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社会不適合者が凄腕のバリスタになっていた件  作者: エスティ
第15章 最果てのバリスタ編
352/500

352杯目「帰属意識を持つ者たち」

 桜子と答え合わせがしたい。でも彼女は何も話してはくれないだろう。


 質問したいのにできないこの状況がもどかしい。僕を好きな者は理由を説明してくれるが、僕を嫌う人は何も説明してくれない。だから原因も分からぬまま距離を置かれてしまうのだ。


 教えてさえくれれば、人の心が読めれば、最悪の事態を避けられた場面も多かった。多分、こういうのが分からない人のことを……社会不適合者と呼ぶんだろう。何も言わずとも相手の気持ちを察することができる人は、それだけでも十分な価値があるのだ。


「前々から思ってたけど、あず君は日本人を分かってないなぁ~」

「何が分かってないわけ?」

「日本人はみんなで1つだよ。自我をなくす教育をしているっていうより、自我とか自由なんて概念が元から薄いんだと思うよ。組織の中でみんなと同じことをしていないと不安になるんだよ。真理愛さんと優子さんが完全独立してないのを見れば分かると思うけど、何も気づかなかったわけ?」

「優子はともかく、真理愛は完全独立してもよかったんだけどな。柚子だってそうだし、揃いも揃って、みんな傘下独立なんだよなぁ~」

「大体の人は独立するよりも、誰かに従って作業する方が向いてるんだよ。あず君と一緒に働いていた時は凄く仕事ができていたけど、今はマスターの肩書を持ってはいても、ほとんど俊樹さんの指示で動いているみたいだし、事実上のマスターは俊樹さんになってるんだよ」

「指示される方が楽ですもんね」

「分からなくもないが、あず君が言いたいのは、今後そういう人は淘汰の対象になるってことだろ」

「みんなを役立たせるっていうよりも、役立たずが出てきても問題のない構造を作ればいいじゃん」


 千尋に言われて初めて知った。他のみんなの方が人の適性をよく分かっている。


 いや、適性じゃなく、気持ちが分かるんだ。何に向いているかよりも、本人が何がしたいかの方がずっと重要なんだ。だったら何故、みんな一向に完全独立を果たさないのか、そこがずっと気になっていた。


 みんなを活躍させるなんて、完全にエゴだよな。


「ちょっと行ってくる」


 桜子が去っていった方向へと駆け足で走った。日頃の運動の成果が出そうだ。


 夏が終わったばかりでまだまだ暑いのか、すぐに汗をかいた。会場内も外の園長で、全ての出入り口から風が吹き抜けになっているのが幸いか。桜子の後姿が見えた。会場内で限定品となっているコーヒーを口に含み、その背中はさっきまでのことを忘れているかのように楽しそうだった。


「桜子」


 聞こえるかどうか分からないくらいの弱々しい声をかけた。


「……どうしたんですか?」


 数分前と変わらない低いトーンで言葉を返す桜子。


「さっきはごめん。桜子のこと、何も考えてなかった」

「……いいんです。葉月グループが独立した個人の育成に力を入れていることは知っています。でもみんながみんな立派な人間じゃなくて、組織の中でないと生きていけない人も数多くいます。みんなが個人事業主になったら、きっと滅茶苦茶な社会になると思います」

「完全独立すれば好きな相手と仕事できるのに、何で組織に拘るのか、僕には意味が全く分からん」

「もちろん、仕事相手を選べるに越したことはありませんけど、それだと最終的に知見を狭めてしまいそうで怖いんです。色んなタイプの人を知っておけば、自分がどんな人と相性が良いのかがハッキリ分かるようになりますし、相性の悪い人との距離の置き方も分かるようになります。それにあず君だって、集団生活が苦手と言いながらも、こうして自分の組織を作ってるじゃないですか」

