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社会不適合者が凄腕のバリスタになっていた件  作者: エスティ
第14章 コーヒー業界転換期編
345/500

345杯目「夢への宣戦布告」

 5月下旬、僕と伊織が結ばれてから数週間の時が過ぎた。


 伊織にはバリスタとして大成してほしい。だからそれまでは我慢してもらおう。


 無論、僕も愛弟子が世界を席巻するその日まで、じっくりと見守ってやりたい。


 千尋と響は6月のワールドコーヒーイベントのために忙しい。当初はワルシャワで開催予定だったが、大人の事情により、開催場所が急遽ミラノに変更となった。ここまでの事態になるなんて、誰も予想していなかっただろう。響は今年2回目の世界大会であるため、疲労との戦いになることが予想される。


 葉月珈琲からの選考会出場予定のバリスタは、伊織、千尋、那月、響の4人だ。


 この中でバリスタオリンピック本戦に近い最有力候補は千尋だ。穂岐山珈琲から余程のバリスタが出てこない限り、負けることはまずないだろうが、念には念を入れて本気を出すのがうちのやり方だ。


「……これめっちゃ美味い」


 クローズキッチンでコーヒーの開発を続けていた千尋がドリップコーヒーを淹れてくれた。口に含んだ瞬間、今までにないフレーバーが鼻を吹き抜け、僕に新たな味わいの1ページを刻んだ。


「でしょ。あず君が世界大会で戦っている間、ずっと研究を重ねてできたんだよ」

「千尋にピッタリな豆だな」

「葉月グループ傘下のコーヒー農園で新しく採れた品種なんだけど、最初に名前を聞いた時、コーヒーからこれを使えって言われているように感じたんだよねー。他の農園から苗を分けてもらったやつだけど、これはドリップコーヒーだけじゃなくて、エスプレッソにもコーヒーカクテルにも合うし、色んな種類のコーヒーに応用が利くことが分かったんだよね」

「後はミラノまで行って競技をするだけか」

「あず君も来るの?」

「悪い。僕は他にやることがあるし、モニター越しに応援してる。でもこれだったら勝負できるかもな。伊織にも教えてやるか。最近は開発が好調みたいだからな」

「伊織ちゃんってさー、ここんとこため息ばっかりだと思ったら、急に息を吹き返したようにコーヒーの開発に没頭し始めて、選考会で通用するレシピを開発したみたいなんだよね。やっとトンネルを抜けたみたいだけど、何であんな急に元気が出たんだろうね」


 何かに感づいたかのように千尋が言った。


 あれから伊織はコーヒーの開発に専念できるようになり、ラテアート部門を除く選考会用のメニューを完成させてしまった。残るは伊織にとって鬼門のラテアートだが、これもアイデアが固まりつつある。


 それ故、今は店の営業を休み、葉月珈琲塾で猛特訓を積んでいる。


 ラテアートの練習がやりたい放題な上に、入塾した子供たちにとっても良い刺激になるし、教えを乞う生徒に対して教える側に回ることもできる。凜もうまくいっているみたいだし、伊織とは特に仲が良い。凜は最優秀生徒として教える側になっているばかりか、自主的にラテアートの練習にも取り組んでいる。


 凜はラテアートを得意とするバリスタだ。


 将来のJLAC(ジェイラック)優勝候補として注目している。


 5つの部門の内、ラテアート部門を苦手としている伊織は凜から球落としを教わっている。


 繊細な技術が求められるフリーポアにおいて、球落としは必修科目である。


 少し高めの位置からスチームミルクを落とし、白く丸い形ができたらすぐに止める。主に満月やボールといった丸いパーツを描く時に使われるが、これが意外と難しい。球落としが普及してからは描ける動物の範囲が広がり、アニマル革命が起きた。植物で勝負するラテアーティストは年々減少している。


