人戦の大会では、まだどちらの世界大会も制覇していない。
バリスタとパティシエ、両方を究めるには時間が必要だ。実家の店の再建に時間を割いていたが、それでも那月は今年のコーヒーイベントの予選を見事に突破したのだ。
那月が参加したのはJLACだが、世界大会にはあのジェシーがいる。何だかんだでもう2年はロクに個人戦の大会に出られなかったし、来年が正念場ってとこか。
「那月、バリスタ競技会は厳しいけど、バリスタに道を開いてくれる登竜門でもある」
「そうだぞ。まだチャンスはある。私とて何度も負けた。だがそれでも諦めなかった。しつこい奴が全てを手に入れるんだ。那月にもその才能がある」
「そうだね……あず君、あたし決めたっ!」
「決めたって、何を?」
「あたし、今年はバリスタとパティシエの大会の両方に出る。もし両方の世界大会でファイナリストになれなかったら……その時は二刀流を諦めてバリスタに絞る。優子さんにはもう話したから。お願い、あたしのコーチになってほしいの」
那月が僕に頭を下げて懇願する。その目からは本気のオーラが滲み出ている。ここまでするってことは相当本気だ。個人で結果を出していないのは那月のみ。
「修業は厳しいぞ」
「――うんっ!」
顔を輝かせる那月に、僕らは希望の片鱗を見た。
運命の歯車は確実に回っている。それは他の業界も同じだった。
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