370杯目「踏み込んだ愛」
第15章終了です。
次回からはハプニングな大舞台編を公開します。
あず君たちの活躍をお楽しみください。
5月上旬、バリスタオリンピックまであと1ヵ月。
千尋は村瀬酒造改め、葉月酒造の日本酒を使ったコーヒーカクテルで勝負する方針で固まったようで、伊織は千尋への対抗馬を用意するかのように、シェリービットを使ったコーヒーカクテルを使うらしい。
那月は2人のフードとスイーツを作り、響はコーヒーに合わせるアルコールの分量を指導する。桜子はそれぞれの用途に合った焙煎を編み出し、目に見えない形で2人に貢献している。各メジャー店舗に予定の組み立てから宿泊先まで手配してもらっているため、すんなりと予定が決まった。
大会1週間前には現地集合し、調整を進めるわけだが、何より大事なのは環境に慣れることだ。
ゴールデンウィークの日曜日、この日は親戚の集会があるため、店を全て貸し切りにする。
親戚一同が固唾を呑んで見守る中、伊織はバリスタオリンピックで出す予定の作品を全て作り上げた。
「――できました。これが私にできる全てです」
「……僕が駄目だって言ってもこれで挑むか?」
「はい。できることは全部やりました。これで負けたら、堂々と才能なかったと言えます」
「分かった。じゃあもう何も言わない。そのメニューで玉砕してこい」
「はいっ! ……ていうか玉砕って」
目を半開きにさせながら僕に目を向ける伊織。白いスカーフを頭に巻き、集会用の料理まで作っていた伊織も可愛らしい。まるで家庭科の調理実習に参加する子供のようで、ずっと見守っていたくなる。
――いかん、これじゃ父親と娘みたいだ。
伊織の提案により、僕は親戚一同に伊織の作品を提供し、評価してもらうことになったわけだが、葉月家も楠木家も100年以上昔からコーヒーに精通している古参勢だ。認められるのはそう容易くはない。何だかんだでうちの親戚が最も厳しいセンサリージャッジだ。
「――美味しい」
「うん、いけるな」
「これ、本当に梅酒を使ってるの?」
「はい。コーヒーカクテルに合った梅酒を独自に開発しました。私が思い描いていたコーヒーカクテルをなかなか作ることができなくて、選考会の時は勝ちきれませんでした。特にコーヒーカクテル部門で差をつけられたのが決め手になって……本来であれば、私にはバリスタオリンピック本戦に参加する資格さえありませんでした。穂岐山珈琲からの参加者は、もしかしたら今回が最後になるかもしれないと、穂岐山社長に言われました。今年のバリスタオリンピックは選考会での雪辱を果たす最後のチャンスなんです」
「応援してるよ。伊織ちゃんならきっと優勝できる」
「ありがとうございます」
大樹のおっちゃんが背中を押すように言うと、伊織は自信を示すように言葉を返した。
伊織にとっては根本との最後の戦いになるかもしれないだけあって、油断もなければ慢心もなかった。
全メジャー店舗が伊織と千尋を手厚く支援する土壌が整う中、親戚からも背中を押されてしまっては、尚更負けられないと、伊織の背中が語っている。みんなすっかりと僕の妾としての伊織を受け入れ、家族同然に接している。天涯孤独となり、身寄りがなくなっていることへの同情もある。
静乃も莉奈も伊織を受け入れるとは言っていたが、わざわざ少し遠めの家から、毎日うちに来るのもどうかと思うし、嘘を吐くのが下手な伊織の言動を見ていれば、僕と結ばれていることなどすぐにバレる。身内も世間の一部である以上、伊織にとっては僕ら以外に気を緩められる相手がいないのだ。
「伊織ちゃん、ちょっといい?」
美羽が伊織の手を引き、バックヤードへと連れていく。
「えっ、どうかしたんですか?」
「ねえ、あず君とは夜の方どうなの?」
