369杯目「迫り来る闇の陰謀」
柚子が結婚してから1週間が経つ――。
それからは呪いが解けたかのように、葉月マリッジカフェの事業が活発化し、瑞浪にも念願の彼氏ができた。僕にはこれが柚子の結婚を見届け、肩の荷が下りたからであるように見えた。
4月上旬、今年も岐阜コンの季節がやってくる。
柚子は既婚者という立場で、初めて岐阜コンを運営するわけだが、その嫌味のない表情からは説得力を帯びた覇気が湧き出ていた。やっとの思いで自分に自信が持てたのだ。柚子を含め、大半の人にとって、結婚は一人前の称号らしい。だがDVをする人が一人前の人間とは到底思えないし、僕にとってはただのタグにすぎない。結局、概念や物の価値は人が作っているということだ。
岐阜コンの朝、目覚めた僕が隣を見てみると、伊織が寝息を囁きながら僕の左隣で眠っている。
「伊織、朝だぞー」
声をかけながら伊織のサラサラした黒髪を撫でた。パジャマの中に手を入れ、決して大きくはない膨らみを揉みしだいたところで、スヤスヤと眠っていた伊織はようやく目を覚ました。
「んっ……何やってるんですか?」
「君を起こしてた」
「変な起こし方やめてください」
「変じゃねえよ。恋人の起こし方だ。唯にもよくやってる」
「唯さんが不憫です」
「でも抵抗はしないんだ」
「起きてる時なら気持ち良いですから、2人きりの時は……気持ち良くしてくれてもいいですよ」
忌憚のない笑顔を見せながら、僕に擦り寄ってくる伊織。
花のような香りが、僕の鼻の中を吹き抜けてくる。これが伊織のフレーバーか。いや、僕は何を考えてるんだ。コーヒー以外の存在にもフレーバーを感じる職業病を患っているが、人間に対しても同じものを感じるのは病気だな……個性を嗅ぎ分ける鼻は立派だが、下手に話すような性癖ではない。
「今日は岐阜コンに行くんですか?」
「やっと自信を持って人に婚活を教えられるようになったからな。柚子にとっては特別な日だ」
「免許を取ったような顔でしたね」
「結婚は世間に顔を張れる免許証みたいなものだし、それが生き甲斐になってる奴もいる」
「解釈が捻くれてますね。そんなに結婚したくないんですか?」
「あったりめーだろ。どうしても不便だと思うなら結婚するかもな」
「私は結ばれた証拠が欲しいです」
ベッドから起き上がり、虚しい目を騒がしい廊下に向けながら伊織が言った。
唯との間には既に結ばれた証拠がある。僕と伊織を結びつけている証拠はどこにあるかなんて考えもしなかった。僕らが結ばれているという事実だけで満足していたが、伊織はどうもそうはいかないらしい。これは何も彼女の我が儘ではない。恋する乙女として当然の感情だ。
伊織はキッチンの冷蔵庫の前に立つと、麦茶を取り出してジョッキに入れ、酒を一気飲みするように飲み干した。普段よりも喉が渇いているのが誰の目にも明らかであったが、伊織が水分補給を忘れるのは悩み事を持っている時だ。一緒に住んでいれば、こんなことまで分かってしまうんだな。
「あず君、伊織ちゃんどうしたんですか?」
「分からん……あいつにしか」
「伊織ちゃん、昨日もバリスタ競技の練習に没頭していたんですよ。メモがなくてもプレゼンの内容を全部覚えていて、アイデアも示唆に富んだものでした。バリスタとしてもかなり成長したと思いますけど、昔とは明らかに変わったところがあります。昔はうちに定着するために頑張ってましたけど、今は純粋にコーヒーのために頑張っています。でも……それだけじゃない感じもするんですよねー」
「いつか分かる日が来る。だからそれまでは見守ることにする。育成の基本だ」
「――バリスタオリンピックまで、あと2ヵ月ですね」
「僕が出た時は、あと半年間の余裕があったけど、この時期に行うのは日本勢にとって初めてだからな。色々と不具合が起こるのが目に見えてんだよなー」