「うちは親と学校の代わりに生きる力を育ててるだけなんだけどな」

「葉月グループの理念、読ませていただきました。経済的自立、精神的自立、生活的自立、バリスタの仕事を通して、この三大自立ができている人間の育成をする。とても素晴らしいことだと思います。私が葉月グループに入ったのも、利益のためじゃなく、人々の生活のためにある企業だと知ったからなんです。立派な理念を豪語している企業はいくらでもありますけど、ここまで社員や子供のことを考えている企業は初めてです。志の低さを思い知らされましたけど、ここなら自分らしい生き方ができると思いました」


 みんなうちの理念を誰よりも理解している。僕以上に読み解いているようだった。


 僕が選んでいるのではなく、みんながうちを選んでくれていたのだ。


 社長になると、指導力が磨かれる代わりに社会的感覚というものを失ってしまう。桜子は就活生が面接で言いそうなことをこの場で言っているが、既に入社した今でもこんなことが言えるんだな。桜子は本気でうちの理念が本当かどうかを見定めていたのだ。


「桜子、君が望むなら……うちにいてくれ。葉月グループには、いや、僕には桜子が必要だ。うちでロースターの道を究めるまでは全力で支える。だから葉月グループを代表するロースターになって、次世代のロースターから手本にされるような存在になってほしい」

「――はい。やっと言ってほしいことを言ってくれましたね」

「うちに骨を埋めることになってもいいのか?」

「もちろんです。こんなに楽しい企業、もう二度と巡り合えないでしょうから」


 桜子もまた、絵に描いたような帰属意識を持ち、居場所を欲していた。


「それに私、先代と約束してたんです」

「約束って、どんな?」

「もし朝日奈珈琲が潰れたら、葉月珈琲で働いて欲しいと言われました。それが最期の言葉でした」

「遺言だったか」

「美羽さんにこのことを話したら、もし空きがあった場合は、入社できるよう手配すると言ってくれたんです。一応入社試験は受けましたよ。内定が決まった時は本当に嬉しかったです。先代はあず君のことを誇りに思ってました。私も葉月珈琲が好きなんです」

「……よろしく頼むよ」


 桜子から顔を背け、離れながら言った。


「……はいっ!」


 こんなにもニヤけている表情を見せたくなかった。


 彼女の顔は見えなかったが、覇気のある声から満面の笑みが容易に想像できた。真理愛と優子が葉月珈琲から離れたのは、きっと桜子のようなバリスタから修行を受けさせる機会を奪いたくなかったからだ。うちにいた連中は教える側になっているし、自分のためじゃなく、うちのために貢献できる人間なのだ。


 ――大会7日目――


 3日後、選考会が始まってから遂に最後の10人を迎えた。伊織はローヤルシロップを使ったローヤルコーヒーを使う予定だが、成長した伊織がどんな競技を見せてくれるのかが楽しみだ。


 ステージに立ち、目を瞑りながら呼吸を整える伊織。


「タイム。私は何年にもわたってコーヒーの研究をし続けてきました。中でも特に苦心したのがシグネチャーです。コーヒーに何かを混ぜると99%不味くなると言われる中、何故バリスタたちはシグネチャーに拘り、極上のフレーバーを引き出してきたか。私は原点を探るべく、バリスタオリンピック創成期から活躍するバリスタたちのシグネチャーを研究し、答えの1つに至りました。今日は答えを見せる時です」


 伊織は手慣れた動きで全部門のコーヒーを抽出し始めた。


 合計20杯分のエスプレッソとドリップコーヒーの準備ができた。まずは抽出時間の短いエスプレッソ部門から始めた。ドリップコーヒーは完成まで比較的時間がかかるため、ブリュワーズ部門の手前でドリップコーヒーを淹れる工夫を導入したことで、行動範囲が一気に広がった。


