348杯目「史上最悪のお見合い」
那月が根本の真向かいにあるスタッフ用の椅子に腰かけた。
「根本さん、1つだけ言っておきたいことがあるの」
声をかけられると、カウンターテーブルに突っ伏していた根本が顔を上げた。
「何ですか?」
根本が不機嫌そうに言葉を返した。その疲れ切った老人のような顔は絶望を悟り、苦渋の決断を迫られている指導者のように苦々しく、考えることさえ恐れていることが見て取れる。
「ぶっちゃけ、根本さんはタイプじゃないかな」
某新喜劇のように体勢を崩す根本。
「ハッキリ言いますね」
「だってすぐへこたれるんだもん」
「那月さんは全然へこたれてないんですね」
「まあね。うちのスタッフはね、ちょっと変なところもあるけど、困難があっても、自分で考えて解決に導ける人たちばっかりで、一緒にいると、なんか自分がすっごく弱く思えてくるの。こういう環境にいるとさー、いちいち落ち込んでるのがあほらしくなるんだよねー。ただでさえ忙しいし」
「ストレス耐性は万全ってわけですか」
「そうじゃないの。ストレス耐性なんてなくても、生きていたら、こんなこともあるって思えるだけで、結構気が楽になるものだよ。辛いことがあった後は、ちゃんと良いこともあるから。ねっ」
那月がウインクをしながら根本に元気をぶつけた。
目には見えないけど、確かにそこにあるもの。こいつらはちゃんと分かっているようだ。うちは労働時間こそ短いが、忙しさにかけてはブラック企業顔負けだ。仕事に集中している時は、どんなに不幸な奴でも嫌なことを忘れる。考える暇をなくし、好きなことに没頭させることが、こいつらへの治療法だ。仮にも長い間受けてきた悪魔の洗脳を解くには丁度良い。
学校は嫌なことにばかり耐えるようカリキュラムを組んでいる。
そしてありとあらゆる方法で生徒から思考を奪う。悪い意味で考える暇をなくし、その反動で悪いことばかりを考える癖がついてしまっている。まずは自分ができることに没頭させて、自信をつけさせてから自分で考える癖を身につけさせる。社畜の育て方ではない。人間の育て方だ。
みんなうちに入ってからは、自信を徐々に取り戻している。
もう去年までの那月じゃない。無意識に明るい未来を描くことができている。
「それで? どうするか決まったの?」
「ではお見合いは僕の方からお断りします。葉月社長、母さんを助けてください」
「分かった。じゃあ僕が描いたシナリオ通りに頼むぞ」
「はい……」
3日後――。
お見合い当日の午前11時頃、那月と根本は福井市内の料亭へと足を運んだ。
皮肉にも敵の本拠地、しかも鍛冶社長が直々に建てた料亭だ。那月と共に料亭へと赴いた。那月は黄色を基調とした和服姿で見事に着飾り、僕も正装を着用し、葉月珈琲から福井市までタクシーで向かった。
「ねえ、お父さんと同行しなくて、ホントに大丈夫かな?」
「問題ない。栗谷社長には欠席してもらう。代わりに僕が保護者代行で行く」
「あず君が保護者ねぇ~。傍から見ればあたしの方が保護者っぽく見えるけど」
「言うようになったな。1人の命と3人の人生が懸かってるってのに」
「ケセラセラ、先のことなんか気にしてもしょうがない。あず君が教えてくれたことだよ。希望を信じて歩いていれば、必ず辿り着ける。何とかなるよ……きっと」
「那月も変わったな」
「ねえ、根本君のお母さんは助かるの?」
「心配すんな。ある人に頼んで、ドナーが見つかり次第手術ができるようにしておいた。鍛冶社長は弱みを握る腕前は天才的だけど、弱みがなくなったらもう何もできない。あいつがどんな方法で会社を大きくしてきたのかがよく分かった。経営者としては僕以上だ」
「でもこの状況であず君がいてくれたのは、本当に幸運だと思う。お見合いの方はうまくやるから大丈夫だよ。お見合いするだけでみんなが助かるんだったら、何度でもやるよ」