「それは外国の人にとっても同じことですよ」
「……子供たちを頼む」
「はい」
いつものように笑顔で送り出してくれる唯。少しばかり心が軽くなった。
所帯を持っているサラリーマンは、毎日こんな気持ちで出勤しているのだろうか。
せめて満員電車さえなければ、最もまともな職業の1つにランクインしていただけに残念だ。僕が入る余地はどこにもないし、まともな職業なんて、そもそも存在しないのかもしれない。バリスタを続けていて分かった。どんな職業だろうと、傍から見れば変に見えるもので、自分が最も好きな仕事でさえ、妙な違和感を持つことがあるのだ。他の人にはバリスタがさぞ異色に見えていることだろう。
無論、それは伊織も感じていることだ。
葉月マリッジカフェに赴くと、婚活アドバイザーとして、一段と貫禄が増している柚子が、座りながら岐阜コンの参加者を捌いている。俊は葉月マリッジカフェに住むようになり、葉月創製マスターを務めながら、時折柚子の様子を見に来る生活に落ち着いている。
「あず君っ! 大変なのっ!」
突然、美羽の叫び声が聞こえた。まだ3人目の子供が生まれたばかりだというのに、元気そうで何よりである。息を切らしながら顔から汗を流し、柚子は受付を別のスタッフに任せてから美羽に歩み寄った。
息切れはしているが、汗をかいていない。同情を誘う魂胆だ。
「どうかしたか?」
「はぁはぁ、実はね、穂岐山珈琲が大変なの」
「穂岐山珈琲って、確か美羽さんのお父さんが社長を務めてるんだよね?」
「うん。社内のことを度々教えてくれるんだけど、今回ばかりはあず君に協力してもらわないといけないと思って探してたの。あず君、穂岐山珈琲を助けてほしいの!」
「助けるって言っても、一体どうしろと?」
「穂岐山珈琲が鍛冶社長に乗っ取られそうで、このままだと育成部が危ないの!」
「そこまでして息子の活躍を拒むか」
美羽が言うには、穂岐山珈琲の株が鍛冶社長に買われてしまい、乗っ取り寸前の状態だという。
穂岐山社長はギリギリのところで踏み留まっているが、乗っ取りは時間の問題であるとのこと。
不自然だ。鍛冶社長は北陸地方を拠点にしているはずだが、わざわざ東京に拠点を置いている穂岐山珈琲を乗っ取って、一体どうするつもりなんだ?
「何で穂岐山珈琲が狙われてるのか、何か心当たりはあるか?」
「あくまでも推測だけど、根本君を後継者として取り戻したいっていうのと、今伸びているコーヒー業界に参戦することを希望しているということもあって、1番弱っている大手のコーヒー会社を吸収合併することで、コーヒー事業に参加して利益を得ようとする魂胆があるって言われてる」
「穂岐山珈琲ってそんなに弱ってんのか?」
「プロ契約制度で持ち直したと思ったんだけど、やってること自体はプロスポーツと一緒だから、大金を投じてプロ契約を結んだバリスタが大会で結果を出さなかったら、投資が全部無駄になってしまう。会社にとっては実際のところ、結構な大博打なんだよ。葉月グループは順調に結果を残してるからいいけど、穂岐山珈琲は国内予選には強いものの、世界チャンピオンが全然出てこないから、宣伝広告塔が不在の状況で、1番の候補が鍛冶社長に会社ごと奪われようとしているの」
「だから穂岐山珈琲はあず君を入社させようと必死だったわけだ」
「そうなの。あず君が入りたがらないのも分かるけど、世界を相手に決勝で勝ちきれる人がいるかどうかは凄く大きいし、どこのコーヒー会社も絶対的エースを確保できるわけじゃないの。葉月珈琲だけでも、あず君以外に伊織ちゃんや千尋君まで世界チャンピオンがいるから羨ましいって言ってたよ」
「うちはトリプルエースだからな」
豪語するように言った。穂岐山珈琲はそれどころじゃないんだろうが、うちには関係ない。
