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社会不適合者が凄腕のバリスタになっていた件  作者: エスティ
第2章 自営業編
38/500

38杯目「不純な動機」

 大会のお陰でどうにか赤字倒産を免れ、安堵していた。


 あのまま客が来なかったら、あと2ヵ月持たなかっただろう。


 しかし、璃子は進路に悩み、優子とはいざこざを起こしてしまった。


 ここ最近は随分と人通りが減った気がする。


 この時、岐阜市の衰退が本格的に始まっていたのだが、僕は気づけなかった。


 親戚には頼ろうにも頼れない。それには重大な訳がある。元々岐阜市は東京や大阪に並ぶアパレル産地と呼ばれており、高度成長期には中部地方で一二を争う地方都市となっていた。だがバブル崩壊と共にアパレル産業が衰退し、大型店舗も相次いで閉店し、路面電車までもが撤退した。交通量が大幅に減少し、更に人が来なくなったために岐阜市は空洞化した。泣きっ面に蜂とはこのことだ。親父が勤めていた会社が倒産したのもこれが原因である。親戚一同がいるそれぞれの会社も成長に歯止めがかかってしまい、その内の何割かは親父と同様の道を辿っている。


 これじゃとても支援する余裕なんてないだろう。僕を高校に行かせるための資金も、親戚一同総出とはいえ、用意できたのが奇跡と思えるくらいだった。


 みんなが執拗なまでに安定を望むのは、当時の時代背景があったからだ。


 親戚の中でも、大輔の世代は氷河期世代であり、とてもこれ以上の投資などしてもらえそうにない。璃子に投資できる可能性があるとすれば、僕が店を成功させることくらいしか方法はない。しかも失業した家族の中で、誰1人として正規雇用にありつけなかった。


 この国は一度失敗したら最後、滅多なことではセカンドチャンスがないのだ。


 いくら優秀な成績を収めて企業に入社しても、競争に負ければ追い出される。しかし、璃子の場合はそれ以前の問題だ。誰も璃子を支援せず、璃子が僕のお手伝いとして定着してしまったら、本人が満足していたとしても、それは璃子の夢を奪ったに等しい。そんなことになれば、僕は一生罪悪感を持ち続けることになる。それは精神衛生上よろしくない。


 璃子には実力と関係ない部分で極力苦労はさせたくなかった。僕自身環境に振り回されていた側面が大きいこともあり、環境を理由に夢を諦めてほしくなかった。少なくとも、璃子への大きな借りを返すまではこの店を絶対に潰してはならない。常連になってくれた人は極力贔屓にするようにした。大会で描いたラテアートを描いて出すこともあった。いつもは難しくないものを出しているが、常連には名目上は特別と言って、大会用ラテアートの練習台になってもらっていた。贔屓という名の利用だ。


 僕にとって、コーヒー用の道具は体の一部同然だった。それくらい手放せない存在になっていたし、無駄な動きもなくなっていた。これは後に大会で活かされることになる――。


 2006年も終わりが近づいてくる。


 ここまできたら初めての決算だ。


 ホントにこの年は『初めて尽くし』だった。店の経営にもようやく慣れてきた。


 やってみるもんだな。学生だった時と違って、ロクに休みも取ってないせいでマジ疲れた。でも不思議とそこまでの疲労は感じなかった。個人事業主と経営者は労働者じゃないため、いくら働いてもいいことになっている。でも誰かに雇われて労働者として働く場合は、労働基準法が定める労働時間を守らなければならない。某ブラック居酒屋の創業者がサラリーマン感覚を捨てろと言っていたが、遠回しに労働基準法を破れと言っているようにしか聞こえなかった。


 ああいうのをやりがい搾取って言うんだよなー。


 ――自分が働きづめだからお前らも働けという同調圧力だ。


 起業するよりも前から『携帯電話』を持つようになっていた。この頃は学生が携帯を持つのはタブーだったが、璃子も学校に行けなくなったせいか携帯を持つようになり、メールのやり取りをしていた。僕は電話嫌いであったため、極力メールで用件を伝えるよう周囲にも言っている。


