364杯目「フィヨルドの楽園」
3月上旬、僕、伊織、真理愛、桜子、響、皐月はオスロ行きの便に乗った。
千尋はお留守番である。今頃は弥生の面倒を見ながら、マスター代理を務めている頃だろう。
皐月が来たのは経験のためである。最初こそ今やるべきことではないと断ったが、日本でバリスタとしての鍛錬を積んでからでは間に合わないと皐月は言った。他のバリスタが18歳からコーヒーカクテルを学んでいるのに対し、日本のバリスタは20歳からでなければアルコールを学んではいけないという暗黙の了解がある。外国の連中と同じ土俵で勝負できなかったことも、日本勢がコーヒーカクテルを苦手としていた要因であったことは、僕も感づいていただけに、断ることはできなかった。
そして何より、上司が相手でも真っ向から対立することを恐れないメンタルを目の当たりにし、次世代トップバリスタと見切った僕は、すっかりと皐月を気に入ってしまった。
優雅な空の旅かと思いきや、桜子は緊張に満ちているのか、いつもより水分補給の頻度が高い。
桜子自身がチーム戦に参加するのは初めてだ。チーム戦ではどうしても活躍して引っ張っていくことよりも、足を引っ張ってしまわないかの方を心配してしまいがちだが、チームの士気を下げなければ、失敗したって足手纏いではない。それがチームの限界というだけの話だ。
「響さんは一度優勝しているんですよね?」
「ああ、当時は私と親父と伯父の3人で挑んだ。今じゃみんなバーテンダーだけど、私はバリスタ、親父はロースター、伯父はウイスキー工場長だった。伯父は工場を売却した後、アクアビットの魅力に酔いしれてからは、今のシェリービット蒸留所の所長を始めた。昼間は所長で、夜はバーテンダーだ。私はコーヒーを淹れていただけで、ほとんどは親父と伯父、2人の実力で優勝した。私はおまけみたいなものだ」
「何言ってんの。チーム戦はな、チームメイトがいてくれるだけで、支えになるもんだぞ。多分だけど、響に自信を持たせたかったんじゃねえかな」
「自信を持たせたかった?」
「この前カフェ&バー棚橋に行った時、昔の響は引っ込み思案で人前に出たがらなかったって、親父さんが言ってたぞ。今の響からは想像もつかないけどな」
「親父の奴、余計なことを……」
響は唇を軽く噛み、窓越しに隣の雲を眺めながら呟いた。
横顔の虚しい目が全てを物語っている。彼女の過去を全て知っているわけではないが、あの時のマーカスの顔を見た限りでは、響を育てるのに苦労したことが見て取れた。
半日以上の時間が過ぎた――。
起き上がってみると、飛行機はオスロに着いていた。
空港でスーツケースを受け取り、真冬のような外へと繰り出した。
ノルウェー最大都市、オスロ。ここはオスロ・フィヨルドの最北奥に位置し、南側で海と接する。その他三方は山や丘で囲まれている。市域には40もの島が存在する。市域には343もの湖が存在し、オスロの重要な給水源ともなっている。たくさんの湖がある反面、市域には川が2本しか存在しない。
アーケル川は東オスロと西オスロを分ける境界線である。アルナ川はオスロの郊外、工業地区を流れている。近隣諸国の首都と比べると人口が少ない。市内の3分の2が自然保護区に指定されているためだ。市の周辺はたくさんの自然や公園で囲まれていて、市街に近い地域でも野生のヘラジカが歩いている。
僕らは高山を上るような重装備で予約したホテルへと向かう。
何を隠そう、3月のオスロの気温は低く、10度を超えることが少ないのだ。
響は平気そうな顔で歩いている。彼女にとっては見慣れた光景なのか、建物には見向きもしない。だが響が確実に入ったことのない場所がある。オスロで1番の絶景が見える高級ホテルだ。帰るまではここで泊まるが、僕らは大会3日前ということもあり、タクシーでアグデル県へと向かうことに。
アグデル県はノルウェー南部に位置し、本土最南端地点が県内に所在する。西をローガラン県、東をヴェストフォル・オ・テレマルク県、南をスカゲラク海峡と接している。最近は行政区分を再編成し、東のアウスト・アグデル県と西のヴェスト・アグデル県が合併して誕生した。