僕の幸運は、いつでも助けてくれる仲間がいることだ。
あいつ、うまくやってくれているといいけど、今はあいつを信じるしかない。
鍛冶と大きく書かれた木の看板の料亭に着くと、僕らはそこでタクシーを降りた。
目の前には焦げ茶色の大きな門がある。見るからに立派な木造建築で、一般庶民は帰ってくださいと言わんばかりの高圧的で厳格な佇まいだ。建築物にも作者の性格が出るもんだな。これでも会社が持ってるってことは、それなりの宣伝方法があるか、あるいはうちみたいに客層を絞っているかだ。
「こういうのを敷居が高いって言うんだっけ?」
「一応言っておくと、面目が立たないから相手の家に行きにくいって意味だぞ」
「えへへ、あたし授業中はいつも寝ていたから。バリスタとパティシエの知識しかないんだよねー」
「うち以外では通用しない自慢だな。予約の時間前だけど、もう来てるみたいだ」
「あーあ、これから打ち合わせしようと思ったのに、ぶっつけ本番かー」
「人生はいつでもぶっつけ本番だぞ。とりあえず一度振られてくれ」
「はいはい」
那月の奴、何でこんなに安心しきってるんだ?
まだ状況は相手が優勢だ。ここをどう乗り切るかで未来が決まる。
生き方が悪い人は、誰に何を言われるまでもなく、ごく自然な形で最悪の行動を選択してしまう。それは今までに得るはずだった教養のなさが生んだ結果だ。ちゃんと学習していれば、こうはならなかったと言える選択をしてきた者たちを数多く見てきた。多くの間違いは防げたミスだ。
しかしながら、ミスは実力だけじゃなく、運によるものもある。
敗者にも救済処置はあって然るべきという結論を僕は出している。
一室に案内されると、吊るされている掛け軸の前には鍛冶社長と根本が座っている。
「! 葉月社長!?」
「おやおや、何故葉月社長がここに?」
「今日は那月の親父の代役で来た。那月から直々の指名だ。一応直属の上司だから無関係じゃない。あの人はお見合いが相当ショックみたいで、寝込んじまった。後で医者の診断書を送ろうか?」
「いや、結構だ。お大事にと伝えてくれ」
「じゃあ始めようか。単刀直入に聞くけど、根本っていうのは、君の母親の旧姓か?」
「はい。今は根本ですけど、行く行くは鍛冶家に引き取ってもらうことになっています」
「まあそんなことはいいじゃないか。それじゃ、後は若いお二人で」
ホントにこういう台詞ってあるんだな。
僕は早くも鍛冶社長と共に退席する。料理は2人分だけ用意されていた。
早々と別室に移り、栗谷元社長と対談するつもりだったようだ。鍛冶社長の後ろについていく形で廊下に出ると、庭が見える廊下を歩いた。別室に入ると、そこにも2人分の箸が丁寧に置かれている。
僕とほぼ同時に鍛冶社長が腰かけた。
「本当は栗谷と対談する予定だったんだがな」
「1つ気になることがあるんだけどさ、いくら小学生時代からの知り合いとは言っても、何でそんな相手に対して、子供同士を結婚させるほどに執着するわけ?」
「……私は鍛冶家の人間として勝つことを宿命づけられていた。栗谷の彼女だった根本は私の許嫁でね。私と結婚するはずだったんだ。なのにあいつはそんな私から勝利も女も奪った。それであの手この手を使って奪い返したまでよ。父が経営していた企業は洋菓子チェーンだった。だがあいつがパティスリークリタニをチェーン展開し始めてからは会社の売り上げが落ちて、会社はスイーツ業界からの撤退を余儀なくされた。父は衰退していく会社を憂いながら死んでいった。私は会社を畳んで鞍替えすることを余儀なくされ、一度ならず二度までも屈辱的な敗北を喫したんだ。こんなことが許されていいわけがないだろう」
静かに同情を求めるようなトーンで鍛冶社長が言った。
「パティスリークリタニのチェーン店を潰したのはそれが理由か?」