 季節は流れ、12月がやってくる――。


 ある日のこと、またしても親からメールがきた。いつもなら時給の良いバイトばかりを紹介してくるようなしょうもないメールであるため無視しているが、今回のメールは僕を驚かせる内容だった。小夜子が僕の実家で待っているという内容だった。大慌てで実家に戻ることになるが、嫌な予感しかしなかった。同級生の間ではまだ起業してないことになっていたし、どうにか話を取り繕うことばかりを考えていた。家に着くと、そこにはお袋が言っていた通り小夜子がいた。彼女が僕に気づくと、笑顔で僕に話しかけてくる。この頃には知り合いみんなからあず君と呼ばれるようになっていた。


 僕自身、比較的仲の良い相手にはあず君と呼ばせている。


「あず君、久しぶりだね」

「う、うん……そうだな」

「あず君のお店、随分人気だったねー」


 バレたー! 遂にバレてしまったぁー!


 しかし、僕は最後の抵抗を試みた。


「えっ? ……何のこと?」

「とぼけても無駄だよ。昨日璃子ちゃんがお店に入るところ見たもん」


 小夜子は目を半開きにし、笑みを浮かべながら言った。


「はぁー、もっと遅い時間に買い物に行かせるべきだった」

「何でお店やってることを隠してるの?」

「……君には事情を話した方が良さそうだ」


 仕方なく今までの事情を全部話した。借金を又借りしたことまでは伝えていないが、日本人恐怖症を理由とした日本人規制法のことも一応話した。


「だから外国人観光客限定だったんだー!」


 小夜子は納得した様子で、いつもより大きな声を上げた。


「声が大きい」

「あっ、ごめん」

「……正直自分でもこの症状が怖いって思う時もあるし、建前上は国内からも客が来たら厨房が死ぬからってことにしてる。厄介だよな」


 バレた以上は仕方ないが、この時の僕は親戚中にバレることだけを恐れ、小夜子にも口止めした。


「多分だけど、その日本人恐怖症って精神病じゃない?」

「それ常連にも言われた。あっ、そうだ、今度美咲と一緒に来たらどうだ?」

「日本人を見たら強いストレスを感じるのに、大丈夫なの?」

「顔を見なければ大丈夫だ。それに君とは赤の他人というわけでもないし、もうバレちゃった以上はしょうがねえよ。僕の症状を知ってる人なら、まだマシだと思う」


 実際、赤の他人でないかどうかは重要だ。


 中学を卒業するまでに出会った日本人の中で、比較的仲の良い人、もしくは顔を見慣れている人は、近づいてこなければ大丈夫であることが分かった。


 問題はこの症状による制約とどう折り合いをつけるかだ。


「そっか、よく分かった」

「美咲にも店の事情を話さないとな。今度来た時に話すよ」

「ねえ、エスプレッソ注文していいかな?」

「いいけど、うちのは高いぞ。スペシャルティコーヒーしか使ってないからな」

「1杯なら大丈夫だよ」

「分かった。ちょっと待ってて」


 早速エスプレッソを淹れた。エスプレッソやカプチーノにはシングルとダブルがあるのだが、特に何も言われなかった場合はシングルを淹れることになっている。シングルで淹れると、ポルタフィルターの都合上、ツーショット分出てくるため必ず2杯入れることになるのだが、その場合は余った1杯を僕か璃子が飲むことになる。全部で10席あるカウンター席の机には、素のコーヒーを飲めない人のために砂糖が置かれているが、あまり使ってほしくはない。内装のオシャレには気を使っているが、基本的には必要な物だけを揃えていることもあってシンプルだ。所々に僕の好きなピンクが採用されている。


「みんなを呼んだら、赤字なんて一発で解消できるのに」

「自分の信念を曲げてまで続ける気はない。僕が信念を曲げる時は、この店自体なくなってると思う」

「ふふっ、そういう拘りの強いところ、全然変わってないね。私の同級生ね、みんなあず君のこと社会不適合者って言ってたの。本当は凄く良い人なのに……」

「歴代担任もみんな口を揃えて言ってたな~。そんなんじゃ社会で通用しないって」


 社会で通用しない……か……みんなが思ってるような窮屈な社会じゃ通用しないに決まってる。僕だってそんな制約だらけの社会に出ようとは思わない。


 大体よぉ、社会経験のない連中に言われても説得力ねえんだよ!