地方区分では南部地方とほぼ一致する。響はアウスト・アグデル県と呼ばれた場所で生まれた。
蒸留所と思わしき場所に着くと、響は運転手にここで停めるようノルウェー語で言った。僕らはタクシーから降りると、いくつかの建物に目を奪われた。
「ここが響さんの故郷なんですね」
「ああ。すぐ隣の実家だった場所はおじさんのバーになってる」
「ここでアクアビットをシェリー樽に浸けて熟成させたシェリービットがあるんですね」
「伯父がウイスキー工場の工場長だったこともあって、スペインから取り寄せたシェリー樽を使ってシェリービットを生産している。千尋が作ったスカンジナビアンコーヒーの材料でもある。一度見てほしいと思ったんだ。千尋も連れていきたかったけど、葉月珈琲の主力が一斉に出るのはまずいし、千尋には来月出張で来てもらうことにした。コーヒーカクテルを作るなら、一度は蒸留所に目を通しておきたいよな」
「はい。私はバリスタオリンピックを制覇したいんです。ここにヒントがあると思って志願しました」
「……」
響が伊織の威圧的な目力に惚れ惚れしている。
「なあ、伊織ってあんなに覇気のある女だったか?」
「さあな。でもやる気に満ち溢れてるのは確かだ。蒸留所の隅まで見せてやってくれ」
「分かった。伯父があず君に会いたがってたんだ。早速挨拶に行ってくれ――ん?」
皐月は僕らの先頭に立ち、興味津々な目でシェリービット蒸留所を見渡している。
「皐月、気持ちは分かるが、まずは所長への挨拶からだ」
「――凄い。ここが蒸留所。しかもアクアビットの本場か」
「響、あれは未知のものに感動している子供の目だ。あいつは初めて見るものに強い興味を示す無尽蔵な好奇心を持ってる。人間が最も知識や技能を習得しやすい状態だ。好きにさせてやれ」
「皐月もこっち側か?」
「じゃなきゃここにいないだろ」
蒸留所から1人の長身で短い髭を蓄えた老人が扉を開けて外に出た。
「響! お前もう着いてたのか! てっきり明日だと思ってたぞ!」
威勢の良い快活なノルウェー語が、僕らの鼓膜を抉じ開けるように響いてくる。響だけに。
彼の後に続くように、チョッキを着た若々しい中年の女性まで現れた。
「まあね。おじさん。久しぶり。約束通りアズサを連れてきたよ」
「そうか、よくやってくれた。マーカスはどうしてる?」
「相変わらずだ。こっちはどうにか持ち直した。アズサのお陰でな」
笑顔で激しく抱き合い、思いのままの言葉を交わす2人。
「あず君、何て言ってるんですか?」
「あんまり分からないけど、何か約束をしていたらしい。どんな約束かは知らないけど」
「あの人が所長か。思ったより気さくな人だ」
クスッと笑いながら皐月が言った。早く蒸留所内を見たくてたまらない様子だ。
「あず君、うちの伯父はノルウェー語しか話せないから、私が通訳をする」
「分かった。葉月梓、よろしく」
「ああ、よろしくな。俺はエドヴァルド、こっちは妻のアルネだ」
「アルネです。みんなあなたを待ってたんですよ」
「よろしく」
自己紹介を済ませた後、僕らはWCSTCSに参加する旨を伝えた。
全てはエドヴァルドの思惑通りだった。名目上は大会のために僕を連れてきたようで、本当の理由は全くの別件だった。日本人以外の人が建前を使うところを始めて見た気がする。
葉月グループ総帥を動かすには相当な理由が必要と思っていたみたいだが、僕に対して建前なんてものはいらない。できれば直球で物が言える人と仕事がしたい。
その方が物事が円滑に進むんだが、大会に参加する機会を与えてくれたから、まあ良しとしよう。
「早速蒸留所を案内しよう。来てくれ。こっちだ」
エドヴァルドの手招きで蒸留所の中を見学する。中では蒸留所のスタッフたちがアクアビットのテイスティングや蒸留作業に追われている。日本で言うところの杜氏や蔵人にあたるのかな。
アクアビットはスカンディナヴィア諸島では一般的なアルコール度数の高い蒸留酒だ。スウェーデン、デンマーク、ドイツでは主にトウモロコシ、ノルウェーではジャガイモを主原料としている。ノルウェーでは基本的にアルコール度数40度以上、最低6ヵ月以上の期間をかけて樽熟成されている。
