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社会不適合者が凄腕のバリスタになっていた件  作者: エスティ
第14章 コーヒー業界転換期編
339/500

339杯目「レトロフレーバー」

 僕らの競技時間が一刻一刻と終了時間に近づく中、1人の客がコーヒーをのんびり飲んでいる。


 日本からの客は来なかった。流石にここまでやってくる人がいなかった。流石に選考会を前に海外遠征に行く勇気はないか。今年のコーヒーイベントは今までとは訳が違う。


 コーヒーと一緒に出されたパンケーキを食べた後、次にコーヒーを口に含んだ。パナマゲイシャコーヒーにはオレンジマーマレードを混ぜた蜂蜜、ハニーマーマレードを混ぜたパンケーキを提供しているが、これはコーヒーとの相性を考慮した組み合わせであり、コーヒーの甘味と酸味を引き出す仕掛けとなっている。そればかりか、パンケーキの味も底上げしてくれる絶妙なコーヒーマリアージュだ。


 半分ほど飲んだところで、紳士的な男性客がコーヒーカップを見つめている。


「……美味い……いつかの金華珈琲の味にそっくりだ」

「金華珈琲を知ってるの?」

「ああ、50年ほど前だったかな。私が日本にいた時、岐阜にとても美味いと評判のカフェがあると聞いてね。そこのマスターが淹れるコーヒーは、まるでコーヒー自身がどんな風に入れてほしいのかを理解しているようだった。素材の味を活かした、とても優しい味だ」

「――それは良かった」


 間違いない。この人にコーヒーを淹れたのはおじいちゃんだ。


 金華珈琲のことを覚えてくれている人がいるなんて――あれっ? 日本にいた時とは言っても、50年前にわざわざ岐阜に来る理由はない。まさかこの人……。


 静かに飲み干したコーヒーカップを置き、男性客は決済を済ませた。


「美味しかったよ」


 そう言い残すと、男性客は筆記体の英語で書かれた1枚の名刺を取り出し、コーヒーカップの近くにそっと置くと、ウエスタンハットをかぶりながら去っていった。


 響が置かれている名刺を確認する。後ろから寝ぼけている那月も覗き込んだ。


「「!」」


 目を疑うように那月と響の表情が固まると、今度は少し遠くにいる男性客を見届けた。


「どうかしたか?」

「あの人っ! ベルンハルトなのっ!?」

「世界的に有名な料理評論家じゃないか!」

「何、そんなに凄いの?」

「水の入った100のコップから、僅かに砂糖が入った水のコップを言い当てるほどずば抜けた味覚を持っている天才料理人で、味覚の神様と呼ばれている。今は自らが始めたレストランのシェフを引退して、料理界の御意見番として活躍している。あの人が評価したレストランは長年にわたって繁盛するが、酷評されたレストランは潰れていくそうだ」

「何それ怖っ!」


 響の解説に体を震わせる那月。他の競技者たちが遠目に見守っていたのはそのためか。


 那月は水をかけられたように顔がシャキッとしている。さっきまでの眠気はどこへやら。


「ベルンハルトは恐らく美食家審査員の1人だ。そうでなくともあの人が評価したなら大丈夫そうだな」

「あたしたち、そんなおっかない人たちを相手に競技してたんだ」

「おじいちゃんのコーヒーの味を覚えてたくらいだ。色んな味を知り尽くしてる。人づてにお勧めの店を巡って料理人としての感覚を磨いてきたってことは、長年の経験に裏打ちされてきた美食家ってことだ」


 なるほど、バブル崩壊を迎えても、おじいちゃんがマスターだった時の金華珈琲が好評を博していた訳がようやく分かった。やっぱり分かる人には分かるんだな。流行は世間が作るものだが、本物は人が作るものだ。世間の評価を得る前から本物に気づき、流行を作る側になっている。良くも悪くも繁盛するべき店だけを生き残らせていることが、飲食業界の競争を加速させている。


