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社会不適合者が凄腕のバリスタになっていた件  作者: エスティ
第16章 愛弟子の大舞台編
387/500

387杯目「決死の愛弟子」

 ――大会7日目――


 バリスタオリンピック2023ダブリン大会も、いよいよ大詰めを迎えた。


 泣いても笑ってもここで全てが決まる。日本代表で生き残ったのは伊織のみ。


 かつてアジア代表がここまで世界を席巻したことがあっただろうか。弱点であったコーヒーカクテル部門を克服したばかりか、今度は総合スコアで強豪を圧倒するまでになった。


 ケルティックタイガーでは、ファイナリストとなった伊織に対し、スティーブンもアリスも感銘を受けたのか、僕らに豪華な料理を振る舞ってくれた。千尋はショックから立ち直れないのか、昨日ここに戻ってからすぐにベッドで寝込んでしまい、今でもカウンター席に突っ伏している。


「はぁ~。何だか緊張します」


 1人で思い詰める伊織からは他を寄せつけないオーラが漂い、誰も近づけないでいる。


「伊織ちゃん、さっきから何回もため息ついてますね」

「未だかつてないほどの重圧と、日本中の期待を背負ってる。今にも心臓が飛び出しそうだ」

「ふふっ、皐月ちゃんってば、まるで伊織ちゃんになったみたい」

「弥生、私は伊織のサポーターなんだぞ。もし私のミスで伊織が負けたら、その業を一生背負っていかないといけないんだ。今までにこれほどの責任を感じたことはない」


 伊織に共感するように、皐月が全身をプルプルと震わせながら言った。


 皐月は仕事に確かな誇りを持っている。


 彼女だけじゃない。サポーターは参加者の分身であることを肝に銘じている様子が見て取れる。


 ケルティックタイガーの扉を開ける音が聞こえた。同時にドアベルがカランコロンと来客を伝え、スティーブンとアリスの注目が扉に向いた。


「やっぱりここにいたな」

「ディアナさん」

「伊織、ファイナリストおめでとう。やっと私と同じ土俵に立てたな」

「土俵って……ディアナさんにはかなり助けられましたけど、まだこれからですよ」

「ディアナさんって、確か、前回大会でオランダ代表だったんですよね?」

「ああ。あず君からマリアージュ部門のサポーターを頼まれた。伊織は料理やスイーツの腕は高くないと聞いたからな。スイーツは私が作ったものを使う予定だったんだが、伊織が自分で作ったスイーツを使いたいと言い出して、ずっとつきっきりの指導をしていたわけだ。結果は見事にハマった。マリアージュ部門のフレーバーポイントが大幅に上がっていた。コーヒーとの相性を考慮した甘味のあるクリームチーズを使ったレアチーズケーキをクリスタルマウンテンと一緒に提供したのがかなり効いている。これは伊織自身の努力が実を結んだ結果だ。決勝は伊織のとっておきを使うんだ。味を知っているのは伊織自身だ」

「はい。でもその前に……」


 伊織が席を立ち、千尋の隣の席に腰かけた。


「どうしたの?」

「千尋君が決勝のコーヒーカクテル部門で使う予定だったアイデア、私が使ってもいいですか?」

「えっ、伊織ちゃん……それ本気で言ってる?」

「本気です。このままだと、決勝は2つの部門でしかレパートリーポイントが発生しない。でも千尋君のアイデアを使えば、レパートリーポイントが発生するようになります。私も千尋君のアイデアを何度も試していました。それなりの自信はあります」

「そうは言っても、大事な決勝で別の人のアイデアを使うなんて――」

「それを言うなら、ホエイを使ってコーヒーのフレーバーを底上げするアイデアを最初に思いついたのはあず君ですよ。丸パクリするわけじゃないんです。千尋君のアイデアを参考にして、私の新しいアイデアとして活かします。千尋君はコーヒーカクテル部門でこのアイデアを使うつもりだと思ってるみたいですけど、私はこのアイデアをマリアージュ部門で使います」