一定の距離毎に樽が大量に置かれている部屋に入り、エドヴァルドの後に続いた。
「うわぁ~。樽がいっぱい置いてますねー」
「あの蛇口からシェリービットが出るみたいだな」
「樽は全部スペインのアンダルシア州カディス県ヘレス・デ・ラ・フロンテーラで使われていたシェリー樽を取り寄せたもので、かなりの古樽だ。だからそこまで強い色はつかないが、濃厚な風味を味わうことができるんだよ。シェリー樽で熟成させたアクアビットだから、俺たちはシェリービットと呼んでいる。出来上がったアクアビットにスターアニス、フェンネル、カルダモン、バニラ、コリアンダーといった10種類の香草を使って風味づけをすれば完成だ」
「かなり明るい琥珀色だね」
「良かったら一度飲んでみるか?」
「もちろん。ちょっとだけなら」
外側に書かれているラテン文字が霞むくらいのシェリー樽に近づき、エドヴァルドが蛇口を捻って空けると、中からはまだ透明なアクアビットが重力に従ってコップに注がれた。
……ハーブの味わいだ。酒や薬のように舌を刺すくらいの強い癖がある。さっぱりとしたライトな味わいの酒を普段好む人が初めて飲む時は、その強烈な味に驚いて顔を顰めてしまうだろう。個性的な酒好きの方にとっては面白い味なんだろうな。ノルウェーで好んで飲むのは50歳を超えるノルウェー人男性ばかりで、若い時よりも、大人になって年齢を重ねるほど飲むようになる傾向があるらしい。好みが分かれる酒だが、ノルウェー滞在中に是非試し飲みをしてみたかった一品だ。
完成品ではない段階で飲めるのはかなり貴重だ。
印象としては薬のような強烈な味、あるいは苦いアルコールで喉を洗うような感じだ。高い度数であるため、飲んだ瞬間、燃えるように熱くなる。胃がムカムカするのは間違いなくこれのせいだ。癖がある酒が好きな響にとってはかなり好きな味で、ズブロッカ、あるいはウォッカのような風味だ。
土臭い芋焼酎のようにも感じるが、皐月に至っては風味が強烈すぎるにも関わらず、抵抗を示さない。
「千尋はこれをスカンジナビアンコーヒーとして昇華させたんだな」
「こんなに難しいスピリッツもなかなかないな」
「――これ、美味いな」
「「「「「えっ!?」」」」」
全員の注目が皐月に集まる。彼女はまだ19歳だが、ここでは合法的に酒が飲める。
皐月のきめ細やかで色白な肌が赤く変化することはなく、全くと言っていいほど酔っていないが、恋する乙女のような顔でアクアビットから目を離さない。この時点で皐月も酒に強いことが判明する。しかもこれだけ癖の強い味を理解した上で、好んで飲める才能がある。男に生まれていたら、間違いなく酒豪と呼ばれていただろう。早い内からコーヒーカクテルを学びたいという彼女の意向にも頷ける。
ここで酒を飲めることも計算ずくのようだ。九州の人って、やっぱ酒強いんだな。
「酒飲んだの初めてだよな?」
「初めてだ。でもこんなに美味しいんだな。酒は本当に奥が深い」
「皐月、酒を好きになるのは結構だが、君はまだ若い。飲みすぎないようにな」
「心配するな。酒は勝った時にしか飲まない。テイスティングでも吐き出すようにしている」
「葉月珈琲塾で学んだことをちゃんと覚えてるようだな」
「こういう時のためか」
「授業の内容も日々進歩してるからな。色んな食べ物や飲み物を経験しておけ」
「日々進歩……か」
皐月がコップをエドヴァルドに返した。
コーヒーだけじゃなく、スピリッツにも夢中のようだ。
「あずく~ん」
可愛らしい声で伊織が擦り寄ってくる。ベッドの上にいる時と同じ顔だ。
「伊織……もしかして酔ったのか?」
「酔ってませんよぉ~。あず君に夢中なだけですぅ~」
「「「「!」」」」
伊織の軽率な言葉に周囲が凍りつくように固まった。
「……今はシェリービットに夢中になってくれよ」
「あず君はずるいです。いつも私ばかり置いてけぼりにしてぇ~」
――まずい、このままじゃばれるって!