「えっ……」
悪戯っ子のような顔の美羽が伊織に小声で投げかけた。
「だーかーら、あず君とは恋人なんでしょ。だったら、夜の営みもそれなりにやってるんでしょ?」
「それが……その……」
「もしかして、全然やってないとか?」
「……はい」
魂が抜けたように覇気のない返事をする伊織。
「そりゃフラストレーションも溜まるわけだ」
「フラストレーション?」
「だって伊織ちゃん、あず君を見る度にため息吐いてたよ」
「……あず君は大会に集中させようと、私を気遣ってくれているんです」
「気遣うなんてあず君らしくないなー。恋人だったら、全身を触ってもらうだけじゃなくて、気絶するくらい気持ち良くしてもわらないと、伊織ちゃんとしてはフラストレーション溜まり放題でしょ。そんな状態で大会に集中しようなんて、無理があると思うよ。ずっと我慢し続けている感情が味に表れてたし」
「えっ、そうなんですかぁ~!?」
「あたしもバリスタだよ。葉月珈琲で鍛えられてるから。ふふっ、伊織ちゃんは分かりやすいなー」
「はぁ~」
複雑な想いが詰まった小さな胸に手を置き、呼吸を整えながらも長めに息を吐いた。
「ほら、またため息」
「すみません……気持ちに余裕がないのかもしれません。大会前ですから」
「やっぱ抱き合うだけじゃ駄目か」
「あず君、何で伊織ちゃんを気持ち良くしてあげないの? これじゃ飼い殺しじゃん」
「いや、だって……妊娠させるわけにもいかないし」
「このままだと伊織ちゃん、実力と関係のない部分に不安を抱えたまま、あの大舞台に挑むことになるんだよ。こんな状態で大舞台のプレッシャーに耐えられるのかな」
「……じゃあどうしろと?」
「そろそろ覚悟を決めたらどうなの? 恋人のできた女の子は定期的に心も体も全部気持ち良くしてあげないと、どこかで限界を迎えるよ」
「……」
美羽の言葉は僕の心に刺さるだけの重みがあった。かつて美羽と仮交際していた時と同じ目だ。
美羽からの要求を拒み、結果的に失望を買ってしまった。伊織からも同じ物を買おうとしている。美羽は暗にそれを伝えてくれている気がした。伊織に振られるなんて……そんなの絶対に嫌だ。伊織はあんなにも求めてくれているのに、ずっと大会のことばかり考えていた。
「伊織、君はどうしたい?」
「……あず君のことは愛してます。正直に言えば、一緒に寝るだけじゃなく、あず君を感じたいんです。贅沢な悩みなのは分かってますけど、日に日に欲が増してくるというか、唯さんとはすんなり体を重ねるのに、私はずっと我慢させられているような気がして」
「唯は引退してるからな」
「じゃあ、私が引退すると言ったら、私とも――」
「嫌だ」
脊髄反射で僕の口が動いた。伊織には唯と同じ目に遭わせたくない。
「何で即答なんですかっ!?」
「唯は優秀なバリスタ競技者だった。でも僕がその才能を台無しにしてしまった」
「台無しにした?」
「まだこれからって時に唯を妊娠させちゃったからさ。唯はまだ18歳で、バリスタとしても伸び代があったのに、僕は唯に要求されるがまま、勢いに身を任せてしまった。唯はバリスタとしての才能を持ちながら、夢を追うより、僕と結ばれることを望んだ。いや、最初っからこっちが本命だった。もし僕が唯を妊娠させてなかったら、どこまで伸びてくれるかと思ってな」
「唯ちゃんは才能あるもんねー。あたしが葉月珈琲で1年間臨時スタッフやってた頃、あず君たちが大会でいなくなった時なんか、唯ちゃんが実質マスター代理の働きぶりで、とても引退したバリスタとは思えなかったの。あたしもバリスタを続けていた世界線の唯ちゃんを見たかったとは思うけど、何より本人が望んでるんだし、あたしはそれで良かったと思ってる。唯ちゃんの性格を考えると、自分だけ独占するのは良くないって思ってたのかも。幸せを分けてあげたいって思っちゃうところは、唯ちゃんらしいかな」