「葉月創製のお陰かな。あそこはシグネチャーの開発にはうってつけの場所だ」

「あそこなら僕も行ってるよ。駅前の店だから人いっぱいだったなー」

「駅前店はグループの売り上げを見る上で重要な指標だ。葉月創製を見れば、葉月グループがどれくらいの売れ行きになるかが想定しやすい。シグネチャーを作るのは面倒だけど、それでもあれだけの客がシグネチャーを作るために訪れるってことは、またコーヒーブームがやってきたってことだ」

「あず君がWBB(ダブリュービービー)で優勝したのも大きいけどね。コーヒーブームには波があるから、それを図る上で最適な店だね。でも弥生ちゃんと皐月ちゃんは凄いよ。あれだけ客がいても冷静に業務をこなしていたし、葉月バリスタ塾での教育の成果が出てるね」

「うちは正解のない問題を解決する能力に特化しているからな。伊織も気づいたんだろうな。自分の後に才能のある奴が大勢控えていることを」

「僕も葉月創製に行った時に思い知ったよ」


 伊織に同情するように千尋が言った。彼もまた、下から上がってくる才能に恐怖している。


 昔はバリスタ競技会創成期ということもあり、バリスタを育てる土壌がなかったが、うちがその土壌を作った途端に結果を出す若手が続出した。しかも競争率が上がれば一定確率で天才が現れる。才能があればチャンスを与え、トップバリスタ候補生として育て上げ、才能がない者には手に職をつけさせ、自力で生きていく力を身につけてもらう。これなら才能の有無に関係なく生き延びることができる。


 トップバリスタになれるのはほんの一握りだが、バリスタとしてそれなりの生活もできるし、コーヒーグッズに興味を持ち、輸入雑貨の仕事に就けるかもしれない。


 成功に拘るから身動きが取れないのであって、それなりの生活ならどうにでもなる。


 人生に正解はない。バリスタに才能がないなら、バリスタ以外に才能があるということだ。


「響、那月見なかった?」

「ああ。那月ならバックヤードで電話してるぞ」

「またサボってるの?」

「今は繁盛期じゃないから別にいいけど、6月を迎えたら2人欠員が出る。それまでに那月の問題を解決しないとな。電話の相手は栗谷社長だと思うけど、あんまり電話ばっかするのも良くねえな」

「そろそろ呼んだ方がいいか?」

「僕が呼んでくる」


 クローズキッチンを離れ、バックヤードへと足を運んだ。


 ピンク色の制服を着たまま、後姿の那月を確認する。


 那月はスマホを片手に魂が抜けたように肩を落とし、足が石化したように動けないでいる。


「何してる?」

「ひっ! ――なーんだ、あず君か」

「栗谷社長から連絡でもあったか」

「実はあたし、お見合いすることになったの」

「お見合い?」

「うん。鍛冶社長の名無しの御曹司と」

「! ……お見合いはいつ?」

「6月だけど、写真とかは送られてないの。あくまでも極秘にしたいんだって。何せ離婚してから生まれた子供だからねー。1人目の息子の一茂さんとは同い年なんだって」

「何で断らなかったわけ?」

「断れないよ。だって鍛冶社長が栗谷スイーツを()()()()したから」


 脊髄反射の如く息を殺した。一瞬、何を言っているのか分からなかった。


「……はぁ!?」

「あたしがいない間に、お父さんが鍛冶社長と話を進めてて、家を買収しない代わりに、あたしを名無しの御曹司に嫁がせてほしいって言われたの」

「吸収合併ってことは、栗谷社長は社長じゃなくなって、鍛冶社長の部下になったってことだよね?」

「千尋さん!? ……いつの間に」

「廊下まで丸聞こえだよ。村瀬グループもさー、色んな企業を吸収合併しながら成長してきたから、その手の事情には結構詳しいよ」


 ドヤ顔を決めながらアホ毛をピンと上に伸ばす千尋。


WBB(ダブリュービービー)の影響で客が来ていたはずなのに、何で吸収合併されたわけ?」

「……実はお父さん、もう貯金がないの。今年に入ってから本店の売り上げも下がって、そこで鍛冶社長の提案を受け入れて、パティスリークリタニをスイーツ部の店舗にした後、お父さんはスイーツ部の部長に就任したんだけど、それだけじゃなくて、実家を社宅として買い取ったの」