「ちょっと刺激が強すぎたかもな。旅の疲れもあるだろうから、寝かせてくる。響、案内してくれ」
「分かった」
慌てて伊織を客室まで移動させた。これには響も動揺を見せている。
伊織が目を半開きにさせながらうとうとしている。歩く力が段々と弱まり、僕の肩に頭を寄せた。
「なあ、置いてけぼりってどういうことだ?」
「知らん。酔っ払うとあることないことを言い出すんだ。こいつの悪い癖だ」
「あずく~ん、私もう……我慢……できない……です」
「我慢できない?」
「コーヒー飲むのを禁止されてる夢でも見てるんじゃねえの」
「それはかなりの拷問だな」
ふぅ、何とか誤魔化せた。酔っ払った時の伊織は本音しか言わないマシンだ。
さっさと寝かせてやるのが伊織のため……いや、僕は自分のために行動している。
妊娠回避のためとはいえ、最後に伊織を抱いてから、かなりの時間が経っている。厄介なことに、恋人という存在は多くの場合、定期的に体を要求してくるのだ。その度に僕の体力が削られることは完全に無視され、彼女たちは枕を高くして眠ることができる。これは快楽の代償だろうか。
何はともあれ、今は大会に集中しないと。伊織には苦労をかけるが、その鬱憤はバリスタオリンピックにぶつけてほしいものだ。本人もそれは分かっているが、当分酒は飲ませない方がよさそうだ。
「あず君、今日に限った話じゃないんだが、伊織はずっと何かに耐えているような顔だったぞ」
「僕も分からん。今度伊織に聞いておく。響はサポーターの仕事に専念してくれ」
「……」
返事はなかった。まだ納得はしてないって顔だな。
響と共に桜子たちと合流する。通訳である響がいなかったためか、エドヴァルドは暇そうにしている。
「伊織は大丈夫だったのか?」
「ああ。心配ない。抑え込んでいた旅の疲れが、アクアビットで解放されたらしい」
「伊織さんは下戸ですから、控えた方がいいでしょうね」
「それにしても、あんなんでコーヒーカクテル部門は大丈夫なのか?」
「大丈夫だ。あいつには味を描く才能がある。味見をしなくても思い通りの味に仕上げる才能だ」
今までの常識から言えば、自分の口に入れられないものを人に食わせるなんて、考えられない発想だ。
伊織は壁を打破しようとしている。彼女は風味を口に含まずとも、アロマだけでフレーバーからアフターテイストまでを思った通りに作れてしまうのだ。
あくまでも仮説だが、これが本当なら、下戸という弱点は克服したも同然だ。
僕や皐月でさえ持っていない――コーヒーから与えられた天性の才能である。
言ってしまえば、バリスタ版ギフテッドだ。これ以上アルコールを摂取させたら、間違いなく事実重婚がばれちまう。今後の準備は全て伊織の才能に賭けるしかない。
しばらくして昼食を食べた。夜になるまでにオスロのホテルに戻らなければならない。伊織を起こそうと客室を見に行くと、既にベッドから降りている伊織と目が合った。
「伊織、大丈夫か?」
「は、はい……ここはどこなんですか?」
「客室だ。時々人が泊まりにくるから、そのために物置きを改装したんだってさ」
「私、シェリービットを飲んだ後の記憶がないんですけど、またやっちゃいましたか?」
「心配するな。事実重婚の件がばれそうになったけど、セーフだった」
「ええっ! そっ、そんなっ! 私、一体何を――」