「そうか。マリアージュ部門は今大会からアルコールを使うことが認められているな。でもそうなると、組み合わせる食材は大丈夫なのか?」

「それなら問題ないです。とっておきの秘策があります」


 太陽のような自信満々の笑みを見せる伊織を前に、千尋は承諾する以外の選択肢がなかった。


 僕がバリスタオリンピック東京大会に出ていた頃とよく似ている。


 決勝の前にバリスタの方針に気づいた僕は方針を変え、見事優勝してみせたが、伊織はただ僕の道筋をなぞっているわけではない。自らの殻をまた破ろうとしているのが分かる。


 午前9時、バリスタオリンピック決勝が始まった――。


 決勝に残った5人が1人ずつ競技を行うため、観客はどのブースに行くのかを迷う必要がない。決勝用のブースは会場中央に広く設けられ、どこからでも見えるようになっている。まさに世界最強バリスタを決めるに相応しい舞台となり、ステージ設計の幅も広がるのだ。


 多くのバリスタが決勝用のステージ設計を思いつきながらも、辿り着けるのはほんの僅か。


 伊織は3位であり、3番目の競技者としてステージに立つ。サポーターチーム全員で伊織のステージをくみ上げるが、ここは予定通りだ。千尋も伊織のサポーターに加わり、自らの魂とも言える食材を伊織に託した。脱落はしたが、戦い続けるその目はまだまだこんなもんじゃないと、見る者に訴えかけてくる。


「一応用意はしたけど、ホントにいいの?」


 呆れたように目を細めながら伊織に尋ねる千尋。


「心配ありません。何かあっても私の責任です。決勝は絶対に順番が被りません。もし千尋君も生き残っていたら、後で貸してもらう予定でした」

「僕がこの食材を切らしてたらどうしてたわけ?」

「それはありません。だって千尋君は用心深い性格ですから、余分に持ってきてると思ってました。千尋君を信じていたからこそ、この葉月酒造の『日本酒』に辿り着けました。遠慮なく使わせてもらいます」

「別に構わないよ。決勝進出できなかった時点で、もう使い物にならないからね」


 運び終えた千尋がステージを降りた。


 僕も最初は正気かと思ったが、伊織は本気のようだ。


 午後1時、葉月珈琲でいつも着ている制服に身を包み、璃子から受け継いだライトブルーがステージ中央で注目を浴びた。この日まで取っておくつもりだったんだろうが、無駄にならなくて良かった。


「それでは決勝の第3競技者です。日本代表、モトスーイオリー!」


 今度は一切のブーイングがなかった。


 みんな昨日の時点で伊織が決勝に相応しいバリスタであることを認めたらしい。


 観客はバリスタたちの動きや食材の意図をちゃんと観察している。競技している時以外の姿、特にオフの時なんかは人格が滲み出る。ファンによっては毎日会いに来る人もいるが、それはバリスタの地位が上がったからというよりは、バリスタ個人の人柄が引き寄せているのだろう。


「タイム。私は子供の頃からのんびりしたカフェに憧れを持ち続けてきました。近年はコーヒー業界が全面的に勢力を伸ばし続けていることもあり、お客さんが落ち着いてコーヒーを嗜み、ゆっくりとした休憩時間を過ごすためのカフェよりも、お客さんが新しい味わいを経験し、商売を成功させるためのカフェが台頭してきました。しかし、私はそういったカフェは本来のカフェから離れていると感じています。全く新しいコーヒーを味わうことで、ストレス解消を目的とするお客さんが目立つようになってきた中で私はストレス解消ではなく、そもそもストレスを持っていたことさえ忘れさせてくれるような空間を提供することが重要であると感じました。ストレスフリーの一時をお楽しみください」


 これから提供する分のエスプレッソを抽出する伊織。アイスコーヒーとして提供するものは氷水で冷やしているし、タンパーからポルタフィルターの扱いまでもがスムーズで、見ていて全然飽きない。汚れをふき取るのも早いし、センサリージャッジに水を入れる配慮も万全だ。どこにも隙が見当たらない。