 僕としてはちゃんと評価してくれただけでも十分ありがたい。


 まだ9時を迎えていないが、もう競技も終盤だ。それでもうちには継続的に客が来ている。


 ベルンハルトの評価が見事に反映されている。彼が来る前からもうちの店は繁盛していた――。


 午後9時、司会者が会場中央に向かって歩いてくる。


 ピタリと足を止めると、参加者たちに呼びかけるように終了の笛を吹いた。


 注目が集まると、運営スタッフからマイクを手渡された。


「参加者の皆さん、お疲れさまでした。本日の競技はここで終了となります。大会3日目の参加者たちのために、午前0時までに片づけを済ませてください。もし片づけが間に合わなかった場合は漏れなく減点となりますので、ご注意ください」


 形式上の通告だけを済ませ、とっとと帰ってしまった。


 ドライ……と言ってしまえばそれまでだが、ビジネスはこれくらいが丁度良い。


「はぁ~、やっと終わったぁ~」

「那月、響、お疲れさん。よくやってくれた」

「あず君もだろ。お疲れさん」


 ……白馬の王子様のような労いの言葉に、思わず惚れてしまいそうになった。


 駄目だ。完全に立場が逆転してる。女子力では勝っている自信があるが、男子力では負けている。那月も響も力仕事をこなし、今にも眠ってしまいそうなほど目がとろーんとしている。


 眠気覚ましはほんの一瞬だったか。やはり疲労には勝てない。


「いいか、明日と明後日は、他の人の競技を見て学習する日だ。グランドファイナルにいけるかどうかは分からないけど、準備はしておくぞ」

「当たり前だろ。今更何を言ってる」

「そうだよー。あず君は必ず決勝進出する前提の予定を組み立てていたでしょ。他の人は決勝進出が確定するまで何もしないけど、あず君は準備が無駄になることを恐れもしないって評判だし、他の大会でも、結果発表前に決勝用のメニューを準備したりする人、結構増えたんだよ」

「あず君はバリスタ競技会だけじゃない。あらゆる大会準備のパイオニアになってる」

「優勝する前提で参加してる人なんて、前々から普通にいるけどな」

「ほんの一部だけだったりして」

「あず君ほどではないな。強豪でも気が抜ける時もあるし、弱小ほどあんまり練習しない。大会という場で一切の油断をしない人なんてなかなかいない。じゃあ片づけるか。那月はクローズキッチンを頼む」

「了解しましたっ!」


 那月が兵士のように指をビシッと伸ばして敬礼ポーズを決める。大急ぎで片づけ作業に入ったが、今日だけで3日分くらいの体力を使い切った気がする。明日は半日くらい眠ってしまいそうだ。


 ホテルに戻った頃、再び眠気が襲ってくる。


 那月と響は2人部屋でガールズトークをしているところだろう。体力が余っていればの話だが。


 僕は1人部屋のベッドの上で大の字にて足を広げ、眠りに就くのをひたすら待っている。伊織も連れてくれば良かったと今更ながら後悔するが、伊織は選考会に全てを懸けている。安易に邪魔はできないし、千尋はWBrC(ワブルク)の準備があるし、桜子は伊織と千尋のサポーターという仕事がある。


 唯は子供たちの面倒を見てくれているし、みんな忙しくなっちまったな。


 昔こそ僕のサポーターをさせて経験を積ませていたが、今はすっかりと立場が逆転している。伊織たちが成長してきた証だ。バリスタの卵は確実に孵化へと段階を進め、僕を驚かせるほどの怪鳥となり、大空へと羽ばたいていく。子供たちもいずれこうなるのかな。


 巣立ちの時が近づいている。この6人で一緒に店の営業ができる時間も短いんだろうか。


 何故みんなが一期一会を大事にするのかがよく分かった。


 ――大会3日目――


 無事に競技を終え、那月はすっかり安心しきっている。


 帰った後からが勝負だというのに……でも今だけは、この笑顔を見ていたいと思う自分がいる。那月と響を優勝させたいのは、彼女たちに飯を食える大人になるための武器を与えたいからだ。いや、自分自身の手で掴み取ってほしいからなのかもしれない。