「あず君、なんか顔が怖いよ」

「えっ……そんなに怖い顔だった?」

「うん、もしかして昔のこと、思い出させちゃった?」

「小夜子が何もしなくても、いつも思い出してる。不純な動機だけど、今は散々僕を迫害した連中を見返すことがやる気の原動力になってる。僕がこの店を成功させれば、あいつらの不当な教育や迫害が間違いだったことを証明できるからな」


 自分がいじめていた相手が社会的に成功したら、それで顔が真っ赤になった人も多いだろう。それによって自分に人を見る目がなかったことを自覚せざるを得なくなる。中にはあいつは俺が育てたとか、成功できるようにあえて厳しくしごいたみたいなことを抜かしやがる奴もいるだろうが、そう言ってる奴で人生がうまくいっているパターンは見たことがない。言わせておけばいい。


「何でそれで証明できるの?」

「そりゃ成功した人が学校で迫害を受けていたとなれば、今度はその学校が世間から白い目で見られることになる。日本人にとって何より辛いのは、世間から見捨てられることだ。だから謝罪はいらない。その代わり、別の形で復讐させてもらう」

「あず君の敵じゃなくて良かった……」


 小夜子が若干ドン引きしながら呟く。


 自分の携帯の時計を見ると、ラストオーダーの時間であることに気づく。


「あっ、もうラストオーダーだけど、注文がないなら、今日はもう店仕舞いだ」

「もうそんな時間なんだ。でも何で店仕舞いなの?」

「今日はこれ以上客が来そうにないし、ラストオーダーを迎えたら注文を受けつけないことにしてる」

「ふーん、このお店って、時計がないけど、何で?」

「時計があると、時間が気になってゆっくりできない人も少なくないし、時間を忘れて至福の時を過ごしてもらうために、あえて時計は置かないようにしているわけだ。それにみんな携帯の時計とか腕時計を見るだろうし、持ってなくてもラストオーダーの時だけ伝えればいい」


 小夜子は思わず口角を上げ、満面の笑みを浮かべた。


 ――えっ? ……僕、当たり前のことを言っただけなんだが。


「そこまで考えてるんだ。凄い。あーあ、日本人規制法がなかったら、私、全力でこのお店をみんなに宣伝してたのになー。残念」

「僕が日本人恐怖症を克服したら、その時は全力で頼むよ」

「どれくらいで治りそうなの?」

「分からん。1年後かもしれないし、一生治らないかもしれない」

「じゃあ治るまで待ってる。もう帰るね。今度は美咲を連れてくるから」

「うん、よろしく頼む」


 小夜子は葉月珈琲を後にする。


 しばらくすると、僕はある光景に驚き絶句する。


 驚くべきことに、璃子が優子を連れて葉月珈琲に入ってきたのだ。


「ふーん、ここがあず君の隠れ家なんだねー」

「お兄ちゃん、ごめん。断りきれなかった」

「……どうしてこうなった」


 天井を見ながら嘆くしかなかった。


 優子はいつものように嬉しそうな笑顔を見せると、カウンター席に腰かけた。璃子は何事もなかったかのように、買ってきたものを冷蔵庫に入れる作業を始めていた。


「あず君、この前はごめんね。あたし、アイリッシュコーヒー飲んでたから、それで少し酔ってたみたいなの。突き飛ばされて目が覚めた……反省してる……とんでもないことをしようとしてた」

「あー、あれね。僕も突き飛ばして悪かったよ。あのさ、何で僕を部屋に連れ込もうとしたの?」

「!」


 僕の言葉に優子の表情が厳しくなる。もしかして言いにくいのか?