 より複雑な過程を全部門に導入しやすくなったのだ。


「私が今回主に使うのは『ミレニアム』、生産国はコスタリカ、標高1600メートル、ウォッシュドプロセスのコーヒーです。中米で最も古い精製工場がある地域で生産されるコーヒーはボルドーと呼ばれています。農園はツインファームで、同じサイズの農園が数百メートル離れた所にもあります。このロットの品種をミレニアムといいます。ルメスダンとサチモールの交配種です。土壌が肥沃で森林栽培に適した品種であるため、栽培地が標高1300メートル以上あれば、高い収量と質の高いコーヒーになります」


 ミレニアムか。その名前からも伊織らしさが伝わってくる。


 伊織自身がミレニアム世代だし、そういう意味でもお似合いの品種だ。


 偶然かどうか分からないが、これが最もローヤルコーヒーに合っているんだとか。


 伊織はマリアージュ部門、エスプレッソ部門、ブリュワーズ部門、コーヒーカクテル部門、ラテアート部門の順にコーヒーを提供する。ここに来る前に飲んでみたが、どのコーヒーも非常に味が洗練されていた。それこそ僕が作ってきたコーヒーを上回りかねないほどに。エスプレッソ部門のシグネチャードリンクとしてローヤルコーヒーを提供すると、ジャッジの顔色が一瞬変わった。


「このローヤルコーヒーは、同僚が所属していたカフェのマスターが遺したローヤルシロップを元に作りましたが、最初は味が全く噛み合わず、別々に飲んだ方がマシと言えるものでした。しかし、ローヤルシロップに合った調理法や、この食材に合ったコーヒーが確立されていませんでした。このローヤルシロップを水に溶かしてから窒素充填機で窒素を注入し、クリーミーな質感を加え、コーヒーに投入し、違和感のない仕上がりになりました。ローヤルシロップは味が濃すぎるという欠陥を持っていましたが、創意工夫により、ローヤルシロップとコーヒー、これらの風味を損なわないドリンクができました。フレーバーは、シュガーナッツ、ハニーチョコレート、アフターにはマンゴーラッシー、生キャラメルを感じます」


 完成度で言えば、全競技者の中でトップクラスだ。


 このドリンクだけでどれほど加点されるか想像がつかない。


 総合スコアを伸ばす上で、飛び抜けていると書かれた最高ランクの項目にチェックされれば、他のバリスタに差をつけることが可能だ。無論、伊織もこれは知っている。


「私は新しいコーヒーを作ることの奥深さを身をもって知れたことに感謝しています。このコーヒーが業界に革命を起こすことを祈っています。タイム」


 ホッとした顔で胸を撫で下ろす伊織。


 1時間もずっと競技をし続けた疲れは並大抵のものではない。常に大衆たちに晒されながら無駄のない動きと説明をしながらプレゼンを進めるには、コーヒーの知識だけでは務まらない。


 伊織は選考会を観客とサポーターという異なる立場で2回経験している。


 初参加でありながら、緊張を感じさせない風格は、現場を経験することでしか得られないものだ。間近で世界のバリスタたちの競技を見てきた伊織は選考会を最も知り尽くしている。本人は緊張しているが、舞台の上で冷静さを保ちながら競技を行うあたり、競技会にはもう慣れたようだ。


 インタビューを受けた後、片づけを済ませてから、伊織は皐月と共に観客席に戻ってくる。競技を行っていたのは伊織だが、サポーターである皐月の方が口元を震わせながら冷や汗をかいている。


「ふぅ、何とかできました」

「お疲れさん。さっすが伊織だなー!」


 伊織に抱きつきながら喜びを露わにすると、彼女も応えるように抱きついてくる。


「あず君、気持ちは嬉しいですけど……人前ですよ」


 顔を赤らめながら伊織が言うと、控えるように僕と距離を取った。


 唯と恋人になった時もこんな感じだったな。後でたっぷり抱いてやるからな。この頃ずっと発情が止まらないみたいだし、僕と目を合わせる度に寂しそうな顔をしている。


 いつまでもお預けのままじゃ、ストレスも溜まるよな。


「そうだったな。次は千尋の番か」

「そうですね。千尋君は特に問題なさそうですけど」

「伊織さんには驚きました。近くで見ていただけなのに、緊張で手の震えが止まりませんでした」

「思うように手が動かないってことは、皐月にはまだ早いってことだ。何度もバリスタ競技会を経験し続けていれば、その内慣れてくるはずだ。僕も12年前はそんな感じだった。東京大会まで参加を延期することになったのは幸いだ。僕が出る時じゃなかった」