 試練を受けているのは彼女たちだ。ならば、彼女たち自身が世界を変えるしかない。


 僕、那月、響は会場を見回り、他の参加者たちの様子をうかがった。どのチームも丁寧な接客、美味いメニューの提供をするところまではほぼ同じだ。グランドファイナル進出ができそうなチームとできなさそうなチームの差は明白だ。実に分かりやすい。


「あず君、今日と明日はどうするんだ?」

「答え合わせってとこだな」

「答え合わせ?」

「前回ファイナリストチームとそうでないチームの違いだ。何だと思う?」

「プロ意識とか?」

「そんなの誰でも持ってる。ここにいる連中であればな。よーく観察してみろ」

「「……」」


 那月と響が各チームの違いをじっくりと観察する。


 僕らは競技の必要性がない。本来であれば、他のチームのように遊びに行ってもいいわけだが、今回ばかりは事情が違う。チーム穂岐山珈琲はウェリントンでカフェ巡りをしているが、そんなことは大会の後でいくらでもできる。ここでは参加者も自由に客に混ざり、飲食を行うことができる。


 参加者を相手にカフェ巡りならぬブース巡りができるのだから、この機を逃す手はない。


 今大会優勝の最有力候補はチームテロワールだ。フランス代表の一角であり、前回大会ではグランドファイナル進出を果たし、4位に輝いている。チームテロワール以上のチームは参加していない。


「一度行ってみるか?」

「面割れてるのによく行けるな」

「何の問題もない。羞恥心を持つべき場面は、悪いことを考えている時だけだ。それ以外の時に持ったところで何の得にもならん。むしろ行動力を抑えてしまう悪い薬だ」

「他のチームは遊びに行ってるのに、敵情視察なんてしてるの、あたしたちくらいだよー」

「遊びに行くのは大会が終わってからな。それに遊びに行ったら、今までの緊張感がなくなっちまうぞ。僕らは強大な敵と戦うためにこの大会を制覇する必要がある。そのことを忘れるな。どんな大会にも法則がある。それを見つけるのが僕らの役割だ。一度攻略法が分かれば、身内を参加させる時に有利だ」

「あず君の言うことにも一理ある。それとも家の心配でもしてるのか?」

「だっ、大丈夫だよ。まだ取られたわけじゃないし」


 那月が咄嗟に言ってみせた、まだという言葉に僕の耳が引っ掛かった。


 まるでこれから取られようとしているかのようだ。


 さっきまでは元気な顔を見せていたが、トイレを出てからは顔色が悪い。気分が優れないってことは、トイレの個室でスマホを確認して、実家に何らかの変化があったと考えれば説明がつく。健康が取り柄の那月がここまで調子が上がらない理由としては十分だが、聞くのは後にしよう。


 那月に必要なのは気分転換だ。


 チームテロワールの列に並ぶ。テイクアウトメニューを注文する者が多いのか、思ってたよりスムーズに行列が進んでいく。みんなスマホを見ながらアプリを見たりゲームをしたりしている。


 時代は変わったな。昔だったらずっとストレスだっただろうに。だが今は時間を細切れにして、暇な時間が極力生じないようになっている。僕らはインターネットを利用するはずが、逆に生き方から時間までコントロールされている。効率化が進み、頭を使わなくてもいいようになっているこの現状を、僕は密かに憂いていた。バリスタ競技会も研究が進み、効率化を図るバリスタが現れたものの、穂岐山珈琲のように勝率の高い傾向やデータに従うばかりで、自分の頭で勝負することを忘れている。


 勝率を上げるための近道だって言いたいのは分かるが、データというのはあくまでも膨大なサンプルの平均値であって、参考にするものではあっても、鵜呑みにするものじゃない。平均値ということは、自分には当てはまらない可能性を考慮するべきなのだ。