「私が今回主体的に使うコーヒーは、生産国はエチオピア、標高は2200メートル、プロセスはカーボニック・マセレーション、品種は『レッドカトゥーラ』です。葉月グループが開発し所有している『ネグサ・ナガスト農園』で栽培された新しいコーヒーです。この農園では多種多様なフレーバーを開発することを目的に様々なプロセスが試行錯誤されています。近年はコーヒー豆の研究が進み、栽培が難しいとされていたゲイシャやシドラの量産化に成功し、有り余るコーヒー豆を実験することが可能となりました」


 葉月グループが所有する農園につけられたネグサ・ナガストはアムハラ語で王の中の王という意味で、エチオピア皇帝の呼び名として知られている。名づけ自体は初代園長に就任した者に任せているが、コーヒー農園の経営をするからには、皇帝のように儲けたいということなんだろうか。


「カーボニック・マセレーションの本家はブルゴーニュ地方南部、ボジョレー村で行われるワイン醸造のための葡萄破砕、果汁搾汁、浸漬の方法で、ステンレスタンクに葡萄を入れて密封する方法です。タンク内の初期酸素と水分を得て、果皮の酵母が果肉発酵プロセスを始めます。発酵が進むにつれて二酸化炭素が発生するようになり、タンク内の圧力が高まると、葡萄が潰れて搾汁、浸漬できる仕組みです。二酸化炭素は酸素より比重が重いので、下に溜まって軽い酸素を上部に追いやります。結果的に行程後半では嫌気搾汁、嫌気発酵になるので、酸素による酸化ダメージが少ないという利点があります」


 今度は田舎でも都会でもなく、自分の家に開いたカフェを意識したステージ設計だ。


 自営のカフェということは、植えつけられたイメージに従う必要はなく、自分の思った通りの設計ができる。洒落た小物とかも置いてないし、伊織自身が気に入ったものばかりが置かれている。


 葉月珈琲がモデルとなっている伊織のステージは隙だらけで、外から見ている客がつい入りたくなってしまうような、ふんわりとした居心地の良さを表している。


 ステージポイントなんてものがあれば、これだけでスコアを稼げてしまうんだろうが、問われるのはあくまでも実力だ。ステージは文字通りただの舞台にすぎず、雰囲気を作る以外の役割はないし、どちらかと言えば、センサリージャッジを競技に集中させる意味合いが強い。


「コーヒーもほぼ同じです。ステンレスタンクにシェリーを投入し、後から二酸化炭素ガスをタンク内に注入します。すると、二酸化炭素が酸素を追い出し、嫌気発酵が行われます。酵母、酸素が共にない状態の発酵では糖分が分解されて酸味が弱くなります。アントシアニンやタンニンの影響でシェリーの果皮はパープルピンクに変色します。このプロセスによる様々な化学反応により、ストロベリー、ラズベリー、バナナ、バブルガムのようなフレーバーが生み出されます。レッドカトゥーラは元からベリー類のフレーバーを持ち、カーボニック・マセレーションによって、よりベリー類のフレーバーが強くなっています」


 まずは集中力を高める目的で、真っ先にラテアート部門をこなした。


 伊織は流行りの動物を描くことはなく、フリーポアラテアートでコントラストのハッキリした薔薇を、デザインカプチーノで非常に繊細な梅を描いた。昨日僕が気づいたことを参考にしてくれたようだ。


 僕は昨日、ラテアート部門における希少性について調べた。ホームページによると、他のバリスタとラテアートと比較し、その分類における希少性が高いほどスコアに加算される仕組みだ。


 例えばライオンを描いた場合は動物にカテゴライズされ、他のバリスタが動物を多く描けば描くほど希少性は下がり、他のバリスタがライオンを描いた場合は、明確に減点される運要素があることを知った。このことはバリスタオリンピックのホームページにも記載されているが、ルールブックが細かすぎてほとんど誰も気づかない上に、重要な変更点ではなかったため、参加者たちが注目することはなかった。