 ――そうとでも思わなきゃ、納得なんてできねえよ。


 皐月は伊織の荷物を持ちながら彼女と行動を共にする。従えているようにも見えるが、4年後には追い抜かれている可能性もある。立場が逆転している可能性さえあるのが、バリスタ競技の面白いところだ。


 伊織の競技が終わると、昼から千尋の競技が始まった。千尋のブースにも多くの人が足を運んでいた。メジャー競技会の内、2つを一発クリアしたことで注目を浴びている。


 余裕の笑みを浮かべながら、センサリージャッジの準備を確認する千尋。


「タイム。僕は前回のバリスタオリンピックでは日本代表のサポーターとして世界を見てきました。僕もいつかはあの舞台に立ちたい。そんな想いを抱きながら、バリスタとは何かについて考えを巡らせてきました。僕にとってバリスタとは、コーヒーの魅力を人に届ける人全般を指すものと定義しています。つまりコーヒーに携わる者、全てがバリスタです。コーヒーファーマーもロースターもバリスタなのです」


 いつも通り落ち着いている。客相手にプレゼンをし続けた練習の成果が出ている。毎日客と顔を合わせていると、それが背景のようになり、緊張しても抑えられるようになる。


「今回主に使用するコーヒーは『カトゥーラ』、生産国はパナマ、標高1800メートル、プロセスはナチュラル・アナエロビック・ファーメンテーションです。カトゥーラはブラジルのミナスジェライス州のコーヒー農園で1910年代後半に発見されたブルボンの突然変異種です。カトゥーラの一番の特徴は木のサイズです。矮小種とも呼ばれる小型の品種で、樹高も低い上に枝が密集しているため、木と木の間隔を狭めて栽培することが可能となります。つまり同じ広さの土地により多くの木を植えられるというわけで、カトゥーラの場合だと、ブルボンよりも多く作付けすることができます。その分より多くの収穫を望めるということになり、これは生産者にとって大きなメリットと言えます」


 カトゥーラと言えば、かなり昔から知られている品種の1つだ。


 1940年代にグアテマラに伝えられたカトゥーラは、それから約30年程後、コスタリカ、ホンジュラス、パナマへと広がっていき、最終的には中央アメリカ各地で栽培される人気の品種となった。


 但し、カトゥーラはさび病への耐性が非常に低く、一旦病気の流行が始まると、一気に全滅する可能性すらある。そのため、後にこの欠点をなくすよう改良を加えたカティモールという品種が開発されることになるわけだが、あえてカトゥーラを使うということは、相当な何かがあるということだ。


「このコーヒー豆にはドライングプロセスが施されています。静置乾燥室で6日かけて40度でゆっくりと乾燥させることで、オイルを豆に保存することができます。コーヒーオイルは旨味の塊です。この方法で旨味を閉じ込めたまま、ナチュラル・アナエロビック・ファーメンテーションによって追加されたシナモンのフレーバーを感じることができます。フレーバーは、シナモン、オレンジ、アフターにはチェリーとモラセスクッキーです。スプーンで5回掻き混ぜてから飲んでください。プリーズエンジョイ」