「落ち着け。何とか誤魔化した。でも驚いたな。シェリービットをちょっと飲んだだけであれだもんな」
「私、シェリービットを使ったコーヒーカクテルを思いついたのに、これじゃ試せないですよ」
「あの才能を使う時がやってきたな」
「本当にやるんですか?」
恐る恐る伊織が唇を震わせた。
「やるっきゃないだろ。これは常識への挑戦だ。さっ、みんなが待ってる」
逸早く部屋を出ると、廊下に立ったところで伊織が現れ、開けっ放しの扉を閉めた。
目の前に『リッケスカッツ』と看板に書かれたバーに集合する。
ノルウェー語で『幸せな宝』という意味であり、シェリービットという幸運をもたらす宝を末永く守っていけるようにと願ってつけられた思い出深いバーだ。エドヴァルドとアルネの2人がウイスキー工場で働いていた頃からの店で、響もよくここまで遊びに来ていたそうな。
寒冷地で造られたシェリービットを味わえるようだ。
全員がテーブル席に着いた。古風な風情ある木造建築の内装は、僕らに歴史を訴えかけているようだ。小物と一緒に皿やコップが棚に詰め込まれ、その1つ1つが数十年前に作られたものだ。
「これ、美味しいですね」
桜子が六角形のハートで囲まれているパンケーキを大きく切り分けてから一口頬張った。ノルウェーパンケーキの中央にはストロベリージャムとホイップクリームが均等な割合で乗っている。うちも期間限定で様々な国のメニューをカントリーフェアという名目でやれば、かなりの売り上げが見込めそうだ。
「ノルウェーパンケーキはうちの名物なの。最初はエドヴァルドのために作ったんだけど、調理を見ていたお客さんから同じものを注文されるようになって、それでメニューになっちゃったの」
「家族の歴史も詰まってるんですね」
「ふふふふふっ、そういうことになるかなぁ~」
「ワッフルのようにも見えますね」
「サクサクでふわふわで食べやすいです。ジャムとクリームとも凄く合ってます」
「ありがとう。気に入ってもらえて嬉しいよ」
笑顔が止まらないアルネは店のことやシェリービットのことを何でも話してくれた。
「ここはね、今から33年前、1990年に生まれた蒸留所なの。ウイスキー工場にいたみんなが一丸となって建てたの。元々建築家や大工だった人も大勢いるの。それから長い間、私たちが作ってきたこの味を守り抜いてきたの。ここにあるメニューもシェリービットによく合うものばかりで、一度は注文してほしいから、定価よりも値段を下げているの。お客さんに味を覚えて帰ってほしかったからねぇ~」
懐かしさを感じさせる語り口は、微風のように優しく当たり、僕らの同情を誘った。
2019年の11月頃から全世界を襲った世界通貨危機、2022年2月からのウクライナ危機、これらの影響を諸に受け、シェリービット蒸留所は売り上げが恐ろしい勢いで下降の一途を辿り、大手酒造グループによる吸収合併の危機を迎えていた。
響からも話は聞いていたが、彼らの笑顔とは裏腹に、事態は深刻化している。
あれっ、この話どっかで聞いたような……デジャブ?
吸収合併された後、シェリービット蒸留所は残してもらえるが、吸収合併する側もそれほど余裕があるわけでもなく、大幅な人員整理と内装リフォームを行うんだとか。
それはシェリービットにとって、滅亡を意味していた。
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