 アニマル革命に対する運営側の細やかな抵抗のように思えて仕方がないんだが……。


 続くエスプレッソ部門では、レッドカトゥーラのエスプレッソ2杯を提供した。


 更にエスプレッソ4ショット分をシグネチャー用のローヤルシロップをコーヒー豆を浸けて熟成させ、水分の割合を上げてとろみをなくすことで、無事にシグネチャー用に改良したもの、レッドカトゥーラのコーヒーから作ったホエイを投入し、全て混ぜた状態のドリンクをバキュームブレンダーに投入し、エスプレッソ内の二酸化炭素を取り除き、シルキーなテクスチャーとなる。


「このエスプレッソのフレーバーは、ストロベリー、ラズベリー、アフターにはスイートチョコレート、生キャラメルを感じます。このローヤルシロップは私の同僚が働いていたカフェの先代マスターが開発したもので、当初は既に完成したコーヒーに使うことを想定したものでした。シグネチャーとのシナジーがなく、別々に飲んだ方がマシと言えるものでした。私はローヤルシロップの水分の割合を上げて混ぜる量を最低限にしたところ、ローヤルシロップが見事にコーヒーに馴染み、このコーヒーが持つボディを補強してくれました。フレーバーは、ストロベリージャム、カシス、アフターには糖蜜、水飴を感じます」


 桜子から伝わったローヤルシロップは甘味が強すぎた。甘味の強いコーヒーとは相性が悪く、コーヒーと一体化しにくい分、どこか分離感を持ち、別々に飲んだ方がマシとさえ思えてしまう。


 伊織は見事にその弱点を克服したばかりか、ローヤルシロップコーヒーという新たなカテゴリーを作ってしまったのだ。これぞ引きこもりの真骨頂。外に出たがらず、常に研究し続けることを苦にしないあの気質、出会ったあの日からずっと感じていたものを彼女はついに昇華させたのだ。


 マリアージュ部門では、千尋から受け取った日本酒を使ったコーヒーカクテルを披露した。


 レッドカトゥーラのコーヒーにジャパニーズウイスキーを投入し、スイートベルモットの代わりに葉月酒造の初作品にして、コーヒーカクテルに合わせることを想定して作った初の日本酒、『村瀬』を投入したのだ。最後にガーニッシュとしてマラスキーノ・チェリーを添えた。


 旧村瀬酒造の社員でもある彼らに配慮した名前でのリスタートだ。


 決勝でこれを披露すれば、少しは有名になるだろうとは思ったが、伊織が披露するのは想定外だ。


 スイートベルモットの代わりということは恐らく――。


「コーヒーに混ぜ合わせたアルコールは全て日本で作られたお酒で、紛れもなくジャパニーズコーヒーカクテルと言えると思います。このエスプレッソマンハッタンに合わせるのは米菓です」


 伊織がジャパニーズコーヒーカクテルと一緒に出したのは、日本のお菓子、米菓だった。


 日本酒と米菓はとても相性が良いことで知られている。


 この大会では、甘さを伴わないお菓子はフード扱いとなり、スイーツ扱いにはならない。


「秘策ってこういうことか」

「何でも、よく親戚たちがコーヒーカクテルと一緒に好んで米菓を食べていたことから思い立って、決勝進出を果たした時に使おうと思ってたんだって」

「外国人も酒の肴には目がないからな。良いところを突いた。マリアージュ部門はコーヒーと食べ物を一緒に出す部門だ。コーヒーカクテルは単独で楽しむものだから、この部門じゃ敬遠されがちだけど、伊織はコーヒーカクテルが酒類であること、酒類と相性の良い酒の肴を一緒に出せることを知っていたんだ」

「その手があったかー。何で気がつかなかったんだろ」

「人は前例のないものには手を出したがらない。でも試せるものは全部試す伊織の習性だからこそ、この結論に辿り着くことができた」


 シェイカーでアイスコーヒーとポートワインを混ぜたものを冷えたカクテルグラスに注ぎ、オレンジの皮とシナモンパウダーをトッピングしてカフェ・ビーノを作ると、スフレチーズケーキと一緒にプレートに置いてからセンサリージャッジが待つテーブルへと持っていく。