「固定資産税が払えないから?」

「うん。社宅扱いにすれば、お父さんは維持費も税金も負担せずに済むようになるの。これで無理に稼ぐ必要はなくなったけど、家を更地にしないという条件として、あたしがお見合いすることになったわけ」


 しまった。鍛冶社長の動向をもっと把握しておくべきだった。


 カジモール計画は着々と進んでいた。そのためには栗谷元社長の実家を更地にする必要がある。


「まずいことになっちゃったねー」

「えっ……どういうこと?」

「栗谷家の実家が、完全に相手の手に落ちたってことだよ。鍛冶社長の目的はカジモール計画を実現すること。そのためには、栗谷元社長の実家を更地にする必要がある。多分、結婚させた直後に何らかの理由をつけて約束を反故にするだろうね」

「何で反故にするって分かるの?」

「カジモール計画のためだ。一応調べたんだけど、鍛冶社長は強引な取引をしたり、途中で自分に有利な条件に変更したりして、多くの取引先の足を見ながら莫大な利益を得てきたと専らの噂だ」

「そんな……」


 那月がその場に肩を落とし、ロッカー近くの床に膝をついた。


「1人目の世継ぎには本社を任せて、2人目の世継ぎに経営者としての経験を積ませるために、カジモール計画の責任者を任せるつもりだ。1人で大手を管理するのは難しい。大規模なショッピングモールを作る計画だ。他の企業も乗っかるように参加する。あいつらにとっては大きなビジネスチャンスだ。そんな約束はすぐ破られるに決まってる。この時点で那月がお見合いに参加する意味はないってことだ」

「そーそー。約束破るような相手だよ。大金払ってこれで許してくれーって言うのが目に見えてる」

「でもそれだと、すぐに家を更地にされちゃうよ」

「那月、実家を残したいのは分かるけど、社宅として売却した時点で、もう勝負はついてる」

「……ううっ……うっ」


 両手で顔を隠しながら啜り泣く那月。


 健気な彼女が傷つく光景を、僕は黙って見守ることしかできなかった。


 那月のスマホを借りると、栗谷元社長に電話をかけた。電話で誰かと話すのは久しぶりだ。実家を売却しないように言っておいたのだが、栗谷元社長には家も会社も守るだけの貯金がなく、泣く泣く売却へと踏み切ってしまったのだ。家を更地にしない条件として、会社をも吸収合併した。


 まるで殺人をばらさない代わりに、揺すられていることに苦悩する犯人のようだ。


 要求はエスカレートし、遂に那月にまで手を出してきたのだ。


「悪いけど、あたしは選考会から降りることにする」

「えっ、那月ちゃん本気で言ってるの?」

「あたし、お見合いに行く。実家を守りたいの……ごめん……今日は調子悪いから早退するね」


 涙を堪えながら僕と千尋をバックヤードから追い出し、カーテンを閉めて着替えると、逃げるように店から立ち去ってしまった。僕らが後を追うことはなかった。止めたところで無駄だと分かりきっていた。


 那月にとって実家は何より大事な存在だ。それが敵の手に落ちた挙句、利益のために跡形もなく消されようとしているのだ。僕も千尋も両手が赤くなるまで強く握っている。


「資本主義社会の縮図だね」

「ああ、全くだ。力なき者は潰される運命か。別に他の会社が吸収合併されたところで、僕としてはどうでもいい話だ。でもあいつらは、那月から夢を叶えるための気力を奪った。これはうちに対する、いや、夢を持つ全ての人間に対する宣戦布告だ」