穂岐山珈琲から受けた恩恵はきっちり返したし、もうこれ以上おんぶにだっこをする必要はない。
「はぁ~。皐月ちゃんが穂岐山珈琲に行くって言ってたらどんなによかったかって、お父さん嘆いてた」
「穂岐山珈琲には、手に余る逸材だと思うけどな」
「皐月ちゃんはバリスタ甲子園参加者の中でも群を抜いていたし、バリスタ競技会に出れば、確実に結果を出すとまで言われたくらいだよ。皐月ちゃんがあず君と一緒に仕事がしたいって言った時は複雑だったなー。あれで葉月グループとの戦力差がますます広がったことを考えると、逃した魚は大きかったかも。葉月グループ人事部長としては嬉しい限りだけど、同時にお父さんが不憫に思えてきた」
「美羽はどっちの味方なの?」
「そんなの選べない。あたしは葉月グループにも穂岐山珈琲にも栄えてほしいの。そのためなら何だってやる。あたしは穂岐山珈琲で育ったんだから。ねっ?」
「あず君、私からもお願い。穂岐山珈琲がなくなったら、張り合いなくなるでしょ」
美羽に加え、柚子までもが穂岐山珈琲の存続に協力的だ。
「……分かった。可能な範囲で手助けはするけど、うちがしてやれるのは、業務提携くらいだぞ」
「それで十分。あず君が味方であるという意思表示をしてくれるだけでも、抑止力になると思うの」
「美羽さん、穂岐山珈琲が乗っ取られたらどうなるの?」
「まず1番コストの重い育成部が潰れると思う。吸収合併は合併する側の体力が問われるし、余裕がない場合は不良債権の部署が真っ先に潰されて、所属社員は足りない部署に補充されるか、クビになるかも」
「根本を連れ戻す目的を考えれば、十分に説明がつく動機だな。育成部が残らないとなれば、根本も黒柳もフリーで参加することになるのかな」
「それがそうもいかないの。企業に所属している人の場合、経営者の権限でバリスタオリンピックへの参加を辞退させることができるの。つまり、穂岐山珈琲が吸収合併されたら、鍛冶社長の権限で根本君も黒柳君も、バリスタオリンピックに参加できなくなるってことだよ」
「それ……結構まずいんじゃないの?」
「うん。かなりまずいと思う。あたしは穂岐山珈琲のために、できることはやるけど、このままじゃコーヒー業界の信用に関わる問題だし、この勢いが止まってしまったら、葉月グループにも悪影響を及ぼすことになるんだから、他人事じゃないよ」
容赦のない声を僕に向ける美羽。これは牽制なんだろうか。
美羽が助けたいのは穂岐山珈琲ではなく、実の父親である穂岐山社長なのは明白だ。
コーヒー業界の動向は僕の急所だ。もしも鍛冶社長が最悪の事態を招き、バリスタオリンピックにおける日本代表の参加人数が減ることでコーヒー業界の信用を失い、葉月グループにも悪影響があるというのであれば、葉月グループは株式会社鍛冶と戦わざるを得なくなる。
とどのつまり、美羽は僕を鍛冶社長と戦わせることで、穂岐山社長を守りたいのだ。
僕は戦って勝つのがモットーの人間だが、戦いは犠牲が大きいし、なるべく避けたい。しかしながら、もしコーヒー業界の信用を懸けた戦いを仕掛けられるようなことがあれば、葉月グループも流石に動かざるを得ない。せめてバリスタオリンピックが終わるまでは何もしないようにと願うばかりだが、遠征の間に良からぬ企みを実行に移されては元も子もない。ここは僕だけ残って、鍛冶社長を見張るべきか。
用件を済ませた美羽が葉月マリッジカフェを後にする。
いつもならコーヒーの1杯くらい飲んでいくのに、それをしないのは育児で忙しいということだ。美羽には2人の息子と1人の娘がいる。この前2人目の息子が生まれたばかりで、吉樹も仕事そっちのけで育児に追われている。ハウスキーパーを勧めたが、自分の手で育てたいんだとか。
うちには2人の母親がいる。僕と合わせて3人もいれば、5人の育児はできる。