「人聞きの悪いこと言うねぇ~。そんな証拠はどこにもない。ただの自滅だ」
「確かに証拠はないけど、動機があるのがあんただけなのも事実だ。もっとも、今更その部分を咎める気はないけどな。ただ答え合わせがしたいだけだ。犯人は令和恐慌がやってきたことを知って、不景気を装ってパティスリークリタニのチェーン店に風評被害を与えて潰していった。栗谷元社長が言ってたけど、令和恐慌が発生してから、利益のために食材費を安くしたっていう噂が広まったってな。食レポのサイトにもたくさんの低評価が集まってた。調べてみた結果、どれも令和恐慌が始まってから集まった低評価だった。しかも追い打ちをかけるように、あんたのチェーン店が近くに建って競合するようになった。誰かの仕業で潰れたとしても、周囲は令和恐慌による影響としか思わない。実に見事な計画だ。昔だったら、名の知れた秀才軍師にはなれたかもな」
まるで悪徳代官のようにほくそ笑む鍛冶社長。
ここで顔が緩むってことは、おおよそ容疑を認めているようなものだ。
「でもな、これだけは言っておくぞ。そんなことをする奴の家に、うちが手塩にかけて育てた大事なスタッフを嫁がせるわけにはいかねえんだよ!」
「ハハッ、君には関係のないことだろう。君こそ私の邪魔しないでほしいな」
嘲笑うかのように、鍛冶社長が顔をニヤケさせながら言った。
関係ないって言う時の口調が根本にそっくりだ。流石は親子ってところか。
「やってないとは言わないんだな」
「仮に私がそれを企んでいたとしてだ。その程度のことで会社が潰れるようなら、栗谷はその程度の経営者だったということよ。私の敵ではなかったことが証明されたわけだ」
「昔あんたの親父がされたことを、あんたはそのままやり返したってわけだ」
「私は一般客向けの料亭が段々と盛り上がりを見せていることを知って料亭チェーンに転職した。ここは料亭だが、一般客に向けたメニューもあって入りやすいことからも、料亭チェーンは見事に成功したが、後継者問題が発生した。息子の一茂が不妊症で、子供ができないことが分かった。だがうちは経営面での評判があまり良くなかった。だから娘を嫁がせてくれる人がいなかった。もう1人の息子を呼び出して、同級生のよしみで栗谷家の娘を嫁がせることを思いついた」
「復讐した相手の娘を嫁がせるなんて、とんだ因縁だな」
「那月さんのパティシエとしての腕前は父親譲りだ。それに彼女は健康で若い。きっと元気な子供を産んでくれるだろうし、バラバラになった一家を1つにまとめることもできる」
「理由は他にもあるだろ。仮にも一度あんたの会社を追い詰めた奴だ。その娘を結婚させて才能ごと封じてしまえば、二度と自分に逆らってくることもないし、栗谷元社長に対する最大の復讐にもなる。あんたらは似てるんだよ。一度拗らせたらなかなか止まらない、とっつぁん坊やだ」
結局、この2人は大人になっても、小学生時代に鎬を削っていた頃と全く変わらない。
「いい加減にしてよっ! 何でそういう言い方しかできないわけ!?」
隣の部屋から壁を貫くように高く大きな声が聞こえてくる。紛れもなく那月の声だった。
「ちょっと様子を見てくる」
忍び足でお見合いが行われている部屋へと戻っていくが、諍いの声が止まることはない。
「僕としては中卒のあなたとは不釣り合いだと言ってるんですよ」
「だから何なの!? 学歴なんて社会に出たら実力勝負なんだから関係ないでしょ!」
「学歴があると、困った時に色々と潰しが利くんですよ。それだけで信用がありますから」
「だったらあず君は全く信用ないわけ?」
「中卒には世に名を知らしめるほど活躍する人もいるでしょうけど、そんな人はほんの僅かです。選ばれし者以外は大人しく大学まで行って、1つでも取り柄を増やしておいた方が無難です。全員とまではいかなくても、大体の人はそれで飯が食えるようになりますからね。一応僕も大学は卒業してますから、同じく大卒の人じゃないと、恥ずかしくて近所の人に紹介できませんねー」