「僕以上に見透かしてるな」
「女同士だから分かることもあるの」
ウインクをしながら美羽が人差し指を立てた。誰かに自慢する時の仕草だ。
「伊織、そこまで踏み込んでもいいのか?」
「はい。後はあず君だけですよ。私はもう覚悟はできてます」
「……バリスタオリンピックに集中しろよ」
「もちろんです。これ以上我慢したら、私、心臓がパンクしそうです」
美羽が見守る中、伊織は堂々と僕を襲う宣言をする。
この日の夜、唯を子供たちと一緒に寝かせてから自室に入ると、僕、伊織の2人でベッドに横たわる。
伊織は僕に覆い被さるように乗った。僕の体は自分より少し軽いくらいの重さを感じている。伊織はすっかり受け入れ態勢だが、ここまで本能に従順忠実なのも珍しい。
いや、僕が呼び起こさせてしまったんだ。
抱きながら対面するように座ると、お互いの顔を見つめ合い、口づけを交わした。
伊織のぱっつんの前髪がとても可愛らしい。
「我が儘言っちゃってすみません」
「何言ってんの。本当なら僕が先に踏み込むべきだったのに、大会のことばっかり考えてた」
「あず君にとって最愛の恋人は、あくまでもコーヒーなんですね。何だか嫉妬しちゃいます」
「伊織にとっての最愛の恋人でもあるんじゃねえのか?」
「私にとっての最愛の恋人はあず君です。最初はこんなこと考えちゃいけないって思ってました。でもあず君のお世話になる内に、段々自分を抑えられなくなってきて。気がついた時には、本当にあず君を愛するようになっていて、あず君に救われた人生をあず君のために使いたい。一生あず君のために尽くしたいと思いました。これが……私が本当にやりたいことです。もちろんコーヒーは好きですけど、趣味は趣味でしかありません――んっ!」
僕は伊織の気持ちに応えるように、顔をクロスさせ、再び唇を重ねた――。
この後のことはよく覚えていない。
1つ確かなのは、僕がこの日、伊織を大人の女性にしてあげたことだ。
丁度10年前、僕は唯にも覚悟を決めさせた。今にして思えば、あの時が人生の分岐点だったかもしれない。一生誰とも結ばれないか、2人と結ばれるかどうかの。
翌朝――。
朝の日差しが目に入ってくる。
「あず君、おはようございます」
「おはよう……あれっ、伊織は?」
「今お風呂で全身を洗ってます。遂に踏み込んじゃいましたね」
「気づいてたのかよ」
「なんか騒がしいなと思ったら、2人が濃厚接触してましたから」
「……僕は責任を取っただけ。これであいつが大会に集中できるようになったら、僕は最高のサポーターになれるわけだ。もっとも、こんな形でサポートなんてしたくなかったけどな」
「伊織ちゃんには必要なものですよ。あの大舞台を勝ち抜く上で、安心感こそが何より大事だってこと、あず君が1番よく分かってるんじゃないですか?」
「まあな。なんか1番上の子供の面倒を見てるみたいで、心配になってきた」
「子供じゃないですよ。立派な大人で、あず君の妾です――んっ!」
唯と唇を重ねると、彼女は僕なりの不器用な愛情表現を目を瞑ったまま受け入れた。
気持ち良くなった影響なのか、僕自身も自分を抑えられなくなっている。
生殖本能が僕の全身を刺激し、恋人たちを喜ばせずにはいられない。2人分の体力が必要になり、朝からヘトヘトになっていた僕は……考えることをやめた。
5月下旬、僕が2人の恋人と結ばれてから2週間が経過する。
最近はどうも体が重い。2人を相手にするのは疲れる。でも平等に扱ってやらないと、あのじゃじゃ馬たちの気が収まることはない。伊織はあの日以降、気兼ねなく準備を進められるようになった。伊織は千尋と共に他のメジャー店舗へと赴き、ステージの設計図を確認し合っているところだ。