「もしかして潰す気?」

「いや、罰を受けてもらう。大事な部下を傷つけ、夢を奪おうとした罰だ。千尋は何も気にせず、世界大会に専念してくれ。ここは僕に任せろ」

「あず君も好きだねぇ~、お節介を焼くのが」

「仁義を失ったら、それはもう人じゃない。ただのケダモノだ」

「任せたよ」


 千尋が言い残すと、いつもより遅い歩みでバックヤードを去っていく。


 かつて政略結婚を迫られ、夢を奪われようとしていた千尋は、那月にかつての自分を重ね、共に苦しみを味わっているように見えた。まるで夢破れた世界線の自分を見ているようで、落ち着きながらも目の奥には火がついていた。こんな無力感を感じたのは久しぶりだ。


 1人の我が儘な計画のために、一家の夢が犠牲になろうとしている。


 絶対に許せねえ。金さえあれば何でもできると思ったら大間違いだ。


 僕の闘争本能を揺り動かすものは――カジモール計画への憎しみだけだっ!


 子供だけじゃない。大人の世界にもいじめっ子はいる。ニュースで報道されている吸収合併の裏には、多くの人生の犠牲が伴っている。今まで報道されてきた悲劇は、世界で起こっている悲劇のほんの一握りにすぎないし、ほとんどの場合は抵抗の術がない。そりゃニートも増えるわ。やってらんねえよ。


 このまま那月が居なくなったところで、うちには葉月珈琲を始めとしたメジャー店舗で働くことを夢見ているバリスタが大勢いるし、助けるメリットはあまりないが、見捨てる行為は傍観者に徹し、世の理不尽を見過ごすことしかできない連中と変わりない。ましてや那月は僕の仲間だ。


 この日の夜、僕は風呂に入りながら、隣に座る伊織の透き通るような白い背中に手を当てた。


 伊織が気持ち良さそうに目を閉じて大人しくなると、昼間の出来事を話した。


「酷いです。那月さんが可哀想ですよ」

「こんなことが許されていいはずがない。だから、那月だけでも助けるつもりだ」

「那月さんは来てくれるんでしょうか」

「一応メールは送ったけど、どうなることやら」

「那月さんは家の問題で手が一杯みたいですけど、選考会には出られるんですか?」

「あの様子じゃ無理だ。選考会には入念な準備が必要だ。ついこの間まで実家の店を手伝ってたし、帰ってきてから準備を急ぐ予定だったんだけど、このまま選考会に出ても勝てる確率は限りなくゼロに近い。ちゃんと準備してきた人間が勝つ世界だからな」

「あず君がそう言うなら、間違いないんでしょうね。あの、どうすれば那月さんを取り戻せますか?」

「実家を諦めてもらうしかねえだろ。あれはどの道更地にされる運命だ。でも那月は鍛冶社長に説得を試みようとしている。ちゃんとお願いすれば聞いてもらえると思ってる。そんな甘い考えが通じるような奴だったら、そもそも社長になんてならないんだけどな」


 組織のトップになるような人間は、サイコパスとしての資質が求められる。


 そうでなければ生き残れないし、必然的に性格の悪い奴がのし上がる。だから僕は経営者なんてとっとと辞めてしまいたいのだ。栗谷元社長を庇う理由はないが、那月を庇う理由ならある。うちから戦力を奪おうとする名目なら、戦う十分な理由になる。これ以上美羽に負担をかけるわけにもいかない。


 今那月を手放すことは、葉月グループからの引き抜きを許す形となる。


 ――ていうかあいつら……那月を嫁がせて何がしたいんだ?


「お見合いは6月ですよね?」

「そうだけど、どうかしたか?」

「那月さんに断るように説得します」

「無駄だ。あいつは家を守るためなら何でもする。帰属意識の強さが、この国の悪いところだ。お見合いが成立する前に阻止するしかない」

「そんな方法があるんですか?」

「あるとも。鍛冶社長の名無しの御曹司を捜し出して、説得するしか方法はない」

「那月さんの実家はどうなるんですか?」

「チェーン店が全滅した時点で、あんな豪邸を維持し続けること自体無理だ。言っちゃ悪いけど、今の栗谷家の持ち家としては身分不相応だ。実家をパティスリークリタニに移しておけば軽傷で済んだと思うけど、栗谷元社長は実家を持ち続けることに拘った。その結果、足元を見られてズルズルと敵の罠にハマっていった。力がないと、何も守れないってことだ。でも鍛冶社長は那月の実家だけじゃなく、那月自体をうちから没収しようとしてる。だから叩き潰すんだ。お見合いの場所を那月に聞いておく」