「潰しが利く人生なんて、一生便利屋としてこき使われるだけだってあず君が言ってたよ。そーゆーあんたは何で公務員にならなかったわけ?」
「バリスタは将来的に伸びると思いましてね。僕が穂岐山珈琲に雇われたのは、将来的に大卒見込みだからというのもあります。まあ僕は高校も大学も通信制ですけど、大卒は大卒です」
根本が那月に対して『学歴マウント』を取りながら罵倒する。
根本の言っていることは恐らく本当だろう。穂岐山珈琲は才能あるバリスタを全国から集めているが、同時に通信制の学校に通わせることを推奨している。
このことからも、後になって才能がないと分かった時、無学歴のまま捨てられては可哀想という心理が働いていることが見て取れるが、個人的には過保護で無責任としか言いようがない。自力で飯を食える人は大卒に多いが、大卒だから優秀というよりは、優秀だから有名校に進学したと言った方がいい。
潰しが利く人生を送れるのも才能だし、本来は無理なく遂行できる人がするもの。僕には退屈すぎる。
誰かにこき使われる生き方をするくらいなら生活保護のつもりで起業したが、根本はどちらかと言えば労働者向きだろう。部分的には経営者向きでもある。あの合理主義に基づいた判断力は父親譲りだ。悪知恵が働くのもリーダーとしての資質だ。結論、彼は迷っている。
安定を謳いながらバリスタになったことが全てを物語っている。僕に憧れてバリスタを始めてくれたのはありがたいが、バリスタの仕事を自分の人生の迷いを誤魔化すためのエクスキューズにしてしまっているなら、今すぐあのろくでなしの後を継いで、経営に専念してほしいものだ。
「まっ、父さんが何故あなたのような低学歴を寄こしたのかは知りませんけど、僕としてはあまりにも印象が悪すぎるので、今回はご縁がなかったということで」
「……そう。分かった。もう帰る」
「では父さんに報告しておきます」
那月は根本の言葉を聞き入れず、頭を沸騰させながらそそくさと帰ってしまった。
終わったことを確認すると、僕よりも先に鍛冶社長が急ぐように部屋へと入った。
「お前、自分が何をしたか分かってるのか!?」
「申し訳ないけど、あの人は身分不相応だ。印象も悪いし、とても一緒にやっていける相手じゃない」
「ならしょうがない。母親の手術の件は諦めることだな」
「あっ、メールが来てる」
わざとらしくスマホを手に取ると、ある人からのメールが届いていることを確認する。
「葉月社長、こんな時にふざけないでくださいよ」
「君の母親が手術に成功したと言ってもか?」
「「!」」
根本も鍛冶社長も、まるで犯行トリックを見破られた犯人のように青褪めている。
「お、おい、ちょっと待て。そんな話聞いてないぞ」
「聞いてないのも無理はない。あんたに極秘で手術をしたんだからな」
「一体どういうことだ?」
「ドナーが見つかった。それで急遽手術をすることになった。根本のお袋は危篤だった。事情は全部聞かせてもらったぞ。根本の母親は息子である根本を渡せば、手術費用を出すと言った。でも彼女は断った。根本があんたの手に渡れば、とんでもない目に遭うことを知っていたからだ」
「てめえ、大変なことをしてくれたな」
目を尖らせた鬼のように物凄い形相を見せ、両腕はわなわなと震えている。
僕が怒りたいくらいだ。あんなに可愛くて健気な子の夢を潰そうとした。
企業の動向を調べてみれば、コーヒー業界への参入も考えているようで、将来的にはカフェのチェーン展開をしようと考えているみたいだが、仕事のために誰かを犠牲にするような輩に参入してほしいとは思わない。それだけはコーヒー業界の御意見番として断固阻止してやる。