そんな矢先、穂岐山社長から連絡が入った。どうやら穂岐山珈琲が劣勢であるとのこと。
合併無効を争うってことは、吸収合併寸前の状態とも言える。当然だが、鍛冶社長が勝訴すれば、吸収合併が確定してしまう。いくつかの条項の他、事業理念継続を確約することを盾に抵抗を続けているが、穂岐山珈琲が不利となっており、いつ乗っ取られても不思議はないという。
ここは僕が動くしかない。伊織たちのモチベーションに影響が出ては不利だ。
アポを取ってから福井市までタクシーを飛ばし、株式会社鍛冶の本社まで赴いた。ヴィランの本拠地なだけあり、相も変わらず邪悪なオーラが社内を漂っている。僕ぐらいになると、赴いただけで大体どんな所なのかがすぐに分かる。世界中を回っていた経験が良くも悪くも役立っている。社員たちは死んだ魚のような目の下に隈ができている人が散見され、口には出さずとも、彼らの顔が全てを物語っている。
人件費を最小化し、社員1人あたりの労働時間を最大化するような企業が他社の乗っ取りを図る様は、まさに侵略だ。全力で言うなら、社会へのレイプだ。穂岐山珈琲は黒染めの最中。何ならリストラされる方が幸せと言っていい。残った者たちは漏れなく顔色も人生の質も悪化する。
クビになってもならなくても悲惨な社会って何なんだろうか。
社長室に案内され、テーブル越しに鍛冶社長と対面する形でソファーに腰かけた。
「葉月社長が来るとは珍しい。てっきりバリスタオリンピックの舞台まで遠征しているものだとばかり」
「こちとらバリスタのモチベーションに関わる問題を抱えてるんでね。何故穂岐山珈琲を狙う?」
「葉月社長は知らないようだけど、コーヒー業界の拡大は蚊帳の外にいる我々にとっても大きなビジネスチャンスなんだよ。勢いに乗っている業界の企業を傘下に置くだけで莫大な利益が見込める。君のお陰でコーヒーの消費が伸びて、大手コーヒー会社が次々と一部上場企業の仲間入りを果たしている。その一方で勢いに乗り切れない企業は吸収合併されるのが世の常だ。私が何もしなくても、穂岐山珈琲はどこかのグループ企業に乗っ取られていたと思うよ。別に悪いことをしているわけじゃない」
「だったら自分でコーヒー会社を設立すればいいだろ。穂岐山珈琲を巻き込む必要はないと思うけど」
「既にブランドが確立しているコーヒー会社を吸収合併した方が話が早い。穂岐山社長にうちの傘下になるよう良い条件で誘ったんだけどね。でも穂岐山社長は断った。だから吸収合併することに決めたんだ。吸収合併したら、穂岐山珈琲はコーヒー専門の部署として、うちに置くことになる」
鍛冶社長は立ち上がり、高層ビルの窓越しに福井市の街並みを眺めている。
「育成部を廃止するのは本当か?」
「コーヒー会社にとって、バリスタをプロスポーツ化して大会に送り出すのはリスクが高い。君も知っているとは思うが、プロ契約を交わした分の活躍をしなければ投資が台無しになる。だから多くのコーヒー会社は、バリスタを大会に送りたがらないんだよ」
「穂岐山珈琲を始めとした多くのコーヒー会社が身を切って世界に通用するバリスタを輩出してきたからこそ、コーヒー業界の地位が向上した。あんたはその土壌を破壊しようとしているんだぞ。コーヒー業界の御意見番として、見過ごすわけにはいかん。今すぐ吸収合併を中止してもらう」
「御意見番だか何だか知らないけど、内政干渉はいただけないなー」
「あんたらは蚊帳の外の存在なんだろ。むしろそっちの方がコーヒー業界に対する内政干渉をしようとしてる。葉月グループが利益を上げているのは、うちのバリスタの対抗馬として、穂岐山珈琲のバリスタがいるお陰だ。もし穂岐山珈琲の吸収合併をやめないなら、こっちにも考えがあるとだけ言っておく」