 なるほど、今度はチーズとワインの相性の良さに目をつけてきたか。


 しかもケーキにすることで、フードとスイーツに分ける条件を満たしている。


 ルールでアルコールが解禁されたばかりのマリアージュ部門でここまで結果を出せるとは恐れ入った。僕とて伊織や千尋の準備はあまりよく見ていなかったが、僕の予想を遥かに超える出来栄えには、思わず瞬きすら忘れてしまうほどだ。千尋も見入ってしまっているし、伊織は本当に奇想天外な発想がうまい。


 伊織が最も得意であろうブリュワーズ部門では、サイフォンでコーヒーを2杯分提供し、サイフォンコーヒーにホワイトチョコレートを粉々に砕いたものを少量ミキサーに投入する。


 赤茶色に輝いていたサイフォンコーヒーは段々とカフェオレのような白みのある色へと変化する。


「レッドカトゥーラに最も合う抽出方法はサイフォンであると感じます。ホワイトチョコレートがサイフォンコーヒーの渋味や苦味を緩和し、ブルーベリー果汁を絞り出し、エアロプレスで更に濾過したものを投入することで、レッドカトゥーラが持つベリー類のフレーバーをより感じます。フレーバーは、ボイセンベリー、アメリカンチェリー、アフターにはミルクキャラメル、カカオニブを感じます」


 これで残るはコーヒーカクテル部門のみとなった。


 伊織梅酒と名づけられた大きな瓶をジャッジの目の前に置いて注目させる。


「これは伊織梅酒と呼ばれるもので、私はこれを数ヵ月以上も前から仕込み、今日まで熟成させました。伊織梅酒に使われている食材は、青梅、氷砂糖、コーヒー豆、シェリービットです。コロンビアゲイシャの豆を浸けることで、コーヒーに合うアルコールになります。シェリービットは古樽から作られたアクアビットの一種で、このお酒を色んな人に飲んでもらったり、様々な使い道を模索したところ、梅酒に合っていることが判明しました。シェリービットの蒸留所を営んでいる方が実家で梅酒を造っていて、私がその梅酒を飲むと、今までにない上質な味わいでした。コーヒーカクテルに合うと思い、シェリービットに使ってみたところ、コーヒーにも梅酒にもマッチし、コーヒーとアルコールを繋げる鍵になったのです」


 伊織は酔っ払いながらも、シェリービットの独自性に気づいていた。


 響がうちにやってきたことで舞い込んできたシェリービットは、コーヒーともカクテルとも組み合わせることができ、料理の食材でいうところの卵のような役割を発揮した。これをヒントにコーヒー梅酒の中間子となる酒としてシェリービットを採用したわけだが、これが見事に噛み合った。


 まさに出会うべくして出会った運命の酒だったのだ。アイリッシュウイスキー、伊織梅酒、ペーパードリップで淹れたレッドカトゥーラを組み合わせたアイリッシュコーヒー梅酒を淹れてから、シェイカーで生クリームをシェイクして上から流し込み提供する。


 ドライ・ジンに加え、ベルモットの代わりに伊織梅酒を使い、ミキシンググラスに入れてステアする。ステアした食材をカクテルグラスに注ぎ、オリーブを飾る。エスプレッソマティーニ梅酒の完成だ。


「固定観念は時として人の可能性を狭めてしまいます。私がこれだけ多種多様なコーヒーを開発することができたのは、バリスタとして最も大切な創造性を伸ばすために固定観念を取り除き、コーヒーの可能性をより広げようと協力してくれた皆さんのお陰です。カフェも同じです。形式に囚われず、自分だけのカフェを目指していける人こそが、バリスタの可能性を広げられる人であると、私は思います。タイム」


 伊織が手を上げた瞬間、今までにない大歓声が伊織を包み込んだ。

読んでいただきありがとうございます。

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