葉月マリッジカフェでドリップコーヒーを注文する。伊織の目についたサクラブルボンは最高の味わいを僕にもたらし、いつかは日本でゲイシャやシドラを作ってみたいという密かな決意を更に強めた。
「ねえ、この前言ってた国産コーヒーを栽培する計画がずっと気になってるんだけど、結局どうなったの?」
気分転換がしたいのか、柚子が別の話題を僕に投げかけた。
「あー、あれか、専門家の人が言うには、栽培できるようになるまでに時間がかかるらしい」
「柚子さん、どんな話してるの?」
仕事が一段落したばかりの瑞浪が柚子に尋ねた。
葉月グループは、2021年から沖縄の南にある無人島を購入し、世界最高峰のコーヒーの苗を植え、国産コーヒー栽培に着手している。コーヒーだけでなく、農業や気候に詳しい専門家を集い、少しずつではあるものの、国産コーヒーの栽培を目標としながら、島を開拓しているのだ。
島を購入した際、島の命名権つきであったため、『葉月島』と命名し、以降、コーヒーの栽培に特化した不思議な島となっている。森林だらけであった葉月島には広大なコーヒー農園が整備され、今では関係者のみが移り住んでいる。行く行くは国内有数の観光スポットを目指している。
コーヒーは熱帯か亜熱帯の気候でなければ栽培できないとされている。
栽培できる地域が赤道と重なっていることから、コーヒーベルトと呼ばれている。沖縄もギリギリではあるが亜熱帯に入っているため、理論上はコーヒーの栽培が可能である。気温は高いまま安定しており、雨もよく降るため、天候面での条件はクリアしたが、暴風対策がまだ行われていないのだ。
「……結構壮大な計画なんだね」
「でもあず君らしい。応援してるね」
「何言ってんの。柚子も手伝うんだぞ。各店舗にサンプルを送って、栽培するかどうかを判断してもらうからさ、準備が整ったらカッピングをしてもらうぞ」
「ふふっ、楽しみにしてる」
会計を済ませ、僕は岐阜コンの成功を祈りつつも、葉月マリッジカフェを後にするのだった――。
4月下旬、穂岐山珈琲に動きが見られた。
穂岐山社長が『合併無効』を主張して裁判を起こした。
鍛冶社長が穂岐山珈琲のコーヒー事業を引き継ぎ、バリスタ競技会からは撤退することを明言すると、穂岐山珈琲の経営陣が猛反発し、この事態に至ったわけだが、競技会からの撤退は、暗に育成部の廃止を意味していた。そうなれば多くの失業者が生まれ、バリスタ競技会に挑戦するための土壌が破壊されてしまう。ここは一度警告しておく必要があるな。
僕は東京へと赴いた。穂岐山社長が話しやすいよう、美羽も同行させることに。
社長室に入ると、以前よりも荷物が少ない。殺風景極まりない質素な印象に度肝を抜かれた。穂岐山社長の顔に覇気はなく、少しばかり痩せているように見えた。
「おっ、来てくれたか。今日は美羽も一緒か。人事部長の仕事はちゃんとやってるのか?」
「お父さんが心配でそれどころじゃないの。一体どういう状況なのか、説明してくれない?」
「分かった。順を追って話すよ」
ソファーに腰かけると、穂岐山社長が暗い顔のまま、状況を話し始めた。
「まあそんなわけで、鍛冶社長に株の過半数を買収された。俺の力不足が招いた事態だ。バリスタのプロ契約制度を利用して、バリスタ競技会を通じて会社を宣伝する手段を確保できたまではよかったんだが、次世代を担うバリスタがみんなして葉月グループへの入社を希望する始末で、海外から人材を確保する話が上がった。黒柳君はその筆頭格で、これからが楽しみだったんだが、このままじゃアメリカに返すことになりそうだ。バリスタオリンピックが終わるまで持ったとしても、厳しいかもね」
「……かなり深刻なんだ」
「もう終わりかもしれない。コーヒー事業のためにできることは、してきたつもりなんだがね」
「終わったらまた始めりゃいいじゃん」
「「!」」