「お兄ちゃんってほんっとうにそういうところ鈍いよね」

「何が鈍いんだよ?」

「いいの、もう慣れたから。あたし、あず君が好き。だから連れ込もうとしたの」

「まさか……僕の息子を狙おうとしてたのっ!?」

「……そうだよ。言っとくけど、みんなあず君を射止めようとしてるんだからね」

「そんな怖いこと言わないでよぉ~」

「聞いたお兄ちゃんが悪いよ」

「璃子まで冷たいよぉ~」


 知らぬ間にみんなを敵に回している。そんな気がした。


 ――僕が何をしたっていうんだ? マジで分からんぞ。


「じゃあ今度はあず君が答えてね」


 優子が顔をニヤリとしながら一転攻勢に出る。


「あず君は何でここでみんなに内緒でカフェやってるの?」

「誰にも言わないって約束するなら答える」

「分かった。璃子ちゃんからも言わないように言われてるし」


 全ての事情を説明する。親戚からお金を借りたことは言わなかった。


 しかし、まるで全てお見通しと言わんばかりに鋭い指摘をされる。


「このカフェを開くのにかかるお金はどうやって調達したの?」

「……お金は親戚に借りた。でも親戚はこのことを知らない。元々高校に行くために貸してくれたお金だからな。正直結構ピンチだ」

「それ詐欺じゃないの?」

「相手が銀行なら訴えられてるかもな。でも、高校には行きたくなかったからさ、どうしてもみんなと同じ道を歩みたくなかった。絶対にうまくいかないのが目に見えてた」

「あず君は集団苦手だもんね。分かった。じゃああず君がお店を成功させるまで黙っててあげる」

「それは助かる」


 ホッと胸を撫で下ろした――。


「但し――その代わり、あたしとつき合ってほしいな~」

「えっ!? まさか僕の息子を差し出せと言うのか?」

「そこまでは言わないけど、時々でいいからさ、デートしようよ」

「つまり、仮交際ってことですか?」


 璃子が僕の代わりに確認する。


 本命としてつき合うなら、当然璃子とも相性の良い人じゃないと。


「そゆこと。だーかーらー、これからよろしくねっ、ダーリン」

「その呼び方は止めてくれ」


 これ……一歩間違えば脅されてたよね?


 まあでも、僕にはそもそも払う金がないし、今はとても借金を返せない状態だ。


 脅すメリットが全くないのが幸いだ。


「じゃあそろそろ帰ろうかな。もう閉店時間みたいだし」


 優子はのっそりと立ち上がると、そそくさに店を出た。


 その後、優子はうちの常連になった。


 本格的な冬を迎え、クリスマスの時期がやってくる。昼過ぎに美咲と小夜子が来店する。美咲にうちの事情を話そうとしたが、彼女はもう僕の事情を知っているようだった。彼女は色んなところにコミュニティを持っているため、新しい店の情報はすぐ入ってくるが、美咲は知りながら黙ってくれていた。


「まさか高校に行っていると、みんなに嘘を吐いてるとは思わなかったな~」

「いつから知ってたんだ?」

「半年くらい前かな。外国人観光客限定のお店なんて珍しいからチラッと見に行ったの。そしたらあず君が外国人観光客を相手に商売してたのが見えたってわけ」

「知りながら黙っててくれたのは、僕が日本人恐怖症なのを知ってたからだよね?」

「うん。外国人観光客限定なのも、それが理由だってすぐに分かった」


 美咲の配慮のお陰でどうにかばれずに済んだ。


 ただ、それでもいつばれてもおかしくはなかった。うちの店の存在を知る者が徐々に増えてきたのがその証拠だ。この状況が、いずれ親戚にもばれることを()()していた。


「これは3人だけの秘密だからな」

「分かってるって」

「それはいいけど、ここのメニュー高すぎない?」

「高級な豆を使ってるからな」

「メニューが飛び出す絵本なんだ。面白いね」

「喜んでもらえて何よりです」

「もしかして璃子ちゃん?」

「はい。訳あってここで兄のお手伝いをしています」


 自分のしたことが原因で、璃子も『道連れ不登校』になったことを伝えた。


 2人共璃子に同情していた。美咲は髪が以前の長さに戻っていた。断髪式で首に届かないところまで切られたのが嘘みたいだ。2人にもラテアートやピアノを披露した。


 一応美咲にも事情は説明した。


「じゃあ、あず君は学校を追放された後、高校に行くのが嫌で起業したってこと?」

「そういうことになるかな。本当はニートになりたかったけど、ニートを養う金はないって親に言われちまったからさ。就職も嫌だったし、消去法で自営のバリスタを始めてみたってわけ」