「ほう、それは脅しかな?」
「どう受け取ろうとあんたの勝手だ。でもな、僕らバリスタが身を削って築き上げてきたものを壊そうとするなら容赦はしない。もし僕の逆鱗に触れようものなら、僕はあらゆる手段を使ってあんたをぶっ潰すだろう。でも僕はあんたほど残酷じゃない。だからあんたが生き延びるチャンスをやる。バリスタオリンピックが終わるまでの間、吸収合併の裁判を保留にしてもらいたい」
殺意とも呼べる目力を高慢ちきな後頭部にぶつけた。
だが鍛冶社長は一向に振り向かない。話す気さえ失せているように見える。
「そうすれば、咎めはしないというのかな?」
「オリンピックは平和の祭典だ。だからせめて、バリスタオリンピックの期間中は大会以外のことを気にしなくて済む状態を保ちたい。ただそれだけ。それにバリスタオリンピックには、あんたが潰そうとしている穂岐山珈琲育成部のバリスタも参加する。分かってるとは思うけど、そいつらの参加を阻止した場合も宣戦布告と見なす。神聖な勝負をしようという時に、つまらん邪魔をされるのは不愉快だ」
「なるほどねぇ~」
「この提案に対してイエスかノーで返事してくれ。今この場でだ。そしたらすぐ帰るから」
「……イエス。バリスタオリンピックが終わるまで吸収合併の話は保留にしよう。それでいいかな?」
さっきよりも怒り気味の低いトーンを放ち、ようやくその顔を僕に向けた。
「その言葉が嘘じゃないことを祈ってる」
言葉を言い残し、僕は本社ビルから退去した。
とりあえず時間稼ぎはできた。バリスタオリンピックが終わるまでの間にあいつの弱みを握って吸収合併を阻止しなければ、穂岐山珈琲はおろか、育成部すら守ることはできない。
このことを最も早く伝えるべき相手にメールを送った。
『美羽、さっき鍛冶社長と交渉してきた』
『それで……どうだったの?』
『バリスタオリンピックが終わるまでの間、吸収合併の話は保留ってことにしてもらった。穂岐山珈琲からもバリスタが参加する以上、僕が全くの無関係ではないからな』
『ありがとう。さっすがあず君だね!』
『僕ができるのはここまでだ。できれば潰し合いなんてしたくない。孫氏の兵法にも、戦いで消耗することは極力避けるべしと書いてあるからな』
『分かった。後はあたしに任せて。バリスタオリンピックが終わるまでに、吸収合併を阻止するだけの材料を探してみせる。お父さんにも伝えておくね』
『美羽、例の話も進めておいてくれよ。念には念を入れておかないとな』
『分かった。そうするね』
ふぅ、とりあえず交渉は終わった……。
――後は美羽に全てを任せよう。
親戚の集会の時、美羽は時間があればと嘆いた。時を稼げばどうにかなるのであればと思い、一計を案じたわけだが、この提案をしたのは美羽だ。直接手を下さなくても、僕ぐらいの立場であれば、交渉に顔を出すだけで譲歩を引き出せると美羽は言った。実際、僕の立場がどれほど強いかは分からない。だが交渉するだけの立場には立っていることを証明できた。
鍛冶社長から譲歩を引き出した。これは大きな一歩と言っていい。交渉してみて分かった。甘い汁を啜ろうと、勢いのある業界を利用しようとする輩がいること、綺麗事だけでは大事なものを守れないこと。僕に世の中を教えてくれたのは、いつだって反面教師と呼ばれている連中だ。
穂岐山珈琲も大事だが、それ以上に伊織たちの邪魔をさせたくないのだ。
大舞台の日が一刻一刻と迫る中、最後の懸念材料を取り除いた……はずだった。
読んでいただきありがとうございます。
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