「……そうですか」


 シュンと下を向くと、僕の肩に顔を寄せる伊織。


 ぷよぷよしている頬が、僕の肩にふんわりとした感触を与えた。


 これ以上好きにはさせない。問題は那月が明日以降もうちで働いてくれるかどうかだ。大人しく帰したまでは良かったが、嫌な予感しかしない。一度優子にも連絡しておくか。


 途方に暮れる伊織の後ろから両手で優しく抱いた。


「心配すんな、何とかなる」

「あず君が那月さんの実家を買い取ることはできないんですか?」

「仮に買い取って返したところで、もうあの豪邸を維持できるほどの力は残ってないし、社宅として持ち続ける義理もない。うちとしては那月さえ戦力としてうちにいてくれればそれでいい。家の事情なんて知るかよ。それに無理に買い取ったら、葉月グループが鍛冶社長の会社に喧嘩を売る形になる。表面上はカジモール計画を黙認する体で鍛冶社長との接触を認められてるし、これ以上怪しまれる行動は避けたい。人間ってのはな、勝てそうな相手にしか喧嘩を売らない。それが最も生き延びやすい戦略だからな」

「でもこのままだと、那月さんは実家を守るために嫁いじゃいますよ」

「それを阻止するのが僕らの役割だ。まずは名無しの御曹司を特定するぞ」


 ここからは僕らの戦いだ。千尋と響は世界大会があるから動けない。


 伊織にも選考会に専念してほしいし、桜子はそもそも関係がない。手が空いているのは僕だけだ。


「名無しの御曹司って、どうやって探すんですか?」

「栗谷元社長に明日話を聞いてみる。鍛冶社長の元妻の名字だけでも分かれば収穫だ」

「元妻の名字なんて分かるんですか?」

「鍛冶社長の元妻は栗谷元社長が好きだった相手だし、嫌でも覚えてるはずだ」

「相手のプライバシーに触れるのは感心しませんけど、今は那月さんを助ける方が最優先事項です。私は那月さんを説得してみます。何もしないよりはずっとマシだと思いますから」

「分かった。那月を頼むぞ」

「はいっ!」


 翌日、早朝を迎えると、有休希望のメールが那月から届いた。


 あえて返信はしなかった。返信なんてしたら最後、連絡を拒まれる可能性さえある。


 僕と伊織は早速行動を開始した。有休を取るのは勝手だが、多くの場合において、有休を全て消化するのは退職の合図だ。辞表を提出しないのは、まだうちにいたい想いがあるからだと僕は推測した。


 ――しばらくは伊織と一緒に寝ているが、唯は内心どう思っているのだろうか。


 唯が伊織を好んでそばに置きたいのも分かるが、本当の狙いは別にあるような気がする。伊織が引っ越しをせずに済んだお陰で、家事も育児も捗っている。伊織は2人目の母親のように馴染み、ただの居候ではなくなっていた。伊織は天涯孤独だ。静乃も隼人に嫁いだ。莉奈も岐阜コンで出会った相手に嫁いだ。何だかんだで柚子は多くの身内の縁結びに貢献している縁結びの女神だ。


 タクシーを飛ばし、福井市へと向かう。


 営業が始まる午前12時までに話をつけたい。伊織が那月を説得できるタイムリミットでもある。


 お見合いの日付だけでも聞いておきたい。これまでの経緯も気になるところだ。そして何故那月までもが巻き込まれなければならなかったのか。


 聞きたいことが多すぎるし、謎は深まるばかりであった。

読んでいただきありがとうございます。

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