「人の命を天秤にかける奴が言えた台詞か? 本来なら告発してもいいくらいだけど、今回はうちのスタッフが関わっていることもあるから見逃してやる」
「葉月社長にしては寛容ですなー」
「但し、二度と那月に手を出すな。今度うちのスタッフを困らせるようなことをしたら……ぶっ潰す」
鍛冶社長に詰め寄り、指差しながら言った。
「おやおや、随分と物騒だなぁ~。怖い怖い。私がそんなことをするわけがないでしょ。まあいい、手術が成功したなら、もうあいつは使い物にはならんな」
「そんな言い方ないだろ! 母さんを助けるって言うから、穂岐山社長に辞めると言ったのに! 僕は穂岐山珈琲に帰らせてもらう」
「お前に帰る場所なんてあるのか?」
「……余計なお世話だ」
ぷんすかと怒りながら、根本まで帰ってしまった。
後を追うように、僕も八つ墓村のような料亭から立ち去った。さっきから洗っていない衣服のような昭和臭しかしないし、ここにいるだけで生気を吸われそうだ。
僕の見立てだが、ここは老人にしかウケない場所だ。他の客層を見れば、今にも背骨がポキッと折れてしまいそうな人ばかりで、服装の豪華さも相まって、まるで葬式にでも来ている気分にさせる。段々と老人が増えているからこそ売り上げが上がっていたと考えれば、ああいう料亭が人気であることも頷ける。時代に取り残された者たちを抱擁する場所を作って生き残るか。世の中何が正解か分からんな。
外にいる那月と合流し、葉月珈琲へと帰っていく。今日は那月の休日でもある。昼からは営業時間だ。那月は客として葉月珈琲に入店し、予約席と書かれたカウンター席に腰かけた。
「いらっしゃいませ。あれっ、那月さん。お見合いは終わったんですか?」
「うん。最悪のお見合いだったなー。根本さんは学歴マウントを取ってくるし、なんか古臭くて居心地の悪い料亭だったし、もうあんなとこ行きたくない」
「だから料理に手をつけなかったのか」
「だって下手に食べたら、教養のない奴って思われるじゃん」
「料理の食べ方なんか見なくても、教養があるかどうかは一発で分かるから安心しろ。今日は僕が奢る。何でも好きなものを頼んでいいぞ」
「当然でしょ。あんなに嫌な思いしたんだから」
「あー、だから予約注文をしていたわけだ」
千尋が腑に落ちたように言った。僕は那月が散々な目に遭うことを想定し、1人分のメニューを予約注文しておいたのだ。桜子が腕によりをかけて作った一品は、那月の腹を即座に黙らせた。
「んん~っ! おいし~!」
ほっぺが落ちた顔で、那月がもぐもぐと食べている。
葉月珈琲の人気メニュー、デミグラスオムライスの作り方を桜子はすぐに覚えてしまった。余分に作った分を一口味見してみる。驚くべきことに、僕が作ったものと全く同じ味に仕上がっていた。
信じられんが現実だ。僕が研究を重ねて完成させたこれをあっという間にコピーするなんて。
才能とは時として恐ろしいものだ……。
「なあ桜子、どうやって作ったの?」
「どうやっても何も、あず君の作り方を見ていただけですよ」
「うちの味を真似するのは、そう簡単にできることじゃねえぞ」
「えっ、そうなんですか?」
きょとんとしながら首を傾げ、僕を見つめる桜子。
桜子は自分がしていることの重大さに気づいていない。調理においては天才的と言っていい。
新しいアイデアを反映させることにおいては伊織や千尋に敵わないが、食材さえ同じであれば、一度作り方を見た商品と全く同じ見た目と味の料理を作ることができるのだ。このことからも、バリスタ以上に均質性が求められるロースターに向いていることが見て取れる。
100年に1人のロースターがうちに来てくれるとはな。
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