 エスプレッソ部門から始めると、プリュワーズ部門、マリアージュ部門、コーヒーカクテル部門、最後にラテアート部門をこなしていき、20杯分のコーヒーを全て淹れ終えた。


 選考会では全てのバリスタが最後にラテアート部門を選んだ。


 時間が余れば、作り直しに時間を割きやすくなるため、より質の高いラテアートを描くことができる。ルールの穴だ。早めに他の部門を終わらせれば、ラテアート部門に時間をかけてもいいのだが、次の大会では修正が入るだろうな。前々からラストラテアートが定石になりつつあり、鬼門と呼ばれるマリアージュ部門に対し、唯一作り直しがしやすいラテアート部門はスコアを稼ぎやすい穴場となっている。


 最初にこの穴を突いたのはマイケルだった。


 他の部門も作り直しはできるが、シグネチャーの作業は長丁場になりやすいため、実質作り直しが利かないようになっている。無論、ジャッジを必要以上に待たせれば減点となるが、ラテアートは短時間で何度も作り直しができるため、加点されやすく、減点されにくいという状態になっているのだ。


 対策としては1つの部門に対して制限時間を設けるか、コーヒーカップを余分に消費する度にスコアを減点するなど、方法は色々とあるが、いずれにせよルールの調整はされるだろう。


「コーヒーには無限の可能性があります。それは飲む人々を楽しませる可能性、多種多様なフレーバーの可能性です。それを広げていくことが、バリスタとしての大きな役割であると感じています。タイム」


 観客からの歓声と拍手が競技の終わりを告げるように僕らの鼓膜に響いた。


 千尋がインタビューを受けてから片づけを済ませた。


 僕は選考会1日目から放送席の特別解説として呼ばれ、他の特別解説と時間を分けていた。


 バリスタとして、ようやく競技会から逃れることができると思ってはいたが、最愛の恋人は僕を離そうとはしてくれない。そう簡単に手放すものかと腕に絡みついてくる。


 ――ん? なんか妙に腕が重いような。


「あずく~ん、やっと終わったよぉ~」


 そんなことを考えていると、千尋が乙女のような顔で左腕にしがみついていたことに気づく。


「よしよし、お疲れさん」


 やる気のないトーンで声をかけながら千尋の頭を撫でた。


「なんか伊織ちゃんの時と全然違うんだけど」

「気のせいだろ。後は結果発表を待つだけだな」


 伊織に対しては、ちゃんと褒めてやらないといけない理由があるんでね。


「でも最近のあず君、伊織ちゃんと仲良いよね」

「手塩にかけて育てた愛弟子だ」

「あのままだと伊織ちゃん、もう他の男を好きにならなくなっちゃうよ」


 根本だけじゃなく、千尋にまでばれてる。


「……無理に恋愛する義務なんてねえだろ」

「そうじゃなくて、既に恋人のいるあず君にのめり込むようになったら、最悪修羅場だよ。伊織ちゃん、本気みたいだよ。どうやって好きにさせた責任を取るわけ?」

「心配すんな。唯はそこまで器の小さい女じゃないし、伊織だって人間のできた子だ」


 目を逸らしている僕を見つめながら首を傾げる千尋。


 視線が横からグサッと刺さっているのがすぐに分かった。僕の目と鼻の先には伊織がいる。噂をすれば何とやら、僕らに気がついた伊織がやってくる。彼女はさっきから自分を宥めるので精一杯な様子だ。


「そんなに緊張するか?」


 声も体も振動するように震わせている伊織に隣から話しかけた。


 心臓もきっとバクバクしているはずだ。僕だってそうだったし。


「はい。過去2回見てますけど、当事者になると、こんなに緊張するものなんですね」

「結果発表で自分の未来がどうなるか決まるからな。心臓バクバクだろ?」

「早く終わってくれないんでしょうか?」

「集計ミスがあったら困るだろ。今は休んどけ」

「……分かりました」


 伊織はようやく落ち着きを取り戻した。選考会はまるで他の競技のような緊張感が漂っている。この風を切るような重圧感、後には引けない恐怖、伊織も千尋もよく分かっただろう。


 これが、世界最高峰に挑むということだ。

読んでいただきありがとうございます。

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