「カッコ良いじゃん。私もそれでいいと思う。全然学校に馴染めてなかったし」

「そういうことだ。学校であれなら、会社とか絶対無理」

「ふふふふふっ、あず君が会社に就職するところとか想像できない」

「この女子っぽい外見にスーツは似合わないよねー」


 2人が僕のことを話題にしながらコーヒーを飲む。どうやら気に入ってもらえたらしい。


 いつものように唯とジェフの親子が入ってくる。


「あれっ、日本人恐怖症治ったんですか?」

「治ってたら今頃厨房が死んでるよ」

「じゃあこの人たちは?」

「僕の元同級生だ。比較的仲の良い人は近づかなければ大丈夫らしい」

「つまり中学を追い出される前に知り合った人たちなんですね?」

「そういうことだ」


 唯たち4人がお互いに自己紹介をする。


 僕の知り合いの中でも特に良心的な人たちが濃縮されていたのか、すぐに意気投合した。ジェフの友人であるカール・バルテンも入ってくる。


 近所に住むデンマーク人であり、ジェフが紹介してくれた。


 ジェフはいつものようにカールと話しながらコーヒーを飲む。地元岐阜市に住む外国人は、日本人恐怖症による制約の中では貴重な常連だ。


 この日はクリスマス限定メニューを売り出し、全員が同じ商品を注文する。


「へぇー、お父さんがイギリス人で、お母さんが日本人なんだ」

「はい。お父さんが元々日本マニアで、それが元でお母さんと出会ったんです」

「不思議なことに、唯に対しては日本人恐怖症が発動しなかった」

「最初にあず君と会った時は、もう無理だと思ってました」


 唯は僕と出会った時のことをみんなに話した。


「正直だね」

「外国人のふりをすれば良かったのにー。私だったらそうしてたかも」

「でも、そのやり方はあず君に申し訳ないですよ。それにそういう発想自体なかったので、最初はずっと迷ってたんですよね……」


 唯、美咲、小夜子が来てからしばらくの時間が過ぎた。すると、外からもう1人入ってくる。


 入ってきたのは優子だった。この日は璃子が優子を呼んでいたのだ。


「お待たせー、ちょっと遅くなっちゃったー。はいっ、クリスマスプレゼント」

「えっ!? これコーヒーミルじゃん」

「あず君がコーヒーミル壊れたからグラインダーに頼りっぱなしって言ってたでしょ。だから金華珈琲のマスターに頼んで、最新の使いやすいコーヒーミルを選んでもらったの」

「優子……ありがとう。大好きっ!」


 満面の笑みを浮かべて礼を言った。


 バリスタにとって、コーヒー関連のプレゼントはこれ以上にないほど嬉しいものだ。


「そっ、そう!? よ、良かったぁ~」


 優子は顔を赤くしながら片手を胸に当ててホッと胸を撫で下ろした。この時だけは何故か雌の顔になっている。可愛いな。唯たちは茫然としたまま、僕と優子の会話を眺めている。


 唯たちの雑談はラストオーダーの時間まで続いた。


 動画で宣伝していたこともあり、他の外国人も来てくれた。この日だけでいつもの3倍以上の売り上げを記録していた。この年はギリギリではあるものの、どうにか黒字で終えることができた。


「そろそろ帰ろうかな」

「私はもう1杯飲んでいこうかな」

「じゃあ私も残る」


 美咲が帰ろうとするが、小夜子も居座りを決め込むと、唯も一緒に残ろうとする。


 一緒じゃないと帰れないのかな? 女子の関係はやっぱり分からない。これで日本人規制法のことを言われても、全ての日本人を入店禁止しているわけではないという言い訳ができる。


 比較的仲の良い人が常連化していけば、少しは症状がマシになるかもしれない。

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