 チームテロワールのブースに設置されたカウンター席に腰かけた時だった。


「お勧めのコーヒーセットを頼む」


 1番近くにいる人にフランス語で話しかけた。


「……畏まりました。まさかチーム葉月珈琲が来てくれるとはね。敵情視察かい?」

「まあそんなところだ。繁盛しているみたいだね」

「今回も優勝を狙っているからね。どうぞ、うちの自慢のコーヒーです」


 目の前に置かれたコーヒーセットは素朴ながらもこの場の雰囲気に溶け込むような配置で、サンドウィッチの配列も綺麗だ。商品の初期位置がしっかりしていてブレがない。


 このプリン・ア・ラ・モード、元々日本生まれの商品だが、フランス代表の商品として使われている。しかもご丁寧に、食材も全て拘ったものが使用され、特に目を引いたのはフレーズ・デ・ボワだ。フランスでは定番の野苺だが、このコーヒーとの相性が意識されている。


 ……美味い。落ち着かせてくれる味、ガヤガヤと騒がしい会場の中にいるとは思えないほど、食感に夢中にさせてくれる絶妙な甘さだ。自らの実力に驕ることなく、違う分野からも学ぼうとする姿勢、チームに対する献身的な貢献、客への心遣い、どこを見ても隙がない。


 このままじゃ負けると思わせるほどの実力差だ。勝つのは困難を極めるだろう。


「凄く美味しい。何だか家で寛いでいる時のような感じだ」

「うん。これ、明らかにプロが作ってるよね。それもパティシエに特化した人が」

「何言ってんの。那月は両方に特化すればいいだけだろ。1ヵ所にだけ特化した例ばっかりだからそう思えるだけで、2ヵ所以上の分野に特化した人も、ニュースになってないだけでたくさんいる。那月がニュースになる最初の例になればいいだけだ。1人だけで達成しようと思うな。那月はまだ若いんだからさ、10年後が楽しみだな」

「10年後かぁ~。あたしどうなってるんだろ」

「まずは今を一生懸命生きろ。頑張って結果を残せば、10年後が明るくなるのは確かだ」

「響さん……」


 響の明るさに触れ、癒されるように微笑む那月。


 あっ、こいつコーヒーカクテルを注文してやがる。


 どうりで陽気なわけだ。千尋に似てかなりの酒豪だ。コーヒーカクテラーにも向いているし、コーヒーカクテルのテイスティング役が2人もいるのは本当に助かる。


 この大会の法則が分かってきた。


 ブース巡りを続け、僕らはこの日を終えるのだった。


 ――大会4日目――


 僕らは引き続きカフェ巡りを始めた。この日は根本率いるチーム穂岐山珈琲の競技だ。


 早速チーム穂岐山珈琲のブースへと向かった。


 競技開始と同時に、根本が他のチームメイトと一緒にブースの営業を始めるが、一向に客がやってこない。響と那月には他のブースを回ってもらっている。昨日の途中からは手分けしてブース巡りをしたが、これは僕らにとって大きな学びとなった。チーム戦の基本から応用までの全てだ。


 チームは共通の目標に向かって一心同体でなければならない。即席チームの多くは練度が低く、それぞれが自分の仕事を淡々とこなしているが、それだけでは駄目なのがよく分かった。


「随分と暇みてえだな」

「葉月さん……どうしたんですか?」

「ブース巡りをしてるところ。ていうかメニュー多すぎじゃね?」

「選択肢が多いに越したことはありません。葉月珈琲のメニューが少ないだけですよ」

「うちは1つのカテゴリーにつき、メニューは4つまでにしてるからな。客の立場になって考えてみろ。選択肢が多いほど判断が鈍る。ある程度絞った方が選びやすくなって売り上げも上がる。だからうちのブースは最低限の種類だけにした。選びやすくなったことで大勢の客が来てくれた。お勧めメニューを聞かれた時は、2種類のメニューセットを言って選んでもらう。2種類だったら選びやすくなるだろ」