2人が同時に僕の言葉に注目する。生きている限り、終わりなんてものはない。
「会社は人が作るものなんだからさ、潰れたらまた作ればいい。たとえ会社が奪われたって、今まで培ってきた知識や技術までは奪えない。どうしても育成部を残したいなら別の方法を使えばいい」
「別の方法って?」
「もし会社を明け渡すことになったら、育成部にいる連中を連れて、育成部に特化した会社を作る。根本には乗っ取り寸前で辞任してもらって、新たに設立した穂岐山珈琲に連れてくればいい。鍛冶社長の目的は根本を取り戻すことだ。向こうが嫌がらせで会社を乗っ取ろうとするなら、こっちも徹底して根本を渡さないようにすればいい。蛻の殻になってしまえば、わざわざ乗っ取る意味もなくなるだろ」
「……そうか、もし取られてもまた設立すればいい。確かにその通りだ」
「バリスタオリンピック出場を辞退させることができるのは、参加者が所属している会社の経営陣のみ。つまり根本を一時的に別の会社に移し替えて、経営権だけ守り続けていれば、無理矢理辞退させられるようなことにはならないってわけだ」
僕の言い分に2人は納得する。逃げる方法なんていくらでもある。
まともに戦って勝てないなら、まともに戦わなければいい。
何度会社を乗っ取られようとも、乗っ取る頃には蛻の殻状態にしておけば、相手にとっては抜け殻を掴まされただけだ。こうやって無駄な合併をさせることで相手の体力を奪い、最終的に侵略を諦めさせる。言わば焦土作戦だ。ただひたすらに相手の消耗だけを狙い、諦めたところで奪い返す。
僕が歴史から学んだファビアン戦略が、またしても役に立つとは思わなかった。
「でもそうなると、主要都市にある店舗はどうするの?」
「取り返せそうにないなら諦めろ。残念だけど、今の穂岐山珈琲の力じゃ、育成部を守るのが限界だな。それとも根本を差し出して会社を守るか?」
「そんなことはさせませんよ」
「「「!」」」
決意を秘めた声を聞き、後ろを振り返ってみると、根本と黒柳の2人が佇んでいる。
「そうですよね?」
「ああ。根本君が戦い続けると言うならそうしたいが、その分犠牲も多くなる。根本君1人のために会社を犠牲にすることはできん。これは根本君だけじゃなく、コーヒー業界の信用を懸けた戦いになる。日本代表の優勝候補筆頭が直前になって参加を辞退させられるようなことがあれば、コーヒー業界は信用を失う。下手をすればテレビ中継も行われなくなる恐れがある。このままいけばスポーツや芸能と肩を並べるくらいの業界になることは間違いない」
「それが父さんに阻止されようとしているんです。たとえ実の親であっても、間違ったことをしているなら咎めるべきだと思います」
「俺も出場辞退なんて真っ平御免ですよ。乗っ取りは絶対に阻止するべきです」
同意するように根本と黒柳が頷いた。本来火花をぶつけ合う間柄だ。
バリスタオリンピックを前にして、共通の敵を得た僕らは、切磋琢磨することを念頭に置きながらも、コーヒー業界の未来のため、まずは団結の意思を固めた。
僕にできることなんてたかが知れている。だが穂岐山社長は僕がいるだけで大きな力になると言った。それが本当かどうかを確かめるべく、敵の本陣で交渉するべきであると感じた。このまま奴らの所業を黙って見過ごすわけにはいかないが、僕は1つの大きな違和感を持っていた。
地方を代表する大手企業とはいえ、上京まで果たしている大手企業を乗っ取ることなど、通常であれば困難を極めるはずだ。何か別の力が働いているとしか言いようがない。那月の実家を無理矢理乗っ取り、カジモール計画を実行に移した背景にも、多くの企業が絡んでいる。
まさか……奴らはとんでもない巨悪と結託しているのか?
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