「確かに選びやすくはなるでしょうけど、選択肢が限られているのって、損じゃありませんか?」

「どれだけ商品を用意できるかじゃなく、どれくらい商品を売れるかだ。売りたいものじゃなく、客が買いたいと思うものだけをピックアップすることが重要だ」

「……」


 木が萎れるように黙り込んでしまう根本。


 穂岐山珈琲のメニューは選択肢こそ多いが、そのお陰で客がどれにしようか迷ってしまう。


 それに商品を何種類も用意したところで、人気が偏るのは必然。当然余らせてしまう商品も数多く出てきてしまう。スーパーやコンビニを見ていればよく分かる。本当に欲しいもの以外の商品を買おうとする客は少ないし、衝動買いが癖になっている客がたまに引っ掛かってくれるだけだ。


 人気の高い商品のみをピックアップし、売りたいものは期間限定で販売すればいい。そうすれば利益にならなくても損失が最小限で済むし、人気が爆発するようなら、レギュラーメニューにすれば問題ない。どこに需要があるのかを見極めようともせず、量と種類で勝負しようとする企業があまりにも多すぎる。


 チーム葉月珈琲は人気の高いゲイシャやシドラに標準を絞った。


 普段と同じ高額な値段ではあるが、センサリージャッジは必ず食べにくる。これで絞れると思ったが、僕自身のネームバリューもあり、センサリージャッジをほとんど絞れなかった。


「あの、お勧めのコーヒーってありますか?」


 1人の客が根本に英語で声をかけた。訛りのあるニュージーランド英語だ。地元の人だ。最近は訛りを聞いただけで、おおよそのルーツが分かるようになった。外国人観光客に鍛えられたせいだろうか。人との触れ合いは己自身を強くする。確信を持ってコミュ障を名乗れるくらいには人と話してきた。


「甘味の強いユーゲノイデスと滑らかな酸味のディジャアルゲがお勧めです。どちらになさいますか?」

「じゃあ、ユーゲノイデスをお願いします」

「畏まりました。少々お待ちください」


 早速僕が言ったことを実践するとは――流石は穂岐山珈琲のエースなだけあって学習能力は高い。


 やはり穂岐山珈琲は基礎学力の育成こそ得意だが、それをどうやって使えば人生が良くなるのかは全く教えていない。いや、教え方を知らないんだ。だからいつもコピー止まりになる。


 マニュアル通りにするだけじゃ駄目だ。バリスタはコーヒーという最も気紛れなじゃじゃ馬を相手にする仕事だ。イレギュラー対応ができないようじゃ、コーヒーを制したとは言い難い。正解のない問題を解く能力が物を言うし、ある意味人間力が試される職業と言っていい。


 公務員になるような人はバリスタには向いていないのかもしれん。


 コーヒーを提供すると、客はのんびりとした表情でスマホを触り、一息吐いた。


 根本は不安なのか、大きくため息を吐いていた。


「何かあったわけ?」

「いえ、別に」

「でも顔はそうじゃないって言ってるぞ。いいから話してみろ」

「……父さんからお見合いの話が来てるんです。相手は知り合いの娘さんで、僕よりも年下の女性みたいなんですけど、僕としてはお断りしたいんです」

「独身主義なのか?」

「いえ、そういうわけじゃないですけど、他に好きな人がいるんです」

「伊織だろ?」

「……よく分かりましたね」

「あれだけ意識してたら流石に分かる。君は伊織にだけ辛く当たっていたし、まるでどう接したらいいのかが分からない子供みたいだ。厳しい言葉をぶつけていたのは、伊織に頑張ってほしかったからだろ?」

「張り合いがないと困ります。本巣さんは、親を亡くして気力がなくなっていましたし、何とか力になってあげたかった……でも彼女はすぐに持ち直した。信じたくはないですけど、本巣さんが立ち直った理由は……1つしかありません」


 真剣な眼差しを僕に向ける根本。


 一体何の話をしているんだ?


 こいつが伊織を好きなのは何となく分かっていたけど、だったら何で告白しないんだろうか。伊織はどちらかと言えば受け身だし、もっと積極的に攻めてもいい気がするが。


 親からの見合い話に悩む人って、結構多いんだな。

読んでいただきありがとうございます。

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